境界損壊罪とは、境界標を損壊し、移動し、もしくは除去し、またはその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした場合に刑事責任を問われる罪です。刑法第262条の2に規定されています。罰則は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
境界損壊罪(きょうかいそんかいざい)は、第40章の「毀棄及び隠匿の罪」の1つとして規定されています。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 境界損壊罪の構成要件
- 境界損壊罪の立証責任
- 境界損壊罪の時効
- 境界損壊罪で警察が動くのか
などについてわかりやすく解説していきます。
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境界損壊罪の構成要件
境界損壊罪の構成要件(成立要件)は次のとおりです。
- ①境界標を
- ②損壊し、移動し、もしくは除去し、またはその他の方法により土地の境界を認識できないようにすること
以下、それぞれの要件につき解説します。
①境界標
「境界」とは土地に対する権利の場所的範囲を画する線をいい、「境界標」とは境界を示す標識のことをいいます。柱・杭・柵などの工作物のほか、立木などの自然物も境界標に含まれます。
境界損壊罪の保護法益は所有権ではなく「境界の明確性」ですので、虚偽の境界標、自分が所有する境界標も本罪の保護の対象です。土地にする権利の「権利」とは、所有権・地上権などの物件のみならず賃借権などの債権でもよいとされています。
境界は、必ずしも正しい法律関係によるものである必要はなく、現に事実上存在するもので足りるとされています。したがって、古くから一般に承認されてきた境界、関係者の明示または黙示の合意に基づいて定められた境界は、たとえ法律上あるべき境界と一致しなくても、ここにいう境界にあたります。
②損壊、移動、除去、その他の方法で境界を認識できなくすること
次に、境界標を損壊・移動・除去、あるいはその他の方法で土地の境界を認識することができなくすることが必要です。
土地の境界を認識することができなくなったことを必要とし、境界標の損壊・移動・除去はその方法の例示にすぎないとされています。たとえば、境界にある川の流れを変えるのも、方法の一つです。したがって、境界標を損壊しても、いまだ境界が不明にならない場合は、器物損壊罪が成立する可能性はありますが、境界損壊罪は成立しません(最高裁判所昭和43年6月28日)。
なお、境界標を移動させた上で、他人の土地を占有した場合には、不動産を侵奪する手段として境界損壊罪を犯したと評価できますから、境界損壊罪のほか不動産侵奪罪(刑法第235条の2)が成立し、両罪は牽連犯として処断されます。
境界損壊罪の立証責任
境界損壊罪は故意犯であり、過失犯は処罰されません。例えば、工事業者が隣家との境界付近の工事の際に誤って(過失で)境界標を除去してしまったようなケースでは境界損壊罪は成立しません。
そして、刑事事件における立証責任は原則として検察側にあります。したがって、境界損壊の故意があったことを検察官が立証しない限り罪に問われることはありません。
境界損壊罪の時効
境界損壊罪の公訴時効期間は「5年」です。
各罪の公訴時効の期間は各罪の罰則を基準として決められています。つまり、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪であって、長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪の公訴時効の期間は「5年」です。
この点、境界損壊罪は「人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」にあたります。また、罰則は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから、境界損壊罪は「長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」にあたります。
したがって、境界損壊罪の公訴時効期間は「5年」です。
境界損壊罪で警察は動く?
警察庁公表の「犯罪統計書」によると、令和3年度における境界損壊罪の認知件数は25件、そのうち18件が検挙されていますので、検挙率は72%となります。警察庁公表の「令和3年の犯罪情勢」によると令和3年の刑法犯全体の検挙率が46.6%ですので、検挙件数自体は少ないものの境界損壊罪で警察に検挙される可能性は高いといえます。
令和4年5月には、隣家との境界にある木製の杭を引き抜いたうえ、置いてあったプランターなどを投げ捨てて損壊させ、土地の境界を認識することをできなくした50代会社員女性が境界損壊の容疑で警察に逮捕されています。
なお、境界損壊罪は非親告罪(被害者等の告訴権者の告訴がなくても検察官が起訴できる犯罪のこと)ですが、実務上は、被害者が被害届や告訴状を提出することにより捜査機関が捜査に乗り出すというケースがほとんどです。
そのため、境界損壊にあたる行為をしてしまった方は、警察に被害申告される前に被害者と示談を成立させることで逮捕・検挙を回避できる可能性が高くなります。また、逮捕された後に示談が成立した場合でも、示談が成立した事実は刑事処分を決定するにあたり有利な事情としてはたらきますので、不起訴処分となることも期待できます。不起訴になれば前科がつくこともありません。
もっとも、加害者と直接の示談交渉に応じる被害者はまずいませんので、逮捕や前科を避けたいという場合には、刑事事件の経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。
当事務所では、被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でも守りますので、境界損壊罪にあたる行為をしてしまい逮捕のおそれがある方や、既に逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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