- 名誉毀損罪とは?成立要件を知りたい…
- 名誉毀損で逮捕されるかも…どうすれば回避できるのだろうか…
- 家族が逮捕された…不起訴や執行猶予を獲得するにはどうすればいいのか…
こういったことでお悩みではありませんか?
そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- ①名誉毀損罪の意味や成立要件
- ②侮辱罪との違い
- ②逮捕の回避、早期釈放、不起訴、執行猶予、減軽の結果を得るための弁護活動
- ③弁護士が介入したことで解決した事例
を中心に、わかりやすく解説していきます。
名誉毀損罪とはどんな犯罪なのかを知ったうえで、逮捕を免れたい、身柄拘束された家族を助けたいという方は最後まで読んでみて下さい。
目次
名誉毀損罪の構成要件(成立要件)
名誉毀損罪は刑法230条に規定されています。
(名誉毀損)
第230条
1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2.死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。刑法第230条 - Wikibooks
以上より、名誉毀損罪の構成要件は、
- 公然性
- 事実の摘示
- 人の名誉の毀損
- 人の名誉を毀損することの認識(名誉毀損罪は故意犯)
の4つということになります。
公然性
「公然と」とは、不特定又は多数の者が認識できる状態で、という意味です。
「公然と」にあたるかどうかの判断にあたっては、他人に伝わる可能性がある「伝搬可能性」があるかどうかが重視されます。
したがって、
などが「公然と」にあたる典型例といえますが、
でも、噂が他人に広まる可能性がある限り「公然と」にあたる可能性があります。
また、近年はインターネットの発達によって、SNSなどで情報を発信する機会が増えましたが、
で人を誹謗中書するような情報を発信した場合でも「公然と」にあたります。
現実に誰かに閲覧されている、見られていることは必要なく、その可能性さえあれば「公然と」にあたります。
アクセス数が少ないこと、アカウント鍵付きであることは公然性を否定する理由にはなりません。
他方で、自宅内や一対一の電話、メールなど、およそ他人の目の届かない場所、空間は「公然と」にはあたりません。
事実の摘示
「事実を摘示し」とは、人の社会的評価を低下させるおそれがある具体的事実を指摘、表示することです。
たとえば、飲食店のグルメサイトの口コミに、
- ○○の店は「国産の野菜を使っている」ことをアピールしているが、実はアレは嘘。ほとんどの野菜は外国産です。値段が安いのはそのためです。
- 〇〇の店は反社会的勢力とつながっている
- 〇〇の店主を最近見かけなかったのは、〇〇が最近まで窃盗で刑務所に入っていたからだ
などと記載することが典型です。
ここで注意しなければならないポイントが三つあります。
一つ目は「具体的事実」を摘示するという点です。
上の例でいうと、「国産ではなく外国産の野菜を使っている」、「反社会的勢力とつながっている」、「店主が刑務所に入っていた」という点が「事実」にあたります。
これに対して、
- 「バカ」、「クズ」、「ゴミ」などの人を誹謗中傷するもの
- 「ハゲ」、「デブ」、「チビ」など人の身体的特徴を指摘するもの
- 「詐欺店」、「悪徳商法」など店の評価について指摘するもの
などは単なる「意見」、「評価」(侮辱=人の社会的評価を低下させるおそれのある抽象的は判断・批判)であって「事実」を摘示したことにはあたらず、名誉毀損罪ではなく侮辱罪(刑法231条)に問われます。
二つ目のポイントは、摘示した「事実」は真実か嘘かを問わないということです。
つまり、
- 嘘とは思いながらあたかも真実であるかのように摘示したところ、内容が嘘だった場合
- 真実と思って摘示したところ、内容が嘘だった場合
はもちろん、
- 摘示した内容が真実だった場合
でも、人の社会的評価を低下させる内容であれば「事実」を摘示したことにあたります。
三つ目のポイントは、実際に人の社会的評価を低下させる必要はなく、そのおそれさえあれば「事実」を摘示したことにあたるという点です。
上の例でいうと、「店主が窃盗で刑務所に服役していたこと」を摘示することは、たとえそれが真実だった場合でも、十二分に人の社会的評価を低下させるおそれのある行為といえます。
人の名誉の毀損
人の名誉とは、人が社会から受ける評価、価値のことです。
被害者自身の評価ではなく、あくまで社会的な評価という意味です。
毀損とは、繰り返しになりますが、人の社会的評価又は価値を低下させるおそれのある状態にしたことをいいます。
人の名誉を毀損することの認識(故意)
名誉毀損罪は犯罪事実の認識がなければ成立しない故意犯です。
名誉毀損罪の故意とは、
この発言、情報を発信すれば人の社会的評価又は価値が低下するかもしれない、低下するだろう
という認識のことです。
もっとも、通常は、上記のような認識を明確にもった上で何らかの発言、情報を発信する人は稀でしょう。
実際には、発現、情報を発信した動機、経緯、被害者との関係性、発現・情報の内容などから、人の社会的評価又は価値を低下させる行為をしたと認められる場合は名誉毀損罪の故意ありと判断されます。
「人の社会的評価を害してやろう」などという積極的な意図までは必要ありません。
また、行為者が摘示した事実を嘘だと認識していた場合はもちろん、真実だと認識していた場合でも名誉毀損の故意ありと判断されます。
名誉毀損罪が成立しない場合の要件
前述した名誉毀損罪の構成要件を満たした場合でも、名誉毀損罪が成立しない場合があります。
まずは、刑法230条の2の規定をご覧ください。
(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2
1.前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2.前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3.前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。刑法第230条の2 - Wikibooks
刑法230条の2第1項は、
- 事実の公共性
- 公益目的
- 真実の証明
という3つの要件を満たせば名誉毀損罪は成立しない(罰しない)としています。
なお、本来であれば犯罪の成立要件を証明する責任(挙証責任)は検察官にあるところ、上記3つを証明する責任は被告人側にあると解されています。
したがって、被告人側が上記3つの要件の証明に失敗した場合は、原則に戻って名誉毀損罪で処罰されるということになります。
事実の公共性
事実の公共性とは、摘示した事実が公的なテーマだったという場合です。
政治家、議員、公務員のほか社会的影響力のある大企業の社長のスキャンダルも「事実の公共性」にあたる可能性があります。
公益目的
公益の目的とは、その事実を摘示した動機が公益を図ることにある場合をいいます。
主たる動機が公益を図ることにあれば公益目的は認められると考えられています。
他方で、主たる動機が個人的な感情で支配されていると認められる場合は、名誉毀損罪が成立します。
社会的影響力の強い芸能人のスキャンダルを摘示する場合は、事実の公共性は認められても公益目的は認められない場合が多いでしょう。
真実の証明
真実の証明とは、摘示した事実が真実なものと判断できる証拠があり、かつ裁判所がその心証を得たときという意味です。
審理の結果、摘示した事実が真実でないことが明らかになったときはもちろん、真否いずれとも確定しなかった場合も、真実の証明がなかったものとして名誉毀損罪が成立します。
もっとも、被告人側が真実であることの証明ができなかった場合でも、被告人が事実を真実であると誤信したことにつき、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは故意がないとして、名誉毀損罪は成立しないとするのが判例(最高裁昭和44年6月25日など)の立場です。
名誉棄損の時効・告訴期間
名誉棄損の時効(公訴時効)期間は、名誉棄損にあたる行為が行われた日から3年です。
たとえば、誹謗中傷など名誉棄損にあたる書き込みをSNSにしたというケースの場合、書き込みをした日から3年を経過すれば時効が完成するということです。
時効が完成すると、検察官はその事件について起訴して犯人を刑事裁判にかけることができなくなります。また、逮捕は犯人を刑事裁判にかけて処罰するためのものでもありますから、時効期間が経過した事件については逮捕される可能性もないといってよいでしょう。
なお、名誉棄損罪は、検察官が起訴するにあたって被害者の告訴がなければ起訴することができない親告罪です。時効期間が経過していなくても、被害者の告訴がなければ起訴されることはありません。
この告訴にも告訴期間が設けられており、告訴期間が経過すると被害者は告訴することができなくなる、すなわち、起訴され刑事裁判にかけられることがなくなります。告訴期間は、被害者が名誉棄損の犯人を知った日から6か月です。
名誉毀損罪と侮辱罪との違い
名誉毀損罪と侮辱罪はまったく別の罪です。
侮辱罪は刑法232条で「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」と規定されています。
どの点が違うのか以下で詳しくみていきましょう。
事実を摘示したかどうか
名誉毀損の構成要件の「事実の摘示」の箇所でも解説したとおり、「事実」を摘示した場合は名誉毀損罪、事実を摘示しない単なる意見、評価、批判の場合は侮辱罪が成立します。
罰則が重たいか軽いか
名誉毀損罪の罰則は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
他方で、侮辱罪の罰則は「拘留又は科料」です。拘留は1日以上30日未満の範囲で刑事施設に収容される刑罰(原則、刑務作業なし)、科料は1,000円以上1万円未満のお金を国に納付しなければならない刑罰です。
名誉毀損罪の方が侮辱罪よりも法定刑が重くなっています。
名誉毀損罪の成立が認められた判例
ここでは、名誉毀損罪に問われた3つの判例を紹介します。
伝播可能性がある場合に公然性を肯定した判例
この事例は、甲が確証もないのに、乙において甲方庭先に放火したものと思い込み、甲方で乙の弟Aおよび火事見舞に来た村会議員Bに対し、また乙方でその妻、長女および近隣住民等に対し、「乙の放火を見た」、「火が燃えていたので乙を捕えることはできなかった」旨述べ、その結果その噂が村中に相当広まったという事例です。
裁判所はこの事例で、事実の摘示は特殊関係で限定された者のみに対してではなく、不特定多数人の視聴に達せしめる得る状態において行われたと認定し、伝播可能性を考慮して公然と名誉棄損が行われたことを認めました(最高裁判所昭和34年5月7日判決)。
不十分な情報に基づいたことは正当理由とはないとされた事例
この事例は被告人が、開設したホームページ上にフランチャイズによる飲食店の加盟店の募集や経営指導などを業とする被害会社がカルト集団であると記載した文書などを不特定多数者に閲覧させたとして名誉棄損罪に問われた事例です。
裁判所は、インターネットの個人利用者による表現行為の場合であっても、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときに限り、名誉棄損罪は成立しないとものであると判示しました。
被告人は、雑誌記事やネット上の書き込み、加盟店の店長であった者から受信したメール等に基づいて誤信したものの、これ資料は一方的立場から作成されたに過ぎないものであるとして名誉棄損罪の成立を認めました(最高裁判所平成22年3月15日決定)。
ヘイトスピーチには相当な理由がないと判断された事例
この事案は、被告人が朝鮮学校の跡地近くで所在してた朝鮮学校を指し、「この朝鮮学校は日本人を拉致している」「元校長は日本人を拉致して国際指名手配されている」などと拡声器を用いて不特定多数者に申し向け、撮影した動画を公表した行為が名誉棄損罪として問われた事例です。
裁判所は被告人の発言が、公共性や公益目的性があることを認めました。
しかし、発言の重要部分である「学校の元校長が日本人を拉致し、国際指名手配されている」という点については真実性の証明も、真実であると信じたことについて相当な理由も認められないとして名誉棄損罪が成立すると認定しました(最高裁判所令和2年12月14日決定)。
風評の内容となっている事実が問題であるとされた事例
この事例は、「人の噂であるから真偽は別として」という表現を用いて、公務員が多額の金銭を送るなどして違反行為をしたと摘示したことが名誉棄損罪に問われた事例です。
この事例で被告人側は、風評の事実があることを述べたに過ぎない等という反論がなされました。
しかし、裁判所は、名誉棄損罪は事実の摘示により人の社会的評価が低下するのであるから、その事実は摘示者が自ら体験したものと他人から伝聞として聞いたものであるとを問わないとしています。
そのうえで「このような風評がある」といった場合でも、それは風評の存在をひとつの事実として述べたに過ぎないのではなく、その風評の内容となる事実が摘示れたものである、と判断しています(最高裁判所昭和43年1月18日決定)。
名誉毀損の弁護活動
罪を認める場合の名誉毀損の主な弁護活動は謝罪と示談交渉です。
前述のとおり、名誉毀損罪は、被害者のプライバシーを保護する観点から被害者の告訴がなければ検察官が起訴できない親告罪です。
したがって、検察官が起訴する前に謝罪・示談し、被害者の告訴が取り消されれば刑事処分は自動的に不起訴となるからです。
また、被害者との示談のタイミングがはやければはやいほど不利益を最小限に抑えることができます。
被害者が捜査機関に告訴状を提出する前に示談できれば刑事事件化を回避でき、捜査機関から出頭要請を受けて取調べを受ける、逮捕されるという可能性がなくなります。
他方で、罪を認めない場合は、被害者・被告人の主張の裏付けとなる証拠を確保するなどして、不起訴、無罪の獲得に努めます。
名誉毀損の弁護士による解決例
最後に、名誉毀損の弁護士による解決例をご紹介します。
捜査機関に告訴状を提出される前に示談し、刑事事件化を回避した例
被疑者は、会社を解雇されたことの腹いせに、自己のTwitterに会社や同僚を誹謗中傷する情報を掲載したという名誉毀損事案。
被疑者は、会社からツイッターの削除と示談金50万円の支払いを求められ、仮に応じない場合は捜査機関に告訴状を提出すると迫られていました。
依頼を受けた弁護士は、被疑者が全面的に罪を認め、謝罪と示談意向があったことから、被疑者にツイッターの削除を求めました。
その後、削除を確認した弁護士は、会社に謝罪と示談交渉をもちかけ交渉を進めたところ、今後、二度とツイッターなどに会社を誹謗中傷するような情報を掲載しないことと引き換えに、示談金なしで示談を成立させることができました。
その結果、会社から捜査機関に告訴状が提出されることはなく、刑事事件化を回避することができました。
警察に告訴されたものの、示談して告訴が取り消されたため不送致となった例
被疑者は、元夫が不倫を繰り返したため離婚に至るまでの経緯や元夫を誹謗中傷するない内容をTwitterやSNS上に実名で掲載したという名誉毀損事案。
被疑者は、元夫の代理人弁護士を通じて「警察に告訴状を提出した」旨の連絡を受け、警察官からは「名誉毀損の件で話が聴きたい」と出頭要請を受けたことから弁護士に相談にみえられました。
被疑者は、当初、罪を認めていませんでした。
しかし、弁護士が元夫に対する慰謝料や財産分与など、離婚後に未解決となっていた問題も一緒に解決していくことを提案すると、徐々に自分の非を認めるようになり、謝罪と示談交渉を進めていくことになりました。
そして、弁護士は、元夫の代理人弁護士と示談交渉し、結局は、元夫が被疑者に対して300万円を支払うという内容で示談することができました。
また、元夫の告訴は取り消され、事件は検察に送致されない不送致で終わりました。
名誉毀損で逮捕・勾留されたものの、示談により早期釈放、不起訴につなげた例
被疑者は、元交際相手を誹謗中傷する内容をLINEやTwitterに投稿したところ、名誉毀損罪で逮捕・勾留されたという事案です。
被疑者は罪を認め反省し、被害者への謝罪と示談意向があったことから、弁護士は捜査機関に被害者の住所、連絡先などの個人情報を教えてもらえないか申し入れ、教えていただくことができました。
その後、弁護士は被害者と連絡を取り示談交渉を進めるとともに、逃亡・罪証隠滅のおそれを疑われないよう対策を取った上で、裁判所に対して勾留取消請求を行いました。
その結果、勾留が取り消されたため被疑者は釈放されました。
また、被害者とも無事に示談でき、被害者が告訴を取り消したことから、刑事処分は被害者の告訴の取消しを理由とする不起訴となりました。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|