被害届は刑事事件の出発点ともなる重要な書類です。
しかし、いざ被害届を出そうとしても
- 「どうやって出せばよいのか」
- 「被害届に何を書けばよいのか」
- 「出した後、どうなるのか」
など、被害届の出し方、書き方、出した後の流れなどに不安・疑問を抱かれる方も多いはずです。
そこで、この記事では
- 被害届の意義(告訴状との違い)
- 警察への被害届の出し方、被害届の書き方
- 被害届を出した後の流れ(被害者向け、被疑者向け)
について弁護士が詳しく解説してまいります。
この記事では被害届に関する必要な情報を得ることができますので是非最後までご一読ください。
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目次
被害届とは
まず、被害届の意義や告訴(状)、告発(状)との違いから解説します。
⑴ 被害届とは
被害届とは、捜査機関に対し被害にあった事実を申告するための書類のことをいいます。たとえば、窃盗罪(刑法235条)にあたる万引きの被害届には、いつ(日時)、どこで(場所)、どんな方法・態様で、どんな被害に遭ったのか(被害品、被害品の時価、被害品の所持者・所有者)、被害を見つけたきっかけ、端緒は何か、などという被害事実が記載されます。
⑵ 被害届と告訴状の違い
告訴状は捜査機関に対して被害事実を申告する書類という点では被害届と同じですが、以下の点で違います。
① 処罰の意思表示の記載が必要か否か
書類上に「犯人に対して処罰を求める」と記載しなければならないのが告訴状、そうした記載をしてもよいが、しなかったからといって問題とならないのが被害届です。
② 申告できる罪が限定されるか否か
罪の中には被害者等の告訴がなければ起訴できない、つまり、被疑者を刑事裁判にかけることができない罪(たとえば、器物損壊罪(刑法261条)、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)など)があります。これを親告罪といいます。親告罪については告訴状を出さなければ起訴してもらえません。他方で、親告罪以外の罪については告訴状か被害届かの決まりはありませんが、通常、被害届を出すことが多いでしょう。
③ 期限の長短
親告罪については、一定の罪を除いて「犯人を知った日から6か月以内」に告訴をしなければなりません。したがって、親告罪の告訴状もその期間内に捜査機関に出す必要があります。他方で、被害届についてはそうした期限はありません。時効(公訴時効)が完成するまでの間は出すことができます。もっとも、被害から時が経過すればするほど有力な証拠がなくなっていくおそれがあります。被害届でできる限り早めに出すに越したことはありません。
主な犯罪の時効(時効の起算点は「犯罪行為が終わったとき」) | |
---|---|
時効期間 | 罪名 |
なし | 殺人罪 |
25年 | 現住建造物等放火罪 |
15年 | 強盗致傷罪 |
10年 | 強制性交等罪(旧強姦罪)、強盗罪、傷害罪 |
7年 | 強制わいせつ罪、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪 |
5年 | 横領罪、児童買春罪 |
3年 | 器物損壊罪、暴行罪、痴漢、盗撮 |
1年 | 軽犯罪 |
警察への被害届の出し方、書き方
次に、警察への被害届の出し方について解説します。
⑴ 警察への被害届の出し方は4パターン
警察への被害届の出し方は犯罪捜査規範の61条に規定されています。
(被害届の受理)
第61条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。犯罪捜査規範 | e-Gov法令検索
要は、
- ①被害者ご自身で被害届を作成した上で警察署に出向いて提出する出し方(61条1項)
被害者が警察署に出向き、警察官の面前で被害事実を申告した上、
- ②被害者自身が被害届に記入する出し方
- ③警察官が被害届に代書する出し方
- ④警察官が被害者の供述調書を作成する出し方 (61条2項)
の4パターンがあるということが分かります。実務では③の出し方が圧倒的に多いかと思います。
警察に出向く際は、身分を証明できる物(運転免許証など)、印鑑、被害事実を証明する証拠をもっていくとよいでしょう。
⑵ 被害届の書き方
被害届の決まった書き方はありません。大切なことは警察に被害事実についてきちんと捜査し犯人を処罰してもらうため、記憶のある限り警察官に被害事実を正確に申告することです。また、警察官に口頭で被害事実を申告する場合も同様のことがいえます。
被害事実を正確に申告するには「5W1H」を意識するとよいでしょう。つまり、
- Who(誰が)?(誰が被疑者か、不明な場合は特徴など)
- When(いつ)?(被害日時、時間帯)
- Where(どこで)?(被害の場所)
- What(何を)?(被害品、被害の内容・程度)
- Why(なぜ)?(被疑者の動機・意図(わかる範囲で)、被疑者と思う理由(判明している場合))
- How(どのように)?(被害状況・犯行態様)
です。たとえば、ストーカー被害の被害届を警察に書く(申告する)場合、「私は、〇〇(被疑者)からストーカー被害を受けています」と書くだけでは不十分です。ストーカーと一言でいっても、つきまとい、メールの送信、無言電話など様々な手口(態様)があります。いつ、どこで、どんな手口(態様、方法)で被害を受けたのか具体的に書く必要があります。
それでも「どんなことを書けばよいのか分からない」という方は、まずネットで公開されている警察の被害届の書式をダウンロードし、それに沿って書いてみるのもよいでしょう。
また、書類作成の専門家である行政書士、あるいは法律の専門家である弁護士に相談する、代わりに被害届を作成してもらうという方法も検討してもよいかもしれません。
被害届の効果~被害者向け
次に、被害届を出したことによってどういう効果が生じるのか、被害者として何をしなければならないのか解説します。
⑴ 警察が被害届を受理する、受理しない?
犯罪捜査規範61条1項によれば、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったとき(略)これを受理しなければならない」とされています。この規定を素直に読めば、警察に被害届を出しさえすれば警察官は被害届を受理してくれそうにも思えます。しかし、現実には警察に被害届を出したからといって、警察官が右から左へと被害届を受理してくれるわけではありません。なぜなら、警察官は事件性・犯罪性があると思料される事実についてのみ捜査対象とするところ、被害届に記載された事実すべてが事件性・犯罪性があると思料される事実とは限らないからです。また、仮に事件性・犯罪性がある思料されても極めて軽微な事案である場合は、あえて受理しないということも考えられます。これには限られた人員を軽微な事案にまで割きたくないという警察の内部事情も影響しているでしょう。さらに、先ほどの犯罪捜査規範61条1項に立ち返ってもう一度規定をよくよく読んでみると、「その届出に係る事件」と規定されていることが分かります。つまり、犯罪捜査規範61条1項は、読みようによっては、「事件性・犯罪性を有した事実を記載した被害届であれば警察官は被害届を受理しなくてはならないが、そうでなければ受理しなくてもよい」とも読めなくもありません。
したがって、警察に被害届を出す際は、以上のことも念頭に、申告する事実が事件性・犯罪性を有するか否か、仮に有するとしても被疑者を国家権力によって処罰する必要があるのかどうかを慎重に検討しなければなりません。被害届を出しても警察官から不備を指摘され、出すことを再度検討するよう求められる場合もあります。なお、警察官から被害届を出すことを促されて出すという場合もあります。その場合は、警察官が事件性・犯罪性があること、処罰の必要性があることを前提に被害届を出すことを促しているわけですから、上記のことを検討する必要はありません。
⑵ 被害届を受理した場合は捜査に着手(捜査を始める)
警察が被害届を受理したということは、警察が被害事実に事件性・犯罪性があると思料し、犯人を処罰する必要があることを認めたということを意味します。したがって、警察は本当に被害事実(犯罪事実)が事件性・犯罪性を有するか否か確定させるための捜査に着手します。
ただ、警察が被害届を受理したからといっていつから捜査に着手しなければならない、という決まりはありません。いつから捜査に着手するかは警察の判断に委ねられています。告訴・告発があった事件についても、犯罪捜査規範67条で「特にすみやかに行うよう努める」とのみ規定されており、やはり捜査の具体的な着手時期は規定されていません。もっとも、被害発生から被害届を提出・受理するまでの間、被害届受理から捜査までの間、が空けば空くほど有力な証拠がなくなっていく可能性が高くなります。そうすると、警察は被疑者・被告人を追及できなくなるばかりか、被害者はもとより社会からの信用を失い、結果として自分の首を自分で絞めるということにも繋がりかねません。そこで、警察は適切な時期を見て捜査を始めるといってもよいでしょう。犯罪捜査規範77条にも「捜査の着手については、犯罪の軽重および情状、犯人の性格、事件の波及性および模倣性、捜査の緩急等諸般の事情を考慮し、捜査の時期または方法を誤らないように注意しなければならない」と規定されています。
警察が捜査に着手すると、取調べは被害者、目撃者、被疑者に関係なく必ず行われるといってよいでしょう。その他、必要に応じて実況見分、ガサ(捜索・差押え)、客観証拠(指掌紋、足跡、防犯ビデオカメラ、ドライブレコーダー映像など)の鑑定、分析、関係書類の照会・収集・分析、書類の作成などが行われます。被疑者に逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれが認められる場合は逮捕に踏み切ります。警察から取調べ、実況見分への立ち会いなどを求められた場合は日程調整の上対応する必要があります。
⑶ 事件は警察→検察→裁判所へ
警察に被害届を出して警察の捜査に協力したからそれで終わり、というわけではありません。警察での捜査が終わると、事件は警察から検察庁へ送致(送検)されます。すると今度は検察庁での検察官による取調べなどに応じなければならない場合もあります。ここで、なぜ警察官の取調べを受けたのに、検察官の取調べも受ける必要があるのか、と疑問に思われる方がいるかもしれません。しかし、そもそも警察官と検察官は別の人です。また、検察官は警察官と異なり、起訴するかしないか、起訴した場合には裁判の当事者として被告人を追及していく権限を有しています。そこで、警察官と検察官とでは取調べで被疑者、参考人(被害者、目撃者など)から聴取していくべきと考える事項、観点がおのずと異なるのです。そこで、警察官の取調べを受けたのに検察官の取調べも受けなければならないということはたびたびあります。
また、検察官が起訴したら刑事裁判が開かれます。そして、被告人が事実を否認している場合、被害者は裁判に出廷して証言しなければならない場合もあります(事案によっては被告人との間に遮蔽措置、あるいは被告人や傍聴人がいる法廷とは別の部屋で証言することができる措置が取られる場合もあります)。裁判所から呼び出し(召喚)を受けた証人(被害者、目撃者など)が正当な理由なく裁判に出頭しない場合は10万円以下の過料、あるいは1年以下の懲役又は30万円以下の罰金を科せられる場合もあります。したがって、裁判での証言は被害者の法律上の義務ということになります。
被害届を出された後の刑事処分までの流れと対処法~被疑者向け
では、ここからは罪の疑いをかけられてしまった被疑者向けに、被害届を出された後の流れや対処法について解説してまいります。
⑴ 被害届を出された後の流れ
被害届を出された場合は、前記のとおり、警察が捜査に着手します。被害者が被害届を出す時点で被疑者が特定している、あるいは特定していなかったが警察の捜査で特定したという場合は、警察に出頭を求められ、出頭した場合は取調べを受ける必要があるでしょう。また、警察が被疑者に逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがあると認めたときは、出頭後に逮捕、何度か出頭を繰り返した後逮捕、あるいはいきなり逮捕される、ということも十分考えられます(現行犯逮捕の場合は逮捕後に被害届が出されます)。
逮捕されると勾留するかどうか判断するための手続に入ります。この逮捕から勾留までの間に釈放されることもあります。勾留された場合ははじめ10日間、その後やむを得ない事由があると認められる場合は最大10日間期間を延長されます。なお、この勾留期間中も釈放されることがあります。そして、基本的にはこの勾留期間中に刑事処分(起訴か不起訴か)が決まります。起訴された場合は刑事裁判を受ける必要があり、勾留されている場合は身柄拘束期間がさらに伸びます。また、当初から逮捕されなかった、逮捕・勾留されたが釈放されたという場合(いわゆる在宅事件の場合)も刑事処分を受けることに変わりはありません。もっとも、在宅事件の場合、身柄事件と異なり時間的な制約がありませんから、いつ刑事処分を出す時期は権限を有する検察官の判断に委ねられます。
⑵ 被害届と対処法
以下では分かりやすいように、被害届を出されそうな場合と出された場合の対処法について分けて解説します。
① 被害届を出されそうな場合の対処法
被疑者が「被害届を出されそうだ」と知るきっかけの多くは、被害者本人(あるいはその関係者)から「警察に被害届を出す」と警告された場合と、被害者の代理人弁護士から同じように警告された場合の2パターンでしょう。そして、両者の場合とも「示談して示談金、慰謝料を払らわなけば・・・」という条件を付けられることが多いかと思います。もっとも、前者の場合、早急に示談することは避けなければなりません。なぜなら、被害者側が被害届に記載する事実、すなわち被害者側がこれから警察に申告しようと考えている事実が事件性・犯罪性を有するもので、被疑者に示談金、慰謝料を支払う義務が生じるのかどうか明らかでない場合が多いからです。したがって、被害者側から仮に上記のようなことを言われても慌てず、まずは早急に弁護士に相談して対応を検討することが先決です。他方で、後者の場合、すなわち被害者の代理人弁護士から「示談しなければ警察に被害届を出す」などと言われた場合は、被害が申告しようとしている事実が事件性・犯罪性を有している可能性が高いです。そこで早急に対応する必要があります。もっとも、この場合でも、相手方から提示された示談の条件が適切かどうかきちんとチェックし、仮に妥当でない場合は交渉が必要となる場合もあるでしょう。したがって、この場合は、相手方から提示された条件が何なのかきちんと把握した上で弁護士に相談する必要があるでしょう。
② 被害届を出された場合の対処法
警察に被害届を出されたとしても、被疑者自身がいつ被害届を出されたのかということを知ることはできません。そのことを被疑者に知らせてくれる人など当然いないからです。被疑者自身が被害届を出されたことを確定的に知ることができるのは、警察の呼び出しを受けてから、あるいは最悪の場合、逮捕されてから、ガサを受けてからということがほとんどです。
しかし、警察から呼び出しを受けた、逮捕を受けたなどという場合も慌てず弁護士に相談しましょう(逮捕の場合は接見を依頼しましょう)。弁護士は事件の内容、認否、希望に合わせて対処法をアドバイスしてくれます。早期釈放、不起訴処分、執行猶予獲得を目指す場合は被害者との示談が有効な手段となります。
まとめ
被害届には事件性・犯罪性を有する事実を記載しなければ、警察は受理してくれません。どのようなことを書けばよいのか、どういう方法で出したらよいのかお困りの場合ははやめに弁護士に相談することをお勧めいたします。また、被害届を出した後はそれで終わりというわけではなく、警察・検察の捜査、裁判に協力しなければならない場合もあることも覚えておくとよいと思います。
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