簡易な訴訟手続として知られる支払督促。
支払督促の制度を利用しようと検討する方は、「なるべく早く簡単に債権回収したい」という考えが強い場合が多いでしょう。
支払督促の手続の流れについて書かれたサイトは数多くありますが、“結局どうすればよいのか”についてよく分からないものが多いかもしれません。
本稿は、そんな支払督促の手続の疑問について答えを示すため、基本的な流れを説明していきます。
支払督促の申立てから強制執行までをザックリ概観!
支払督促の申立てから強制執行までを簡単に示すと以下のとおりとなります。
↓
2.支払督促正本の送達
↓
3.仮執行宣言申立て
↓(送達から2週間で申立て可能)
4仮執行宣言付支払督促正本の送達
↓(仮執行宣言付支払督促の送達から2週間で確定)
5支払督促の確定
↓
6強制執行の申立て
このように、支払督促は手続にはいってから、強制執行手続に入るまでには、最短でも1か月以上かかる手続となります。
支払督促を申立てする前にすべきこと
支払督促の手続の流れについて説明をする前に、1つ確認すべきことがあります。
皆様は“督促状”をきちんと債務者に送ったでしょうか。
一般的に、お金に関して人はなかなか支払をしないものです。ましてや、とくに「お金を支払って欲しい」といわれないと、一向に支払ってくれないものです。
まずお金を支払って欲しい場合は、まずは督促状を送って、支払を促すことが有効です。それでもダメなら“内容証明郵便”という方法もあります。
普通の人の感覚だと、内容証明郵便が家に到着した場合は、心理的に圧迫を受けて支払う場合があります。
「督促状も出した、内容証明郵便も出した」、それでも債務者が任意に支払わない場合は、いよいよ支払督促の申立てが選択肢になります。
次項より支払督促の手続を説明していきます。
支払督促の手続にはまず申立書を提出するとこから始めましょう!
支払督促の手続きを始めるには、まずは申立書を簡易裁判所の裁判所書記官へ提出します。
ただし、一応手続的には口頭で支払督促の申立てもできますが、あまり一般的ではないので、本稿では“書面による申立て”を前提として説明をします。
支払督促の申立ての手続では、申立ての際に証拠を提出する必要はありません。
その理由は、支払督促では証拠の調査を行わないからです。
では具体的にどうやって支払督促の申立をするのかについて説明をします。
支払督促の申立てに必要な書類はどういうものがあるのか?
支払督促を申立ての際に提出する書類は大きく4つあります。
- ①支払督促申立書
- ②当事者目録
- ③請求の趣旨及び原因
- ④送達場所届出書
その他、債務者が法人の場合には資格証明書、弁護士に依頼する場合には委任状が必要となります。
支払督促の書き方はどうやればよいのか?
支払督促に必ず記載しなければならないのは、次のとおりです。
- ①支払督促の手続による旨
- ②請求の趣旨及び原因
- ③当事者及び法定代理人
つまり、簡単に説明をすると、「誰に対して、どういう原因で発生した債権について、支払督促での手続を望むか」について記載します。
なお、支払督促の雛形は裁判所Webサイト上に公開されています。
いずれにしても、簡易な訴訟手続とはいえ、必用な書類をそろえることや、必要事項を記載するだけでもなかなか難しいものです。
そうした場合には、弁護士等の専門家に相談することも選択肢に入れた方が良いでしょう。
支払督促の記載に不備があった場合はどうなるのか?
支払督促の記載に不備があった場合でも、いきなり請求が却下されることはないのでご安心下さい。
支払督促の内容に不備があった場合には、実務的には、裁判所書記官から電話等で内容を修正するように連絡がきます。
その場合には裁判所に補正書を提出することで、手続を継続することができます。
なお、支払督促の記載の不備を補正しない場合には、申立てが却下されることになるので、注意が必要です。
支払督促の手続の費用は結局いくらかかるのか?
支払督促にかかる費用は、裁判所に納める申立手数料を除外すると、債務者が個人の場合は3,000円程度、法人の場合は4,000円程度必要となります。
支払督促にかかる費用の内訳は次のとおりになります。
- ①支払手数料
- ②支払督促送達費用
- ③資格証明手数料(債務者が法人の場合に必要)
上記の内、①の支払手数料は債権額によって変わってきます。
※参考:裁判所HP|申立手数料一覧表
支払督促を債務者に送達する!|申立をしただけでは手続は進まない?
支払督促は、裁判所書記官に申立てをして必要な費用を納めただけでは、手続は進みません。
手続を進めるためには、相手方(債務者)にとってはその請求がされた事実を知ることはないので、“送達”という手続をとる必要があります(民事訴訟法388条1項)。
送達とは簡単にいうと、訴えの当事者・その他訴訟関係人に対して、裁判所から訴状の内容を知らせて、攻撃防御の機会を与えることによって、訴状の内容を知らせるという行為を公証することをいいます。
支払督促は債務者に送達しないことには、手続を進めることはできません。
支払督促の送達ができないとき|放置すると取下げの擬制?
債権者が届け出た送達場所において、支払督促の送達ができなかった場合には、どうなるのでしょうか。
結論として、そのまま放置すると、支払督促の手続が終了してしまいます。
そこで、債務者(相手方)に送達できない場合には、裁判所書記官から通知が来るので、債権者は2か月以内に、再度送達に関する申し出をしなければなりません。
この際には、再送達の上申書と、新たに送達すべき場所について届出をします。
債務者へ送達ができて2週間経過したら仮執行宣言の申立をする!
支払督促を債務者(相手方)に送達できてから、2週間を経過した場合には、手続は次の段階へと進みます。
次の段階とは、“支払督促に仮執行宣言を付与してもらう”ことです。
この“仮執行の宣言”を付与してもらい一定期間経過すると、支払督促の最終段階として強制執行の手続へ移行することができます。この仮執行宣言付の支払督促を“債務名義”と呼び、この書面によって強制執行をすることができるようになります。
具体的には支払督促が送達されてから、債務者が2週間以内に督促異議を申立てない場合には、債権者は、簡易裁判所の裁判所書記官に仮執行の宣言を請求することができます(民事訴訟法391条1項)。
気を付けなければならないのは、逆に債権者が仮執行の宣言の申立てをしなかった場合です。
まずは“30日以内”ということを覚えておいて下さい。
つまり、仮執行の宣言の申立てができるのに、30日を超えてその状態を放置すると、債権者につきやる気がいないと判断されて、支払督促の手続が終了してしまいます。
ポイントは、一度効果を失った支払督促に仮執行の宣言を付すことはできないので、手続のやり直しとなります。
仮執行の宣言の申立てはどうやるのか?
仮執行宣言の申立ては簡易裁判所の裁判所書記官に申立てます。
申立てには、仮執行宣言の申立書、当事者目録、請求の趣旨及び原因目録、請書を提出します。 “請書”とは受領書の事をいいます。
この際にあわせて、郵送に必要な郵便切手を納めます。切手代としては、送達のための費用としては特別送達郵便料として、1,110円×当事者の数分を納めます。
送達のための費用は、重さや封筒の大きさによって変わるので、実際には管轄の簡易裁判所で確認をするようにして下さい。
仮執行宣言の申立てが完了したら後は債務者(相手方)に送達されるのを待つのみです。
仮執行宣言付支払督促の送達!督促異議が出ても手続は止まらない?
首尾よく仮執行宣言の申立てが完了したら、あとは債務者(相手方)へ送達が完了するのを待つだけです。
この仮執行宣言付支払督促の送達の意味は、「もう仮執行宣言が出ているので、あなたの財産に強制執行をかけますよ」という債権者の宣言です。仮執行宣言付支払督促は債務者に送達されると債務名義となります。
つまり、仮執行宣言付支払督促の送達を債務者が受けた場合、たとえ債務者から督促異議の申立てがあっても、債権者は強制執行の手続をすることができるようになります。
債務者が督促異議を申立てても強制執行の手続きが止まらない。
この点が非常に重要で、次項に説明をする仮執行宣言前の督促異議と、仮執行宣言後の督促異議の債権者に対する効力の違いです。
なお、債務者が仮執行宣言付支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議を申立てなかった場合には、もはや督促手続で異議を申し立てる機会を失います。
債務者から督促異議が出された場合はどうすればよいのか?
債務者から督促異議が出されると、仮執行宣言前の場合には仮執行宣言の付与を申立てることができなくなります。
仮執行宣言後だと、前項で説明をしたとおり、仮執行そのものには影響がないので、強制執行を行うことができます。
「どうするべきか」については、督促異議によって訴訟へ移行するので、債権者が訴訟を望むかどうかという判断をすることになります。
ポイントとなるのは、“2週間”という期間です。
債務者は送達を受けたときから2週間以内に督促異議を申し立てることができます。
仮執行宣言前であれば、2週間何もなければ、債権者は仮執行の宣言を申立てることができます。仮執行宣言後であれば、2週間何もなければ、支払督促は確定します。
いずれにせよ、督促異議が債務者から申立てされた場合には、債権者は訴訟を行うのか、または取下げを行うのかの選択をすることになります。
督促異議によって訴訟を行う場合はどうすればよいのか?
訴訟に移行した場合、訴訟で判決を得ることを目指すには、まず追加で手数料等を納める必用があります。
訴状については、最初に支払督促の申立書を提出しているので、改めて提出する必要はありません。多くの場合は裁判所から準備書面の提出を催告されるので、各裁判所の指示にしたがって手続きをします。
追加で納める手数料等とは、訴訟の申立手数料と、郵便切手です。
訴訟の申立手数料は、支払督促を申立てた際の申立手数料と同額を収入印紙で納めます。
郵便切手については、6,000円を裁判所に納めます。
ただし、各裁判所により必要となる郵便切手は異なる場合があるので、事前に確認をするようにして下さい。
督促異議があって取下げをしたい場合はどうすればよいのか?
取下げを行うためには、“取下書”を裁判所に提出します。
督促異議があって、訴訟に移行してしまった場合に、訴訟手続を望まない場合には取下げを行うことができます。また、訴訟手続に移行する前でも、支払督促を辞めたい場合には、取下書により支払督促の取下げができます。
取下書の他には、基本的に裁判所に提出するものはありません。
取下書の書き方は、対象となっている事件名を明記して、債権者の名前等を記載の上、“取り下げる”旨を明記します。
債務者が任意に支払わない場合|強制執行の申立て
仮執行宣言付の支払督促が確定しても、勝手に裁判所が強制執行をしてくれるわけではありません。
つまり支払督促が確定すれば終わりというわけではないということです。
仮執行宣言付の支払督促が確定し、それでも相手方(債務者)が任意に支払わない場合は、債権者が申立てにより強制執行を請求する必要があります。
手続の流れとしては、差押えるべき債務者の財産を特定して、その特定した財産に応じて請求すべき執行裁判所の管轄がことなるので、各裁判所で確認をすることになります。
強制執行はどうやって手続をするのか?
強制執行手続を行うためには、原則として大きく3つ書類等を提出する必要があります。
具体的には次のとおりです。
- ①申立書の提出
- ②仮執行宣言付支払督促の配達証明書
- ③申立手数料の納付
上記3つの書類を執行裁判所に提出することによって手続が開始します。
裁判所で提出された書面等に審査が行われ、不備がないか確認がされます。
この他例えば債務者(相手方)の不動産に強制執行を行う場合には、その不動産の登記簿謄本が必要になります。
また、不動産に強制執行を行う場合の執行裁判所は、不動産の所在地の裁判所となります。
財産の違いによる強制執行手続費用の違いとは?
債務者(相手方)のどの財産に強制執行をするかによって必要書類と費用が異なります。
強制執行の種類としては、債権執行、不動産執行、動産執行の3種類あります。
強制執行の手続は、まず差押から始まります。管轄となる裁判所に申立書の提出と申立て費用を納付することによって差押を行うことができます。
債権執行の場合は、申立手数料として4,000円を収入印紙で納めます。また、同時に連絡費用として切手代を納める必要がありますが、おおよそ3,000円前後の切手代を納めることになります。
不動産執行の場合は、債権執行と同様に申立手数料として4,000円を収入印紙で納めます。
また予納金としては、40万円を納付し、不動産は登録免許税もかかるので、債権額の0.4%の金額を免許税として納付します。
連絡費用としては、基本的には債権者向けのみなので、92円の切手を納めます。
動産執行の場合には、申立て費用はかかりません。予納金としては、3万円~4.5万円程度かかります。各執行裁判所によって異なるので事前の確認が必要です。
債務者の財産について差押が完了した場合には、最終的には債務者の財産について売却をして強制執行は終了することになります。
まとめ
これまで支払督促の手続の基本的な流れを説明してきました。
支払督促はその制度の特性として、簡易・迅速に手続をすすめることができる制度です。
仮に支払督促がお手元に届くことがあった場合、速やかに督促異議の申立てを行い、効力を遮断する必要があります。
支払督促が送達されてきた場合には、放置することなく、専門家に相談する等の対応をお勧めいたします。