特定調停で認めた借金の時効は10年!時効を完成させることは可能?

借金の返済に困ったときに有効なのが、債務整理という方法です。

債務整理をすれば、借金問題を法律的に根本から解決することが可能だからです。

債務整理には4つの方法がありますが、その中の1つに特定調停という方法があります。

特定調停は裁判所で行う手続きになりますが、相手業者との話し合いが成立すれば返済条件が緩和されるため、借金の返済が楽になることが一般的です。

特定調停に成功した場合、その後は調停の合意内容に従って返済をしていくことになります。

しかし、場合によっては約束どおりに返済できないケースもあるでしょう。

そのような場合、借金が時効によって消滅するためには10年もの期間が必要となります。

それでは、特定調停で認められた借金に関して消滅時効で返済義務を逃れることは実際に可能なのでしょうか?

今回は、特定調停で認定された借金の消滅時効期間や時効の援用方法等について解説させていただきます。

なお、当記事は重要ポイントを赤ペンで強調してありますので、強調部分だけに目を通していただければ1~2分で一通り理解可能です。

ぜひ最後までお読みください。

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時効制度とは?

みなさんは「時効」という言葉をご存知でしょうか?

おそらく刑事ドラマなどで、一度や二度は耳にされたことがあるでしょう。

時効とは、法律の定める一定の時間の経過によって、ある権利などが発生したり消滅したりする制度のことを言います。

しかし時効という制度は刑事事件に関するものだけではなく、借金問題など民事事件に関しても定められているのです。

つまり、借金も一定期間返済しなかった場合には、時効によって消滅することになるのです。

簡単に言うと、借金していても一定期間返済しなければ、法律上返済する必要がなくなるということです。

それでは、特定調停によって業者に対する借金が認められた場合、その借金の返済義務は時効によって消滅することはあるのでしょうか?

時効制度には2つの種類がある|取得時効と消滅時効

民法上の時効制度には、取得時効と消滅時効という2つの種類が定められています。

このうち、借金の時効に関係するのは消滅時効になります。

消滅時効とは、一定の期間の経過によって権利自体が消滅してしまう制度のことです。

借金を例にとって説明すれば、一定の期間借金を支払わなければ借金の支払い義務自体が法律上消滅し、それ以降返済する必要がなくなるのです。

金融機関からの借金は基本的に5年で消滅時効が成立する

ひと口に「借金」とはいっても、法律的に考えた場合にはいくつかの種類に分かれます。

このため、金融業者からの借金に関しては、以下のようにその種類によって時効が成立する期間が異なることになります。

  • 銀行・消費者金融・カード会社に対する借金:5年間
  • 信用金庫・住宅金融支援機構などからの借金:10年間

たとえば銀行からの借り入れを5年間返済しなかった場合、消滅時効によって借金は消滅し、返済義務がなくなっている可能性があるのです。

ただし、上記のように借金の消滅時効には5年間または10年間という期間が定められているものがありますが、5年と定められている種類の借金でも場合によっては10年に延長されるケースがあるので注意が必要です。

特定調停で認められた借金の消滅時効は10年

すでにご紹介したように、銀行や消費者金融・カード会社からの借金は5年間返済しないことで消滅時効が成立することになっています。

しかし、それらの借金であったとしても特定調停手続きによって確認された借金に関しては、消滅時効の期間が10年に延長されることになるのです。

これはなぜかというと、権利の存在が判決や和解・調停などの手続きによって確認された場合には、本来5年だった消滅時効期間が10年に延長されるという法律上のルールがあるからです。

特定調停で存在が確認された借金についての時効期間は上記のように10年間となりますが、それではその時効はいつから起算すべきなのでしょうか?

特定調停における借金の時効の起算点とは?

特定調停で確認された借金の消滅時効の起算点は、借金の支払いに関して期限の利益を喪失した時からとなります。

世間では、特定調停が成立した時から時効が進行すると考えている方がいらっしゃいますが、それは間違いですので注意してください。

「期限の利益(きげんのりえき)」とは、借金の返済を分割で行うことのできる債務者に与えられた権利のことです。

本来、借金は全額を一括で支払うのが法律上の基本なのですが、それでは返済額が高額となるため債務者にとって酷です。

そのため、返済条件の中に期限の利益を認めることで、債務者は分割で借金の返済をしていくことが認められているのです。

しかし、その後の返済状況などによっては、期限の利益が失われるケースがあるので注意が必要です。

つまり、分割払いの返済日であるにもかかわらず債務者が返済を行わない場合などには、期限の利益を失う可能性があるのです。

実務では、返済期日を一定期間経過しても返済が行われないケースなどでは、期限の利益を喪失する条項を設けることが一般的です。

期限の利益を失った場合、債務者は借金の残額をすべて一括で返済しなければならなくなります

特定調停でも、返済条件には期限の利益の喪失条項を付けることが一般的です。

そして、その条項によって期限の利益を喪失した場合、その時から借金の消滅時効が進行することになるのです。

時効によって借金を消滅させるためには「時効の援用」が必要!

特定調停で認められた借金に関しては、上記のとおり消滅時効の期間は10年となります。

このため、その借金は特定調停から10年間支払わないことで消滅時効が成立し、法律上返済義務が消滅します。

しかし、消滅時効による借金返済義務の消滅という利益を受けるためには、単に時効期間が経過しただけでは不十分です。

法律上、借金消滅の効果を確定させるためには、時効の援用の意思表示をすることが必要なのです。

時効の援用とは?

「時効の援用(じこうのえんよう)」とは、時効が成立した場合において債務者が時効期間の経過による借金支払い義務の消滅という利益を受けるという意思を債権者に対して表示することを言います。

簡単に言うと、「借金は時効が成立したので、今後一切支払いしません」という意思を債権者に伝えることだと考えてよいでしょう。

法律上では、この時効の援用をすることによって借金の消滅という効果が確定することになっています。

つまり仮に時効期間が経過していたとしても、債務者として時効援用の意思表示をしないうちは、借金は法律上まだ消滅していないことになるのです。

このため消滅時効期間が経過し時効が完成していたとしても時効の援用をする前に債権者に対して借金の存在を認めたり、一部でも借金の返済などをしてしまった場合には、もはや借金の消滅を主張することが認められなくなってしまうので注意が必要です。

もし、ご自分の借金について消滅時効が完成している場合には、つぎのような方法で時効援用することを検討してください。

時効を援用するための方法とは?

時効を援用するための方法に関しては、裁判上であっても裁判外であっても債務者の好きな方法で行うことが認められています。

もっとも確実な方法は裁判上で行うことですが、実際には手間・暇がかかるため裁判外で行うことが一般的です。

しかし、裁判外では確かに時効援用の意思表示をしたかどうかについて、のちにトラブルとなる可能性があります。

裁判外で時効の援用をする場合には、その意思表示をしたことについて証拠を残しておくことが大切です。

そのため、時効の援用をする場合には内容証明郵便を利用することが一般的です。

内容証明郵便を送るためには正式な書式で書類を作成したり、ある程度の費用が掛かったりすることにはなりますが、確実な証拠を残すことができるため非常に有効な手段と言えるでしょう。

時効の中断とは?

特定調停によって存在が認められた借金に関しては、10年間支払いを行わないことによって時効が成立します。

しかし、ここで注意しなければならない問題が存在します。

それが「時効の中断」という問題です。

「時効の中断(じこうのちゅうだん)」とは、法律の定める事由がある場合に時効の進行が中断され、また時効の進行が振出しに戻ることを言います。

つまり、時効の中断に該当する行為があった場合には、せっかく完成間近だった時効であっても振出しに戻り、また最初から時効期間の計算をしなければならなくなるのです。

金融業者も、ただ指をくわえて時効の成立を待ってくれるわけではありません。

債権者として借金の時効が成立してしまうことを阻むため、時効が中断するように、いろいろな手段を講じてくるものです。

そして、法律上債権者や債務者の行為が時効の中断と判断された場合には、せっかく途中まで進んでいた時効の進行が振出しに戻ってしまうことになるのです。

それではいったい、どのような事由が時効の中断に該当するのでしょうか?

具体的には、以下のようなものが時効の中断事由とされています。

  • (1)裁判上の請求
  • (2)差押え・仮差押え・仮処分など
  • (3)承認

それぞれについて、順次確認しておきましょう。

(1)裁判上の請求

債権者が借金の時効完成を阻止するためには、裁判上で請求することが基本となります。

具体的には、債務者に対して借金の返済を求めて裁判を起こすことだと考えてください。

時効を中断させるためには、裁判外で単に「返してください」などと言葉やハガキなどで請求するだけでは足りず、法律的にある程度以上正式な方式による必要があるのです。

ただし、裁判外における請求は「催告(さいこく)」として、請求の時から6か月の間時効の成立を停止させる効果が認められることになっています。

この場合には、催告した時から6か月以内に訴訟など時効の中断事由となる行為をしなければ、時効中断の効力が認められません(民法153条)。

なお、一度は裁判を起こしたものの、請求が却下されたり、その後裁判を取り下げたような場合には時効の中断が認められません(民法149条)。

(2)差押え・仮差押え・仮処分など

民法154条では、債務者に対して差押えや仮差押え・仮処分などをした場合、時効が中断されることを定めています。

仮差押えとは、法律上未確定の債権などに基づき、とりあえず債務者の財産を保全しておくためになされる手続きのことです。

債権者がこれらの行為をした場合、借金の消滅時効は中断することになります。

(3)承認

「承認」とは、債務者として借金が存在することを債権者に対して認めることをいいます。

ただし、この場合の承認とは単に積極的に借金の存在を認める行為に限定されません。

借金の存在を積極的に認めなかったとしても、ほんの一部でも借金を返済した場合には債務の承認と見なされ、時効の中断事由に該当することになるので注意が必要です。

極端な話ではありますが、「たった1円」でも借金の返済として債権者に支払った場合には、時効が中断することになるのです。

すでにご紹介したように時効の完成による借金の消滅という効果は、債務者が時効の援用をすることによって発生・確定します。

このため、まだ時効の援用をする前に一部でも借金の返済を行ってしまった場合には、すでに完成していた借金の消滅時効の効果が消滅してしまうことになるので注意する必要があります。

金融業者はこのことを知っているため、巧妙な手段でわずかな利息だけでも支払うように迫ってくることがあります。

しかし、誘い文句に乗せられてうっかり支払ってしまったら一大事!

もし判断に迷うようであれば、借金の返済を行う前に弁護士などに相談することをおすすめします。

時効が完成しているかどうかについて判断し、今後どのように対処すべきかアドバイスをもらうことができるでしょう。

債務の「承認」に該当する事例

こちらでは、債務の承認として時効の中断が認められるかどうかについて実際に争われた事例について、いくつかご紹介しておきましょう。

以下のようなケースでは、すべて債務の承認として時効が中断すると裁判所によって判断されています。

①利息を支払った場合

利息を支払った場合には、その元本について借金の存在を承認したことになります。

②返済の対象となる借金を指定せず支払った場合

債権者との間に継続的に取引が行われ複数の借金がある場合において、返済対象となる借金を指定せずに支払いを行った場合には、すべての借金について時効が中断することになります。

時効を成立させることは可能か?

ここまでは借金の時効が完成する条件などについてご紹介してきましたが、金融業者からの借金が時効によって消滅することなど実際にあるのでしょうか?

特定調停までした借金が時効消滅することは、実際問題としてあまり考えられないと思ったほうがよいでしょう。

返済から逃げようとしてもムダ!

実際の事例において、特定調停後に借金の支払い義務を時効によって逃れることはまず不可能です。

消滅時効を完成させようと長い間借金の返済を怠っている場合には、最悪のケースとして業者から訴訟を起こされ、その後の対応に苦慮することになりかねません。

もし返済が難しいような場合には、債務整理のプロである弁護士に相談して任意整理や自己破産などの手続きを検討すべきでしょう。

返済が難しくなった場合には、なるべく早い段階で借金問題の解決に向けて積極的に行動する必要があるのです。

裁判を起こされるリスクも!

すでにご紹介したように、時効の完成を妨げるためには借金の返済を求め裁判を起こすことが有効です。

このため、特定調停で存在が認定されたにもかかわらず、その返済を滞らせている場合には裁判を起こされるリスクを抱えることになります。

また特定調停で作成された調停調書は、法律上確定判決度同一の効力が認められるため、調停調書に基づき差し押さえなど強制執行を受ける恐れまであるのです。

このような点を考えた場合には、特定調停後の借金は時効の完成を求め返済を逃れているよりも、積極的に支払うことを検討するほうが賢明といえるでしょう。

ただし特定調停後に何らかの事情変更があり、それが原因で借金の支払いが不可能になっているような場合には、自己破産など借金の返済義務の免除を求める方がよいケースもあると思われます。

まとめ

今回は、特定調停で認められた債権の消滅時効に関する知識に関して解説させていただきました。

消費者金融などからの借金について特定調停で存在が認められた場合、その借金の消滅時効期間は10年となります。

時効が成立した場合、その援用の意思表示をすることで借金の支払い義務は法律上消滅することにはなりますが、実際問題としてはその可能性は非常に低いと考えたほうがよいでしょう。

もし特定調停で確認された借金の支払いが難しいのであれば、個人再生や自己破産など根本的な借金の解決方法を探す必要があります

しかし借金問題の解決方法は、債務者の状況によって千差万別。

ベストな解決方法を見つけるためには、弁護士に相談することが一番の近道なのです。

当事務所には、債務整理の問題解決に精通したベテラン弁護士が多数在籍しています。

もし借金問題でお悩みの場合には、お気軽にお問い合わせください。

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