公務執行妨害はどこから成立?罪の重さと逮捕後の流れを解説

公務執行妨害とは、職務執行中の公務員に対し暴行又は脅迫を加えることで、公務員の職務を妨害することです。刑法第95条第1項に規定されています。罰則は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金です。

この記事では、公務執行妨害に強い弁護士が、

  • 公務執行妨害はどこから成立する?構成要件は?
  • 公務執行妨害の罪の重さは?
  • 逮捕後の流れは?

といった疑問を解消していきます。

この記事を最後まで読むことで、公務執行妨害罪とはどんな犯罪なのか、逮捕されるとどうなってしまうのか、逮捕された場合の対処法について理解を深めることができます

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公務執行妨害はどこから成立?構成要件を解説

公務執行妨害は次の要件を満たすと成立します。

  • ①公務員に対する暴行又は脅迫であること
  • ②公務員の職務執行中に暴行又は脅迫を加えること
  • ③公務員の職務が適法であること
  • ④暴行又は脅迫を加えたこと

以下でそれぞれの要件につき解説していきます。

①公務員に対する暴行又は脅迫であること

まず、公務員に対して暴行又は脅迫を加えることが必要です。

公務員とは、法令により公務に従事する職員をいいます。法令によりとは、公務に従事する根拠が法令によるものをいい、法令は法律、命令はもとより、条例、訓令あるいは内規などの抽象的な通則であってもよいと解されています。公務とは、国又は公共団体の事務をいいます。職員とは、国又は公共団体の機関として公務に従事する者と解されています。

公務執行妨害における公務員といえば警察官を思い浮かべる方も多いかと思われますが、警察官以外の公務員も同罪の対象です。例えば、検察官や検察事務官、市役所の職員、公立学校の教員、自衛官、消防士、刑務官、日本銀行員などのみなし公務員も公務員にあたります。

②公務員の職務執行中に暴行又は脅迫を加えること

次に、暴行又は脅迫は職務執行中の公務員に行うことが必要です。

相手が公務員であっても、休憩中や休暇中の公務員など、職務外の公務員に暴行又は脅迫を加えることは、暴行罪又は傷害罪、あるいは脅迫罪に問われることはあっても公務執行妨害に問われることはありません

職務は、警察官が行う職務のように強制力を行使する権力的公務に限らず、市役所の職員が行う職務のように強制力を行使しない非権力的公務も含みます。

職務を執行するにあたりとは、公務員の職務執行に際してという意味で、現に職務を執行している場合に限らず、まさにその職務の執行に着手しようとする場合や、それを終えたばかりの段階も含みます。

③公務員の職務が適法であること

次に、刑法第95条第1項には明記されていないものの、公務執行妨害が職務の円滑な遂行を保護する罪であって、職務が違法な場合にまで保護する必要はないことから、職務が適法であることも必要であるとするのが通説・判例(大審院判決昭和7324日など)の考えです

公務執行妨害の有名判例を弁護士が解説

公務員の職務が適法かどうかは、

  • ① 職務行為が、当該公務員の抽象的(一般的)職務権限に属するものであること
  • ② 当該公務員が、その行為をなし得る具体的職務権限を有すること
  • ③ 職務行為が、当該公務員の職務執行の有効要件として定められている重要な手続きの形式を正しく踏んだものであること

が必要です。

たとえば、警察官には税金を徴収する権限はありませんから、警察官が国民から税金を徴収する行為は①より違法です。

また、警察官が緊急逮捕するには、犯人が「死刑又は無期若しくは3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したこと」が必要ですが、この要件を満たさない罪で犯人を緊急逮捕する行為は②より違法となります。

④暴行又は脅迫を加えたこと

次に、職務執行中の警察官に対して暴行又は脅迫を加えることが必要です。

公務執行妨害の暴行は、公務員に対して向けられた有形力の行使ですが、殴る、蹴るなどの公務員の身体に対して直接に加えられる有形力の行使(直接暴行)に限られず、警察官が乗車しているパトカーに向かって石を投げるなど、公務員には向けられているものの直接公務員の身体に対して加えられたものではない有形力の行使(間接暴行)も含まれます。

また、大声で怒鳴る行為も暴行にあたることもありますので、例えば、市役所の職員に対してクレーマーが暴言を吐いて怒鳴り散らすなどした場合も公務執行妨害罪が成立する可能性があります。

また、公務執行妨害の脅迫も、人を畏怖させるに足りる害悪の告知のすべてを含み、害悪の内容・性質、告知の方法を問いません

暴行・脅迫の程度は、公務の執行を妨害する程度で足りるとされていますので、例えば、職務質問をしようとした警察官の制止を振り払うために警察官の身体を軽く押しのけた程度でも公務執行妨害罪が成立する可能性があります。

なお、実際に公務員の職務を妨害したことは公務執行妨害の成立要件ではありません。上の規定上も妨害したことが要件とされていませんし、妨害する前の段階で、公務員が円滑に職務を遂行できなくなることは十分に考えられるからです。

公務執行妨害で逮捕されたら?

公務執行妨害で逮捕されたら、ゆくゆくは起訴され、刑罰を科される可能性もあります。

罪の重さ

公務執行妨害の罰則は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金です。

もっとも、公務員に対し暴行を加えた際、たとえば公務員に怪我を負わせた場合は傷害罪にも問われます。

そして、仮に、公務執行妨害罪と傷害罪の両方が成立する場合は、観念的競合として処理されます。観念的競合とは、1個の行為(公務員に対する暴行)で2つ以上の罪を犯した場合に、重い罪の方で処罰するというものです。

この点、公務執行妨害罪と傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)では、懲役に関しては傷害罪が重たいことがわかります。

したがって、公務執行妨害罪と傷害罪の両方が成立し、かつ、懲役を科される場合は1月以上15年以下の範囲で懲役の長さを決められてしまいます。

逮捕後の流れ・勾留期間

公務執行妨害で逮捕された後は、以下の流れで手続きが進んでいきます。

  1. 警察官の弁解録取を受ける
  2. 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
  3. 検察官の弁解録取を受ける
  4. ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
  5. 裁判官の勾留質問を受ける→勾留請求が却下されたら釈放される
  6. 裁判官が検察官の勾留請求を許可する→原則10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される(つまり、勾留期間は最大20日間)
  7. 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
  8. 正式起訴されると原則2カ月間勾留される→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新→保釈が許可されれば釈放される
  9. 勾留期間中に刑事裁判を受ける

上記の通り、裁判官が検察官の勾留請求を許可してしまうと、原則として勾留期間は10日間、追加捜査が必要などやむを得ない事由がある場合は最大で10日間期間が延長されますので、公務執行妨害の勾留期間は最大で20日間ということになります。

起訴率

2021年の検察統計によりますと、公務執行妨害の被疑者として検挙された「2,363人」のうち、起訴された人は「836人」、不起訴となった人は「893人」とのことです。これからすると、公務執行妨害の起訴率は「35%(=836÷2363)」ということになります。

なお、起訴には、公開の法廷で審理を求める正式起訴と、書面審理のみで審理を終わらせる略式起訴があります。836人中、正式起訴された人は361人、略式起訴された人は475人です。

よくある質問

公務執行妨害は釈放されやすい?

公務執行妨害の嫌疑で逮捕された場合であっても、当日中や3日以内で釈放されることが多いといえます

警察官や役所の職員などの公務員への暴行・暴言については、そのときにおける心理状態によって引き起こされている事案が多いでしょう。

したがって、本人が事実を認めて反省し捜査機関からの呼び出しなどに素直に応じることが分かれば、身体拘束から早期に解放される可能性が高いのです。

ただし、念入りな計画に基づく犯行であったり、実際公務に重大な支障を生じているような悪質性が高いもの(爆破予告や殺傷人予告など)については、逮捕に引き続き勾留請求されてしまう可能性もあります。

公務執行妨害は罰金や執行猶予付き判決でも前科がつく?

公務執行妨害で罰金や執行猶予付き判決が言い渡された場合であっても前科記録は残ります

「前科」とは、刑事裁判で有罪になり刑事罰が確定した経歴のことをさします。

公務執行妨害罪で有罪の刑事罰となるのは以下のようなケースです。

  • 略式裁判によって罰金処分が言い渡されるケース
    →「略式裁判」とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について被疑者に異議のない場合に正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。簡易な手続ですが、罰金刑には変わりないため前科記録が残ることになります。
  • 刑事裁判手続きで有罪判決を言い渡されるケース
    →刑事裁判にかけられ有罪判決を言い渡された場合には、たとえ執行猶予が付されていたとしても、前科記録が残ることになります。

市役所の職員にクレームを入れるだけで公務執行妨害になる?

市役所の職員に対するクレームの内容によっては公務執行妨害罪が成立する可能性があります

市役所職員は地方公務員です。公務員への「脅迫」があった場合にも公務執行妨害罪は成立します。「脅迫」とは人を畏怖させる害悪の告知のことをさし、現実に職務執行妨害の結果が発生する必要がありません。

例えば、「なぜ生活保護が下りないんだ!殺すぞ」「夜道を歩くときは気を付けた方がいいぞ」といった内容の発言については「脅迫」に該当する可能性があります。

暴言を吐いただけで公務執行妨害になる?

暴言の内容によっては、「脅迫」に該当するため、公務執行妨害罪が成立する可能性があります

公務執行妨害罪が成立するためには、「暴行・脅迫」が必要ですので、単に公務員に対して威圧的な態度で対応したり、不快感を与える目的の言葉を口走ったりしただけでは犯罪にはなりません。

脅迫とは、相手方やその親族の、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加えることを告知(害悪の告知)することです(刑法第222条1項参照)。

そのため、「早くしろ!遅いぞ」「お前では話にならないから上司を出せ」などという発言であれば、未だ害悪の告知ということができません。

これに対して、「殺すぞ」「痛い目を見るぞ」など害悪の告知が含まれていると公務執行妨害罪が成立する可能性があります。

公務執行妨害は現行犯以外では逮捕されない?

公務執行妨害罪は現行犯逮捕される事案が多い傾向があります

相手方である公務員が警察官である場合には、構成要件該当性を認めた段階で現行犯逮捕されることになるでしょう。

一方で、市区町村役場の職員など警察官以外の公務員が相手方の場合もあります。

この場合であっても役所内で暴れたり暴言を吐いたりしているところを役所の職員や役所を訪れている市民によって取り押さえられて、現行犯逮捕されるというケースはあります。

また、公務員が警察官ではない場合、現行犯逮捕されずその場から逃走できたとしても、被疑者が特定されれば後日逮捕状を携帯した警察官に通常逮捕されるという可能性も十分にあります

任意同行や職質を拒否すると公務執行妨害になる?

任意同行や職務質問を拒否することが公務執行妨害罪にあたるということではありません

任意同行や職務質問については、あくまで任意処分として対象者の承諾のもとで実施することが原則となっています。

ただし、任意同行や職務質問を拒否する際に警察官の身体を押しのけたり、パトカーを叩く・蹴るなどの行為に出た場合には、公務執行妨害罪として逮捕される可能性があります。

任意同行や職務質問を拒否する場合、警察官の身体には触れず、周囲のものを破壊したり乱暴に扱ったりしないようにしましょう。

公務執行妨害で逮捕された場合の対応方法

最後に、公務執行妨害で逮捕されたときの対応方法について解説します。

弁護士との接見を要請する

まず、警察に逮捕されたら警察官に弁護士との接見を要請しましょう。

すでに弁護士に刑事弁護を依頼している場合はその弁護士の名前を伝えます。依頼していなくても、接見に来て欲しい弁護士がいる場合はその弁護士の名前を伝えてもよいでしょう。ただし、弁護士の都合もありますのですぐに接見に来てくれるわけではありません。特に指定する弁護士がいない場合は、単に弁護士と接見したい旨を伝えればよいです。

逮捕直後は精神的に一番動揺するタイミングです。一方で、捜査は淡々と進められ、捜査機関による厳しい取調べも受けます。そのため、自分の意図しない供述、のちのち不利になるような供述をしてしまいがちです。

そこで、逮捕直後という捜査の中でも大切なタイミングで、弁護士と接見し、取調べなどのアドバイスを受けることはとても大切です

逮捕から約3日間は、基本的には弁護士しか接見することができませんから、弁護士との接見は逮捕された方の大きな精神的支えとなることでしょう

弁護士に刑事弁護を依頼する

次に、弁護士に刑事弁護を依頼することです。

逮捕直後から依頼した場合、まず弁護士が目指すのは早期釈放です。なぜなら、公務執行妨害は比較的早期釈放が実現しやすい罪だからです

なぜ、公務執行妨害が早期釈放を実現しやすい罪かといえば、公務執行妨害では身柄拘束の理由である逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれが認められにくいからです。

前述のとおり、公務執行妨害では仮に起訴されたとしても、(特に初犯の場合は)懲役よりも罰金、不起訴となる可能性の方が大きく、被疑者が刑罰をおそれて逃亡するおそれはないと主張しやすいです。

また、公務執行妨害では、警察官に対して暴行を加えて検挙されるケースが多いですが、被疑者がその警察官を威迫するなどして罪証隠滅を図ることは、身柄拘束中は物理的に不可能ですし、釈放後も通常は考え難いことです。

弁護士は、早期釈放のほか、接見で聴き取った依頼者の主張に沿った弁護活動を展開します

公務執行妨害では、公務員の対応に不満を持つ被疑者が多く、稀に公務員の職務の適法性に疑義が残る事案も散見されます。そのような場合は、あらかじめ必要な証拠を集め、公務員の職務の適法性に疑義が残ることを検察官に主張し、嫌疑不十分よる不起訴処分の獲得に努めていきます。

反省の態度を示す

次に、罪を認める場合は反省の態度を示すことです。

具体的には、取調べでは自分がやったことを素直に供述することはもちろん、反省文を書き、弁護士を通じて検察官や裁判所に提出してもらうことが考えられます。

なお、被害者がいる事件では被害者に謝罪し、示談交渉していくことも考えられます。しかし、公務執行妨害罪の客体は公務員ではあるものの、公務執行妨害が法律で保護しようとしているのは「公務の円滑な執行という国家作用」であって公務員個人ではありませんから、公務執行妨害で公務員個人と示談交渉することはありません。そこで、示談交渉する代わりに、弁護士会などの慈善団体に贖罪寄付することも考えられます。

もちろん、前述のとおり、暴行の結果、公務員個人に怪我を負わせ、公務執行妨害とは別に傷害罪に問われた場合は、その公務員と示談交渉を行っていきます。示談が成立した場合は、不起訴や執行猶予を獲得できる可能性が高くなります。

当事務所では、公務執行妨害での逮捕の回避、不起訴の獲得と得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、逮捕されそうな方、既に逮捕されたご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。

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