- 「発信者情報開示請求をされるかもしれない…逃げることはできるのだろうか…」
- 「発信者情報開示請求をされて意見照会書が届いた…無視や拒否で逃げることは可能だろうか…」
- 「開示請求が通らない・認められない・できないケースはあるのだろうか…」
このようにお考えではないでしょうか。
結論から言いますと、問題となる投稿を削除したり意見照会書を無視したとしても、最終的には発信者情報開示請求訴訟を提起されれば開示請求から逃れることはできません。ただし、投稿内容が権利侵害にあたらない場合や、アクセスログの保存期間が経過している場合などは、開示請求が通らない(認められない・できない)ため、発信者情報開示請求から逃れることできます。
この記事では、発信者情報開示問題に強い弁護士が、
- 発信者情報開示請求は逃れることができるのか
- 発信者情報開示請求を逃れることができる(通らない・認められない・できない)ケース
- 発信者情報開示請求を逃れると負う可能性のあるリスク
- 開示請求を逃れるためにすべきこと
についてわかりやすく解説していきます。
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記事の目次
発信者情報開示請求は逃れることができる?
発信者情報開示請求とは
インターネット掲示板やTwitterやInstagramなどのSNS、ファイル共有ソフトなどで名誉棄損・プライバシー権侵害・著作権侵害など自己の権利を侵害されたとする者は、加害者(発信者)に対して損害賠償請求などの民事責任を追求することができます。
また被害者は、発信者の行動が犯罪に当たる場合には、捜査機関に捜査・起訴を求める刑事告訴をすることもできます。
しかし、そのような民事・刑事手続きを取るためには、発信者がどこの誰なのかを特定する必要がありますが、多くのインターネット上の発信は匿名でなされています。刑事事件の場合には、警察や検察には捜査能力がありますので、事件として立件する際には独自に被疑者を捜査することができます。しかし、被害者個人は一般私人ですので、匿名で投稿された場合には、通常犯人がどこの誰かを知る術(すべ)がありません。
そこで一定の要件のもとで掲示板やSNSを運営しているコンテンツプロバイダ(サイト運営者など)や、発信者がSNSなどに侵害情報を記録する通信を媒介したアクセスプロバイダ(通信事業者など)などに対して、発信者の氏名、住所、メールアドレス、IPアドレス、電話番号などの開示を申し立てをすることができるようになっています(プロバイダ責任制限法第5条1項参照)。
このようにプロバイダに対して発信者の個人情報の開示を求めていく手続きを「発信者情報開示請求」といいます。
発信者情報開示請求の流れ
発信者情報開示請求の流れの一例は、以下のようなものです。
- 裁判所にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申し立てをする(プロバイダ責任制限法第8条)
- 上記①にともない、ログの提供命令の申し立てを行い、コンテンツプロバイダが有するアクセスプロバイダの名称の提供を求める(同法第15条1項1号)
- 上記②で得たアクセスプロバイダの情報をもとに、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申し立てを行い、これをコンテンツプロバイダに通知する。コンテンツプロバイダがアクセスプロバイダに対して自身が有する発信者情報を提供する(同法第15条1項2号)
- 発信者情報開示命令の申し立てが認められると、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダからIPアドレス、発信者の氏名、住所、メールアドレス、電話番号などの情報が開示される
改正される前のプロバイダ責任制限法では、裁判外での任意の開示がなされない限り、発信者を特定するためには、「コンテンツプロバイダへの仮処分の申し立て」と「アクセスプロバイダへの訴訟提起」という2回の裁判手続きを経る必要がありました。そのうえで特定した加害者個人に対して更に損害賠償請求訴訟を提起しなければならず、申立人の手続的な負担が非常に大きいものでした。
そこで、プロバイダ責任制限法が改正され、新たな裁判手続(非訟手続き)が創設されたことで、発信者情報の開示請求が1つの手続きの中で行うことができるようになりました。
また、①や③の開示命令の申し立てをしている最中に、ログの保存期間が経過して発信者情報のデータが抹消されてしまっては意味がなくなってしまいますので、同申し立てにともなって消去禁止命令の申し立てを行い、コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダに対して発信者情報を消去することを禁止する命令を出してもらうこともできるようになりました(同法第16条1項)。
なお、法律改正後もこれまでとられていた発信者情報開示請求手続きを従来通り利用することもできますし、提供命令をあえて利用しない方法もあるので、複数の手続きの中からもっとも適切なものを選択することが重要でしょう。
投稿を削除すれば逃れることはできる?
発信者情報開示請求がなされた場合には、インターネットサービスプロバイダなどから「発信者情報開示に係る意見照会書」という書面が届くことになります。
このような照会文書が発信者に送られてくる理由は、開示請求を受けたプロバイダがプライバシーや表現の自由、通信の秘密、発信者の権利利益が不当に侵害されることがないように、原則として開示請求に応じるか、応じない場合にはその理由について、発信者の意見を聞かなけらばならないからです(プロバイダ責任制限法第6条1項参照)。
このような照会文書が届くことで、投稿者は初めて発信者情報開示請求がなされていることを知ることになります。
そして発信者情報開示請求がされていることを知ってから、「しまった!」と思って投稿を削除しても意味はありません。
なぜなら投稿自体は申立人によって、サイトの印刷やスクリーンショットなどで保存されている可能性が高く、投稿した際のIPアドレスやタイムスタンプなどの情報については、投稿内容を消しても記録が残ります。
しかし一方で、投稿内容が申立人の権利を侵害するものだと自覚している場合には、そのような投稿をすぐに消すことも有効な対応でしょう。なぜならネット上に投稿が残っていることで、相手の権利は侵害され続けていることになるためです。
無視や拒否で逃れることができる?
それでは、届いた「発信者情報開示に係る意見照会書」を無視したり、開示を拒否すれば責任を逃れられるのでしょうか。開示を拒否する場合には、「開示に同意しない」という箇所にチェックを付けて同書面を送り返すことになります。
そして、通常プロバイダは契約者(発信者)の同意がない限り発信者情報を開示することはありません。
ただしこの場合には、発信者情報開示請求訴訟が提起され裁判所の判断に基づいて開示の可否が決定されることになります。
したがって、照会文書を無視したり、開示拒否をすれば必ず責任を逃れられるというわけではないという点は注意しておく必要があります。
発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたらするべきことは?
発信者情報開示請求は拒否でも大丈夫?拒否するとその後どうなる?
発信者情報開示請求を逃れることができるケース
そもそも投稿内容が権利侵害にあたらない場合
そもそも投稿内容が他人の権利侵害に当たらない場合には、発信者情報開示請求が認められる要件を満たしていないことになります。
発信者情報の開示については、「権利が侵害されたことが明らか」であることを要件として定めています。
発信者情報開示請求は匿名で発信された情報の流通により権利を侵害された者の救済を目的とする制度ですが、発信者のプライバシーの自由や通信の秘密を侵害してはいけませんので、そのバランスが重要となります。
そこで情報の流通による権利侵害の態様としては、以下のようなものが考えられます。
- 名誉棄損
- プライバシー権侵害
- 著作権及び著作隣接権の侵害
- 商標権侵害 など
投稿によって上記のような申立人の具体的な権利が侵害されたことが明らかとは言えない場合には、発信者の情報開示は認められません。
発信者の特定が困難な場合
発信者の特定ができない場合には、責任追及を免れることになります。
例えば既にアクセスログ(IPアドレスや、投稿時にそのIPアドレスが割り当てられていた人の情報など)が消えてしまっている場合です。コンテンツプロバイダ(サイト運営者)やアクセスプロバイダ(So-netやOCNなどのインターネットサービスプロバイダ)はログを保存しておく義務はなく、任意のタイミングで消去することができますが、一般的には3ヵ月~6ヵ月程度はログを保存しています。しかし、プロバイダにIPアドレス等のログの開示請求をしたものの、アクセスログの保存期間を過ぎていたために開示請求ができない事案も多々あります。
また海外のプロキシサーバーを経由しているケースでは、準拠法の関係でプロバイダ責任制限法が海外の企業に適用できるのか、裁判所の管轄権が及ぶのか、さらに開示されるまでの期間も長く、費用も国内での開示請求に比べてかなり高くなるなどさまざまな問題がありハードルが上がってしまいます。
公衆無線LANを利用していたケースでは、発信者情報開示を申し立てても、施設の管理機関や経営会社のIPアドレスしかわからず、発信者の個人情報まで辿り着けません。
同様にネットカフェやインターネット付き集合住宅からの投稿されたケースでは、判明するIPアドレスはネットカフェの経営会社や集合住宅の管理会社や委託業者であるため、発信者の個人情報までは分からないのです。
このような場合は、「発信者情報開示に係る意見照会書」は届きません。
発信者の特定が困難なケースについては、以下の記事で詳細な解説をしていますので、是非参考にしてみてください。
発信者情報開示請求を逃れると負う可能性のあるリスク
民事手続きで損害賠償請求される
発信者情報開示請求から逃れようとすると、民事手続きによって損害賠償請求されます。
上で述べたように、名誉毀損、プライバシー権侵害、著作権侵害が認められると不法行為に基づいて被害者が負った精神的損害を賠償する責任が発生します。
慰謝料の金額には事案に応じて幅がありますが、10万円〜100万円ほどが相場です。権利侵害の程度が大きく、被害者の精神的苦痛が大きいと判断された場合には100万円を超える慰謝料の支払いを命じられる可能性もあります。
弁護士費用(調査費用)を請求される
民事で損害賠償請求された場合には、慰謝料に加えて、弁護士費用も併せて請求されることが一般的です。
発信者の特定のためにかかった弁護士費用(調査費用)として、30万円〜70万円程度が相場でしょう。
一般的な民事訴訟では、慰謝料等、損害賠償金額の10%を侵害行為と因果関係のある損害であると認定する裁判例が多いです。
したがって、上記の弁護士費用(調査費用)に加え、10%の弁護士費用を請求されることもあります。
認められる慰謝料が大きくなるほど損害として計上される弁護士費用も大きくなるのです。
刑事手続きで刑罰が科される
責任追及から逃げようとすると、被害者の被害感情が大きくなる可能性があります。その結果、捜査機関に刑事告訴され刑事罰が科される可能性が出てきます。
具体的に、ネットへの投稿で成立し得る犯罪としては以下のようなものが挙げられます。
名誉棄損罪(刑法第230条1項) | 3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金、拘留、科料 |
著作権侵害(著作権法第119条1項) | 10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科 |
脅迫罪(刑法第222条1項) | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
業務妨害罪(刑法第233条・234条) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
起訴されて有罪判決が確定すると、罰金刑や懲役刑が科され、前科記録が残ることになります。
捜査機関から逮捕・勾留されてしまうと、起訴・不起訴が決定するまで最大23日間にわたって身体拘束を受ける可能性が出てきますので、仮に不起訴処分(刑事裁判にかけられない処分)となった場合でも、仕事や学校、日常生活に支障が生じることは避けられなくなってしまいます。
示談がまとまりづらくなる
発信者情報開示請求から逃れようとすると、そのような不誠実な態度によって、被害者が示談に応じてくれなくなる可能性があります。
投稿内容が被害者の権利を侵害することが明らかな場合には、素直に認めて宥恕を求めていくことの方が得策の場合もあります。
発信者情報開示請求を逃れるためにすべきこと
投稿の早急な削除
投稿内容が権利侵害にあたることが前提となりますが、そのような投稿を相手方が保存するよりも前に削除できた場合には、問題の投稿を特定することができなくなりますので発信者情報開示請求をすることもできなくなります。
インターネット掲示板やSNSなど双方向でやり取りをしている場合には、誹謗中傷する投稿に対して相手から「訴える」「発信者情報開示請求をする」と言われてすぐに慌てて消したことで、相手が投稿を保存できなかったというケースもあります。
また、発信者が投稿を削除したことで満足してそれ以上の責任追及はしないと判断する可能性もあります。
謝罪・示談
もっとも、早急に投稿を削除したからといって相手が投稿を保存できていないのか、投稿の削除のみで満足しているのかという点は、こちらからは分かりません。
前述のとおり、発信者情報開示請求で発信者が特定されると様々なリスクが発生することになります。
そこで、そのようなことにならないように前段階で早期に謝罪した方が得策なケースもあります。謝罪のみでは納得してもらえない場合には示談を申し入れることになります。
相手方のSNSアカウントが分かっている場合であればDMを送ることができますし、ブログが分かっている場合にはメッセージ機能で直接連絡することもできるでしょう。
謝罪や示談を検討するのであれば、弁護士を代理人として示談交渉をすることをおすすめします。
なぜなら、当事者間で交渉すると法外な慰謝料・解決金などを請求されてトラブルに発展する可能性があるからです。また、法律の専門家である弁護士に依頼しておけば過去の事例や解決実績から適切な慰謝料の相場感に基づいて交渉してもらうことが期待できます。相手方も弁護士を相手に不当・法外な請求はしにくいことから、スムーズにトラブルが解決に向かう可能性も高まります。
発信者情報開示請求をされる可能性がある・されてしまった方は弁護士に相談
発信者情報開示請求をされる可能性がある、または、されてしまったという場合には、すぐに弁護士に相談してください。
もし相手方の権利を違法に侵害している自覚のある投稿をしている場合には、発信者情報の開示に応じて積極的に示談交渉をして和解するという方法が得策である可能性があります。
当事務所では、民事訴訟や刑事告訴を回避するための示談交渉を得意としており、実績があります。あなたのケースでベストな対処法について、インターネットトラブルに精通している当事務所の弁護士が依頼者を全力でサポートしますので、刑事事件にしたくない、裁判を起こされたくないという場合には、一度当事務所の弁護士にご相談ください。お力になれると思います。
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