偽計業務妨害罪とは、偽計を用いて人の業務を妨害した場合に成立する罪です。刑法233条に規定されています。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
2022年1月に行われた大学共通テストで、受験生が試験中に試験問題を撮影した画像を外部に流出させ第三者から回答を得ていたカンニング事件で、受験生は偽計業務妨害の非行内容で家裁送致、受験生の協力者は偽計業務妨害罪で略式起訴されました。
また、2023年に入ってからは、未成年の高校生が大手回転ずしチェーン店「スシロー」で湯飲みや醤油さしの注ぎ口を舐めるなどした事件で、警察が偽計業務妨害の容疑で捜査をしていました(最終的には器物損壊容疑で書類送検)。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 偽計業務妨害とは
- 偽計業務妨害罪の構成要件・時効
- 偽計業務妨害の判例・事例
- 逮捕されそう・された時の対処法
についてわかりやすく解説していきます。
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目次
偽計業務妨害罪とは
まずは、偽計業務妨害罪とはどんな罪なのか解説します。
偽計業務妨害罪の定義
偽計業務妨害罪(ぎけいぎょうむぼうがいざい)とは、偽計を用いて人の業務を妨害した場合に成立する罪で、刑法233条に規定されています。以下が条文です。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法233条には信用毀損罪と偽計業務妨害罪が規定されおり、条文中の「偽計を用いてその業務を妨害した」の箇所が偽計業務妨害罪についての規定です。
なお、次条の刑法224条には威力業務妨害罪が規定されており、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪をあわせて業務妨害罪と呼ばれることがあります。
偽計業務妨害罪の構成要件
偽計業務妨害罪が成立するための要件(構成要件)は次のとおりです。
- ①偽計を用いて
- ②人の業務を
- ③妨害したこと
- ④故意があったこと
①偽計を用いてとは
偽計を用いてとは、人を欺罔・誘惑し、又は人の錯誤・不知を利用する違法な手段一般をいいます。つまり、人を騙したり、誘惑したり、又は人が勘違いしていること、知らないことに乗じた行為が偽計です。直接人に向けられたもののみならず、人が業務に用いる機会や商品に向けられた偽計も処罰対象です。
②人の業務とは
人の業務とは、人が社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務をいいます。ここでいう人には、通常の人(自然人)のほか法人、法人格でない団体も含まれます。営利か非営利かは問わず、NPO法人、ボランティア団体、地域の自治会が行う活動も人の業務に含まれます。
③妨害したとは
妨害したとは、実際に人の業務の執行を妨害した場合に限らず、ひろく業務の遂行を阻害するおそれのある一切の行為を含むと解されています。判例(大審院昭和11年5月7日)は、業務妨害の結果を発生するおそれのある行為をすれば足り、現実にその結果を発生させることまでは要しないとしています。
つまり、たとえば、数分間にわたり、連続して110番通報したとして、たとえそれによって警察の業務が妨害されなかったとしても、そのおそれがあったとして偽計業務妨害罪で検挙されてしまう可能性があります。
④故意とは
偽計業務妨害罪が成立するためには、主観的要件として犯罪の故意が必要となります。
具体的に、行為者には「偽計を用いること」と「その業務を妨害」することについての故意があることが必要です。
故意とは、犯罪事実の認識・認容をいいます。
犯罪となる事実を認識したうえで、犯罪結果が発生してもやむを得ない・仕方がないと認容している心理状態のことです。
このような認容がない場合には、過失犯となります。偽計業務妨害罪については過失犯を処罰する規定がありませんので、犯罪事実の認識・認容がない場合には故意を欠くため不可罰となります。
偽計業務妨害罪の罰則
偽計業務妨害罪の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
初犯で被害者と示談が成立しているようなケースでは略式起訴されて罰金刑となる可能性も十分あります。他方で、犯行の動機、手段、態様が悪質であったり被害の程度が大きい場合には、執行猶予がつかない実刑判決が下る可能性もあります。
偽計用務妨害と威力業務妨害の違い
「偽計」業務妨害と「威力」業務妨害罪は、業務妨害をする手段が異なります。
偽計業務妨害罪は、「偽計」を用いて業務を妨害する犯罪であるのに対して、威力業務妨害は「威力」を用いて業務を妨害する犯罪です。
「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力のことを指し、暴行・脅迫のみならず従業員を怒鳴りつけたり、多人数で押しかけたり、バリケードを張ったりする行為も威力に含まれます。
いずれの罪も他人の業務を妨害する行為であるという点は共通していますが、被害者が分からない形で(うそや不知を利用して)業務を妨害するのが偽計業務妨害、被害者に分かる形で(暴力・威圧を利用して)業務を妨害するのが威力業務妨害であると区別して理解しておくことができるでしょう。
偽計業務妨害罪の事例・判例
どんなケースで偽計業務妨害罪に問われる可能性があるのかイメージしていただくべく、ここでは実際に過去にあった事例、判例をご紹介します。
いたずら電話・嘘の申告、不正入試
直接人を騙したり、誘惑したり、人の勘違いや知らないことを利用した例がこちらです。
- 飲食店で宴会を開くつもりも予定もないにもかかわらず、飲食店の電話番号に電話をかけ、宴会の予約を入れた事例
- ピザと寿司の宅配店に対し、有名ラーメン店の住所を指定して商品を出前して欲しい旨のいたずらの注文電話をかけ、その店員をして無益の配達に行かせて店の業務を妨害した事例
- 飲食店2店舗に対して「今から食べに行きます」と電話でいたずらの注文をして来店をせずに、飲食店従業員に無駄な製造作業を行わせて業務を妨害した事例
- 警察官が警察車両を運転中、警察車両をガードレールに接触させる自損事故を起こしたにもかかわらず、当て逃げされたと警察に嘘の申告をした事例
- 駅弁販売業者と紛争中の者が、その業者の駅弁が不潔・不衛生である旨の虚偽の内容を記載したはがきを鉄道局旅客課長宛てに郵送した事例
- ユーチューバーが投稿動画のネタとするために、警察官の目の前で覚醒剤に見せかけた白い粉の入った袋をわざと落とし、警察官に追跡させてその業務を妨害した事例
- 中華そば店の営業を妨害する意図で、約970回にわたり、昼夜を問わず繰り返し同店へ電話をかけ、その都度、相手方が顧客等からの用件による電話かもしれないと思って電話口に出ると、無言のまま相対し、あるいは自己の受話器を放置して、その間一時的ではあっても相手方の電話の発着信を不能にさせ、同店に対する顧客からの注文を妨げた事例(東京高裁昭和48年8月7日)
- 火災又は災害による事故等の事実がないのに、自己のスマホを使って119番に電話をかけ、電話に対応した消防指令室の職員らをして、不必要な消防隊員及び救急隊員を現場に出動させ、消防職員の正常な業務の遂行を困難ならしめた事例
- 大学共通テストで、未成年の受験生がスマホを使って入試問題を撮影、インターネット掲示板に投稿し、同掲示板を見た一般ユーザーから回答を募りカンニングをした事例
SNSなどのネットへのデマの投稿
近年は電話や手紙ではなく、SNSなどのネットでの犯行も増えてきています。ネットへの投稿も処罰の対象になりますので注意が必要です。
- SNSに「今から1週間以内に○○鉄道○○駅において無差別殺人を実行する」と書き込み、虚偽の殺人事件の実行を予告し、これを閲覧した者から通報を受けた○○警察署の警察官らを、〇〇駅及びその周辺の警戒、警備にあたらせ、警察官の業務の遂行を困難ならしめた事例
- 地震直後に「動物園からライオンが脱走した」とデマの情報をTwitterに投稿し、動物園職員を問い合わせ電話に対応させるなどして業務を妨害した事例
機械や商品に対する偽計
直接人ではなく、人が業務に用いる機械や商品に向けられた行為も処罰の対象です。
- 外面からうかがえない程度に漁場の海底に障害物を沈めておき、漁業者の漁網を破損させて漁獲不可能にした事例
- 新聞社の経営者が、他紙の購読者を奪うため、自己が経営する新聞紙を他紙と紛らわしく改名し、その題字及び題字欄の体裁模様を他紙に酷似させて発行を続けた事例
- デパートに販売のために陳列されている寝具に縫い針を差し込んで販売業務を妨害した事例
- オンラインゲームのプレイヤーが、ゲームデータを不正に改ざんできるチートツールを乱用してゲームメーカーの業務を妨害した事例
- 深夜、パチンコ店内に立ち入り、パチンコ台から大当たりを発生させるための情報ロムを取り外し、犯人が用意したロムを取り付けて交換し、パチンコ台の正常な機能を失わせてパチンコ店の業務を妨害した事例
- NHK厚生文化事業団がWEBサイトで受け付けている高齢者や障害者支援の寄付フォームで、架空のクレジットカード番号で3万回以上寄付申請をして、大量の申請の確認作業等で事業団の業務を妨害した事例
- キャッシュカードの暗証番号を盗撮するためのビデオカメラを設置したATM機の横のATM機の前に、同カメラが撮影した映像を受信する受信機等が入った紙袋を不審に思われないよう警戒するとともに、同カメラを設置したATM機に客を誘導する意図で、あたかも入出金や振込等を行う一般客であるかのように装い、適当な操作を繰り返しながら、長時間にわたり、受信機等が入った紙袋を置いたATM機を占拠して、他の客がATM機を利用できないようにした判例(最高裁平成19年7月2日)
その他
人や物に対する偽計ではないものの偽計業務妨害罪が成立するとされた例がこちらです。
- しじみ畜養場において、深夜、密漁監視員の目を盗んで、作業員を動員し、漁業権者が畜養し採捕することとしていたしじみを密漁した事例
偽計業務妨害罪の時効
時効は罰則によって異なりますが、刑事訴訟法第250条第2項第6号によると「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪は3年」と規定されているところ、偽計業務妨害罪の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」で、懲役の長期が3年ですから、偽計業務妨害罪の時効は3年となります。
偽計業務妨害罪は親告罪?
親告罪とは検察官が起訴するにあたって被害者の告訴を必要とする罪のことです。反対に、被害者の告訴が不要な罪を非親告罪といいます。
検察官がいったん起訴すると、公開の法廷で審理されることから、被害者のプライバシーや名誉が傷つけられるおそれがあります。そこで、そうした事態を防ぐために、検察官が起訴するかどうかの判断を被害者の意思(告訴)にかからしめて被害者のプライバシーや名誉を守ろうというのが親告罪です。
かつては強制わいせつ罪、強姦罪(現、強制性交等罪)などの性犯罪も親告罪でしたが、現在は非親告罪です。偽計業務妨害罪も被害者が存在する犯罪であり、稀に親告罪ではないかと勘違いされる方がおられますが、偽計業務妨害罪は非親告罪です。
偽計業務妨害罪が非親告罪ということは、検察官は被害者の告訴がなくても偽計業務妨害罪で起訴できるということになります。
偽計業務妨害罪の未遂は処罰されない
偽計業務妨害罪に未遂規定はありませんので処罰されません(刑法第44条)。
もっとも、偽計業務妨害罪は、罪の成立に具体的な危険の発生は要求されていませんので、偽計により人の業務を妨害する一般的・抽象的な危険が発生する行為をした時点で既遂に達します。
偽計業務妨害で逮捕された後の流れ
偽計業務妨害罪の疑いで逮捕されて判決が下るまでの刑事手続きの流れは次の通りです。
- 検察官への送致と勾留請求
- 検察官による起訴(公訴提起)
- 刑事裁判手続き
- 判決
①検察官への送致と勾留請求
偽計業務妨害で警察官に逮捕された場合、「48時間」以内に検察官に送致されます。
検察官送致がされた後、被疑者は弁解の機会が与えられ、これ以上の留置の必要があるか否かが判断されます。
検察官は被疑者の身柄を受け取ってから「24時間」以内、かつ身体拘束時から「72時間」以内に「勾留」請求するか否かを決定します。「勾留」とは、逮捕に引き続き、被疑者のさらなる身体拘束を継続する強制処分です。この「勾留」は検察官の請求に基づき、裁判官が勾留状を発して行います。制限時間を過ぎた場合や、勾留の必要がないと検察官が判断した場合には身体拘束を解かれ在宅で捜査が進められることになります(在宅捜査)。
裁判官により勾留が決定された場合には、原則として「10日間」の身体拘束が継続することになります。さらに捜査のため必要がある場合には「10日間」を上限として勾留が延長される可能性も高いです。
したがって勾留延長された場合には、警察官に逮捕された時点から「最大23日間」の身体拘束を受けることになります。
②検察官による起訴(公訴提起)
被疑者を身体拘束している期間に検察官は偽計業務妨害事件について捜査を実施して、被疑者に対して刑事罰が必要であるかを判断することになります。
検察官が刑罰をもって被疑者を処罰することが適切だと判断した場合には、裁判所に対して裁判請求・刑罰権の発動を求めて起訴(公訴提起)することになります。
検察官により起訴された場合、「被疑者」は「被告人」へと身分が変わります。
また、起訴されるまで勾留されていた被疑者は、原則として被告人として勾留が継続することになります。被告人勾留は最大2か月ですが、延長が必要な場合は手続きを経ることなく1か月ごとにに自動更新されます。
ただし、被告人に逃亡・罪証隠滅のおそれがないなどの条件を満たせば、保釈保証金を納付することで保釈(起訴後の一時的な釈放)されることもあります。
③刑事裁判手続き
起訴により被告人が刑事裁判手続にかけられると、犯罪行為成立の有無、量刑について裁判所が判断することになります。起訴されてから1〜2カ月以内に第1回公判期日が指定されます。
被告人が偽計業務妨害行為について自白している場合には、第1回期日で結審となり通常2〜3週間後に判決言い渡し日が指定されます。これに対して被告人が偽計業務妨害の事実を争い、証人尋問などの必要がある場合には隔月ペースで裁判手続きが進行していくことになります。
④判決
証拠の取り調べや被告人質問などがすべて終わると、検察官は論告・求刑により意見を述べ、被告人も弁論・最終陳述を行います。そのうえで裁判所は弁論を終結して判決を宣告することになります。有罪判決の場合は、実刑判決のほか刑の執行を猶予する執行猶予付きの判決が言い渡される場合もあります。
なお、執行猶予付き判決であっても有罪であることに変わりはありませんので、前科はついてしまいます。前科がつくと一定の職業に就けなかったり資格の取得ができなくなるなど今後の生活に影響を及ぼします。そのため、逮捕された段階で(できれば逮捕前に)被害者と示談を成立させるなど不起訴に向けた活動が重要となります。不起訴になれば刑事裁判にかけられませんので、有罪判決を前提とする前科がつくことはありません。
偽計業務妨害罪の逮捕で困ったら弁護士に相談
軽い気持ちでいたずら電話をかけたり、飲食店で不適切な行為をしただけでも偽計業務妨害罪で逮捕されることもあります。上記の通り、逮捕されれば刑事処分(起訴または不起訴)が決定するまで最大23日間も身柄拘束されますので、お勤め先や通われている学校に隠し通すことも難しくなってきます。マスコミ報道されれば世間に実名が知れ渡ってしまうおそれもあるでしょう。
そのため、偽計業務妨害で逮捕されるおそれのある方は、はやめに弁護士に相談するようにしましょう。弁護士に相談すれば、個別の事情に応じて、今何をすべきか具体的なアドバイスを受けることができます。また、弁護士に刑事弁護を依頼した場合は、弁護士が謝罪や示談交渉を進め、逮捕の回避に向けて刑事弁護を始めてくれます。被害届が提出される前に示談が成立すれば、刑事事件になることを回避できます。被害者が警察に被害届を提出して立件されている場合でも、被害者が被害届を取り下げ、それ以上刑事手続が進まない可能性もあります。
万一逮捕された場合でも、被害者と示談を成立させることができれば早期釈放にもつながりますので、仕事や学校などの日常生活への影響も最小限に抑えられる可能性もあります。逮捕後に勾留された場合も、被害者との示談の成立は被疑者にとって有利な情状となりますので不起訴処分の獲得が期待できます。不起訴になれば前科もつきませんので、お仕事や資格取得、海外渡航などへの影響もありません。
また、無罪を主張する場合には、偽計業務妨害の故意がなかったことや、他に真犯人がいることを弁護士を介して立証していくことになります。
当事務所では、偽計業務妨害の示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、逮捕のおそれのある方、既に逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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