強制執行行為妨害等罪とは、偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した場合、または強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。刑法第96条の3に規定されています。罰則は、3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
強制執行行為妨害等罪は、刑法第5章「公務の執行を妨害する罪」の箇所に規定されています。
同罪は、強制執行の進行を阻害する行為を処罰しようとするもので、執行官や債権者など人に対して向けられた行為を処罰しようとするために平成23年の刑法一部改正によって新設された犯罪です。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、強制執行行為妨害罪の構成要件(成立要件)や時効、関連する犯罪などについて判例を交えてわかりやすく解説していきます。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
目次
強制執行行為妨害罪の構成要件
強制執行行為妨害罪は、
①偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した場合
または、
②強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた場合
に成立します。
以下、場合に分けて解説していきます。
偽計・威力による妨害の場合
「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤や不知を利用することをいいます。
例えば、建物明渡しの強制執行の際に、目的家屋の付近で放し飼いにされている猛犬のために執行できないようにした場合や、債務名義に表示された占有者を次々と入れ替えて占有者の確定を妨害するような場合、建物内に意図的に日本語を話せない外国人を住まわせることで入居者の確認の手続きが進まないようにする場合などは「偽計」による強制執行行為の妨害に該当すると思われます。
「威力」とは、「犯人の威勢、人数、四囲の情勢から客観的に見て被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力」と解されています(最高裁判所昭和28年1月30日判決)。
例えば、建物明渡しの強制執行の際に、発煙筒を焚いたり、大声や怒号を発したりして執行手続きの遂行を妨害した場合には「威力」に該当することになります。
執行妨害行為については、執行官である公務員に対しては公務執行妨害罪(刑法第95条)の適用が、私人である債権者に対しては強要罪(刑法第223条)、信用棄損罪・業務妨害罪(刑法第233条)・威力業務妨害罪(刑法第234条)の適用が考えられます。
しかし、公務員に向けられた妨害行為が暴行・脅迫に至らない「威力・偽計」にとどまるものは公務執行妨害罪や強要罪を適用することはできません。また、強制執行行為は強制力を行使する権力的公務であるため、判例の見解による限り業務妨害罪や信用棄損罪を適用することもできません。
このように本罪は、執行官や債権者などの「人」に向けられた妨害行為のうち、偽計または威力を用いた場合を処罰するために、創設されました。
暴行・脅迫による妨害の場合
強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行・脅迫をした場合も処罰対象です。
この「暴行」とは、申立権者・代理人の身体に対し直接であると間接であるとを問わず、不法な攻撃を加えることと考えられています(最高裁判所昭和37年1月23日判決)。
人に「対する」物理的行使のみならず、人に「向けられた」物理的行使、すなわち間接暴行を含む点で、「暴行罪」の暴行概念よりも広く解釈されています。
例えば、申立権者やその代理人の面前で手近にあったものを床に叩きつけたり踏みつけて壊したりした場合でも、間接暴行に該当する可能性があります。
「脅迫」とは、人を畏怖させる害悪の告知のことをいいますが、脅迫罪のように「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し」という限定がないため、脅迫罪よりも広く脅迫が認められる可能性があります。
強制執行行為妨害罪の時効
強制執行行為妨害等罪の公訴時効は「3年」です。
「時効が完成した事件」について検察官が公訴提起をしても、裁判所は「免訴」判決を言い渡すことになります(刑事訴訟法第337条4号4号参照)。
このような公訴時効は期間については法定刑の上限を基準に決定されています。
「強制執行行為妨害等罪」の法定刑は、「3年以下の懲役」もしくは「250万円以下の罰金」またはこれらの併科です(刑法第96条の3)。そしてこれは「人を死亡させた罪」以外で「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金にあたる罪」であるため、公訴時効は「3年」となります(刑事訴訟法第250条2項3号参照)。
強制執行行為妨害罪に関連した他の犯罪
強制執行妨害目的財産損壊等罪
強制執行を妨害する目的で、以下のような行為をした場合には、「強制執行妨害目的財産損壊等罪」が成立します(刑法第96条の2)。
- 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
- 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
- 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為
「財産の隠匿」行為として典型的なものは、金融機関から預金を引き出す行為です。
引き出した現金を自宅やその他の場所に移動して隠さなくても、散逸が容易な現金という形に変えた時点で「隠匿」にあたると評価されます。
「強制執行妨害目的財産損壊等罪」は、強制執行の適正な執行を担保するための規定であるものの、強制執行は債権の実行のための手段であり、結局、債権者の債権保護を主眼とする規定であると考えられています(最高裁判所昭和35年6月24日判決)。
本罪が成立するためには、現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態のもとにおいて、強制執行を妨害する・免れる目的をもって上記所定の行為をすることが必要となります。
したがって、何らの執行名義も存在せず単に債権者が履行請求の訴訟を提起したに過ぎない場合には、必ず刑事訴訟の審理過程において、債権執行の基本となる債権の存在が確認される必要があります。債権の存在が否定されたときは、保護法益の存在を欠くものとして本罪は成立しません。
強制執行妨害目的財産損壊等罪が成立した場合には、「3年以下の懲役」もしくは「250万円以下の罰金」またはこれらが併科されることになります。
強制執行関係売却妨害罪
「偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした」場合には、「強制執行関係売却妨害罪」が成立します(刑法第96条の4)。
例えば、入札の直後、入札場に近接した裁判所構内で威力を用いて執行官に入札の取り下げを申し出させた場合や、不動産競売における最高価買受申出人に落札後に威力を用いて不動産の取得を断念するように要求した場合には本罪が成立することになります。
「強制執行関係売却妨害罪」が成立した場合には、「3年以下の懲役」もしくは「250万円以下の罰金」またはこれらが併科されます。
まとめ
この記事では、強制執行行為妨害罪について解説してきました。
同罪は究極的には債権者を保護するために規定された犯罪です。
したがって、強制執行行為妨害罪に問われた場合には、強制執行手続きがスムーズに進むように協力したり、被害者である債権者や申立権者との示談を成立させ許しを得ることも重要な弁護活動となり得ます。
強制執行行為妨害罪により逮捕・起訴される不安のある方は、できるだけ早く刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談されることをおすすめします。
当事務所では、刑事事件における被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、強制執行妨害に関する罪で逮捕されるおそれがある方や、既に逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|