個人再生は申し立てたとしても、必ず成功するとは限りません。当然、失敗する事例も存在します。現実問題として個人再生が失敗する事例には、いろいろなケースが考えられます。
それらの原因を法律的に大きく分けるとつぎのようになります。
- 個人再生の申し立ての「却下」
- 個人再生手続きの「廃止」
- 個人再生計画案の「不認可」
- 個人再生計画の「取り消し」
今回はこのうち、個人再生計画案が「不認可」となる場合についてご説明いたします。
どのような場合に再生計画案が不認可とされるのかについて、法律に沿って少し詳しく見ていきましょう。
なお、こちらでは基本的に実務上最も多いと思われる小規模個人再生をベースにご説明いたします。給与所得者等再生の場合とは若干異なる可能性もありますので、ご注意ください。
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個人再生が認められない再生計画案の「不認可」とは?
個人再生手続きも終盤に来ると、裁判所の指示に従い再生計画案を提出することになります。この提出された再生計画案などに何らかの問題点が見つかった場合には、裁判所は再生計画案を不認可とすることになっています。
この「問題点」のことを、法律上「不認可事由」といいます。
簡単に言えば、不認可事由に該当する問題点が見つかった場合には、個人再生手続きが裁判所によって認められない、ということです。
再生計画の7つの不認可事由とは
個人再生計画案などに関しての不認可事由については、民事再生法第174条や第231条などで定められています。特殊な事例の場合には、その他の条文でも定めていることがあります。
便宜上、民事再生法第174条と第231条を合わせて説明します。
- 再生計画案が法律の規定に違反し、その違反を修正することができない場合
- 再生計画案の内容が明らかに実現不可能な場合
- 再生計画の決議が不正の方法によって可決された場合
- 再生計画の内容が、債権者一般の利益を損なう場合
- 再生計画による返済予定額が、法定の最低弁済額を下回っている場合
- 無異議債権と評価済み債権の総額が5,000万円を超えている場合
- 現在だけでなく将来も継続的・反復的な収入が見込めない場合
つぎに、ひとつずつ順番にご説明しましょう。
①再生計画案が法律の規定に違反し、その違反を修正することができない場合
これは、再生計画案が法律の規定に違反している場合です。
通常、それが軽微な程度の不具合であれば、その部分を訂正して裁判所に提出しなおせば問題ありません。これを法律上、「補正」といいます。
しかし、この問題部分が性質上、重大なものである場合には、そもそも修正がきかない場合があります。そのような場合には、再生計画案は不認可となります。
②再生計画案の内容が明らかに実現不可能な場合
文字どおり、再生計画案の内容が実現不可能な場合です。
毎月の可処分所得から判断して、とても継続して返済が不可能な金額での再生計画案を提出したような場合が該当します。
不認可とされないよう、無理のない計画案を立てる必要があります。
③再生計画の決議が不正の方法によって可決された場合
再生計画が不正な方法を用いることによって可決された場合には、不認可となります。
この「不正の方法」とは、つぎのような場合が該当します。
- 債権者に対して詐欺、強迫をすることで再生計画案に同意させた
- 債権者に対して利益供与などをして再生計画に同意させた
また、重要な判例として、つぎのようなものがあります。
「債権者の過半数の同意が得られないことが明らかな状況において、再生計画案を可決させる目的で再生債権を債務者側に一部譲渡させ、その債務者側の人間が債権者になることで再生計画案が可決されたような場合には、その行為は信義則に違反し、『不正の方法』に当たる。」
「財産隠し」について
財産隠しが行われた場合も、この「不正の方法」に該当します。実務上よくある事例ですので、このポイントは特によく覚えておいてください。
自己破産の場合にも同様の問題がありますが、法律上、個人再生でも財産隠しに関しては厳しい規定が定められています。
破産の場合と異なり個人再生手続きの場合には、持っている財産が多ければ多いほど、弁済しなければならない債務額が多くなります。このため、弁済額を少なくする目的のために、自分の財産を何らかの方法を使って「財産隠し」しようとする方がまれに存在します。
このような行為を取り締まるために、つぎのような法律が定められています。
「詐欺再生罪」について
民事再生法 第255条は、財産隠しなどの行為を「詐欺再生罪」として、以下のように刑罰を規定しています。
民事再生法255条(詐欺再生罪)
再生手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者について再生手続開始の決定が確定したときは、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、再生手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一 債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
これを簡単に要約すると、財産隠しや財産をわざと壊すなどの違法行為が発覚した場合には、「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいはこれを同時に科される」可能性がある、ということになります。
つまり、財産隠しの事実が裁判所または債権者に発覚した場合には、最悪のケースとして懲役刑まで受ける恐れがあるのです。
詐欺再生罪となる具体例
詐欺再生罪に問われる恐れのある具体的な事例としては、つぎのようなものが挙げられます。
- 裁判所に提出が義務付けられている「財産目録」に持っているすべての財産を記載しなかった
- 財産の経済的価値を低くするために、わざと壊した
- 親族や友人などに自分の財産を贈与したように装った
- 親族や友人などから借金しているかのように装った
- 親族や友人などに財産を不当に安く売却した
- 親族や友人などから債権者の不利益となるような債務を負った
これらの行為を総称して一般的には「財産隠し」といいます。
これらの行為がある場合には、詐欺再生罪に問われる恐れがあると言わざるを得ません。
財産隠しが発覚した場合の2つのペナルティー!
財産隠しの事実が裁判所または債権者などに発覚した場合には、つぎのような重大な結果を引き起こすことになります。
①個人再生手続きの失敗
財産隠しという行為は、再生計画案の不認可原因です。しかし、それだけではありません。この行為は同時に、個人再生手続きの却下原因であり、廃止原因でもあり、しかも再生計画の取り消し原因ともなっているのです。
つまり、個人再生手続きのすべての段階において、手続きの失敗原因となっています。
この事実からしても、財産隠しという行為がいかに重大な違法行為であるかということがうかがえます。
②刑罰を受ける
うえでも述べましたが、財産隠しという行為は刑罰にまで問われる可能性のある重大な違反行為です。
本人が行った場合に、その本人が刑罰を科されるのはもちろんですが、親族や友人などが共同して行った場合、その人たちまでもが刑罰を科される恐れがあります。
財産隠しは絶対にダメ!
実務上、ごくまれにではありますが、財産を隠そうとする方がいます。本人からすれば財産を隠すという行為について、あまり重大なことという認識なしに行ってしまうケースが多いのでしょう。
しかし、実際問題としては、そのような甘い考えではすみません。以上のような重大な結果を引き起こす恐れがあるということを充分認識しておいてください。
④再生計画の内容が、債権者一般の利益を損なう場合
これは、実質的にはつぎに述べる「清算価値保障の原則」と同様のことを指します。
つまり、個人再生手続きによって減額され、のちに分割返済することになる債務の総額は、所有している財産総額以上の金額でなければならない、ということです。
再生計画案での返済予定額がこれに満たない場合には、その再生計画案は不認可となります。
⑤再生計画による返済予定額が、法定の最低弁済額を下回っている場合
個人再生は手続き終了後に、法律の定める一定額以上の金銭を債務として返済していかなければなりません。
この金額を法律上、「最低弁済額」と呼んでいます。
最低弁済額の具体的な金額とは?
最低弁済額を簡単に示すと、つぎのようになります。
債務額が100万円未満の場合 | 最低弁済額は元の債務額 |
債務額が100万円以上、500万円未満の場合 | 最低弁済額は100万円 |
債務額が500万円以上、1,500万円未満の場合 | 最低弁済額は元の債務の5分の1 |
債務額が1,500万円以上、3,000万円以下の場合 | 最低弁済額は300万円 |
債務額が3,000万円を超え5,000万円以下の場合 | 最低弁済額は、債務額の10分の1 |
ただし、うえの金額を超える財産を持っている場合には、その財産の経済的価値以上の金額が最低弁済額となります。これを「清算価値保障の原則」といいます。
再生計画案で定めた返済額が、この最低弁済額を下回っている場合には、再生計画案は不認可とされることになります。
⑥無異議債権と評価済み債権の総額が5,000万円を超えている場合
そもそも個人再生という手続きの利用が認められるのは、「債務総額」が5,000万円以下の人でなければなりませんでしたよね。
この「債務総額」を細かく言うと、「無異議債権」と「評価済み債権」の合計ということになるのです。
無異議債権とは
個人再生手続きが始まると、債権者は裁判所に対して債権額の届け出をすることになります。個人再生の申し立てをした人に対して、「うちの会社は〇〇万円のお金を貸している(債権を持っている)」という届け出です。この届け出られた債権額に対して、個人再生を申し立てた本人に異議がない場合、この債権を「無異議債権」といいます。
評価済み債権とは
無異議債権に対するものが、評価済み債権です。
つまり、債権者から裁判所に届け出られた債権額に対して、「いや、この金額は多すぎる!」などと思う場合もあるでしょう。このような場合には、裁判所が債権額の評価をします。
こうやって確定された債権のことを「評価済み債権」といいます。
つまり、これら「無異議債権」と「評価済み債権」の合計額が5,000万円を1円でも超えてしまっている場合には、せっかく作った再生計画案も不認可とされることになります。
ただし、この中には住宅ローンの残債務額は含みません。住宅ローン特則を利用して個人再生する場合には、住宅ローン以外の債務総額が5,000万円以下であれば手続きは利用できますので、ご注意ください。
⑦継続的・反復的な収入が見込めない場合
個人再生には、基本的にふたつの手続きがあります。「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」です。しかし、どちらも裁判所での手続きが終わった後、法律で定められた以上の金額を債務として返済していかなければなりません。
そのため、申立人には一定の収入があることが個人再生を利用するための条件になります。
この「収入」には、性質によってつぎの2つのものがあります。
「継続的」な収入とは?
一番よくあるパターンは、会社から毎月支払われるお給料が代表的なものとなります。
ここでは、条文上「継続的」という言葉が使用されています。つまり、「継続的」な収入であればいいのですから、それは正社員としてのものでなくてもまったく問題ありません。パートやアルバイトの収入でも継続的な収入があるのであれば、不認可事由には該当しません。
「反復的」な収入とは?
「継続的」とまでは頻繁に収入があるわけではありませんが、不定期であっても何度も収入を得られる場合が、これに該当します。
もちろん、債務の返済が可能と思われる程度の頻度と額は必要となってくるでしょう。
以上のような収入が見込めない状態の場合には、個人再生計画案は裁判所によって不認可とされてしまうのです。
なお、この「収入」は現在だけでなく将来にわたっても「継続的」または「反復的」なものである必要があります。
住宅ローン特則を利用した個人再生での問題点
以上のような問題点のほかに、住宅ローン特則を利用して個人再生しようとする場合独自の問題点があります。
住宅ローン特則特有の不認可事由がある
うえで説明した一般的な不認可事由のほかに、住宅ローン特則を利用する場合には独自の不認可事由が定められています。
この点は、ついつい忘れてしまいがちな点ですので、特に注意する必要があります。
住宅ローン特則利用の際の特別な不認可事由とは?
民事再生法では、住宅ローン特則を利用する場合に特有の不認可事由を、つぎのように定めています。
①法律上、自宅を失う可能性がある場合
民事再生法第202条では、以下のように不認可事由を定めています。
「再生債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき」
つまり、簡単に要約すると、「自宅を失う恐れがある」と裁判所によって判断される場合には、再生計画案が不認可となる、ということです。
この代表的な事例はつぎのようなものとなります。
税金の滞納がある場合は要注意!
うえの不認可事由に該当し、不認可とされるケースとして多い事例に、税金の滞納があります。
税金の滞納があると、最悪の場合、市町村や国などから住宅の差し押さえを受ける場合があります。状況的にそのような可能性があると裁判所に判断された場合、再生計画案は不認可とされる可能性もあるということです。
多重債務に苦しみ個人再生を検討する方の中には、固定資産税など税金の滞納をされている方も案外多くいらっしゃるものです。
税金の支払い義務は、法律上かなり重いものとされているため、長期間滞納しているような場合には差し押さえを受ける恐れもあります。
滞納がある場合には、早めに役所に相談を!
税金の支払い義務は、自己破産しても免除されません。税金の支払い義務というものは、それほど法律によって保護されているのです。
もし住宅ローン特則を利用しての個人再生を検討している方で、税金の滞納がおありの場合には、なるべく早めに役所で税金の支払いについて相談したほうが良いでしょう。
支払う気持ちがあるという姿勢を役所側に伝えるだけでも、役所側の対応は変わってくるはずですよ。
②再生計画案に住宅資金特別条項の定めがないとき
民事再生法第231条では、さらに住宅ローン特則を利用した場合特有の不認可事由をつぎのように定めています。
「再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき」
個人再生の申し立てに際して、住宅資金特別条項を利用する旨の申請をしていたにもかかわらず、再生計画案で住宅ローンに関する定めをしなかった場合には、不認可になるということです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、個人再生案が裁判所によって不認可とされてしまう事例について、少し詳しく見てみました。
冒頭でも述べたとおり、再生計画案を提出する段階は、長い個人再生手続きの中でも終盤を迎えたことを意味しています。せっかくここまで苦労して手続きしてきたのですから、できれば不認可になるなどという残念な結果にはしたくないですよね。
それではここで、重要な2つのポイントをおさらいしておきましょう。実務でもたまに見かける事例ですので、要注意ポイントとなります。
財産隠しは絶対しないこと!
うえでも述べましたとおり、財産隠しは重大な結果を引き起こしかねません。個人再生手続きは失敗することになり、刑事罰まで受ける恐れが出てきます。
さらに、財産隠しに加担した相手がいる場合には、その人も同罪とされるのです。親族や友人・知人などに迷惑をかけないようにするためにも、このような行為は慎むべきです。
税金の滞納は放置しないこと!
多重債務に苦しんでいるときには、消費者金融などからの借金のことばかりを優先して考え、対応しがちです。しかし、債務は借金ばかりではありません。税金も立派な債務なのです。
税金の滞納のために、せっかく住宅ローン特則を利用した個人再生が認められなくなっては困ります。延滞がある場合には、なるべく早めに役所を訪れ、税金の支払いについて相談してください。支払う気持ちのあることを伝えるだけでも、差し押さえなど役所側の強硬な処置を避けられる可能性が高くなるでしょう。
個人再生は大多数が債務整理の専門家に依頼して行うことになるでしょう。その場合には、その専門家が不認可にならないように細心の注意を払って再生計画案を作ってくれるはずです。
しかし、さすがに財産隠しがあるかどうかまでは専門家にはわかりません。また、税金の滞納に関しても、なかなか気づきにくいものです。
個人再生を利用するご本人自身が、これらの点に注意することで個人再生が不認可となる恐れは、かなり減少させることができるでしょう。
冒頭でも記載しましたが、今回ご説明した内容は、基本的に実務上最も多いと思われる小規模個人再生に関してのものとなっています。給与所得者等再生の場合とは若干異なる可能性もありますので、ご注意いただきたいと思います。
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