個人再生は自己破産同様、裁判所で行われる強力な債務整理方法です。
一般的にはひと口に「個人再生」といいますが、実際には個人再生の手続きには、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」というふたつの制度があります。
実際の運用では、圧倒的に小規模個人再生の利用が多く、給与所得者等再生の利用ははるかに少なくなっています。
そのため「個人再生」といえば、通常は「小規模個人再生」のことを指すと考えてよいでしょう。
そして、小規模個人再生と給与所得者等再生には、それぞれメリット・デメリットが存在します。
小規模個人再生におけるデメリットとして、ある意味もっとも大きいものは、手続き上債権者の同意が必要とされていることが挙げられます。
今回は、小規模個人再生する場合に反対してくる債権者にはどのような業者がいるのか、また債権者に反対された場合の対処法などについて解説したいと思います。
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小規模個人再生で債権者が反対(不同意)した場合どうなる?
冒頭で述べたように、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」というふたつの手続きがあります。この中で利用しやすく、実際にも圧倒的多数の方に利用されているのが「小規模個人再生」です。この手続きは「給与所得者等再生」と異なり、手続きによって免除される債務の額が少なくて済むという大きなメリットがあるためです。
しかしその反面、デメリットもあります。それは何かというと、小規模個人再生の手続きを進めるにあたって、債権者の同意が必要とされるという点です。
小規模個人再生の場合、債権者の「消極的同意」が必要
個人再生という制度は、「民事再生法」という法律によって規定されています。この中で、小規模個人再生をする場合には、債権者の「消極的同意」が必要と定められているのです(民事再生法第231条)。うえで「債権者の同意」と書きましたが、正確にはこの「消極的同意」が必要ということになります。
「消極的同意」とは?
「消極的同意」とは、簡単に言ってしまえば債権者が「積極的に反対してこないこと」と考えてよいでしょう。
小規模個人再生では手続き上、再生計画案に対する書面による債権者の決議が必要とされます(これを「書面決議」といいます)。この書面決議の際に、反対の意見を表明する債権者が一定数以上存在する場合、残念ながら個人再生手続きは裁判所によって廃止されます。つまり、個人再生に失敗することになるのです。
債権者から反対(不同意)が出ても廃止されないこともある!
借金問題の内訳がひとによってそれぞれ異なるように、債権者の顔ぶれも様々です。そのため債権者の中には、個人再生の手続きに積極的に反対(不同意)してくる債権者も存在します。
しかし、仮に債権者から反対が出たとしても、必要以上に恐れる必要はありません。債権者から反対が出たからといって、必ずしも手続きが失敗するとは限らないからです。
ここで注意していただきたいのは、債権者の反対によって手続きが廃止されるためには一定の条件があるということです。債権者の反対によって手続きが廃止になるためには、つぎのような要件が必要なのです。
民事再生法第231条による規定
債権者の反対によって個人再生が廃止となる具体的要件については、民事再生法によって規定されています。同法第231条では、つぎのように定めています。
書面決議が受け付けられる一定の期間内に……
① 総債権者数のうち半分以上の債権者が反対の意思表示をしたとき
② 総再生債権額の過半数を有する債権者が反対の意思表示をしたとき
これらに該当する場合、個人再生手続きは廃止されることになります。
上記条件を要約すると、つぎのようになります。
① すべての債権者の頭数の半数以上が反対したとき
② 総再生債権額の過半数を有する債権者が反対したとき
これらのどちらかひとつでも該当した場合には、残念ながら個人再生は失敗することになるのです。
債権者の反対によって手続きが廃止となる具体例
再生債権額(借金総額)が300万円の場合で考えてみましょう。
債権者がA・B・C・Dの4社(人)で、有する再生債権額がそれぞれ160万円・80万円・40万円・20万円だったとします。
債権者Aが反対した場合
書面決議に際して、債権者Aだけが反対の意思を表示したとしましょう。
この場合、債権者4社中の1社が反対しているのですから、「①」の条件では廃止とはなりません。
しかし、Aは総再生債権額300万円中、160万円と過半数を超える債権を持っています。
このため、「②」の条件に該当し、再生手続きは廃止されることとなるのです。
つまり、この事例では債権者Aが反対した場合には、その他の債権者の反対の有無にかかわらず個人再生手続きは廃止となるわけです。
債権者B・C・Dがそれぞれ単独で1社のみ反対した場合
BまたはCまたはDのみが反対した場合です。
この場合、反対の意思表示をした債権者は1社だけですので、上記「①」の条件には該当しません。
また、B・C・Dは総再生債権額のなかで過半数の債権を持っていないため、上記「②」の条件にも該当しません。
このため、このケースでは債権者の反対があったとしても、個人再生は廃止されることはありません。
債権者B・C・Dのうち2社以上が反対した場合
債権者B・C・Dは3社すべての再生債権額を合計しても140万円です。このため、3社すべてが書面決議で反対したとしても上記「②」の条件を満たすことはできす、再生手続きを廃止させることはできません。
しかし、本事例では総債権者数は4社です。このため、その半数である2社が反対の意思表示をすると上記「①」の条件を満たし、再生手続きは廃止となります。
つまり、総再生債権額のなかで過半数を占める債権者Aが反対しなかったとしても、債権者B・Cなどほかの2社が反対することで個人再生は廃止となるのです。
一般的な債権者の場合には反対してこない
うえで述べたように、法律上では債権者に対して個人再生手続きに反対する権利が認められています。
しかし、実際の手続きでは、一般的な債権者が反対の意思表示をしてくることはまれです。
ここでいう「一般的な債権者」とは、消費者金融会社やクレジットカード会社のことを指します。
実務では借金の債権者の大半は、これら消費者金融会社やクレジットカード会社です。
そのため、通常の借金問題のほとんどの場合において、小規模個人再生の手続きを債権者によって反対されることはまずないと考えてよいでしょう。
注意を要する債権者について
すでに述べたように、小規模個人再生する場合には再生計画案について債権者の消極的同意が必要とされます。
つまり、再生計画案に対して債権者に反対されないことが重要です。
通常の場合には債権者が反対してくる可能性は低いと思われますが、再生債権者の中につぎのような債権者が存在する場合には慎重な対処が必要となります。
債権者が1社(1人)の場合
債権者がたった1社または1人の場合がこれに該当します。
債権者が1社(1人)の場合、うえで述べたように法律上、その1社(1人)の意思のみで書面決議を否決できてしまいます。
そのため、その債権者が個人再生に反対してくる債権者なのかを確認する必要があります。
債権者が個人である場合
多重債務に陥っている債務者には、往々にして近親者や友人・知人などから借り入れをしていることがあります。このような場合、個人が債権者となります。
このような個人が債権者である場合には、特に注意が必要です。
なぜなら、個人の債権者は貸金業者などと異なり、個人再生など法的な債務整理に関する知識が乏しいことが多いからです。
そのため、自分の貸金の全額が戻ってこないことに拒否反応を起こし、書面決議で反対してくる可能性が高いのです。
特に債権者と債務者との人間関係が良好でない場合には、積極的に反対してくる可能性が非常に高いと考えなければなりません。
事前に債権者へ充分なケアをすることが大切
個人の債権者に書面決議で反対されないようにするためには、個人的に相手方に対して各種ケアを怠らないことが非常に大切です。
相手の立場に立ってケアすることにより、お互いの人間関係を良好にすることも期待できます。
債権者が個人である場合、事の損得よりも感情で行動することが多いものです。
そのため、相手の感情を和らげることは非常に有効だと考えることができます。
このようなことを念頭に置くことによって、書面決議で反対される危険性をかなり低下させることができるでしょう。
反対した実績の多い債権者がいる場合
各種金融機関の中には、わずかではありますが過去の個人再生の案件に関して高確率で反対の意思表示をしてくるとされる債権者が存在します。
その主なものは、つぎのようなものになります。
実際に反対してくる債権者の例
過去における小規模個人再生の手続きで、書面決議に際し実際に反対の意思表示をしたことが報告されている業者がいくつか存在しています。
具体的には、つぎのような業者(機関)がこれに該当します。
日本政策金融公庫が債権者である場合
日本政策金融公庫(略称「日本公庫」)とは、以前の国民生活金融公庫から業務移管を受けた株式会社です。
日本公庫は、一般的には事業者などへ事業資金の融資をすることがメインの業務ですが、個人向けとして教育ローンの融資も行っています。
このため、日本公庫から教育ローンとして融資を受けている人が個人再生する場合、日本公庫が債権者となります。
この機関も個人再生の書面決議で反対してくることが報告されているので、注意する必要があります。
反対された場合、廃止となる可能性が高い
教育ローンの借り入れをしている場合、通常、借入額は多額となります。
このため、日本公庫の有する債権額だけで総再生債権額の過半数を超えてしまうことも実際に多く存在します。
そのため、ほかのすべての債権者が消極的同意をしたとしても、日本公庫が反対するだけで廃止に追い込まれる恐れが高いのです。
楽天カードが債権者の場合
債務の中に楽天クレジットからの借り入れなどがある場合、債権者は楽天カード株式会社となります。
この会社はやはり、小規模個人再生の書面決議において反対の意思表示をしてくるということで有名です。
共済組合が債権者の場合
公務員や私立学校職員などの場合、各種共済に加入することができる場合があります。
この場合、その共済組合の用意するローンを利用し金銭を借り受けることができます。
この借り入れを受けている人が個人再生する場合、共済組合が債権者となります。
小規模個人再生する場合、債権者の中に共済組合が含まれているときには注意が必要です。
共済組合も書面決議で頻繁に反対してくるとされているからです。
信用保証協会が債権者の場合(基本的に事業を運営している人の場合)
基本的には個人ではなく事業を運営している人の話になりますが、債権者の中に信用保証協会が含まれている場合には注意が必要です。
小規模個人再生の書面決議において、この機関も頻繁に反対の意思表示をしてくることが報告されているからです。
信用保証協会とは?
事業を営む人が事業資金を借りるとき、通常は銀行などから融資を受けます。
この際に、将来この融資したお金が銀行などに返済されない場合に備えて信用保証協会に保証してもらう必要があります。
信用保証協会は、この返済が行われない場合に、融資を受けた本人に代わって銀行などへ一括で残債務を代位弁済するのです。
この代位弁済により、債権者は銀行などから信用保証協会に変更されることになります。
廃止に追い込まれる可能性が高い
この信用保証協会は、事業資金などを借り入れている方が個人再生する場合などに債権者となることがあります。
事業資金の借り入れは、その性質上どうしても多額の借り入れとなってしまいます。
そうすると、信用保証協会の有する債権額だけで総再生債権額の過半数をオーバーする可能性が高くなります。
そのため信用保証協会が書面決議で反対してきた場合には、日本公庫の場合と同様、手続きが廃止となる可能性が高いのです。
個人再生に反対しそうな債権者がいる場合の対策とは?
個人再生に反対しそうな債権者がいる場合には、そのまま申し立てをしても個人再生を廃止されてしまう恐れがあります。
このような場合には、つぎのような対策を検討するとよいでしょう。
債権者の同意を得るようにする
債権者が個人ではなく企業などである場合、その行動は感情ではなく「損得」で判断します。そのため、個人再生でいくらかでも返済を受ける方が債権者にとって得であることを説明し、納得してもらうように努力しましょう。
個人再生することに対する理解を得ることで、書面決議で否決される可能性はずっと低くなるはずです。
廃止の条件を確認したうえで小規模個人再生を申し立てる
実務では実際に反対してくる債権者はかなり少数です。このため、実際の手続きでは反対してこない可能性も充分あります。
もし、債権者の中に書面決議で反対することが予想されるような業者が存在する場合には、その業者の数や、それら業者の持っている債権額を計算してみましょう。それら業者の反対が、手続きを廃止にするための条件を満たすのかどうかを事前に確認しておくのです。
もし、廃止の条件に該当しないような場合には、そのまま小規模個人再生の申し立てを行ったとしても手続きが廃止になる可能性は低いと思われます。
給与所得者等再生の検討
小規模個人再生では心配な場合には、給与所得者等再生の申し立てを検討してみるのもいいでしょう。
給与所得者等再生の手続きでは、小規模個人再生の場合と異なり、債権者の意見は問題とされません。
つまり、個人再生することに対して債権者がどれだけ反対の意思を持っていようと、一定の要件を満たすことによって一定割合の債務の免除(債務の減額)が認められるためです。
給与所得者等再生をする場合のデメリット
小規模個人再生にデメリットがあるのと同じように、給与所得者等再生の手続きにもデメリットが存在します。
その主なものとして、つぎのようなものが挙げられます。
- サラリーマンなど一定以上収入の安定している人しか利用できない
- 前回の破産や給与所得者等再生の手続きから7年以内には申立できない
- 小規模個人再生する場合よりも返済すべき債務額が増える
自己破産の検討
ギャンブルや浪費などで借金を作ったような場合、法律上、基本的には自己破産は許可されないことになっています。
このように、自己破産する場合には小規模個人再生や給与所得者等再生と異なり、法律上の要件が厳しくなります。
しかし、それらが比較的軽微であるような場合には、裁判所も自己破産を認める方向で判断することが多いようです。
もし、小規模個人再生が債権者の反対によって失敗するような場合には、自己破産を検討することも選択肢のひとつとなるでしょう。
まとめ
今回は小規模個人再生で債権者から反対が出る場合について説明いたしました。
給与所得者等再生の手続きと異なり、小規模個人再生を成功させるためには債権者の「消極的同意」が必要です。
つまり、債権者から積極的な反対が出ないことが、とても大切ということになります。
ただし通常の場合、債権者から反対が出ることはまれです。
そのため、債権者から反対が出ることに対して過度な心配をする必要はありません。
しかし、債権者の中に過去に個人再生において反対の意思表示をした実例のある債権者がいる場合には注意が必要です。
また、債権者がひとりだけなど、極端に少数である場合には注意しなければなりません。
債権者の中に業者ではなく個人がいる場合も注意が必要です。
もし、債権者からの反対により手続きが失敗する可能性が高いような場合には、給与所得者等再生または自己破産などの手続きを検討する必要があります。
その場合には高度に法律的な知識にもとづく判断が必要となりますので、できれば法律の専門家に相談するようお勧めします。
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