借金問題を解決する手段として、債務整理という手続きがあります。
この債務整理には、基本的に4種類の方法があり、裁判外で行う方法と裁判上で行う方法に大別することができます。
裁判上で行う手続きには、「破産(自己破産)」と「個人再生」という方法があります。
「破産(自己破産)」については、みなさんも耳にされたことがあるでしょう。しかし、「個人再生」は自己破産ほどメジャーではありませんね。
言うまでもなく「自己破産」は借金をすべて帳消しにしてくれる、非常にメリットの大きい手続きです。しかしその反面、裁判所で手続きを認めてもらうためのハードルがやや高いのが難点です。
これに対して「個人再生」の場合は、自己破産よりもハードルが低く、利用しやすいというメリットがあります。
しかし個人再生の手続きは、自己破産とは違って借金を帳消しにしてもらうことはできず、借金の大幅な減額は期待できますが一定の債務が残るというデメリットもあります。
そして、この「個人再生」という手続きは、さらに「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という手続きに分かれています。
今回こちらでは、「小規模個人再生」について説明させていただきます。
なお、「給与所得者等再生」という手続きの詳細については、以下の記事でわかりやすく丁寧に解説していますので参考にしていただけたらと思います。
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小規模個人再生の概要
うえでも述べたように、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の二種類の手続きがあります。
このうち「小規模個人再生」は、個人再生制度の基本形と考えてよいでしょう。
そして、「給与所得者等再生」は、小規模個人再生の発展形といった手続きです。
この小規模個人再生には、主につぎのような特徴があります。
利用できる人の範囲が広い
小規模個人再生を利用するためには、法律上、反復・継続的に収入があることが条件とされています。
つまり、反復継続的に収入がある人であれば、その収入の額や頻度がある程度不安定であったとしても小規模個人再生は利用することができるのです。
主婦やパート・アルバイト社員でも利用可能
うえで述べたように、小規模個人再生を利用するためには「反復」「継続」的に収入があることが法律上の条件とされています。
このため、パートやアルバイト社員でも個人再生を利用することが可能です。また、主婦であったとしても、一定の収入があれば個人再生を利用することができるのです。
この点からしても、小規模個人再生は非常に間口の広い利用しやすい制度といってよいでしょう。
これに対し、給与所得者等再生の手続きでは、より条件が厳しく定められているため利用者が制限されます。実際に利用できるのは、サラリーマンなど一部の職業の人に限定されてしまうのです。
免除後の残債務額を支払えるだけの収入は必要!
個人再生という制度は、その手続きにより最大90%という大半の債務の免除を受けることができるありがたい制度です。しかし逆に言えば、免除されず残ってしまった債務については、分割で返済を行っていかなければなりません。
この点は、債務全額の免除が認められる自己破産と決定的に異なる特徴ですね。
このため、個人再生を利用するためには、手続きによっても免除されなかった債務を返済するだけの収入があることが必要です。
小規模個人再生は給与所得者等再生とは異なり、主婦やパート・アルバイト社員でも利用することができますが、最低でも残債務額を3年から5年の分割で返済できるだけの収入があることが条件となります。
個人再生に成功すると最大90%の債務が免除される!
個人再生が裁判所で認められると、通常の場合、借金の大半の免除を受けることができます。
基本的には、最大80%の債務が免除される事例が実務では一般的です。
しかし債務の額が多く、3000万円以上になる場合(ただし、どんなに借金が多くても5000万円未満でなければなりません)には、90%の減額・免除をうけることができます。
さらに、その債務については将来利息も発生しないことになりますので、債務の返済が非常に楽になるのです。
要注意!住宅ローンは減額されない!
のちに述べるように、自宅を持っている人で、その自宅にまだ住宅ローンの債務が残っている場合、マイホームを手放さずに個人再生をすることが可能です。
ただしこの場合、マイホームを手放さずに個人再生する場合には、住宅ローンは当初の契約どおり支払う必要があります。
つまり、個人再生に成功すると消費者金融やクレジットカード会社からなどの借金は減額されますが、住宅ローンは当初の契約どおり全額を返済していく必要があります。
個人再生による債務の減額の効果は、住宅ローンには及びませんのでご注意ください。
マイホームを保持しながら借金問題の解決ができる
小規模個人再生に限らず給与所得者等再生の場合でもそうですが、個人再生手続きでは自宅を維持しながら債務整理を行うことができます。これを「住宅ローン特則」を利用した個人再生といいます。
これが認められるためには、自宅に住宅ローンが残っており、それがオーバーローン状態(自宅の経済的価値を住宅ローンの残債務額の方がオーバーしている状態)であることが条件となります。一般的には多くの事例がこの条件を満たしていますので、通常の場合では住宅ローン特則の利用が可能であると考えてよいでしょう。
自己破産する場合には自宅は手放さなくてはなりませんが、個人再生ではマイホームを維持したまま借金問題の解決が可能なのです。
この点はある意味、個人再生最大のメリットと考えることもできるでしょう。
住宅ローンは満額を支払う必要がある!
うえでも述べましたが、個人再生による債務の免除・減額の効果は住宅ローンには及びません。
住宅ローンは基本的に契約どおり、利息分まで含めて返済していく必要があります。
仮に現時点ですでにローンの返済が滞り、保証会社による代位弁済が行われていたとしても、代位弁済時から6か月以内であれば個人再生を利用して自宅を保持することが可能なのです。
小規模個人再生を成功させるために必要な5つの条件とは?
うえで述べたように個人再生が成功した場合、借金は最大で90%も減額してもらえることになります。
しかし、そのためには法律で定める各種条件を満たす必要があります。
これら条件を大きく分けると、つぎのように5つの条件が存在することになります。
- 再生手続きの開始原因が存在すること
- 棄却事由に該当しないこと
- 廃止事由が存在しないこと
- 不認可事由に該当しないこと
- 再生計画が取り消しにならないこと
それでは、各条件ついて順に見てみることにしましょう。
(1)再生手続きの開始原因が存在すること
裁判所で小規模個人再生の手続きを始めるためには、まずはじめに個人再生の開始原因が存在することが必要です。
個人再生の開始原因が存在しない場合、いくら高額な借金があったとしても個人再生を行うことは認められません。
個人再生の開始原因とは?
そもそも、個人再生とは借金問題を解決するための手続きです。
そのため裁判所で個人再生をするためには、ある程度以上の借金を負っていることが必要条件となります。
ただし、単に借金があるという事実だけでは条件を満たしたことにはなりません。
借金があるうえに、さらに「客観的に見て」その返済が難しいという状態でなければならないのです。
この「借金の返済が客観的に見て非常に難しい」状況を、「個人再生の開始原因」が存在する、といいます。
借金の返済が難しい状態であることが必要
個人再生を利用するためには、借金を抱えていて、さらにその返済が難しい状態が必要です。
これは、主観的に(自分の気持ちとして)借金の返済が苦しいと感じるだけでは条件を満たしたことにはなりません。
つまり、借金の総額と収入や所有している財産の総額などから客観的に判断し、やはり債務の返済が難しいと思われる状況である必要があるのです。
このため、本人としては「借金の返済が非常に難しい」という主観を持っていたとしても、客観的に見て返済がそれほど難しくないという状況の場合には個人再生の利用はできないことになります。
個人再生の開始原因が存在しないとされる具体例
うえで述べたように、単に借金を抱えているだけで客観的に見て債務の返済が難しいとされない場合には、個人再生を行うことはできません。
これはたとえば、確かに多額の借金を抱えてはいるけれど、その反面、多額の収入や高額な財産を所有しているような場合がこの状況に該当します。
つまり、一見返済不可能なほど高額な借金を抱えていたとしても、その反面高額な収入を得ていたり高額な不動産などを所有している場合などです。
個人再生を利用する場合には開始原因の存在の有無をチェック!
個人再生という債務整理方法は、どんなに本人がその利用を希望しようとも、上記のように個人再生の開始原因が存在しなければ利用することができません。
そのため、個人再生の利用を検討する場合には、まずは個人再生の開始原因が存在するかどうかを確認する必要があります。
(2)棄却事由に該当しないこと
個人再生の手続きを裁判所で行うためには、個人再生の申し立てが裁判所に受理されなければなりません。
裁判所によって個人再生の申し立てが受理されるためには、つぎのような事由に該当しないことが条件となります。
棄却事由とは?
個人再生の申し立てが裁判所によって受理されるためには、法律が定める棄却事由に該当しないことが必要です。
そのためこれらの事由に該当する場合には、個人再生の申し立ては裁判所によって棄却、つまり受理してもらえません。そのため、手続きを開始してもらうことすらできないことになります。
民事再生法では、つぎのような事由を棄却事由と定めています。
①手続き費用を裁判所に納めない場合
繰り返しになりますが、個人再生は裁判所で行われる債務整理手続きです。
裁判所で何か手続きを行う以上、当然ですが裁判所所定の費用を納めなければなりません。
具体的には、一定の裁判所費用や切手などを納めることになります。
それにもかかわらず、これらを納めない場合、個人再生の申し立ては棄却されてしまいます。
②破産手続きなどが始まっている場合
借金の延滞が長引いているような場合、金融業者から裁判所に対して、債務者についての破産申立てが行われることがあります。
これによって、すでに債務者の破産手続きが開始している場合には、個人再生の申し立ては棄却されることになっています。
ただし、裁判所の判断次第では棄却されないこともあります。
③再生計画案の作成などについて支障があることが明らかな場合
個人再生では、最終的に債務の分割返済のスケジュールなどを表した「再生計画案」というものを裁判所に提出することになります。
しかし、この作成や内容について問題があると裁判所が判断した場合、個人再生の申し立ては棄却されます。
④不正な目的で申し立てがなされた場合
個人再生の申し立てが不正な目的でなされた場合には、その申し立ては棄却されます。
ここで言う「不正な目的」とは、借金問題の解決を目的として個人再生の申し立てがなされたのではなく、単に債権者からの請求や差し押さえなどを逃れるために申し立てられたような場合のことです。
⑤申立人が法人である場合
個人再生とは、その名前のとおり、個人の借金問題を解決するための手続きです。
そのため、個人再生手続きを利用できるのは個人に限られます。
会社などの法人は個人再生を利用できません。
⑥住宅ローンを除いた債務が5000万円を超える場合
個人再生する場合には、住宅ローン以外の債務総額が5000万円以下であることが必要です。
そのため、住宅ローンを除いた借金額が5000万円を1円でも超えている場合には、個人再生の申し立ては棄却されることになります。
住宅ローンの残高は、一切関係ありません。
(3)廃止事由が存在しないこと
せっかく裁判所で始まった個人再生の手続きも、一定の事由がある場合には手続きが中止されることになります。これが手続きの「廃止」です。
また、手続きが廃止されることになる事由のことを「廃止事由」といいます。
手続きが廃止された場合も、個人再生は失敗することになります。
廃止事由について
民事再生法では、つぎのような場合を廃止事由として、これに該当する事実がある場合には手続きが廃止されることになっています
- 提出すべき再生計画案を期限内に提出しない場合など(民事再生法191条)
- 再生計画案が債権者の書面決議により否決された場合(民事再生法237条1項)
- 財産目録に記載すべき財産を記載せず、または不正確な記載をした場合(同条2項)
順に見てみることにしましょう。
①提出すべき再生計画案を期限内に提出しない場合など(民事再生法191条)
再生計画案は、裁判所が指定する一定の期間内に裁判所に提出する必要があります。
この期間内に再生計画案を提出しない場合、手続きは廃止されることになってしまいます。
裁判所の指定する期限は、必ず守るようにしてください。
②再生計画案が債権者の書面決議により否決された場合(民事再生法237条1項)
小規模個人再生の廃止事由の中で、もっとも注意すべきはこの書面決議により否決される場合です。
のちの「小規模個人再生の手続きの流れ」の中で述べますが、小規模個人再生では借金の減額を実現するためには、債権者による「消極的同意」が必要なのです。
これはどういうことかと言うと、再生計画案に対して債権者には反対の意見を表明する権利が認められており、この反対意見を積極的に表明する債権者が一定数以上存在する場合、再生手続きは廃止となるということです。
③財産目録に記載すべき財産を記載せず、または不正確な記載をした場合(同条2項)
個人再生では借金の大幅な減額が期待できます。そしてその減額の率は、保有している財産によって変動します。
つまり、保有する財産が少なければ少ないほど一般的には減額率が高くなるのです。
このため、本来所有している財産でありながら、個人再生手続きでの必要書類である財産目録に不正確な記載をする人がいます。
たとえば、所有している不動産を財産目録に記載しなかったり、持っている預金口座の残高を過少に記載したりする行為がこれに該当します。
これらの行為は、完全な違法行為です。
そのため、このような行為が債権者や裁判所に発覚した場合には大変な結果を招くことになります。
財産目録には正直に、所有する財産の詳細について正確に記載するように心がけてください。
(4)不認可事由に該当しないこと
個人再生手続きが終盤にさしかかると、「再生計画案」という書類を裁判所に提出することになります。
再生計画案とは、個人再生によって減額された借金をどのようなスケジュールで返済していくかなどを記載した書類です。
個人再生に成功するためには、この再生計画案を裁判所によって認可してもらう必要があります。
しかし、つぎのような事情がある場合には、再生計画案は裁判所によって不認可となります。
これらの事情のことを「不認可事由」といいます。
再生計画案の不認可事由とは
個人再生を申し立てた人(再生債務者)において一定の事情がある場合には、法律の規定によって再生計画案が認可されないこととされています。
この事情(事由)のことを「不認可事由」といいます。
裁判所に再生計画案を認可してもらうためには、再生債務者に民事再生法の定める「不認可事由」が存在しないことが必要となります。
法律の定める不認可事由とは、つぎのようなものになります。
なお、一部の条件は「再生手続きの棄却事由」と重複します。
- 再生計画案の内容が法律に違反し、また、その違反を修正することができない場合
- 再生計画案の内容が実現不可能なことが明らかな場合
- 再生計画の決議が不正の方法によってなされた場合
- 再生計画の内容が債権者一般の利益を損なう場合
- 再生計画で定める返済予定額が法律で定められている最低弁済額を下回っている場合
- 異議のない債権と評価済み債権の総額が5000万円を超えている場合
- 現在収入がなく、将来的にも継続的・反復的な収入が見込めない場合
以上のどれかひとつにでも該当する場合には、個人再生に関する再生計画案は裁判所によって不認可となります。
逆に言えば、うえに掲げるような事実がない場合には、再生計画案は認可されることになります。
なお、上記の各不認可事由についてより詳しく知りたい方は、以下の記事にわかりやすく丁寧に解説していますので合わせて読むことをオススメします。
(5)再生計画が取り消しにならないこと
長い手続きを経て苦労の末、ついに再生計画案の認可決定が確定すると、法律上晴れて借金が大幅に減額されることになります。
しかし、手放しで安心してはいけません。
なぜなら、債務の返済が滞るなど一定の事情がある場合には、債権者の申し立てに基づき裁判所によって再生計画の取り消しが行われる可能性があるからです。
再生計画が取り消された場合、せっかく法律上確定した借金減額の効果が消滅してしまいます。
つまり、個人再生に失敗することになり、借金は元の額に戻ってしまうのです。
再生計画が取り消される3つのパターンとは?
それでは、どのような場合に再生計画は取り消されることになるのでしょうか?
詳細については、民事再生法189条および236条でつぎのように定められています。
- 再生計画の成立過程に不正があった場合(民事再生法189条1項1号)
- 再生債務者が再生計画の履行を怠った場合(同項2号)
- 再生計画認可の決定があった時点で、計画弁済総額が清算価値保障原則を満たしていないことが明らかになったとき(民事再生法236条)
これを簡単に説明すると、つぎのようになります。
①財産隠しなど不法な手段を使って個人再生したことが債権者などに発覚した場合
個人再生の手続き中に財産を過少申告したりするなど、不法な行為が発覚した場合、裁判所によって再生計画は取り消されます。
所有している財産に関しては、財産目録に正確に記載する必要があります。
②再生計画どおりに返済が行われなかった場合
個人再生は再生計画案の認可が確定すると、その再生計画に基づき計画的に債務の返済をしていかなければなりません。
この返済が再生計画どおりに行われない場合、債権者から裁判所に申し立てることで再生計画案の認可が取り消されることがあります。
再生計画に基づく返済開始後、万一返済が苦しくなった場合には、すぐに弁護士や司法書士などの専門家に相談してください。
返済期間の延長など、適切な処置を検討してくれるはずです。
③再生計画で定めた返済総額が清算価値保障の原則を満たしていない場合
個人再生では、再生債務者の所有している全財産以上の金額を返済しなければならないというルールがあります。これを「清算価値保障の原則」といいます。
つまり、自分の所有している財産(自動車、不動産などなど)を時価に換算し、その総額以上の金銭を返済する必要があるのです。
再生計画で定めた債務の返済総額が、この財産総額を下回っている場合、再生計画は取り消しされることになります。
本来であれば再生計画案の認可の段階で不認可とされるケースなのですが、それが何かの理由により見過ごされ、再生計画案の認可決定が確定した後にそれが発見された場合の扱いです。
返済は確実に行うことが大切
何度も言うようですが、再生計画が取り消しされると、借金減額の効果は消滅し、今までの苦労が水の泡となってしまいます。
再生計画が取り消しされる原因は実務上、返済を怠ったことが圧倒的多数を占めています。
個人再生による債務の返済期間は基本的に3年間となっていますが、事情がある場合には5年まで延長することができます。
この場合2年間返済期間は長くなりますが、その分、毎月の返済額が減少し返済は楽になります。
もし、再生計画作成時点で毎月の返済額が多いのではないかという不安がある場合には、返済期間を延長し毎月の返済額を減らすという方法を検討する必要があります。
個人再生で一番大切なのは、再生計画に基づき確実に返済を行っていくことだということを忘れないでください。
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小規模個人再生の手続きの流れ
それではここで、小規模個人再生をする場合の流れについて簡単に見てみることにしましょう。
便宜上、こちらではおおまかな流れを説明させていただきます。
小規模個人再生の流れについて、より詳しく知りたい方は以下の記事にわかりやすく丁寧に解説していますので合わせて読むことをオススメします。
専門家への相談
個人再生という手続きは、高度に法律の知識が必要な専門的手続きです。
個人再生を裁判所に始めてもらうためには、まずは「小規模個人再生申立書」を作成する必要があります。しかし、この申立書にはケースバイケースによって多数の書類を添付する必要があります。
また、これら申立書や添付書類のほかにも、手続きの進行に応じて裁判所に提出しなければならない書面がたくさんあります。
このため、専門家への相談や依頼なしに個人再生を行うことは現実的ではないと考えたほうがよいでしょう。
専門家への相談の結果、実は個人再生ではなく、ほかの債務整理方法が適していることが判明するかもしれません。
専門家への依頼・受任契約の締結
相談後、借金問題の解決方法として個人再生が適しているとなった場合、専門家に依頼することになります。
もちろん、必ずしも専門家に依頼しなければ個人再生できないというわけではありません。しかし、専門家に依頼したほうがはるかに手続きがスムーズに進み、個人再生が成功する確率も圧倒的に高くなるはずです。
当然、専門家に支払う費用が必要にはなりますが、個人再生が失敗してしまっては元も子もありません。依頼することのできる専門家には、弁護士と司法書士が考えられます。これらの違いや費用については、以下の記事でわかりやすく丁寧に解説していますので合わせて読むことをオススメします。
専門家に個人再生を依頼する場合には、まず最初に「受任契約」という契約を締結する必要があります。
この契約を締結することにより、正式に個人再生手続きを専門家に依頼することになるのです。
債権者への受任通知の発送
専門家と受任契約が正式に締結されると、その専門家は借金の債権者である金融業者などに「受任通知」という書面を送付します。
これは、依頼人の借金問題の解決に関して正式にその専門家が仕事を請け負った、ということを相手業者に通知するためのものです。
そして、この書面が業者に到達すると、その時点から業者は依頼人本人に一切連絡をすることが禁止されるという効果が発生します。
このため、受任通知が発送されると数日内には、業者からの電話などが来なくなります。
申立書・添付書類などの作成・収集
個人再生手続きを裁判所で行うためには、その申立書のほかに数々の添付書類が必要になります。
専門家に個人再生を依頼している場合、これらの書類は基本的に専門家が作成・収集してくれるでしょう。
しかし、その書類の性質上、本人でないと入手できない書類などは本人が取得することになります。
なお、個人再生の申し立てに必要な各種書類の内容などに関して、より詳しく知りたい方は以下の記事でわかりやすく丁寧に解説していますので参考になさってください。
裁判所への申立書等の提出
裁判所において個人再生の手続きを開始してもらうためには、法律で定められている申立書や添付書類一式ほかを裁判所に提出する必要があります。
専門家に依頼した場合、通常この作業も専門家が行ってくれるため、本人は裁判所に出向く必要はありません。
報告書の提出など
個人再生の手続きでは法律の規定によって、申立書等の提出後、一定の期間内に報告書を提出しなければならないことになっています。
その期間は手続きを行う裁判所が指定することになります。
そのためその期間内に、申立書提出後の生活状況などの変化に関する報告書を提出する必要があります。
こちらも専門家に依頼している場合には、その専門家が対応してくれるため、申立人自身が手続きを行う必要はありません。
再生計画案の作成・提出
再生計画案とは、個人再生後に残る債務の返済方法について記載した書面のことです。
再生手続きによって減額された後の債務額を基本的に3年間(最長5年間)で、どのように返済していくかを明示しなければなりません。
個人再生の申立人側は、この書面を裁判所が定める一定の期間内に提出する必要があります。
この書面も非常に専門的な内容のものですので、個人で作成するのは難しいでしょう。
専門家に依頼している場合には、その専門家が作成・提出してくれます。
再生計画案に対する債権者の書面決議
小規模個人再生では、再生計画案の内容について債権者に議決権が認められています。つまり、再生計画案の内容に不満がある場合には、債権者は再生計画案を否決することもできるのです。
具体的には、この決議に際して一定数以上の債権者が再生計画内容に反対した場合、個人再生は廃止となります。
つまり、個人再生に失敗し、借金問題の解決が振出しに戻ることになるのです。
この点は、小規模個人再生の大きなデメリットといえます。
裁判所による再生計画案の認可
提出された再生計画案に関して債権者によって再生計画案が否決されず、またその内容について法律上の問題がないと裁判所が判断した場合、裁判所は再生計画案を認可することになります。
再生計画案に対する認可の確定
裁判所が再生計画案を認可した場合、法律の規定により、その旨が「官報」に掲載されることになります。
「官報」とは、基本的に毎日発行されている政府の広報誌のようなものです。
再生計画案の認可が確定するのは、認可された旨が掲載された時から2週間が経過した時点となります。
残債務の返済開始
再生計画案の認可が確定すると、通常の場合、早ければ翌月、遅くとも数か月以内には分割による債務の返済が開始されます。
返済の終了
残債務の返済は、一般的には業者が指定する金融口座に振り込む形で毎月分割で行うことになります。
この返済が再生計画に定めたとおり滞りなく完了した場合、個人再生の手続きは終了することになります。
小規模個人再生のメリット・デメリットとは?
それではここで、小規模個人再生のメリットとデメリットについて見てみることにしましょう。
小規模個人再生のメリットとは?
小規模個人再生には、ほかの債務整理方法と比べてつぎのようなメリットが存在します。
主婦やアルバイトの人でも利用できる
給与所得者等再生の場合、サラリーマンなど一定以上安定した収入のある人でないと利用できません。詳しくは以下の記事にわかりやすく解説されています。
これに対し、小規模個人再生の場合には主婦やパート・アルバイト社員などの場合でも利用可能です。
最大90%もの大幅な借金の減額が期待できる
個人再生は自己破産とは異なり、債務全額の免除を受けることはできませんが、債務の大半を免除してもらうことができます。その免除率は、最大で90%にも上ります。
ただし、債務の免除率は債務の額や所有している資産などに応じて変動するので注意が必要です。
実際に債務がどれくらい減額されるのか知りたい方は、以下の記事にわかりやすく解説していますので参照してください。
残債務に利息が付かない
個人再生が裁判所によって認められた場合、うえでのべたように債務の大半が免除されます。
そして、その減額された後の債務を分割で支払うことになるのですが、この残債務については将来利息が一切発生しません。
そのため、返済すれば返済するだけ毎月確実に債務が減っていくので、返済が非常に楽になります。
残債務は基本的に3年間の分割で支払えばOK!
個人再生では債務の大半が免除され、減額された債務を返済することになります。債務が大幅に減るのはありがたいことですが、しかしこの残債務を一括で支払えと言われたら大変ですよね。
もちろん、そんなことはありません。
個人再生では、残債務の支払いは基本的に3年間の分割で返済すればよいのです。
もし、3年での返済が難しいようであれば、裁判所に申し立てることで最長5年間の分割としてもらうことも可能です。
返済の分割回数が増える分、毎回の返済額が少なくなるため、返済が容易になります。
破産と比べて裁判所に認めてもらいやすい
個人再生という手続きは、最終的にある程度の債務を債権者に支払うことを条件とする制度です。
そのため、債務全額の免除が認められ、債権者に一切債務を返済しない自己破産よりも裁判所に認めてもらいやすいというメリットもあるのです。
自己破産と異なり、ある程度以上の債務を支払う分、裁判所も個人再生を認めやすい傾向があると考えてよいでしょう。
自宅を手放さずに借金問題の解決ができる
個人再生のメリットの中で、ある意味最大のものとして挙げられるのが、マイホームを手放さずに借金問題の解決ができるという点です。
住宅ローンが残っており、その他の借金も抱えて返済に苦しんでいる方は、世間には思った以上にたくさんいるものです。
個人再生は、そのような方が自宅を手放さずに借金問題の解決を図れる制度なのです。
ちなみに、これは小規模個人再生だけでなく、給与所得者等再生の手続きでも同様の効果が期待できます。
より詳しくは、以下の記事でわかりやすく丁寧に解説されていますので参考にしてください。
小規模個人再生のデメリットとは?
どの債務整理方法にもデメリットが存在するように、小規模個人再生にもいくつかのデメリットがあります。
小規模個人再生には、おもにつぎのようなデメリットがあります。
一定額の債務が残るため、手続き後に債務を返済する必要がある
うえで述べたように個人再生は破産と異なり、手続き後に一定額以上の債務が残ります。
このため、個人再生の手続きが裁判所で終わったあと、その債務を返済する必要があります。
自己破産が裁判所で認められれば、基本的に債務の全額が免除されるため、借金問題は一気に解決することができます。
しかし、個人再生では一定の債務が残るため、一気に借金問題を解決することができません。
そのため、場合によっては返済の途中で支払いに行き詰まる可能性があります。
手続きを債権者に妨害される恐れがある
小規模個人再生が成功するためには、法律上、再生計画案の書面決議において一定数以上の債権者が反対の意思を表示してこないことが条件となっています。
一定数以上の債権者から積極的な反対の意思表示がなされた場合には、小規模個人再生は失敗することになってしまうのです。
つまり、小規模個人再生の手続きでは、債権者の中に債務者について個人再生手続きを望まない業者・個人が存在する場合には、個人再生が失敗に終わる可能性が高くなるのです。
この点は、小規模個人再生の大きなデメリットのひとつといえるでしょう。
これに対し、「給与所得者等再生」ではこのようなデメリットがありません。
つまり、給与所得者等再生の手続きでは、小規模個人再生の場合と異なり、債権者の意向により手続きが左右される心配がないのです。
しかし、その反面、小規模個人再生で返済すべき額よりも多くの債務が残るというデメリットがあります。
債権者が反対してくる可能性はどれくらい?
うえで述べたように、小規模個人再生の手続きでは法律によって、債権者には手続きに反対する権利が認められています。
そして、反対する債権者の数などが一定以上に及んだ場合、その再生手続きは廃止されるのです。
しかし、実際には反対の意思表示をしてくる債権者は、ほとんど存在しません。
そのため大半の場合、小規模個人再生の手続きが債権者によって廃止に追い込まれることはなく、無事成功して終了しています。
しかし、残念ながら実際に反対してくる業者も、少数ですが存在するのです。
実際に反対してくる債権者とは?
うえで述べたように、大部分の債権者は小規模個人再生に関して反対してくることはありません。
しかし、債権者の中に東京スター銀行や日本政策金融公庫、楽天カード株式会社などが含まれている場合には、注意が必要です。
このような業者が債権者に含まれている場合には、手続きに関して、より慎重に対応することが必要です。
実際に反対してくる債権者について、より詳しく知りたい方は以下の記事を参照してください。
一定期間ブラックリストに載る
個人のクレジットカードや消費者金融の利用状況などのデータを登録・管理している機関として「個人信用情報機関」というものがあります。
その代表的なものとしてCIC・JICC・KSCという3つの機関がありますが、個人再生した場合、基本的に事故情報が記録されることになります(正確には、CICのみ個人再生は事故情報として記録しない扱いのようです)。
この「事故情報」が記録されることが、いわゆる「ブラックリスト」に載るということです。
これは借金問題を解決する以上、ある程度は仕方ないことだと考えなければなりません。
ブラックリストに載った場合、つぎのような不利益を受ける可能性があります。
ブラックリストに載るデメリット
ブラックリストに自分の名前が載っている状態では、クレジットカードの利用などに関して不利益をこうむったり、金融業者などからの新たな借り入れに関してデメリットを受けることが考えられます。
クレジットカードに関するデメリット
クレジットカードは今や生活に欠かせないアイテムと言っても過言ではないでしょう。
しかし、ブラックリストに載っている場合、クレジットカードの利用に各種の支障が出てしまいます。
個人再生する際にすでに所有しているクレジットカードは基本的に使用できなくなります。また、新しくクレジットカードを作ろうとしても、通常の場合には信販会社の審査を通らず新規のカードが作れなくなります。
これらの不利益は、ブラックリストから名前が抹消されるまで続くことになります。
なお、個人再生した場合のクレジットカードへの影響についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせて読むことをオススメします。
金融業者などからの新たな借り入れに関するデメリット
ブラックリストに名前が載っている以上、基本的には金融業者からあらたに借金することはできません。
逆に貸してくれるという業者がいたとしたら、その業者が違法な悪質業者ではないかどうか疑ったほうがよいと思われます。
金融業者には法律によって登録が義務付けられていますが、それを行わない「無登録業者」である可能性があります。いわゆる「闇金」です。
このような業者とかかわりを持ってしまっては大変です。
個人再生後は、ブラックリストから名前が削除されるまでの期間、金融業者からお金は借りられないと考えましょう。
ブラックリストから削除される期間は?
一度ブラックリストに名前が載ったとしても、一生ブラックリストに名前が載ったままということはありません。
一定の時間の経過によって、ブラックリストから名前が削除されることになっています。
しかし、名前が削除されるまでの期間に関しては各信用情報機関によって、その扱いが異なっています。
大雑把に言うと、個人再生した時から5~10年経過するとブラックリストから名前が削除(正確には、個人のデータから事故情報が抹消)されると考えてよいでしょう。
なお、ブラックリストに関する付帯情報についてより詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく丁寧に解説していますので合わせて読まれることをオススメします。
小規模個人再生する場合のおもなデメリットは以上ですが、状況によってはこれ以外にも不利益を受ける可能性があります。
詳細については、個人再生を手掛けている弁護士や司法書士など法律の専門家に相談されることをおすすめします。
まとめ
今回は、小規模個人再生の概要についてご説明させていただきました。
小規模個人再生は給与所得者等再生の手続きと異なり、パートやアルバイト社員など安定した収入のない人でも利用できる制度です。また、ある程度以上反復・継続的な収入があるのであれば、主婦の方も利用できるのです。
また、給与所得者等再生と比べて返済する債務額も少額で済むというメリットがあります。
しかし、その反面、債権者の中に手続きに反対の意見を持っているものが存在した場合、手続きを失敗させられる可能性があるというデメリットもある制度です。
これらの特徴を充分理解することが、小規模個人再生を成功させるポイントになります。
小規模個人再生は、うまく利用すれば非常に有用性の高い借金問題の解決方法です。
手続きの特徴やメリット・デメリットをしっかりと理解していただき、借金問題の解決に役立てていただければ幸いです。
もし、借金の返済でお困りの場合には、なるべく早く法律の専門家に相談することをおすすめします。
借金問題は、いつまで悩んでいても一向に解決しません。
それどころか、時間の経過とともにさらに悪化してしまう非常にやっかいな問題です。
なるべく早い段階で相談することが、借金問題をいち早く解決する一番の近道だということを覚えておいていただきたいと思います。
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