- 「発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた…開示を拒否してもいいのだろうか…」
- 「発信者情報開示請求を拒否するとその後どうなるのだろう…」
このようにお考えではないでしょうか。
結論から言いますと、任意での発信者情報開示請求を拒否することは可能ですが、その後、請求者が裁判所を介した手続きによって発信者の氏名や住所を強制的に開示する可能性があります。その場合、名誉毀損やプライバシー侵害を理由に損害賠償請求をされたり、名誉毀損罪や侮辱罪等の罪で刑事告訴されるおそれもあります。
この記事では、ネット誹謗中傷問題に強い弁護士が、
- 発信者情報開示請求を拒否するとその後どうなるのか。どのようなリスクを負うのか。
- 発信者情報開示請求を拒否するかどうかの判断基準
などについてわかりやすく解説していきます。
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記事の目次
発信者情報開示請求を拒否すれば情報開示されない?
任意での発信者情報開示請求を拒否したとしても、請求者が裁判所を介した開示手続きをすることで、発信者(ネットに書き込み等をした者)の氏名や住所といった個人情報が開示される可能性があります。
SNSやインターネット掲示板などに書き込みをした発信者には、プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が届くことになります。投稿者側はこのような照会文書が届くことで初めて発信者情報開示請求がなされていることを知ることになります。
「発信者情報開示請求」とは、インターネット上に匿名で書き込みまれた内容によって、自己の権利・利益を侵害されたと主張する者が、その投稿をした発信者を特定して権利侵害の責任を追及できるようにするために設けられている制度です。
具体的には、発信者を特定するために掲示板などのコンテンツプロバイダやインターネットサービスプロバイダに対して、発信者の氏名や住所、電話番号などの情報を開示するように求めていく手続きのことを指します。
したがって発信者情報開示請求とは、加害者に対して損害賠償請求をしたり、捜査機関に逮捕・起訴を求める刑事告訴をしたりするための準備行為であると考えられます。
そして、開示請求を受けたプロバイダはプライバシーや表現の自由、通信の秘密、発信者の権利利益が不当に侵害されることがないよう原則として、開示請求に応じるか、応じない場合にはその理由について、発信者の意見を聞かなけらばなりません(プロバイダ責任制限法第6条1項参照)。
この意見聴取のために「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が発信者宛に送付されることになるのです。この意見照会書の回答期限は1週間〜2週間程度と短いため、すぐに対応する必要があります。開示を拒否する場合には、「開示に同意しない」にチェックを付けて返送することになります。
その際には以下のように理由を付記しておくことが重要です。
- 身に覚えがない(第三者による侵害行為)
- 請求者個人を特定してなされたものではない(同定可能性がない)
- 名誉やプライバシーなどが侵害されていない(権利侵害がない) など
ここで通常、プロバイダは契約者の同意がない限り任意で発信者情報を開示することはありません。必要がないにもかかわらず契約者の個人情報を開示したとして、発信者の側からプロバイダに対して事後的に損害賠償請求がされてしまうリスクがあるからです。そのため、発信者が「開示に同意しない」場合はもちろん、意見照会書を無視し何の回答もしなかった場合であっても、プロバイダの側が任意で開示に応じるケースは多くないでしょう。
プロバイダが任意での開示請求を拒否した場合には、次に解説していくように、請求者は裁判所を介した手続きによって発信者情報の開示を求めていきます。
発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたらするべきことは?
発信者情報開示請求を拒否するとその後どうなる?
請求者が発信者情報開示請求「訴訟」を提起する
任意での発信者情報開示請求が拒否された場合には、請求者は裁判手続きによって投稿者の個人情報を開示するように申立てていくことになります。
従来の手続きでは、以下のように、請求者は発信者の氏名・住所などを保有するアクセスプロバイダを特定するため必要となるIPアドレス等がコンテンツプロバイダから開示されないと、当該アクセスプロバイダを特定することができませんでした。
そのためコンテンツプロバイダに対する仮処分の決定を得てから、別途アクセスプロバイダに対する訴訟を提起する必要があり、2回の裁判手続きを経る必要がありました。
【従来の開示手続】
- Twitterやネット掲示板などのコンテンツプロバイダに対してIPアドレス等の開示請求(1段階目:発信者情報開示の仮処分の申し立て)
- 携帯電話キャリアやニフティなどのアクセスプロバイダに投稿者の住所や氏名などの個人情報の開示を求める(2段階目:発信者情報開示請求訴訟)
しかし、2022年10月よりプロバイダ責任制限法が改正されたことで、以下のように簡単な裁判手続きによって開示請求できるようになりました。
つまり、裁判所が発信者情報開示命令の申し立てを受けて、発信者情報開示命令より緩やかな要件により、コンテンツプロバイダに対してアクセスプロバイダの名称等を被害者に提供することを命じること(提供命令)ができるようになったのです。これによって、提供命令の申立人は、コンテンツプロバイダに対する開示命令の発令を待たずに、アクセスプロバイダに対する開示命令の申し立てができるようになりました。
【法改正後の開示手続】
コンテンツプロバイダに対して、アクセスプロバイダの開示請求とIPアドレスの提供命令を申し立てる(1個の手続きで完了)
このように、発信者情報開示請求の手続きが簡略化されたことから、任意での開示請求を拒否された請求者が、新たな手続きに基づき発信者の身元(氏名・住所)の特定に踏み切ってくる可能性も高まったと言えるでしょう。
裁判で認められればプロバイダを通じて情報が開示される
開示請求と提供命令の申し立てが認められると、アクセスプロバイダは裁判所の決定に従って契約者の個人情報を開示しなけれなりません。
発信者情報の開示を命じたものは、強制執行に関しては、給付を命じる判決と同一の効力を有することになりますので(プロバイダ責任制限法第14条4項参照)、強制執行の際の債務名義となります。
裁判所から開示決定が出されると、個人情報の開示は避けられなくなりますので、次で説明するようなリスクを負うことになります。
発信者情報開示請求を拒否するとその後どんなリスクを負う?
民亊手続きに基づき損害賠償請求される
上記のような流れで、裁判所による発信者情報開示決定が出された場合には、発信者の氏名や住所などの契約者情報が開示されることになります。
このような開示を受けた個人情報に基づき、請求者は投稿者に対して慰謝料などの損害賠償を請求することが一般的な流れです。
投稿者の発信が問題となるケースとしては、投稿内容が請求者のプライバシー権を侵害したり、名誉棄損に該当したりする場合が多いでしょう。
このような場合、投稿者が請求者の権利利益を侵害することになるため、これによって請求者が被った精神的な損害を賠償する必要があります(民法第709条参照)。このような精神的な苦痛を補償するために支払われる金銭が慰謝料です。
個人情報に関する情報がプライバシーとして保護されるためには、以下のような条件が必要です。
- 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある情報であること(私事性)
- 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に、他者に開示されることを欲しないであろうと認められる情報であること(秘匿性)
- 一般の人に未だ知られていない情報であること(非開示性)
ただし上記の基準にあてはまっている場合であっても、公人及び準公人(特に専門職)についての業務に関する事実については、私生活上の事実ではないとしてプライバシー保護の対象外とされることがあります。
一般人の氏名・住所・電話番号・勤務先、写真や肖像、前科前歴などは、プライバシー権によって保護される個人情報にあたります。
これに対して「名誉棄損」とは、人の品性、徳行、名声、信用など人格的価値について社会から受ける客観的な社会的評価を低下させる行為のことをいいます。
上記のようなプライバシー権侵害や名誉棄損に基づく慰謝料金額としては、10万円〜50万円程度が相場でしょう。ただし、悪質な投稿や被害者の受けた精神的苦痛が大きい場合には、100万円以上の請求を受けることもあります。
ここで、任意での開示請求を拒否したことで請求者の被害感情を増大させ、慰謝料の金額が増大する可能性があることには注意しておく必要があるでしょう。
また、請求者は慰謝料請求とともに、発信者情報開示の手続きにかかった訴訟費用や弁護士費用なども請求してくることが一般的です。開示を拒否したことで手続き的な負担が増大したことになるので、開示に応じた場合に比べて弁護士費用も高額になるケースが多いでしょう。
したがって、任意での開示を拒否したことで支払わなければならない請求者の費用が高額化するリスクがあります。
刑事手続きに基づき刑事罰が科せられる
発信者情報開示請求が認められ、投稿者の個人情報が開示されると、刑事手続きに基づき刑事罰が科される可能性もあります。
被害者によって刑事告訴された場合、犯行の悪質性、証拠隠滅・逃亡のおそれがあると捜査機関が判断すると、逮捕・勾留される可能性が出てきます。
逮捕された場合には、最長23日間にわたって身体拘束を受ける可能性があり、検察官に公訴提起されると有罪判決を受けて前科が残ってしまう可能性があります。
被害者によって刑事告訴される可能性がある犯罪については、以下のようなものがあります。
- 名誉棄損罪(刑法第230条1項):3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金
- 侮辱罪(刑法第231条):1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金、拘留、科料
- 著作権侵害(著作権法第119条1項):10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科
任意での開示請求を拒否した場合には、請求者の被害感情が増大する可能性があり、その場合民事上の損害賠償請求に加えて、刑事告訴や被害届によって刑事事件化したいと考える可能性があります。刑事告訴された場合には、被害者との間で示談を成立させることが重要となりますので、弁護士に相談すべきでしょう。
発信者情報開示請求を拒否するかどうかの判断基準
第三者によってなされたものかどうか
問題とされている投稿に身に覚えがない場合には、第三者によってそのような投稿がされている可能性があります。
例えばTwitterやInstagramのアカウントが乗っ取られたことで、第三者が本人に無断で他人の権利を侵害するような発信をしたような場合や、プロバイダの契約自体は本人であるものの、同居の親族や子どもが問題の投稿をしたという場合も考えられます。
ただし身に覚えがないという場合であっても、あなたが利用するインターネット環境で問題とされる投稿がなされているため、第三者による行為であることが証明できない限りは、本人が投稿したものと推認される可能性が極めて高いでしょう。
権利侵害にあてはまる投稿をしているのかどうか
自分がインターネット上に記載した内容が、相手方のプライバシー権や名誉を侵害していないと考えられる場合には、任意の開示請求を拒否することができます。
権利侵害がないのであれば、拒否しても裁判所によって開示請求が否定される可能性があります。
具体的には、投稿内容では、対象となる個人を特定して発信された投稿ではないという場合には開示請求は認められません。また、投稿内容が曖昧・多義的で相手の権利を侵害する内容とは読み取ることができないという場合にも、権利侵害を否定することができます。
例えば、一見名誉棄損や侮辱的な発信をしているようなケースでも、単一評価が可能な程度に個人や法人が特定できている必要があります。具体的には、「外国人はバカだ」や「関西人は常識がない」などのような抽象的な投稿内容では、請求者に対して発信したものとは認められないと判断される可能性があるのです。
ただし、権利侵害にあたる投稿を自覚している場合には、開示請求に応じて話し合いで解決した方が得策の場合もありますので注意が必要です。
発信者情報開示請求をされたら弁護士に相談
この記事は、発信者情報開示請求を拒否できるのか、拒否した場合におこることを解説してきました。
発信者情報開示請求をされた場合でも、請求者の権利が侵害されたことが「明らか」とは言えないケースも多々あります。したがって、法的な判断や今後の対応については発信者情報開示請求手続きに精通した弁護士に相談することをおすすめします。
あなたの事案で開示請求を拒否すべきか、発信者情報開示請求訴訟になった場合に開示が認められない見込みがあるのか否かについても弁護士に見通しを確認することができるでしょう。
当事務所では、発信者情報開示の請求者との示談交渉、名誉毀損等での逮捕の回避を得意としております。発信者情報開示請求を拒否していいのか迷われている方、民事訴訟を提起されたり、刑事告訴されることを防ぎたい方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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