認知しないで養育費を一括払い|合意の有効性と注意点

「認知はしたくない。その代わり養育費はまとめて払うので、これで縁を切りたい」。不倫相手の妊娠などをきっかけに、こう考える方は少なくありません。しかし、認知を求めないという約束(認知請求権の放棄)は判例・通説上無効とされており、養育費を一括で払ったとしても、後から認知を請求される可能性は残ります

一方で、認知をしないまま養育費に相当するお金を渡すこと自体は、当事者が合意すれば可能です。問題になるのは、いくら払えばよいのか、後でトラブルにならないためにどう取り決めればよいのか、という点でしょう。

この記事では、男女トラブルに強い弁護士が、次の点を整理して解説します。

  • この合意は法的に有効なのか
  • 一括払いの相場と金額の決め方
  • 贈与税や公正証書などの注意点
  • 支払い後に認知を請求されたら

なお、認知や養育費の問題でお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へご相談ください

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認知しない場合に養育費はどうなるのか

結論から言えば、認知していない子どもとの間には法律上の父子関係がないため、父親が養育費を支払う法的な義務は生じません。ただし、義務がないことと「払えない」ことは別です。当事者が合意すれば、認知のないまま養育費に相当するお金を支払うこと自体は問題なくできます。まずはこの前提を整理します。

認知がなければ法律上の支払義務は生じない

親が子を扶養する義務は、法律上の親子関係があってはじめて発生します(民法第877条1項)。婚姻していない未婚の男女の間に生まれた子の場合、母子関係は出産という事実で認められますが、父子関係は認知をしなければ生じません(民法第779条)。血縁があっても、認知がなければ戸籍の父欄は空欄のままで、法律上は父親として扱われません。こうした子は法律上「非嫡出子(嫡出でない子)」と呼ばれます。

そのため、認知していない段階では、母親や子どもが家庭裁判所の手続きを使って養育費の支払いを強制することはできません。この点は、認知後に発生する養育費とは扱いが大きく異なります。認知された後の養育費の金額や相場については「認知された子の養育費はどうなる?相場・請求手続きと期間を解説」で詳しく解説しています。

合意があれば認知なしでも養育費は支払える

支払義務がないとはいえ、当事者の話し合いで金額や支払い方法を決め、任意に支払うことは自由です。実際に、子どもの将来を考えて認知をしないまま養育費に相当するお金を渡すケースは珍しくありません。父が任意に養育費を払うという約束自体は、有効な合意として成立します

ただし、この支払いはあくまで合意に基づく任意のものなので、後から「そんな約束はしていない」と言われるリスクや、逆に支払う側が途中でやめてしまうリスクが残ります。だからこそ、取り決めの内容を書面に残しておくことが重要になります。書面化の方法は後述します。

認知しない合意は有効か

ここで注意したいのが、「養育費を払う代わりに、今後いっさい認知は求めない」という取り決めの効力です。すでに別の家庭がある男性が、一時金で関係を清算したいという動機からこうした約束を結ぼうとするケースは少なくありません。しかし、将来にわたって認知を求めないという合意(認知請求権の放棄)は、判例・通説上無効と解されています。お金を払って認知しない約束を取り付けても、後から認知を請求される可能性は消えないということです。

認知請求権の放棄が無効とされる理由

認知請求権の放棄については、一部の有力な学説に、子が父から十分な対価を受けて安全な成長が確保されるのであれば、父の婚姻家庭を保護する観点から、事情によっては放棄の意思を有効と認めてよいとする見解もあります。

しかし、将来にわたって認知しないという合意については、判例・通説的な学説は一貫してそのような意思表示は無効だという判断を示しています。最高裁判所も請求権の放棄につき以下のように判示しています。「子の父に対する認知請求は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないものと解するのが相当である」(最高裁昭和37年4月10日判決)。

放棄の意思表示が無効とされる理由は次のとおりです。

  • 認知請求権は身分法上の権利であって放棄ができない。
    ※関連して扶養請求権については処分することができないと規定されている民法第881条が参考になります。
  • 親子関係は単なる経済的な問題として処理するのは適切ではなくまた「嫡出でない子」の保護を目指している法律の精神にも反する。

このような理由から放棄者が嫡出でない子自身であっても母親やその他法定代理人であってもすべての放棄の意思表示は無効です。

なお放棄は無効であることを前提としても放棄契約後における認知請求権の行使が信義誠実の原則に反する場合には権利の濫用となるのではないかという問題もあります。相当な対価を得たうえで母親や子どもが認知をしないと約束した場合に権利を行使することができるのかは問題になります。これに関しても裁判例では消極に判断するものがあります(名古屋高等裁判所昭和52年10月31日判決)。

以上のことから、対価を支払って相手方に認知請求権を放棄させる合意を取り交わしても、紛争の蒸し返しや将来の請求を法律上完全に封じることはできません。認知しない約束と引き換えに養育費を払う場合は、それが根本的な解決にはならないと理解したうえで進める必要があります。とはいえ、認知をしないまま養育費を一括で支払うこと自体は、当事者が合意すれば可能です。次章以降で、その金額の決め方と注意点を見ていきます。

認知なしで養育費を一括払いするときの相場と計算方法

認知をしないまま養育費を一括で渡したい場合、いくら払えばよいのかが問題になります。認知のない養育費には法律上の決まった相場はなく、当事者の合意で金額を自由に決められます。もっとも、何の目安もなく金額を決めるのは難しいため、実務では月々の養育費の目安をもとに総額を算出し、そこから一定の調整を行う方法がよく使われます。

月々の目安額に支払う期間を掛けて総額を出す

まず、月々いくら払うかの目安を立てます。月額の目安としては、家庭裁判所が示す養育費算定表がよく参照されます。これは双方の収入と子の年齢・人数から月額の目安がわかる一覧表です。本来は認知後・離婚後の養育費を取り決める場面で使われますが、認知のない任意の支払いでも金額を話し合う出発点として使われています。

次に、いつまで支払うかの期間を決めます。子が高校を卒業する18歳までとするか、大学卒業を見込んで22歳までとするかなど、当事者で取り決めます。月額の目安と期間が決まれば、月額に支払う月数を掛けて総額の目安が出せます。たとえば月5万円を子が0歳から20歳まで支払うとすると、5万円×240か月でおよそ1200万円という計算になります。支払う期間が長いほど総額は大きくなり、無理のない範囲で払えるかどうかを見極める必要があります。

一括払いでは将来分の利息を差し引くのが一般的

総額をそのまま一括で払うとは限りません。本来は十数年かけて分割払いで少しずつ受け取るお金を、まとめて先に受け取ると、受け取った側はその間お金を運用できる分だけ得をします。この不公平をならすため、一括払いの実務では、将来分にあたる利息(中間利息)を総額から差し引いて金額を決めることが多くなっています

中間利息の差引きには、複利で計算するライプニッツ方式が実務上よく用いられます。差し引く割合の目安としては、損害賠償の場面で用いられる法定利率(民法第404条により、令和2年4月以降は年3%)が参照されることがあります。ただし、中間利息控除はもともと交通事故などの損害賠償における逸失利益の計算ルール(民法第417条の2)であり、合意に基づく養育費の一括払いに必ず適用しなければならないものではありません。あくまで金額を公平に決めるための目安として使われている点に注意してください。計算が複雑になりやすいため、具体的な金額は弁護士や専門家に相談して算出するのが確実です。

認知なしの養育費を一括で渡すときの注意点とデメリット

一括払いには、毎月の支払いや連絡のわずらわしさがなくなり、関係を整理しやすいという利点があります。一方で、後から取り返しのつかない不利益が生じることもあります。先に主なデメリットを挙げると、次のとおりです。

  • 一度にまとまった出費が必要になる
  • 事情が変わっても支払ったお金は戻ってこない
  • あとから追加の支払いを求められることがある
  • 受け取った側に贈与税がかかるおそれがある

事情が変わっても返還されず追加請求の余地も残る

毎月払いであれば、収入の減少などの事情変更があったときに減額を求める余地があります。これに対して一括払いの場合、支払った後に自分が失業したり収入が落ちたりしても、いったん渡したお金は原則として返ってきません。

逆に、子の進学や病気などで想定外の費用がかかったときには、すでに一括で支払っていても、子の側から追加の支払いを求められる可能性が残ります。とくに認知のない任意の支払いでは取り決めの効力が限られるため、「一括で払えば完全に終わり」と言い切れない点には注意が必要です。

受け取った側に贈与税がかかるおそれがある

毎月その都度払う養育費は、扶養のための生活費として通常は贈与税がかかりません。しかし、将来の分までまとめて一括で渡すと、受け取った側に贈与税が生じることがあります。国税庁は、贈与税がかからないのは扶養義務者からの生活費などのうち「必要な都度直接これらに充てるためのもの」に限られるとしており、まとまった額を受け取って預金や運用に回した場合は課税対象になりうるとしています(国税庁タックスアンサーNo.4405)。贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、一括払いの額がこれを超える場合は注意が必要です。

さらに認知のない場合は、父親が法律上の扶養義務者にあたらないため、養育費名目であっても「扶養のための生活費」と認められにくく、贈与とみなされるリスクが認知ありの場合より高くなる可能性があります。具体的な税務上の扱いは、事前に税理士などの専門家へ確認しておくと安心です。

取り決めは公正証書などの書面に残す

認知のない養育費の支払いは法律上の義務ではなく、当事者の合意に基づきます。口約束だけでは「そんな約束はしていない」と後で争いになりかねません。合意した金額や支払い方法は、必ず書面に残しておきましょう。とくに公正証書にしておくと、合意の存在を後から証明しやすくなります。一括払いの金額をどう算定したのか、その内訳も書き残しておくと、将来の追加請求などをめぐるトラブルの予防になります。

認知を拒み続けるとどうなるか

ここまでの解説を聞いて、「一時金を一括で払ったのに認知しない合意が無効になるのは納得がいかない、認知しない姿勢を貫こう」と考える方もいるかもしれません。しかし、相手方(母親または子ども)から認知を求められた場合、最終的には拒否しきれないことがあります。

話し合いで認知を求められる

あなたが認知に消極的だと、相手はまず任意での認知を求めてきます。弁護士に依頼している場合は、内容証明郵便で認知を求める書面が届くこともあります。こうした話し合いを無視しても、認知の問題が消えるわけではありません。任意認知の手続きや成立要件は「任意認知とは?手続きの方法・必要書類・届出期限を解説」で解説しています。

話し合いに応じなかったり認知を拒み続けたりすると、あなたを相手方として家庭裁判所に「認知調停」が申し立てられます。調停では裁判官と調停委員を交えて話し合いが行われ、まとまらなければ審判や訴訟へと進みます。

強制的に認知が実現される

調停でも解決しない場合は「認知の訴え」が提起されます。裁判所が事実と証拠に基づいて父子関係を判断し、認められれば父親の意思とは関係なく認知が実現されます。DNA鑑定を拒否しても、その態度やほかの証拠から父子関係が認定されることがあります。強制認知に至る流れの詳細は「強制認知とは?手続きの流れ・費用・認められないケースを解説」もあわせてご確認ください。

認知や養育費の問題でお悩みの方は弁護士にご相談ください

認知を求めないという合意は判例・通説上無効であり、養育費を一括で払っても、認知の請求を完全に封じることはできません。認知をしないまま養育費を清算したい場合は、金額の決め方や贈与税の扱い、書面の残し方まで踏まえて慎重に進める必要があります。

こうした取り決めを当事者だけで進めると、後になって認知や追加の支払いを求められ、かえって紛争が長引くことも少なくありません。早い段階で弁護士に相談しておけば、起こりうるリスクを見越したうえで、現実的な解決の道筋を立てやすくなります。

とりわけ、すでに別の家庭がある中で対応を迫られている場合や、相手とのやり取りに強い負担を感じている場合には、精神的な消耗も大きいものです。当事務所では、ご家庭や周囲への影響にも配慮しながら、相手方との交渉を含めて穏便な解決を目指します。

認知や養育費の問題でお困りの方からのご相談に、当事務所は親身に対応しております。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。事務所全体で年間1,500件以上の男女トラブル相談を受けており、不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の暴力的・脅迫的な言動にも弁護士が毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために全力を尽くしている。

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