ある人突然、簡易書留で自宅に届いた封書を開封したところ、「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という書面が入っていたらどう思いますか?
身に覚えのない人は「なんだこれは?」となりますが、身に覚えのある人からすれば「開示請求」というキーワードでピンと来る人もいることでしょう。
そこでここでは、以下の点について弁護士がわかりやすく解説していこうと思います。
- ①「発信者情報開示請求に係る意見照会書」とはなにか
- ②意見照会書に書かれていることは?
- ③届いたのに無視するとどうなる?
- ④意見照会書に対する回答書に書くべきことは?
- ⑤開示を拒否するとどうなる?
全部読み終わるのに6分ほどかかりますが、法律に詳しくなくても理解できるようにわかりやすく書いています。
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記事の目次
発信者情報開示請求に係る意見照会書とは
”発信者情報開示請求に係る意見照会書”とはなにか。
まず、発信者情報開示請求とは、ネットの掲示板などで誹謗中傷の書き込みをされたと主張する人が、その投稿者(発信者)の個人情報を開示するよう、掲示板管理者や通信会社(プロバイダ)に請求する手続きです。
具体的には、以下のような発信者の情報が開示されることになります。
- ①氏名・住所
- ②メールアドレス
- ③IPアドレス
- ④タイムスタンプ(発信した時刻)等
そして、『発信者情報開示請求に係る意見照会書』とは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダが、発信者(投稿者)に対して、「あなたの個人情報を『権利を侵害されたと考えている人』に対して開示していいですか?それともダメですか?ダメだとしたらその理由は?」と意見を聴く書面です。
プロバイダは、プロバイダ責任制限法という法律に基づいて、意見照会書を送付しなければならないことになっています。
これが『発信者情報開示請求に係る意見照会書』の概要です。
意見照会書を送ってくるプロバイダとは?
では、発信者に意見照会書を送ってくる、「プロバイダ」とはそもそもなんでしょうか。
まずここで、プロバイダには2種類あることを確認しておきましょう。
例えば、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)を運営するLoki Technology, Inc.、twitterを運営するTwitter, Inc.など、掲示板やSNS等を運営している会社や人を「コンテンツプロバイダ」といいます。
これとは別に、So-net(ソネット)やOCN、ビックローブ、ソフトバンク・NTTドコモ等、インターネットに接続するためのサービスを提供する会社を「経由プロバイダ」、「アクセスプロバイダ」といいます。
発信者情報開示請求とは?にも書いてあるように、発信者情報開示請求は、通常コンテンツプロバイダと経由プロバイダにそれぞれ1回ずつ行い、コンテンツプロバイダからはIPアドレスやタイムスタンプ、メールアドレスを開示してもらい、経由プロバイダからは氏名や住所を開示してもらいます。
このように少なくとも2回は発信者情報開示請求をする必要があるため、意見照会書も、コンテンツプロバイダと経由プロバイダからそれぞれ1回ずつ、計2回送られてくることがあるのです。
ただし、利用時にメールアドレスの登録が不要なサイトでは、サイト運営者であるコンテンツプロバイダは、発信者のメールアドレスすら把握していません。
この場合は、意見照会書を送ろうにも送れませんので、意見照会書が送られてくるとすれば、それは、経由プロバイダからの1回のみになります。
郵送で送られてくるの?
基本的には、簡易書留(発送と受け取りが記録される書留。手渡しの郵便)で書面で送られてくることがほとんどです。
しかし、意見照会書の送付方法には、法律で定められているわけではありません。
上で説明したように、コンテンツプロバイダが発信者と連絡をとる手段があるとすればメールだけとなりますので、コンテンツプロバイダからは、メールで意見照会書が送られてくることもあります。
どんな法律を根拠にしているの?
発信者情報開示請求についても、意見照会書についても、プロバイダ責任制限法(4条)に規定されています。
プロバイダ責任制限法は、とくかく漢字が多く読みづらいため、条文の一部を簡単に紹介します。
プロバイダ責任制限法4条2項
開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
ここでいう「開示関係役務提供者」とは、プロバイダのことです。「前項の規定による開示の請求」とは、発信者情報開示請求のことです。そして、「発信者の意見を聴かなければならない。」に該当する箇所が、意見照会書の送付に結びつきます。
要約すると、”プロバイダが発信者情報開示請求を受けた場合には、特別の事情がない限り、開示請求に応じるかどうかについて発信者の意見も聴かなくてはならない。”となります。
プロバイダ責任制限法についてもっとわかりやすく、詳しく知りたい方は、プロバイダ責任制限法とはなにか?とにかく分かりやすく解説しましたをご覧下さい。
なぜ、発信者の意見を聴かなくてはならないの?
発信者の書き込みが、他人の名誉等の権利を侵害しているように思われても、発信者側にもその書き込みをした何かしらの正当な理由がある可能性もあります。
発信者の意見も聴かずに、氏名や住所などの個人情報の最たるものを開示してしまえば、重大なプライバシー侵害や、表現の自由の制限に繋がり兼ねません。
そこで、プロバイダ責任制限法では、発信者に反論する余地を残すよう規定しているのです。
そのため、意見照会書に添付されている回答書(意見照会書を受け取った発信者が、プロバイダに回答するときに用いる書面)には、「発信者情報開示に同意する・同意しない」のチェック項目以外に、発信者が反論を述べられるよう、「同意しない理由」の項目も設けられています。
意見照会書に書かれている内容は?
意見照会書は、多くのプロバイダが同じフォーマット(テレサ書式と言ったりします。)を使用していますので、以下の2つのサンプル画像が実物に近いと考えても良いでしょう。
意見照会書の1枚目には以下の内容が書かれています。
- ①発信者の書き込みについて発信者情報開示請求を受けたこと
- ②プロバイダが開示に応じることについて発信者の意見を聴かせて欲しいこと
- ③意見がある場合は、意見照会書受領日から2週間以内(場合によっては1週間以内)に、添付回答書で回答が欲しいこと
- ④回答がない、または発信者が開示に同意しなかったとしても開示に応じることがあること
意見照会書の2枚目には、以下のように、侵害情報や開示請求した人が主張・希望する内容が書かれています。
- ⑤ネットに書き込まれた侵害情報
- ⑥それにより侵害された権利や、権利が侵害されたとする理由
- ⑦情報開示を受けるべき正当な理由
- ⑧発信者のどのような情報の開示の請求を希望しているか
意見照会書を無視すると問題がある?
意見照会書には、受領してから1週間~2週間以内に、意見照会書に添付されている回答書によって回答するよう求める記載があります。
とはいえ、この1週間~2週間という期間は、法律に特に定めのあるものではなく、期間内に回答しなかったからといって罰則があるわけでもありません。しかも、意見照会書には「回答がない、または開示に同意されない場合(回答書で開示を拒否した場合)でも情報開示することがあります」と記載されています。
つまり、回答をしようがしまいが、プロバイダの裁量で発信者情報開示請求に応じることもあるわけですので、「回答せずに無視しよう」と考える人もいるはずです。
しかし、意見照会書を無視して回答しないと、プロバイダに与える印象は悪くなり、プロバイダの裁量で開示されてしまうリスクも上がります。情報開示されるリスクを少しでも下げるためにもしっかりと反論を書き、回答書を提出すべきでしょう。
意見照会書に対する回答書の書き方
発信者情報開示請求に係る意見照会書には、「回答書」という書面が添付されてきます。実際にどのようなものか以下のリンクをクリックして見てみましょう。
意見照会書には、意見照会書を受領してから定められた期間内に、回答書にて回答するように求める記載があります。
回答する内容は、プロバイダが発信者情報開示をすることに同意するか否か、同意しない(拒否する)場合はその理由を記載します。
理由を記載しないからといって回答書が無効になるわけではないですが、プロバイダが情報開示するか否かの重要な判断材料となりますので必ず書くようにしましょう。
更に、プロバイダが開示に応じない場合、発信者を特定したいと考える方は、プロバイダに対して「発信者情報開示請求訴訟」を提起することがあります。
この訴訟では、回答書はプロバイダが証拠として提出することがありますので、裁判所は回答書に記載された理由も踏まえて判断を下します。
したがって、回答書の理は、裁判所が情報開示の判決を出すか否かの重要な判断材料にもなります。
自分の氏名や住所、メールアドレスといった情報が相手の手に渡ってもいいのであれば、「発信者情報開示に同意します。」の欄に〇のチェックを入れるだけで構いません。
投稿してしまった内容等によっては、同意をして、相手と示談交渉を行うことが得策の場合もあります。
しかし、自分の個人情報を知られたくない人がほとんどですので、開示に不同意であることを前提に、「同意しない理由」の書き方について説明します。
身に覚えのない場合
発信者情報開示請求に係る意見照会書が送られてきたものの、全く身に覚えのないという人もいます。
身に覚えがないというのは、「自分の書き込みは、誹謗中傷や悪口、風評被害や名誉毀損に該当する内容ではない」という主観的な判断ではありません。
その判断は、開示の是非を決めるプロバイダや、訴訟になったときの裁判官が客観的に、法律に基づいて行うものです。
ここでいう「身に覚えがない」というのは、そもそも書き込みをしていない場合を指します。
身に覚えのない書き込みで個人情報を明かされても困りますので、情報開示を同意しない場合の理由を書く欄には、自分が書き込んでいないことを明確に書きましょう。
その際には、同居の家族や恋人が、無線LANから書き込みをしていないか、自分のスマホやPCなどを勝手に使用されてしまっていないかも確認し、自分に近しい者の書き込みでないことも合わせて回答書に書いておきましょう。
なお、同居の家族等が書き込んでいる場合は、実際に書き込んだ方が、回答書に記載します。
身に覚えのある場合
意見照会書が届いた時点で、「きっとあの投稿のことだな…」「あの書き込みが誹謗中傷であったかも…」など、明確ではなくともなんとなく身に覚えのある方もいることでしょう。
ここでは、事案として最も多い、「名誉毀損を理由とした発信者情報開示請求」をされた場合の意見照会書に対する回答書の書き方についてお伝えします。
「権利侵害にあたる」かどうかまず確認する
意見照会書が自宅に届いたことに「身に覚えがある」時点で、自分の書き込みが人の社会的評価を下げるような誹謗中傷であった可能性を薄々認識しているはずです。
そのため、「権利侵害していない」といくら長々と回答したところで、客観的にみて名誉権等を侵害していれば単なる言い訳になってしまいます。
そこでまずは、自分の書き込みが、名誉毀損やプライバシー侵害など、「権利侵害にあたる」可能性を、弁護士に確認してもらうと良いでしょう。
そのほか、投稿の内容は、第三者からみて、開示を請求している人物だと分からない(同定可能性がない、といいます。)という反論が有効な場合もあります。
名誉毀損に該当する場合は、違法性阻却事由を書く
書き込みが名誉毀損(名誉権侵害)に該当する可能性がある場合、開示を防ぐ対策として、名誉毀損の違法性阻却事由を回答書の「同意しない理由」に書くと有効な場合があります。
書き込みが名誉毀損であっても、書き込みしたことにある一定の理由(事由)があれば、違法性が阻却される(損害賠償責任を負わない)からです。
違法性阻却事由の具体的な一例は、以下のように整理されます。
- 公共の利害に関する書き込みであること
- 公益を図る目的で書き込みしたこと
- 書き込みが真実であるか、そう信じることに対して相当な理由があること
上記があると認められれば、(裁判・裁判外どちらにおいても)発信者情報開示請求が認められる可能性は低くなるでしょう。
意見照会書に対する回答書に不同意の理由を書くときは、これらの事由を明確に書くとともに、理由を裏付ける証拠も添付しておくと、なお説得力が増します。
名誉毀損(名誉権)以外の権利の侵害を理由とする開示請求でも、違法性阻却事由が認められることもありますので、不安な方は弁護士に確認してもらうと良いでしょう。
慎重に書くこと
発信者情報開示請求訴訟という、訴訟手続きによって発信者の個人情報の開示を相手が求めてきた場合も、回答書は送られてきます。
この場合の回答書は訴訟の際に証拠として用いられます。
訴訟で相手が勝訴すると、発信者が開示に不同意であっても、ほぼ確実にプロバイダは発信者の個人情報を開示してしまいます。
回答書に書いた内容で不利益を被らないよう、意見照会書に対する回答書は慎重に書くべきでしょう。
弁護士に事前に相談のうえ、代筆を依頼するなどの対策を施しておきましょう。
発信者情報開示請求の裏で相手が準備していること
そもそも発信者情報開示請求が行われているのには理由があります。
名誉毀損にあたる書き込みがされたとき、それ以上被害が拡大しないようにと考えれば、サイト運営者に対して削除依頼をするか削除の仮処分を裁判所に申し立てればよいだけです。
しかし、あえて発信者情報開示請求を行なっている裏には、相手がこんなことを考えている可能性があります。
名誉毀損罪で刑事告訴する準備をしている
誹謗中傷の書き込みがされたせいで自分の社会的評価が下がった、名誉を毀損されたとして、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)で発信者を告訴し、起訴して刑事的責任を負わせたいと考えている可能性があります。
書き込んだサイトによりますが、刑事告訴のためには発信者を特定しなければなりませんので、発信者情報開示請求をしていることが考えられます。
刑事告訴されたらどうなる?
名誉毀損罪で有罪が確定すれば、3年以下の懲役若しくは禁錮、または50万円以下の罰金刑が課されます。
投稿が悪質な場合、逮捕など、身柄を拘束されてしまう可能性もあります。その後起訴されてしまうと、裁判にも出席しなければなりません。社会人であれば、仕事に重大な影響が出てしまうことは容易に想像がつきます。
検察は99%以上、ほぼ確実に有罪であると思えない事件については起訴しないため、もしも起訴された場合はほぼ確実に有罪になることになります。有罪になれば先ほど書いた通り、3年以下の懲役若しくは禁錮、または50万円以下の罰金刑となります。
初犯であれば執行猶予がつく可能性や、罰金刑がほとんどですが、どちらにせよ前科がつくことになります。社会的な損失は計り知れません。
損害賠償や慰謝料を請求する準備がある
もう一つの理由として考えられるのが、名誉毀損による不法行為を理由とした慰謝料(損害賠償)請求の準備です。
被害者が名誉毀損等によって精神的損害や財産的損害を受けているとき、その損害は加害者に対して賠償を請求することができます。
名誉毀損であれば、刑事責任以外にも、このような民事的に責任を追及することもできます。中には、刑事告訴と損害賠償請求を合わせて考えているケースもあります。
慰謝料の請求は訴訟を起こしてくることもありますし、まずは交渉で請求されることもあります。
どちらにせよ、被害者側に発信者情報を特定されてこのような請求がきた場合には放置することは得策ではありません。何らかの対応をしなければならなくなります。
意見照会書が届いたら弁護士に相談
発信者情報開示請求に係る意見照会書が自宅に届いた時点で、相手は、損害賠償請求やそれに伴う民事訴訟、刑事告訴等の法的手段を視野に入れているはずです。
自分一人では対処できなと感じた場合には、意見照会書が手元に届いた時点でネット誹謗中傷に強い弁護士に相談すると方が良いでしょう。
弁護士に相談することで、まずは投稿した書き込みに問題があるか否か、法律家の視点で判断してくれます。
また、回答書を代筆して貰い、書き込み内容の正当性を主張することで開示を免れたり、相手方がこれ以上の責任追及をストップしてくれることも期待できます。
その他、弁護士に依頼することで、訴訟に発展した時に備えた防御対策や、相手との示談交渉、訴訟対応など全てを一任することができます。
当法律事務所では、全国どこからでも、意見照会書が届いてしまった人の無料相談を受け付けております。民事・刑事で不利な状況に陥らないよう、親身誠実に、全力で守ります。どうぞお気軽にご相談ください。
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