相談者(40代・男性)
風俗店を利用した際に,盗聴をしてしまった男性からのご相談相談を受けました
具体的な相談内容は以下のとおりです。
相談前
(依頼に至る経緯)
相談者は,デリバリーヘルス店を利用した際,いわゆる風俗嬢たる女性従業員とのプレイ中の音声をICレコーダーで録音していたところ,途中でそのことを女性従業員に気付かれ,すぐさま店に連絡をされた。
そして,相談者は,ホテルの部屋に臨場した店長から,罰金として200万円を請求されるとともに,警察に行くか罰金を払うかの二択を迫られ,やむなく同金額を支払う旨の念書にサインをし,店長とともに近くのコンビニへ行き,ATMにて20万円を引き出して頭金として支払った。
その際,相談者は,店長に自宅住所が記載された免許証とICレコーダーを没収された上,翌日に残額を支払えばこれらを返還すると申し向けられ,ようやく解放された。相談者は,残額を支払うことが困難であり,かつ妻にばれたくないとの思いから,その日のうちに弊所に電話で相談をされました。
相談後
受任後,当日中に弊所弁護士からデリバリーヘルス店に電話連絡をして,
①相談者は店長から脅迫を受けたことで念書にサインをしたものであり念書は無効である旨
②迷惑料名目でいくらか女性従業員と店に対して支払うことは吝かでないが200万という金額は法外である旨
③もし和解の余地があるようであれば,女性従業員と店と相談者の三者間の示談書を作成したい旨
④相談者の免許証について店が保持する正当な権利は何ら存在しないため直ちに返還いただきたい旨
をそれぞれ伝えた上で,今後一切の窓口は弊所弁護士になるため,相談者に直接連絡をしないよう警告しました。
電話口に出た店長としても,金額を調整して円満に解決をする意向であるとのことであったため,その日のうちに弊所弁護士がデリバリーヘルス店に赴き,店長及び女性従業員と面談し,既に支払済みの20万円に加えて解決金として20万円を女性従業員に支払うとの内容で示談が成立した。
なお,免許証とICレコーダー(録音データについては双方合意の上で消去)についても,その日のうちに返還を受けることができた。
(解説)
盗聴目的でホテルに立ち入ることは,建造物侵入罪(刑法第130条前段)という犯罪に該当し,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金を課せられる可能性があります。
また,性行為又はそれに準ずる行為中の声を無断で録音すること自体は,犯罪には該当しないものの,民法上の不法行為(民法第709条)に該当し,損害賠償責任を負う可能性があります。
ここにいう損害としては,被害者である女性従業員の精神的苦痛に対する慰謝料や,盗聴行為を理由として女性が休業ないし退職してしまった場合に店に生じる経済的損害(逸失利益)などが考えられます。
そのため,示談をする際には,必ず店と女性従業員両者との間で清算することを目指します。
本件のように,店が独自に罰金なるものを規約として定めて,トラブルが発生した場合にそれを一律客に対して請求するケースも少なくありません。
特に,
「警察に言われたくない。逮捕されたらどうしよう。」
「妻や職場にばれたらどうしよう。」
といった客の心理につけ込んで高額の罰金の支払いを要求するケースは後を絶ちません。
店が定めた罰金額については,ほとんどのケースで,風俗店の利用申し込み時に合意されたものではなく法的効力を持ちませんが,本件のようにトラブルに発展した後に念書にサインしてしまうことで,法的拘束力を持ってしまうリスクがあります。
したがって,相手方から差し出された念書の類は絶対にサインしてしまわないように注意が必要です。
ただし,仮に念書等にサインをしてしまった場合でも,本件のように,相手方から,警察を呼ぶことを示唆されて,罰金を支払えば警察には通報しないなどと申し向けられた場合は,相手方の行為は強要罪(刑法第223条)に該当する可能性があり,民事上も強迫(民法第96条1項)や心裡留保(民法第93条但書)といった法的構成で念書の効力が否定される可能性があります。
また,脅迫により免許証や金銭を交付させた場合は,恐喝罪(刑法第249条1項)に該当する可能性もあります。
本件においては,まさにそうした強要・恐喝行為に及んでしまったことについて店長に相応の後ろめたさがあった可能性があり,早期解決に繋がったと思料されます。
念書や誓約書等にサインをしてしまったからと諦めずに,一度弁護士に相談することをお勧めします。
また,タイミングや場所にもよりますが,免許証等を喝取された場合,弊所弁護士にて相手方の店を訪問して回収することを試みることも可能ですので,お困りの際はぜひご相談ください。