多重債務に苦しむ方を救済する法的な制度として、個人再生という手続きがあります。
この個人再生には法律上、ふたつの種類があり、債務者の状況によりそれぞれ最適な方法を選択することができるようになっています。そのふたつの種類とは、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」です。
しかし、実際上の運用では、統計上圧倒的に小規模個人再生が利用されています。そのため、「個人再生」といえば通常は「小規模個人再生」のことを指すと考えてよいでしょう。
これほど小規模個人再生が選ばれるのには、もちろん理由があります。給与所得者等再生よりも小規模個人再生のほうが、手続き後に弁済することになる債務の額が少なくて済むからです。
これは言うまでもなく、小規模個人再生の利点です。
しかし、小規模個人再生の最大の欠点は、債権者の意向次第で手続きが失敗させられてしまう可能性があるという点にあります。そのため、債権者の中に個人再生手続きに不満があるような業者などが存在する場合、小規模個人再生を選択することは失敗するリスクを抱えることになると言えます。
これに対して、給与所得者等再生の手続きでは、このようなリスクがありません。
この点が、給与所得者等再生の手続きを選択するメリットなのですが、のちに述べるようにデメリットも存在します。
今回は、この給与所得者等再生の流れについてご説明いたします。
個人再生手続きの基本は、あくまでも「小規模個人再生」です。そのため、給与所得者等再生による手続きは、小規模個人再生をベースとしており、多少相違点があるという程度の違いになります。
こちらでは、おもに個人再生の基本類型である「小規模個人再生」の流れと異なる部分に関して見ていくことにしましょう。
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給与所得者等再生とは?
まず、具体的な流れを説明する前に、給与所得者等再生の大まかな制度について理解しておきましょう。
小規模個人再生の手続きとの相違点
冒頭でも説明したように、給与所得者等再生の手続きは、基本的には小規模個人再生のものとほぼ同一です。
しかし、給与所得者等再生の手続きは、つぎのような点で小規模個人再生と異なっています。
収入に関する条件
個人再生は破産手続きと違って、裁判所での手続き後に一定の債務の返済が必要となります。このため、小規模個人再生の手続きを利用するためには法律上、「定期的」または「反復的」な収入のあることが条件とされています。
これに対し給与所得者等再生では、「定期的」な収入が要求されます。つまり、定期的とまでは言えない「反復的」な収入では不十分ということになります。
さらに、この定期的な収入がある程度以上確実視でき、その収入の変動幅も一定以下である会社員などが利用できるように特化した制度が給与所得者等再生なのです。
最低弁済額に関する条件
小規模個人再生では、清算価値保障の原則(持っている資産以上の金額を返済しなければならないという原則)を満たしたうえで、さらに借金の額に応じて最低弁済額が規定されています。
もしめぼしい財産がなく、借金総額が500万円以下である場合には、最低弁済額は100万円で済むことも多くあります。
これに対し、給与所得者等再生の場合には、のちに述べる「可処分所得」の2年分以上を弁済する必要があります。
給与所得者等再生のメリット・デメリット
給与所得者等再生については、つぎのようなメリット・デメリットがあります。
給与所得者等再生のメリット
先に述べたように、小規模個人再生の手続きでは、債権者の意向次第で個人再生が失敗させられる恐れがあります。これに対し、給与所得者等再生の場合には、このような恐れがほぼありません。
つまり、債務者が個人再生することに対して債権者がどんなに反対したとしても、債権者には基本的に個人再生の手続きを邪魔できないということになります。
給与所得者等再生のデメリット
給与所得者等再生は、小規模個人再生と比較した場合、つぎのようなデメリットがあります。
①最低弁済額が高額になる
給与所得者等再生による最低弁済額は、小規模個人再生に比べて高額になってしまいます。
②会社員など以外は利用できない
収入源が給与またはこれに類するものでない場合には、手続きの利用が制限されてしまいます。
個人再生を検討する場合には、以上のような点を押さえ、「小規模個人再生」・「給与所得者等再生」のどちらの方法が適しているのか判断する必要があります。
なお、給与所得者等再生の手続きに関してより詳しく知りたい方は、「給与所得者等再生とは?」を参照してください。
給与所得者等再生の具体的な流れ
冒頭でも述べたように、基本的な流れは「小規模個人再生」の場合とほぼ同様です。
手続き上、決定的に異なる点は最低弁済額です。この額は、法律の規定により「可処分所得の2年分以上」とされています。
そのため、給与所得者等再生の手続きでは、まずご自分の「可処分所得」がいくらなのかを算出する必要があります。
可処分所得とは?
可処分所得とは、収入から税金や生活する以上どうしても必要な支出などを差し引いた後に残る金額のことをいいます。
可処分所得の算出方法
可処分所得は、つぎのような計算をすることで算出することができます。
「可処分所得(1年分)」 = (過去2年分の収入 - 各種税金など) ÷ 2 - 生活するための最低限度の必要費
この計算式で得られた金額は、あくまでも1年分の可処分所得です。そのため、この金額を二倍したものが可処分所得の二年分、ということになります。
生活するための最低限度の必要費について
生活するための最低限度の必要費は、個人再生しようとする人の住所地や家族構成・年齢などいろいろな要素によって、異なることになっています。
このため、可処分所得の計算はなかなか複雑で難しいものとなります。
再生計画案の作成・提出
個人再生手続きでは、裁判上の手続きが終わったあと一定の債務を支払う必要がありましたよね。
裁判上の手続き終了後に始まる、その返済を計画的に行うため、個人再生の手続きでは「再生計画案」という書面を裁判所に提出することが義務付けられています。
給与所得者等再生では、この最低弁済額を可処分所得の2年分以上に設定し、これを返済する計画書を裁判所に提出することになります。
この作業も個人だけで行うのは非常にハードルの高いものです。
再生計画案の認可
小規模個人再生では、提出された再生計画案は、裁判所の認可を受ける前に債権者の決議を受けなければなりませんでした。
しかし、給与所得者等再生の手続きでは、これと異なり、債権者の決議が不要とされています。そのため、一部の債権者の意向で計画案が否決されることがないのです。
つまり、給与所得者等再生では、債権者の決議を通すことなく、いきなり裁判所の認可手続きになります。
そして、提出された再生計画案に問題がない場合、裁判所は認可決定することになります。
その他の流れ
その他の手続きの流れについては、基本的に「小規模個人再生」の具体的な流れと同様になります。
具体的な「小規模個人再生」の流れについては、以下の記事にわかりやすく解説されていますので合わせて読むことをオススメします。
まとめ
今回は小規模個人再生の特別バージョン的存在である給与所得者等再生の手続きについてご説明しました。
繰り返しになりますが、給与所得者等再生の手続きの流れは、基本的には小規模個人再生の場合とほぼ同様です。
ただ、小規模個人再生の手続きと決定的に異なるのは、最低弁済額の算出方法と、裁判手続き上で債権者の決議が不要という点です。
通常であれば、個人再生をしようとする場合には、まずは小規模個人再生を検討することが一般的です。
しかし、債権者の中に再生計画案に反対の意思を持つ業者などが存在する場合には、給与所得者等再生を検討する必要が出てきます。
ただし、給与所得者等再生の場合には、本文でも述べたように最低弁済額が小規模個人再生の場合より高額となってしまいます。
このため、どちらの手続きを選択するのかについて慎重な判断が必要となります。
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