過失傷害罪とは、過失により人を傷害する罪です。刑法第209条1項に規定されています。罰則は30万円以下の罰金または科料です。例えば、歩きスマホで人を転倒させて骨折させた場合や、誰もいないと思って投げた石が人に命中して怪我をさせたような場合が典型例です。なお、過失傷害罪は被害者等の告訴がなければ起訴されない親告罪です。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 過失傷害罪の構成要件(成立要件)
- 過失傷害罪と傷害罪との違い
- 過失傷害で適用される他の罪
などについて、刑事事件に強い弁護士がわかりやすく解説していきます。
事例(判例)も交えてわかりやすく解説しており、また、過失で人を傷害してしまった方がどう対応すべきかについてもわかりますので、最後まで読んでみて下さい。
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目次
過失傷害罪とは
過失傷害罪とは、過失により人を傷害する犯罪で、罰則は30万円以下の罰金または科料です(刑法209条1項)。懲役刑はありません。
以下では、過失傷害罪の構成要件、判例、傷害罪との違いについて解説します。
過失傷害罪の構成要件
まず、過失傷害罪が成立する要件(構成要件)を解説したいと思います。
過失があること
過失とはある注意義務に違反することです。注意義務の内容はケースによって異なります。
たとえば、歩きスマホをしながらお年寄りにぶつかり、お年寄りをその場に転倒させて骨折させた、というケースで考えてみましょう。この場合、前をよく見ながら歩きましょう、ということが注意義務の内容となり、スマホを操作し、前をよく見て歩いていなかったことが注意義務違反、すなわち過失に該当します。
傷害の結果を発生させたこと
次に、過失によって傷害の結果を発生させたことが必要です。傷害の意味について判例は、人の生理的機能に障害を与えること(生理的機能障害説)という立場をとっていることから、頚椎捻挫や打撲傷などの肉体的に生じるいわゆる怪我はもちろん、不眠症や心的外傷後ストレスなどの精神的な苦痛も傷害にあたることがあります。
過失と傷害との間に因果関係があること
最後に、過失行為がなければ傷害が発生しなかった、という過失と傷害との間に因果関係があることが必要です。
過失傷害罪の判例
飼い犬(秋田犬)が人に怪我を負わせた場合に、飼い主が過失傷害罪に問われた判例(名古屋高裁昭和36年7月20日)があります。また令和3年12月には、祖母らと路上を歩いていた3歳の女児が、大型犬にかまれて怪我をしたことがニュースとなりました。万が一死亡させてしまった場合は後述する過失致死罪、不注意の程度が著しい場合は重過失致死罪が成立する可能性もあります。
過失傷害罪と傷害罪の違い
過失傷害罪は「過失(誤って・不注意で)」によって傷害を惹き起こす罪(過失犯)であるのに対し、傷害罪は「故意(わざと)」によって傷害を惹き起こす罪(故意犯)という点が大きな違いです。刑事罰も、過失傷害罪が30万円以下の罰金または科料であるのに対し、傷害罪は15年以下の懲役または50万円以下の罰金とかなり重い罰則となっています。
また、傷害罪は、傷害を発生させる意図までは必要でないものの、傷害罪の構成要件である人に暴行を加える認識がなければ成立しません。一方、過失傷害罪は不注意によって傷害を惹き起こす罪ですから、人に暴行を加える認識がなくても成立します。
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過失傷害で適用される罪
冒頭でお伝えしたように、過失傷害で適用される犯罪は過失傷害罪に限りません。状況に応じて、「過失致死罪」、「業務上過失致死傷罪」、「重過失致死傷罪」、「過失運転致死傷罪」、「危険運転致死傷罪」が適用されることがあります。以下でそれぞれ解説していきます。
過失致死罪
過失致死罪は、過失によって人を死亡させた際に成立する罪です。刑法210条に規定されています。罰則は30万円以下の罰金又は科料です。過失傷害罪と異なり、起訴されるにあたって被害者等の告訴が不要な非親告罪です。
判例(大審院昭和2年10月6日)
乳児に授乳しながら添い寝していた母親が、乳房を引き離さないまま眠り込んだため、熟睡中に乳房で乳児の鼻孔部を圧迫して窒息死させた事案で過失致死罪の成立を認めています。
業務上過失致死傷罪
業務上過失致死傷罪は、業務上必要な注意義務を怠り、よって人を死傷させた場合に成立する罪です。刑法211条1項に規定されています。罰則は5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。
業務とは、人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるものをいい、たとえば、交通機関の運行、医師・看護師の医療行為等がこれにあたります。また、後述する「自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)」が成立するまでは、自動車事故もこの罪で処罰されていました。
判例(最高裁平成22年5月31日)
花火大会の群衆なだれによる死傷事案で、最高裁判所は、「花火大会雑踏警備における警察署地域官かつ現地警備本部指揮官及び警備会社支社長は、雑踏事故を容易に予見でき機動隊の出動を要請して歩道橋内への流入規制をして雑踏事故の発生を未然に防止すべき注意義務があった」として業務上過失致死傷罪の成立を認めています。
重過失致死傷罪
重過失致死傷罪は、重大な過失によって人を死傷させた場合に成立する罪です。刑法211条後段に規定されています。罰則は業務上過失致死傷罪と同様です。
重大な過失(重過失)とは、注意義務違反の程度が著しいこと、すなわち、少しの注意を払えば死傷の結果を回避できたにもかかわらず、その注意すら払わなかったことをいいます。
重過失致死傷罪は自転車事故に適用されるケースが多いです。
判例(横浜地裁川崎支部平成30年8月27日)
商店街の歩行者専用道路を電動自転車で走行中、イヤホンで音楽を聴きつつ、飲み物を持つ右手でハンドルを持ち、左手でスマートフォンを操作しながら走行し、メールのやり取りを終えてスマートフォンをポケットにしまうことに気を取られたことにより前方注視が疎かになったことで、前方の被害者女性(77歳)に自転車を衝突させ、路上に転倒させて死亡させた重過失致死罪に問われた事案で、自転車を運転していた女性に禁錮2年執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。
過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は、自動車を運転中、過失によって人を死傷させた場合に成立する罪です。自動車運転処罰法5条に規定されています。罰則は7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。自動車事故で最も適用されることが多い罪がこの過失運転致死傷罪です。
判例(福岡高裁令和2年2月14日)
ニュースでよく見聞きするアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故です。アクセルとブレーキの踏み間違いによって自動車を病院のラウンジに突入させ、死者3名、負傷者7名の結果を発生させました。
裁判所は、アクセルとブレーキの踏み間違いという、自動車を運転する上で最も基本的操作を怠ったことにより人々の死傷を発生させた被告人の過失は重大であって、発生させた結果も重大であることから、被告人は初犯であったものの執行猶予を付すべき事案ではないとし、被告人に禁錮5年6月の実刑判決が言い渡されました。
危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、危険運転によって人を死傷させた場合に成立する罪です。自動車運転処罰法2条に規定されています。罰則は人を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役です。
危険運転の類型は次の8つです。
- ①アルコール又は薬物の影響による正常な運転が困難な状態での走行する
- ②制御困難な高速度で走行する
- ③未熟な運転技能で走行する
- ④車への割り込み、人又は車への接近
- ⑤妨害目的で走行中の車の前方で停止する
- ⑥高速自動車において⑤と同様の方法により走行中の車を停止又は徐行させる
- ⑦赤色信号を殊更無視する
- ⑧通行禁止道路において、危険な速度で運転する
判例(最高裁判所平成23年10月31日)
2006年(平成18年)8月25日の深夜、福岡市内の道路をアルコールの影響による正常な運転が困難な状態で走行したことにより、自車を前方の車に追突させ、その衝撃により博多湾に転落させ、幼児3名を水死させるなどした事案。
業務上過失致死傷罪(現在の過失運転致死傷罪)か危険運転致死傷罪かのいずれが適用されるかが争われましたが、最高裁判所は危険運転致死傷罪を適用した福岡高裁の判決に対する被告人の上告を棄却し、懲役20年の刑が確定しています。
過失傷害罪で逮捕はされる?起訴率は?
過失で人を傷害してしまった場合、被害届や告訴状が警察に出されて通常逮捕(逮捕状による逮捕。「後日逮捕」とも言います)されるか、その場で警察に通報されて現行犯逮捕されることが考えられます。
もっとも、過失傷害罪の罰則は30万円以下の罰金または科料であるところ、通常逮捕について規定する刑事訴訟法199条では、「30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合または正当な理由なく出頭要請に応じない場合に限って逮捕できる」と制限を設けています。また、現行犯逮捕について規定する刑事訴訟法217条でも、「30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り逮捕できる」と制限を設けています。
つまり、過失傷害罪は上記条件を満たさない限り逮捕されることはありません。
ただし、在宅事件(逮捕されずに日常生活を送りながら捜査や裁判が行われる刑事事件)として捜査が進められ、略式裁判で有罪判決となれば前科がつくことになります。
なお、検察統計調査によると、令和4年度の過失傷害罪の起訴率は、13.4%となっており、不起訴になる割合の方が圧倒的に多いことがわかります。もっとも、被害弁償もせず、被害者と示談を成立させることができない場合には起訴される可能性も十分ありますので、以下で解説するように、過失傷害事件で不起訴処分を獲得するには被害者との示談交渉が重要となります。
過失傷害罪は親告罪
過失傷害罪は親告罪です。親告罪とは、被害者やその法定代理人などの告訴がなければ検察官が起訴できない犯罪のことです。つまり、起訴される前に被害者と示談を成立させ、告訴しないことを確約してもらえれば刑事裁判にかけられることはありません。既に告訴された場合でも、起訴前に示談を成立させ、被害者から告訴を取り下げてもらった場合も同様です。
刑事裁判にかけられないということは罪に問われることがないということですから、過失傷害罪の刑罰である罰金や科料を科せられることもありません。そのため、有罪判決を前提とする前科もつきません。
このように、親告罪はいかに早急に示談を成立させるかが重要なポイントとなります。
過失で傷害を負わせたら弁護士に示談交渉を依頼
過失で人に傷害を負わせたら弁護士に示談交渉を依頼することが得策です。具体的には以下のようなメリットを享受することが可能となります。
被害者との示談が可能となる
まず、被害者との示談が可能となるという点です。不起訴や早期釈放の結果につなげるには被害者と示談交渉し示談を成立させることが有効ですが、加害者との直接の示談交渉には応じない被害者も多いのが現実です。
この点、弁護士であれば示談交渉に応じてもよいという被害者が多く、弁護士に依頼することで示談交渉が可能となります。また、弁護士であれば示談交渉のノウハウを兼ね備えていますから、円滑に示談交渉を進めることができます。
示談を成立させることができれば、被害者に告訴を取り下げていただくことが可能です。そして、前述のとおり、過失傷害罪は非親告罪ですから、告訴が取り下げられれば不起訴や早期釈放といった有利な結果につながります。
早期釈放の可能性が高まる
身柄拘束されている場合も示談を成立させることができれば釈放につながります。その他、弁護士は検察官、裁判官に意見書を提出するなどして被疑者を釈放するよう働きかけを行います。
弊所では、過失傷害の被害者との示談交渉を得意としており実績もあります。親身誠実に、弁護士が依頼者を全力で守ることをモットーとしておりますので、まずはお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決へと近づきます。
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