信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法第233条前段)。
このように思われている方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 信用毀損罪の構成要件(成立要件)や罰則、親告罪かどうか
- 信用毀損罪と名誉毀損罪や業務妨害罪との違い
- 信用毀損罪の具体的な事例や判例
などについてわかりやすく解説していきます。
なお、信用毀損罪で訴えられるおそれのある方や逮捕されてしまった方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
信用毀損罪とは
信用毀損罪(しんようきそんざい)とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です。刑法第233条前段に規定されています。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。刑法 | e-Gov法令検索
信用毀損罪の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
構成要件
信用毀損罪の構成要件(成立要件)は次のとおりです。
虚偽の風説を流布した、または偽計を用いたこと
信用毀損罪の処罰対象となる行為の一つ目は、虚偽の風説を流布したことです。
「虚偽の風説」とは、事実とは異なる内容の事柄、すなわち噂のことです。風説は出所、根拠が明らかかどうか、行為者自身がねつ造したものであるかどうかを問いません。
「流布」とは、事実とは異なる内容の事柄を不特定または多数人に伝えることです。必ずしも行為者自身が直接、不特定または多数人に伝える必要はなく、他人を介して順次不特定または多数人に伝わることを認識しながら、特定の少数の者に伝えた場合も流布にあたります。流布の方法には制限はなく、口頭によるほか、SNSに投稿内容をアップする行為も流布にあたる可能性があります。
信用毀損罪の処罰対象となる行為の二つ目は、偽計を用いたことです。
「偽計を用いる」とは、人を騙したり、誘惑したり、あるいは人の勘違いや無知を利用する違法な行為一般をいいます。
人の信用
信用毀損罪で守られるのは「人の信用」です。
「信用」には、人の経済的側面における価値、すなわち支払の意思・能力に対する社会的信頼のほか、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれると解されています(最高裁判所平成15年3月11日)。
信用毀損罪における「人」とは行為者以外の者をいい、自然人である個人のほか、法人、法人格を有しない団体も含まれます。
毀損した
最後に、人の信用を「毀損した」ことが必要です。
「毀損した」とは、人の信用を低下するおそれのある状態をつくることをいい、現実に人の信用を低下させたことまでは必要ではないと解されています(大審院大正2年1月27日)。
信用毀損罪は親告罪?
親告罪とは検察官が事件を起訴するにあたって被害者らの告訴を必要とする犯罪ですが、信用毀損罪は親告罪ではありません。すなわち、検察官は被害者らの告訴がなくても信用毀損罪の事件を起訴することができます。
もっとも、捜査機関(警察、検察)は、被害者からの被害申告がなければ捜査に着手することはありませんから、少なくとも被害者から被害届の提出は受けるはずです。また、被害者がより強い処罰の意思を示すという意味であえて告訴状を提出することもあります。
なお、刑法に規定されている親告罪は器物損壊罪、過失傷害罪、名誉棄損罪などがあります。
時効は?
信用毀損罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法第250条2項6号)。そのため、信用毀損行為が終了してから3年が経過すれば罪に問われることはなくなります。
信用毀損罪の事例
たとえば、ネットの掲示板やSNS、ブログなどに以下にあげるような投稿をすると、信用毀損罪にあたりうる行為となります。
- 「○○店でバイトしていたことがあるけど、客の食べ残しをそのまま使っている」
- 「○○店で売られている○○は日本産ではなくすべて外国産だ」
- 「○○店の店員はろくに手も洗わず、マスクもせずに商品を扱っている」
- 「○○社は倒産寸前なので、取引先として選ばない方がいい」
- 異物を混入した商品の写真画像をアップする
- 「粗悪品」と書いた写真画像をアップする
信用毀損罪の判例
先ほど、信用毀損罪の「信用」の意味につきお伝えしましたが、過去の判例では、「信用とは人の支払の意思・能力に対する社会的信頼」という意味に限定して解釈されていました。
しかし前述のとおり、最高裁平成15年3月11日では、信用毀損罪の「信用」とは、人の支払の意思・能力に対する社会的信頼のほか、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれると解し、従来の「信用」の解釈を変更しています。
【判例の事案】
被告人は、コンビニエンスストアで買った紙パック入りオレンジジュースに家庭用洗剤を混入し、警察に対して上記コンビニで買った紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していたと虚偽の申告をし、警察からその発表を受けた報道機関をして、上記コンビニで異物が混入された紙パック入りオレンジジュースが陳列、販売されていたと報道させ、上記コンビニの信用を毀損したとして信用毀損罪に問われた事案。
信用毀損罪と業務妨害罪・名誉棄損罪との違い
信用毀損罪に似た犯罪として業務妨害罪と名誉棄損罪があります。以下、それぞれの違いについて解説します。
業務妨害罪との違い
業務妨害罪は「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」に分かれます。
偽計業務妨害罪は信用毀損罪と同じ刑法233条の後段に規定されています。一方、威力業務妨害罪は刑法234条に規定されています。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(威力業務妨害)
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。刑法 | e-Gov法令検索
偽計業務妨害罪の手段は、信用毀損罪と同じく「虚偽の風説を流布したこと」、「偽計を用いたこと」です。一方、威力業務妨害罪の手段は、「威力を用いること」です。威力を用いるとは、犯人の威勢・人数・四囲の状勢などからみて、人の自由意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいいます。
その他の違いは、信用毀損罪は「人の信用」を保護する罪であるのに対して、業務妨害罪は「人の業務」を保護する罪という点です。人の信用を害し、かつ、人の業務を妨害した場合は信用毀損罪と業務妨害罪が同時に成立します。なお、業務妨害罪の「業務」とは、飲食店や鉄道などの営業、公務員の職務(権力的職務を除く)などのように、人が社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務をいい、経済的な業務かどうか、報酬を受けているかどうかは問わないとされています。
罰則は偽計業務妨害罪も威力業務妨害罪も信用毀損罪と同じく「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
偽計業務妨害罪とは?構成要件・時効・判例と逮捕への対処法を解説
名誉棄損罪との違い
名誉棄損罪は刑法第230条に規定されています。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。(省略)
刑法 | e-Gov法令検索
信用毀損罪とは構成要件がまったく異なります。
名誉棄損罪は「公然と事実を摘示」し、「人の名誉」を毀損することが必要です。
「公然と」とは、不特定又は多数人が認識し得る状態で、という意味です。実際に認識されたことまでは必要ではないとされています。一方で、信用毀損罪では、公然性は要件とされていません。
摘示の対象は単なる意見や感想ではなく具体的「事実」です。ただ、「事実」は虚偽のみならず真実も含みます。真実を摘示しても名誉棄損罪に問われることがあります。一方で、信用毀損罪では、流布する噂は虚偽であることが要件とされています。
公然と事実を摘示した結果、「人の名誉」を毀損することが要件です。人の名誉とは、人の価値に対する社会一般の評価(外部的名誉)をいいます。人は自然人に限らず、法人、法人格を有しない団体も含みます。一方で、信用毀損罪は、人の信用を毀損することが要件です。
その他の違いは、名誉棄損罪は禁錮刑が設けられているのに対して、信用毀損罪は禁錮刑が設けられていない点です。
信用毀損罪の被害者がとると予想される対応は?
信用毀損罪にあたる行為をした場合は、被害者に次の対応をとられることが想定されます。
被害届を出す・刑事告訴する
まず、被害者が警察に対して被害届を出す、あるいは告訴状を提出することです。
前述のとおり、信用毀損罪は親告罪ではないため、通常は被害届を出すことが多いと思いますが、被害者の処罰感情が強く、加害者に対するより厳しい処罰を求めている場合は告訴状を提出することも考えられます。
警察が被害届や告訴状を受理し捜査を始めると、信用毀損行為の証拠を固めるために自宅等のガサを受けたり、場合によっては逮捕されることもあります。逮捕された後は長期間身柄を拘束され、精神的に苦しい思いをしなければならない上に日常生活にも影響が出る可能性があります。
逮捕の有無にかかわりなく、捜査機関(警察・検察)の取調べを受け、ゆくゆくは不起訴、起訴の刑事処分を受けます。仮に起訴された場合は起訴の種類によっては刑事裁判を受け、有罪の場合は懲役か罰金かの刑罰を受けます。
損害賠償・慰謝料を求めて訴える
また、損害や精神的苦痛を被ったとして被害者から損害賠償や慰謝料を請求されることも想定されます。
被害者が著名人や法人の場合は被害額が多額にのぼり、高額な賠償金の支払いを求められることがあります。
なお、被害者がSNSなどで匿名で誹謗中傷を受け、加害者が誰であるか特定できていない場合は、加害者に対して損害賠償請求するにあたり発信者情報開示請求を行うことが考えられます。発信者情報開示請求とは、掲示板やSNSなどの管理者に対してIPアドレスを開示するよう求め、開示されたIPアドレスをもとに、通信会社(インターネットサービスプロバイダ)等に対して加害者の氏名、住所等の個人情報を開示するよう求めてくることも考えられます。
改正プロバイダ責任制限法が2022年10月1日より施行されたことにより、以前に比べて個人情報を特定するための手続きが簡単になりました。そのため、匿名で投稿したとしても身元を割り出されて高額な賠償義務を負うことにもなりかねませんので控えるべきです。
信用毀損にあたる行為をしたら弁護士に相談
もし、信用毀損にあたる行為をしてしまったと思ったら、はやめに弁護士に相談しましょう。
まず、弁護士に相談してあなたのやったことが果たして信用毀損にあたり得る行為なのかどうか判断してもらう必要がありますが、そのためには弁護士に相談し、あなたが実際にやったことを弁護士に話してみなければ、弁護士はあなたのやったことが信用毀損にあたり得る行為なのかどうか判断しようがありません。もし、信用毀損にはあたらなかったとしても別の罪にあたる可能性もあります。
一方で、仮に信用毀損にあたる可能性がある場合は、前述したように、被害者に被害届や告訴状を提出されたり、損害賠償を請求される可能性がありますから、事態が深刻化する前にはやめに対応を取る必要があります。
具体的には、被害者とコンタクトをとり、誠心誠意謝罪した上で示談交渉を進めることです。示談交渉の結果、被害者が示談に応じる場合は示談金を支払うなどの法的義務が発生する代わりに、被害者に警察に被害届・告訴状を提出しないことに合意してもらえます。その結果、警察に信用毀損の事件が認知されず、逮捕や厳しい取調べ、懲役などの刑罰を受けずに済みます。また、示談すれば民事的にも解決したことになりますから、被害者からあらためて賠償金の支払いを求められることがなくなります。
もっとも、示談交渉は弁護士に依頼しましょう。そもそも弁護士でなければ交渉に応じてくれない可能性が高いです。また、仮に応じてくれたとしても、冷静な話し合いができないまま交渉が決裂してしまう可能性もあります。被害者が弁護士をつけてきた場合は被害者に有利に交渉を進められ、不利な条件で示談してしまう可能性もあります。
信用毀損にあたる行為をしてしまったと感じたら、はやめに弁護士に相談することが大切です。
当事務所では、信用毀損の被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、ネットに個人や法人などの信用を低下させる書き込みをしてしまい、逮捕や賠償請求のおそれのある方や既に逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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