交際中、あるいは交際していた男性との間にできた子供については、その男性と婚姻しない限り、男性と子供との間に親子(父子)関係は生じません。
そこで、こうした場合に法的に相手男性と子供との間に親子関係を生じさせる制度が「認知」です。
もっとも、相手男性が自発的に子供を認知してくれるとは限らず、どのように対処したらよいかお困りの母親も多いと考えます。
そこで、本記事では、裁判所の力を借りて強制的に認知させる「強制認知」について解説していきたいと思います。
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強制認知とは
強制認知とは、相手男性が、あなたと相手男性との間にできた子供を認知することに合意してくれない場合に、家庭裁判所に認知調停や認知の訴えを起こすことによって、相手男性の意思にかかわらず、裁判所に「子供を認知してもよい」というお墨付きをしてもらえることをいいます。
上の定義からもお分かりいただけるかもしれませんが、認知には強制認知のほかに、相手男性が子供を認知することに合意しており、相手男性が自発的に役所に認知届を提出することによって認知する任意認知があります。
なお、認知とは?3つのメリットからわかるその必要性。デメリットもありも一緒に読むと、認知の全体像についてより理解を深められると思います。
強制認知のデメリット・メリット
デメリット
相手男性が任意認知することに協力してくれない場合、あなたの方から家庭裁判所に対して認知調停や認知の訴えを起こす必要があります。
認知調停や認知の訴えでは、決められた一定のルールに従って手続きを進めていかなければならず、専門的な知識や経験も必要とされますから、弁護士に手続きを依頼する必要性が高くなりますが、弁護士に依頼した場合、弁護士費用を負担しなければならず、その額も決して安いものではありません。
また、調停や裁判は1か月~2か月の間に1回のペースで開かれ、2回、3回と回数を重ねるのが通常ですから、裁判所に「子供を認知してもよい」というお墨付きをもらうまでにも一定の時間がかかります。
メリット
他方で、上記のように費用や時間をかけてまで強制認知を目指すメリットは、何といっても、子供が強制認知されたら、相手男性(認知後の父親)に対して養育費を請求できるようになる、という点でしょう。
子供が強制認知されると、子供の出生時に遡って、出生時から相手男性と子供との間に法律上の親子(父子)関係があったとされます(任意認知の場合も同様)。法律上の親子関係が生じるということは、相手男性は子供に対して扶養する法的義務を負うということを意味します。
養育費はこの相手男性が負う扶養義務に基づいて請求できるものです。養育費は、相手男性に請求した時点(相手男性に内容証明郵便が送達された時点、養育費請求調停を申し立てた時点)を起算点として計算した額を請求できるのが一般的ですが、強制認知が確定した直後に養育費請求調停を申し立てた事案では、子供の出生した時点を起算点として計算した額の養育費の請求を認めた裁判例(大阪高裁 平成16年5月19日)があります。
養育費のほか、将来的なことを考えると、相手男性が死亡した場合に、子供が相手男性の遺産を引き継ぐことができる相続権を取得することができるという点もメリットに挙げることができます。もっとも、引き継ぐのはプラスの財産のみならずマイナスの財産も含まれますので、相手男性が借金を多く有していた場合などはデメリットとなる可能性もあります。
強制認知の方法①~認知調停の申し立てなど
強制認知を得るには、まず、家庭裁判所に対して「認知調停」を申し立てます。
法律上、原則として、後記の「認知の訴え」をいきなり提起することはできず、まずは「認知調停」を申し立ててください、という決まりとなっています。これを調停前置主義といいます。
申立先の裁判所は、相手男性の住所地を管轄する家庭裁判所、あるいは、相手男性と話し合いによって取り決めた家庭裁判所、のいずれかです。申立先を後者の家庭裁判所とする場合は、後記の「申立書」と同時に、あなたと相手男性の署名・押印が入った「管轄に関する合意書」という書面を申立先の家庭裁判所に提出しなければなりません。
申し立てを行うには、「申立書(3通=あなた用、裁判所用、相手男性用)」、「連絡先等の届出書」、「進行に関する照会回答書」、「あなた・相手男性の戸籍謄本(全部事項証明書)」が必要となるのが基本ですが(調停委員にこれまでの経緯等を事前に把握してもらうため「陳述書」を作成し、併せて提出することもあります)、申立内容等に応じて追加書類の提出を求められることがあります。
その他、「手数料(1,200円)」と裁判所が書類を郵送する際に使用する「郵便切手代」が必要です。手数料は、収入印紙を「申立書」に貼付する方法により納付します。郵便切手代は、郵便切手を裁判所に提出しますが、金額や種類は裁判所ごとに異なりますから事前に確認します。
家庭裁判所に申立書が受理されると、裁判所から初回の調停期日に関し、打診の連絡が入りますので調整の上で、初回の調停期日を決め、指定された期日に出席します。調停期日では、調停委員から相手男性に任意認知されなかった経緯、相手男性との関係、妊娠・出産、血液型のことなどを聴かれたり、話の裏付けとなる証拠資料の提出を求められることもあります。
また、お互いの話や証拠資料から、子供が相手男性の子供であるかどうか明らかにすることができない場合はDNA型鑑定が行われることがあります。DNA型鑑定にかかる費用は10万円前後で、原則として、鑑定を申し立てた側が費用を負担しなければなりません。
1回の調停期日の時間は2時間程度です。調停期日は1.5カ月に1回程度のペースで開かれ、平均して3回ほど開かれますから、申立てから合意に至るまでに3か月前後はかかる計算です。もっとも、相手男性との間で話に食い違いがある場合には、それ以上かかることも想定しておかなければなりません。
調停で合意に至ることができれば、合意に従った審判がなされ、裁判所から子供を認知する旨の「審判書謄本」が特別送達郵便で送られてきます。その後、審判が確定(確定日は審判書謄本を受け取った日から起算して14日を経過した日)したことを証明する「確定証明書」を家庭裁判所に申請して取得し、役所に「認知届」、「審判書謄本」、「確定証明書」を提出して受理されれば、子供が公的に認知されたことになります。
強制認知の方法②~認知の訴えなど
認知調停を申し立てたものの、そもそも相手男性が調停期日に出席しない、出席したものの認知の合意を得られないという場合は調停不成立です。
調停不成立となった後、なおも認知を求めたい場合は、家庭裁判所に対して「認知の訴え」を提起します。認知の訴えを提起するには、「訴状(正本、副本各1通)」、「原告(あなた)、被告(相手男性)の戸籍謄本」のほか主張を裏付ける証拠書類が必要です。
手数料は13,000円が基本で、その他、郵便切手代、DNA型鑑定費用(10万円程度)を納める必要があります。これらの訴訟費用はいったん原告で負担する必要があり、判決で勝訴した場合(認知が認められた場合)は、後日、相手男性に負担した分の支払いを請求することができます。
裁判期日が開かれるペースは調停と同じですが、裁判ともなると相手からも徹底的に争われることも想定されるため、長期戦を覚悟しておかなければなりません。裁判で和解した場合は和解調書の謄本、判決まで至った場合は判決謄本と裁判の確定証明書を取り寄せ、認知届とともに役所に提出すれば公的に認知されたことになります。
まとめ
強制認知は、相手男性の意思に反する認知であるため、認知後に養育費を継続して支払ってもらうことを考えると可能な限り避けたい方法です。
したがって、まずは相手男性に任意認知してもらう方向で話を進めるのがベストな方法で、それが難しい場合に限って強制認知を検討するようにしましょう。
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