
「嫡出子(ちゃくしゅつし)」という言葉は、日常生活ではあまり耳にする機会がないかもしれません。しかし、出産や相続の場面では、自分の子が嫡出子なのか非嫡出子なのかによって、出生届の届出方法や父子関係の有無などに違いが生じます。
「出生届にはどちらにチェックすればいいの?」「認知しないとどうなるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、相続問題に詳しい弁護士が嫡出子と非嫡出子の違いについてわかりやすく解説します。
- 嫡出子・非嫡出子の定義と違い
- 嫡出推定の仕組みと令和6年の法改正
- 父子関係を否定・肯定する方法(嫡出否認・認知)
- ケースごとの出生届の届出方法
なお、嫡出子・非嫡出子に関する手続きについて早急に対応したいとお考えの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談をご検討ください。
嫡出子とは?非嫡出子とは?
嫡出子とは婚姻関係にある男女の間に妊娠・生まれた子のことをいいます。他方、非嫡出子(民法上は「嫡出でない子」)とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことをいいます。
法律上「婚姻関係にある」というためには、少なくとも男女の間に①婚姻意思があり、②市区町村役場に婚姻届を提出すること、が必要です。他方で、①②のいずれか一方が欠けている場合は法律上「婚姻関係にない」とされます。
したがって、事実婚関係、愛人関係、恋人関係という場合、通常①あるいは②が欠けていると思いますから、こうした関係の間に生まれた子はすべて「非嫡出子」ということになります。
嫡出子のメリットと非嫡出子のデメリット
嫡出子か非嫡出子かによって、法律上どのような違いがあるのでしょうか。主に相続と扶養の観点から解説します。
法定相続分について
法律で規定された相続財産の取り分のことを法定相続分といいます。かつて民法(900条4号ただし書)にはこの法定相続分について、「非嫡出子の法定相続分は嫡出子の1/2とする」という規定が設けられていました。
しかし、その後、最高裁判決(最大決平成25年9月4日)でこの規定は法の下の平等を定めた憲法に反するとされました。これを受けて上記規定が削除され、現在では嫡出子の法定相続分と非嫡出子の法定相続分は同じとされています。
相続権・扶養義務の有無
法定相続分は同じになりましたが、嫡出子と非嫡出子では相続権や扶養義務の発生要件に違いがあります。
- 相続権:嫡出子は父親の相続人となります。一方、非嫡出子はそのままでは父の相続人になれません。認知を受けることで初めて父子関係が生じ、相続権を得られます。
- 扶養義務:父は嫡出子に対して扶養義務を負います。一方、非嫡出子に対しては、認知によって父子関係が生じて初めて扶養義務が発生します。
嫡出推定とは?
嫡出子とは婚姻関係にある男女の間に出生した子という意味ですが、その子が本当に夫の子であるかどうか証明することは容易ではありません。そこで、民法では以下の場合に夫の子と推定するとしています。
- 妻が婚姻中に懐胎した子
- 女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれた子(令和6年改正で追加)
また、懐胎時期についても以下のように推定されます。
- 婚姻成立の日から200日以内に生まれた子 → 婚姻前に懐胎したものと推定
- 婚姻成立の日から200日経過後、または婚姻解消・取消しの日から300日以内に生まれた子 → 婚姻中に懐胎したものと推定
こうして夫の子と推定されることを嫡出推定といいます。
あくまでも「推定」ですから、嫡出否認の訴えによってこの推定を覆すことはできます。
なお、令和6年4月1日施行の改正前は、婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は嫡出推定を受けないとされていましたが、改正後は上記のとおり嫡出推定が及ぶようになりました。
嫡出子は推定の如何によって、推定が及ぶ嫡出子と推定が及ばない嫡出子の2つにわけることができます。なお、いずれも嫡出子であることにかわりはありません。
推定が及ぶ嫡出子とは嫡出推定が及ぶ子のことで、子と夫との間には父子関係が形成されます。推定を否認したい場合は嫡出否認の訴えを提起する必要があります。
推定が及ばない嫡出子
推定が及ばない嫡出子とは、形式的には嫡出推定が及ぶものの、実質的には嫡出推定が及ばないことが明白な子のことをいいます。「嫡出推定が及ばないことが明白」な場合としては、たとえば以下のようなケースがあります。
- 夫が長期間、海外に滞在中だった場合
- 夫の生殖能力がないと医学的に認められた場合
- 夫が長期間、行方不明だった場合
- 別居などによって夫との性交渉が長期間ないと認められる場合
もっとも、推定が及ばない嫡出子であっても形式的には推定が及ぶ嫡出子と同じですから、やはり子と夫との間には父子関係が形成されます。この関係を認めたくない場合は親子関係不存在確認の訴えを提起する必要があります。
再婚後の嫡出推定
令和6年4月1日施行の改正民法では、女性の再婚禁止期間が廃止されました。これに伴い、離婚後300日以内に子が生まれた場合の嫡出推定について、以下のルールが設けられました。
母が前夫以外の男性と再婚した後に子が生まれた場合は、その子は再婚後の夫の子と推定されます。つまり、離婚後300日以内の出生であっても、出生時点で母が再婚していれば、再婚後の夫の子となります。他方、再婚していない場合は、従前どおり前夫の子と推定されます。
父子関係を否定する方法
父子関係を否定する方法としては嫡出否認の訴え、親子関係不存在確認の訴えがあります。
嫡出否認の訴え
嫡出否認の訴えとは、嫡出推定が及ぶ場合に、その推定を否認する(その子は自分の子ではないとする)訴えをいいます。訴えといっても、調停(当事者間の話し合い)と裁判の2通りの方法があります。
令和6年4月1日施行の改正民法により、嫡出否認の訴えについて以下の重要な変更がありました。
①提訴権者の拡大
改正前は夫のみが嫡出否認の訴えを提起できましたが、改正後は夫、子、母も提起できるようになりました。また、再婚後の夫の子と推定される場合は、前夫も提起できます。ただし、母や前夫による否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、行使できません。
②出訴期間の伸長
改正前は夫が子の出生を知ったときから1年以内でしたが、改正後は3年以内に伸長されました。具体的には、夫・前夫は子の出生を知ったときから3年以内、子・母は子の出生のときから3年以内です。
なお、子については、父と継続して同居した期間が3年を下回る場合には、21歳に達するまで嫡出否認の訴えを提起できる特則があります。
調停や裁判で嫡出推定が否認されると、子は出生時から夫の嫡出子ではなかったことになります(母の嫡出子ではあります)。
親子関係不存在確認の訴え
親子関係不存在確認の訴えとは、嫡出推定が及ばない場合に、確認の利益がある人から相手方に対してする、親子関係がないことの確認を求める訴えをいいます。嫡出否認の訴えと同様、調停と裁判の2通りの方法があります。
嫡出否認の訴えと異なり、訴えることができるのは「確認の利益がある人」で、夫に限定されません。また、提訴期間の制限がありません。
父子関係を肯定する方法(認知)
父子関係を否定する方法がある一方、父子関係を肯定する方法もあります。それが認知です。
認知とは、非嫡出子について、その父(または母)との間に、意思表示または裁判により父子(親子)関係を発生させる制度をいいます。ここまでは嫡出子に関する話でしたが、ここからは非嫡出子に関する話となります。
- ①認知の効果
- ②認知の方法と認知できる期間
- ③認知の無効
①認知の効果
認知をする、されると主に次の効果が発生します。
- 扶養義務:父は自力では生活を維持できない子(未成年者など)に対して、自分の最低生活を割ってでも自分と同程度の生活をさせる義務を負います。
- 相続権:子は父が亡くなった場合に父の財産を引き継ぐことができます。ただし、プラスのみならずマイナスの財産も含まれるため、引き継ぎたくない場合は相続放棄などの手続が必要です。
- 親権:父の子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行います。
②認知の方法と認知できる期間
認知の方法は任意認知と強制認知の2種類があります。
①任意認知
任意認知とは、父が自発的に市区町村役場に認知届を提出し、父子関係を認める方法です。任意認知は遺言によってすることもできます。認知の効力は出生の時にさかのぼって生じます(民法784条)。
②強制認知
強制認知とは、父の自発的な意思によらない方法、つまり訴訟という手段を用いて強制的に父子関係を確定させる方法です。認知の訴えによる必要があります。
認知の訴えは非嫡出子である子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人が提起することができます。父が死亡した場合は、父が死亡してから3年以内に限り、検察官を被告として提起することができます。
③準正(非嫡出子が嫡出子になる方法)
非嫡出子が嫡出子になるための方法として、婚姻準正(認知後に父母が婚姻した場合)と認知準正(父母が婚姻後に認知した場合)があります。いずれの場合も、非嫡出子は父母の婚姻時から嫡出子としての身分を取得します。
③認知の無効
民法上、子の身分関係の安定のため、認知は撤回(取り消す)ことができないとされています(民法785条)。しかし、令和6年4月1日施行の改正民法により、認知が事実に反する場合(たとえば、子とは血縁関係にないなど)には、子またはその法定代理人、認知をした者(父)、子の母に限り、認知無効の訴えを提起できるとされました(民法786条1項)。
出訴期間は、原則として認知を知った時(認知をした者は認知の時)から7年以内です。なお、認知が無効とされた場合でも、子は父が支出した監護費用を償還する義務を負いません(同条4項)。
ケースごとの対処法と注意点
出生届の届出方法や必要な手続きは、子がいつ生まれたか、母が再婚しているかなどによって異なります。以下、ケースごとに解説します。
- ①婚姻成立から200日以内に出生した場合
- ②婚姻成立前、または婚姻解消後300日以降に出生した場合
- ③婚姻成立後200日経過後から婚姻終了までの間に出生した場合
- ④婚姻中に出生したが嫡出推定が及ばない場合
- ⑤婚姻終了後300日以内に出生した場合
- ⑥婚姻終了後300日以内に出生したが推定が及ばない場合
①婚姻成立から200日以内に出生した場合
婚姻前から妊娠していたなどという場合で、令和6年4月1日施行の改正民法により、この場合も夫の子と推定される嫡出子となります。出生届時には「嫡出子」として届け出ましょう(出生届に「嫡出子」か「嫡出でない子(非嫡出子)」かのいずれかにチェックする欄があります)。
仮に、父子関係を認めたくない場合は嫡出否認の訴えを提起する必要があります。
②婚姻成立前、または婚姻解消後300日以降に出生した場合
前者は事実婚などという場合で、子は「非嫡出子」となります。母親が出生届を行う必要があります。そして、任意認知、強制認知によって父子関係を確定させ、その後、婚姻した場合に準正によって子は「非嫡出子」から「嫡出子」となります。
後者は前夫との間の子という場合は「非嫡出子」です。出生届は母親が行います。子は母親の戸籍に入ります。前夫に扶養を求めたい場合などは、強制認知する必要があるでしょう。
前夫との子でない場合で、子が生まれた時期によっては嫡出推定を受けることができます。この場合は後夫の「嫡出子」として出生届を提出すればよいでしょう。
③婚姻成立後200日経過後から婚姻終了までの間に出生した場合
この場合は嫡出推定が及びますから子は「嫡出子」です。出生届時に「嫡出子」として届け出ればよいでしょう。
④婚姻中に出生したが嫡出推定が及ばない場合
この場合の子は形式的には嫡出推定が及び、子は現在婚姻関係にある夫の「嫡出子」となります。したがって、いったんは婚姻関係にある夫の「嫡出子」として出生届を提出する必要があるでしょう(出生届は出生から14日以内)。
もっとも、実体は婚姻関係にある夫の子ではありません。そこで、子と婚姻関係にある夫との父子関係を否定したい場合は、親子関係不存在確認の訴え、あるいは血縁上の父を相手とした強制認知の訴えによる裁判手続の中で、嫡出推定が及ばない事情(婚姻関係にある夫が長期海外出張で不在だったことなど)を明らかにする必要があります。
⑤婚姻終了後300日以内に出生した場合
令和6年4月1日施行の改正民法により、この場合の取扱いが変わりました。
母が再婚した後に子が生まれた場合は、子は再婚後の夫の子と推定されます。このため、再婚後の夫の「嫡出子」として出生届を提出します。
母が再婚していない場合は、子は前夫の子と推定されます。そのため、前夫の「嫡出子」として出生届を提出する必要があります。
しかし、これでは前夫と離婚したにもかかわらず、子が前夫の戸籍に入ってしまいます。そこで、これを避けるには、医師に婚姻中に妊娠したのではないこと(離婚後に妊娠したこと)の証明書(懐胎時期に関する証明書)を作成してもらい、出生届の提出と併せて提出します。生まれた子が婚姻中に妊娠した子でなければ、前夫の嫡出推定は及ばないからです。
他には、母から嫡出否認の訴えを提起するか、血縁上の父を相手として強制認知の訴えを提起し、その訴訟の中で前夫との子でないことを証明する必要があります。
⑥婚姻終了後300日以内に出生したが推定が及ばない場合
この場合の子も形式的には前夫の嫡出推定が及びます。しかし、子と前夫との父子関係を否定したい、子を前夫の戸籍に載せたくないなどという場合は、出生届時に懐胎時期に関する証明書を併せて提出します。
その他、親子関係不存在確認の訴え、あるいは血縁上の父に対する強制認知の訴えによって前夫の嫡出推定が及ばない事情を明らかにすることもできます。
嫡出子・非嫡出子に関するお悩みは弁護士にご相談ください
嫡出子とは婚姻関係にある男女の間に生まれた子、非嫡出子とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいいます。令和6年4月1日施行の改正民法により、嫡出推定制度が大きく見直され、嫡出否認の訴えの提訴権者や出訴期間も変更されました。
嫡出子か非嫡出子かによって、出生届の届出方法、父子関係の有無、認知の要否などが異なり、ケースによっては嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴え、強制認知の訴えといった法的手続きが必要になることもあります。
「出生届をどのように届け出ればよいかわからない」「父子関係を否定したい」「認知を求めたい」など、お悩みを抱えている方もいらっしゃるかと思います。嫡出推定や認知に関する問題は法改正も絡み複雑ですので、判断に迷われた際は専門家への相談をおすすめします。
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