自己破産すれば、それまで抱えていた借金の支払い義務が基本的にすべて免除されます。
このように自己破産は債務者にとって非常にありがたい制度ではありますが、実際に手続きを行う際には、絶対にしてはいけない行為があります。
破産法は、一定の行為を「破産犯罪」として禁止しているのです。
債務者として悪気なくうっかり行った行為が破産犯罪となった場合、刑罰を受けるなど非常に大きなデメリットを受けることになるので注意が必要です。
今回は、「詐欺破産罪」をテーマに解説させていただきます。
破産手続きに踏み切る際には、事前に絶対にやってはいけない行為を認識しておいてください。
なお、当記事は重要ポイントを赤ペンで強調してあります。強調部分だけに目を通していただければ1~2分で一通り理解可能ですので、ぜひ最後までお読みください。
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破産犯罪とは何か?
自己破産は、借金問題を解決する非常に強力な効果を持った債務整理方法です。
裁判所で免責が認められれば、非免責債権とされる特殊な債権を除くすべての債務の支払い義務が免除されます。
しかし、その反面として自己破産では不正な行為によって債務の免除を受けようとするケースがあるのも事実。
そのような不正行為が行われないよう破産法では、一定の行為について刑罰を定め厳しくこれを取り締まっているのです。
このような破産手続きに関して行われる犯罪のことを総称して「破産犯罪」といいます。
破産犯罪の類型
破産犯罪は、主に破産法265条から275条に規定されており、具体的には以下のような類型に分けることができます。
- ①詐欺破産罪(破産法265条)
- ②特定の債権者に対する担保の供与等の罪(同266条)
- ③破産管財人等の特別背任罪(同267条)
- ④説明及び検査の拒絶等の罪(同268条)
- ⑤重要財産開示拒絶等の罪(同269条)
- ⑥業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の罪(同270条)
- ⑦審尋における説明拒絶等の罪(同271条)
- ⑧破産管財人等に対する職務妨害の罪(同272条)
- ⑨収賄罪(同273条)
- ⑩贈賄罪(同274条)
- ⑪破産者等に対する面会強請等の罪(同275条)
このように自己破産手続きでは、多くの行為が犯罪行為と定められ、懲役刑など厳しい刑罰が科されることになっているのです。
破産犯罪に問われるような事態になってしまっては、もはや借金問題の解決どころではありません。
民事上では、破産の最終目的である免責を受けることができなくなり、借金の支払い義務が存続することになってしまいます。
さらに刑事上の責任として警察に逮捕され、裁判の結果有罪判決を受ければ刑務所に収監される可能性まであるのです。
破産犯罪に該当するような行為は、厳に慎むよう注意してください。
自己破産する際には、どのような行為が破産犯罪に該当することになるのかをしっかりと理解したうえで手続きを行う必要があります。
詐欺破産罪とは何か?
上記のように破産犯罪の類型はたくさん存在しますが、その中でもっとも典型的なものが「詐欺破産罪」と呼ばれるものです。
破産手続き行うにおいて破産者が自分の財産を隠すなどの不正行為をした場合、同罪が成立します。
自己破産すると一定以上高額な財産は処分され、債権者への配当などに充当されることになりますが、自分の財産を守ろうとして隠してしまう事例が後を絶ちません。
隠すことができない場合には、処分されるくらいなら、いっそのこと自分で壊してしまおうとするケースまで存在します。
詐欺破産罪とは、数ある破産犯罪の中でも最もうっかり犯しやすく、最も重い罪が規定されている犯罪です。
破産者による不正な行為が見過ごされてしまった場合には、破産制度に対する信頼性が失われることになり、制度自体の存続すら危ぶまれることにもなりかねません。
そのようなことを避け、破産手続きの公正さを保ち破産者の経済的更生を図るために一定の行為を犯罪として規定し、違反行為を取り締まっているのです。
次項では、具体的にどのような行為が詐欺破産罪に該当するのかについてご紹介します。
詐欺破産罪となる行為とは?
破産法265条1項では、以下のような行為を詐欺破産罪と規定し、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または両方の刑を併科すると定めています。
なお、詐欺破産罪が成立するためには、下記の各行為が「債権者を害する目的」をもってなされることが必要とされています。
①債務者の財産を隠匿し、または損壊する行為(破産法265条1項1号)
債務者(破産申立人)の財産を隠したり壊したりする行為が該当します。
自分の財産を隠しただけでも詐欺破産罪は成立するので注意が必要です。
②債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為(同2号)
破産申立人の財産を親族や友人知人などに譲渡してしまったり、譲渡したように仮装する行為が該当します。
また、実際には債務を負担していないにもかかわらず、債務を負担した(借金した)ように仮装する行為も取り締まりの対象となります。
③債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為(同3号)
財産を壊したり傷をつけ、財産の価値を減少させる行為が該当します。
自分の財産を処分されてしまうなら、いっそのこと自分で壊してしまおうなどという事態を予防する趣旨です。
④債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為(同4号)
破産申立人が所有している財産を不当に安く売却してしまったり、不自然に高金利で借金をしたりする行為が該当します。
詐欺破産罪に問われるのはどの時点での行為なのか?
詐欺破産罪が成立した場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金またはそれらの併科とされるなど、非常に重い刑罰が科せられる可能性があります。
それでは、債務者の詐欺破産罪に該当する行為は、いつの時点で行われたものが取り締まりの対象となるのでしょうか?
この問題について破産法265条1項では、「破産手続き開始の前後を問わず」と規定しています。
つまり、自己破産を申立てた後だけでなく、破産申立前に行われた行為も詐欺破産罪として処罰される可能性があるのです。
しかし、破産申立前の行為がすべて処罰の対象となるわけではありません。
取り締まりの対象となるのは、債務者としてすでに債務の支払いが非常に難しくなっており、自己破産するしかないという状態まで行き詰まっている状態で行われた行為に限定されます。
つまり借金はあるものの、まだ十分返済できる状態であれば詐欺破産罪に該当するような行為をしても刑罰に問われる恐れはない、ということになります。
これに対して、返済しきれないほど借金が膨らんでしまい、もはや自己破産するしかないと思われるような状態で行った行為に関しては処罰の対象となる可能性が高いということです。
しかし現実問題として、実際にどのような状況における財産の処分行為などが詐欺破産罪に該当するかを判断することは、非常に難しいものです。
自分の判断だけで行った処分行為などが、あとから問題となっては大変です。
判断に迷った場合には、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
協力者に犯罪が成立することも!
破産犯罪では、財産の隠匿などをした債務者本人だけでなく、その協力者に対しても犯罪が成立することがあります。
破産犯罪の協力者には、以下のような場合において犯罪が成立することになっています。
- (1)破産法265条1項の場合
- (2)破産法265条2項の場合
それぞれについて解説いたします。
(1)破産法265条1項の場合
破産法では詐欺破産罪を行った本人だけに犯罪が成立するのではなく、「情を知って」その行為に加担した協力者にも犯罪が成立する場合があります。
同法265条1項後段では、債務者の財産を債権者の不利益に処分した場合や債権者に不利益な債務を債務者が負担した場合において、その行為の相手方にも詐欺破産罪が成立する旨規定しているのです。
この場合には、それら行為を行った債務者本人だけでなく、その行為の相手方にも10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(または併科)が科されることになります。
よくある事例で説明すると、債権者を害する意図を知りながら債務者から不当に安い値段で財産の譲渡を受けたり、債務者に対して必要以上の高金利でお金を貸したりした場合には、財産の譲渡を受けた人やお金を貸した人も詐欺破産罪に問われる恐れがあるということです。
(2)破産法265条2項の場合
債務者について破産手続開始決定が出ていること又は保全管理命令が発令されていることを知っていながら、債権者を害する目的で債務者の財産を取得したり第三者に取得させたりした場合、破産法265条2項の規定によって詐欺破産罪が成立します。
ここで注意すべき点は、本条文によって取り締まりの対象となる行為は同条1項の場合と異なり、債権者の不利益となる処分行為などに限定されないということです。
つまり、正当な値段で財産を取得した場合であったとしても、債権者を害する目的を持っていれば詐欺破産罪が成立します。
また、債務者と取引した直接の相手方だけではなく、その取引に仲介者がいた場合には仲介者も本条文の規定によって詐欺破産罪に問われることになります。
ただし債務者が行う場合と異なり、その行為が破産手続開始決定前に行われた場合には本罪は不成立となります。
破産犯罪が発覚した場合のデメリット
破産犯罪が発覚した場合、つぎのようなデメリットを受けることになります。
- (1)自己破産の免責を受けられなくなる
- (2)刑事罰を受ける
- (3)取引の効果が無効となる
非常に大切なことなので、それぞれ確認しておきましょう。
(1)自己破産の免責を受けられなくなる
「免責(めんせき)」とは、破産手続きの最終段階において、裁判所から借金の支払い義務の免除を受けることを言います。
一方、破産法では「免責不許可事由」を定め、債務者に一定の行為がある場合には免責が認められない旨規定しています。
破産法の定める「免責不許可事由」の中には、財産の隠匿や毀損、そして不利な条件での債務の負担などが含まれます。
つまり、財産隠しなどの不正行為は詐欺破産罪に該当するだけでなく免責不許可事由にも該当するのです。
当然それらの不正行為を行った場合には、免責が受けられなくなってしまいます。
自己破産を行う最大の目的は、免責を受け借金すべての返済義務の免除を受けることです。
免責を受けられなくなってしまっては、わざわざ自己破産手続きを行った意味の大半がなくなってしまうことでしょう。
ただし、実際の手続きでは免責不許可事由がある場合でも「裁量免責」によって免責が認められる可能性は残ります。
しかし、債務者の不正行為が悪質と判断されるケースでは免責をもらえない可能性が高くなります。
破産犯罪として逮捕・起訴され有罪判決を受けた場合には、不正行為がかなり悪質なケースであるが明らかであるため、裁量免責を受けられる可能性はかなり低いと考えなければいけません。
(2)刑事罰を受ける
すでにご紹介したように、詐欺破産罪が成立した場合には重い刑罰が科せられます。
軽い気持ちでうっかり行った行為であったとしても、債務者などは詐欺破産罪に問われ、警察に逮捕され裁判を起こされる事態にまで発展する恐れがあるのです。
さらに裁判において罪状が悪質と判断された場合には、実刑を受け刑務所に入ることになる可能性も否定できません。
仮に罰金刑で済んだとしても、罰金の支払い義務は自己破産でも免除の対象とはならないため、全額支払わなければならなくなってしまいます。
自己破産手続きを行っている人にとって、罰金の支払いはけっして楽なものではないはずです。
もし罰金を支払うことができない場合には、労役場に収容され一定期間強制的に労働させられることになります。
(3)取引の効果が無効となる
財産の譲渡や債務の負担など、詐欺破産罪に該当する行為には取引の相手方が存在するケースがあります。
そのような行為が詐欺破産罪とされた場合、その取引の法律上の効果が無効となり、はじめから取引がなかったこととされてしまいます。
破産管財人には法律上「否認権」が認められており、管財人によって否認された債務者の取引行為は無効となるのです。
取引が無効となった場合には、その取引の相手方だけでなく、その後その人と取引した人などにまで迷惑をかける恐れがあります。
まとめ
今回は、自己破産手続きで問題となることのある「詐欺破産罪」など破産犯罪をテーマにご紹介いたしました。
自己破産する際には、自分の財産を守ろうという思いからうっかり行ってしまった行為が詐欺破産罪として犯罪に問われる可能性があります。
詐欺破産罪が成立した場合には、最悪のケースとして刑務所に入ることもありうるので注意が必要です。
自己破産手続きを検討している場合には、今回ご紹介した知識を活用し、詐欺破産罪に該当するような行為を避けるよう気を付けてください。
自己破産する時には、誰でもいろいろな疑問や不安を持つものです。何かお悩みがある場合には、ぜひ当事務所へご相談ください。全国どちらからのご相談・ご依頼でも承っております。
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