自己破産が裁判所で認められた場合、それまで背負っていた借金は基本的にすべて免除されます。これが、自己破産をする最大のメリットです。
自己破産することを裁判所で認めてもらえれば、借金はすべて帳消しになるわけです。
しかし、このメリットを受けるためには、破産することを裁判所に認めてもらわなければなりません。
しかし、いくら破産したいと思っても一定の場合には裁判所によって破産することが認められない場合があります。
法律では、債務者の行為の中にギャンブルや浪費など法律で定める一定の事由があった場合、破産しても「免責」を得られないとされているのです。
これを「免責不許可事由」といいます。
今回は、この「免責不許可事由」について解説したいと思います。
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「免責不許可事由」とは?
破産という制度は、「破産法」という法律によって定められています。そのため、破産に関しての手続きは、この法律の規定によって行われることになります。
そしてこの法律では、債務者に一定の事由がある場合には、裁判所は破産を認めてはいけないと定めているのです。正確に言うと、債務者がこれらの事由に該当する場合には、裁判所は「免責許可」をしてはいけないとされています。
一定の「事由」がある場合に「免責」が「許可されない」ということから、これを「免責不許可事由」といいます。
免責不許可事由の種類について
破産法が定めている「免責不許可事由」には、いくつもの種類があります。自己破産の中で圧倒的多数を占めるのは、非事業者である個人による破産です。
このため、この場合に問題となることの多い、代表的ないくつかの免責不許可事由をピックアップして解説しましょう。
①財産を隠した場合
自己破産する際において、債務者に一定以上の財産がある場合には、基本的にそれら財産は差し押さえなどを受け処分されることになります。
この財産をお金に換え、債権者に分配する必要があるからです。
このような処分を避けるため、自己破産するに際して自分の財産を隠し、裁判所に対して所有財産を過少報告する人がいます。
これは言うまでもなく、完全な違法行為です。このような行為が裁判所や債権者などに発覚した場合、免責は許可されないことになります。
②特定の債権者にだけ返済した場合
ほかにも債権者がいるにもかかわらず、特定の債権者にだけ債務の返済をした場合、この行為は免責不許可事由に該当します。
これは、実務で非常によく見られるパターンです。たとえば、消費者金融やクレジットカード会社などからの借金があるのに、親族や友人・知人などからの借り入れだけ返済しようとするのがこの事例に該当します。
偏波弁済(へんぱべんさい)はダメ!
本人も軽い気持ちで行っているのかもしれませんが、親族や友人など一部の債権者への返済は免責不許可事由となります(このような行為のことを「偏波弁済」といいます)。
本人の気持ちからすれば、身近な人たちに迷惑をかけたくないという思いからの行為なのでしょう。その気持ちは、よくわかります。
しかし、この行為は立派な免責不許可事由なのです。これはなぜかと言えば、法律には「債権者平等の原則」というものがあるからです。
特に破産手続きにおいては、債権者は平等に扱われなければならないのです。
繰り返しになりますが、この「一部の債権者への債務の返済」のために免責不許可事由とされるパターンは非常に多いので、くれぐれも注意してください。
③借金の原因がギャンブルや浪費などの場合
借金を作った原因がパチンコやブランド物の購入など、ギャンブルや浪費による場合、これは免責不許可事由に該当します。
破産を検討している人の中には、このことを知っているためギャンブルや浪費などの事実を隠そうとする方がたまにいます。
しかし、これは業者の借り入れ明細などから必ず発覚します。
④破産申し立ての1年以内に、返せないことを知りながら借金などした場合
破産を申し立てた日からさかのぼって1年以内に、お金を借りても返済できないことを自分自身知りながら「返済できる」などとウソをつくなどして借金した場合、この行為は免責不許可事由に該当します。
このような行為は法律上、ほぼ「詐欺」行為といえます。そのような悪質な行為をする人間には免責を与えない、というのが法の考え方なのです。
⑤ウソの債権者一覧表を裁判所に提出した場合
破産を申し立てる場合、「破産申立書」を裁判所に提出することになります。この際、添付書類として「債権者一覧表」というものを提出する必要があります。
そしてこの債権者一覧表には、個人・法人を問わずすべての債権者を記載しなければなりません。
しかし上記「②」と同様、親族や友人・知人などに迷惑をかけたくないなどの理由から、これら一部の債権者を記載しない人がまれにいます。
このようなことが発覚した場合、免責不許可事由になりますので、このようなことのないように気を付けてください。
⑥前回の破産等から7年以内である場合
自己破産する人の中には、過去においても破産または個人再生をしたことのある方がいます。
この場合、前回の破産または個人再生をした日から7年経過していないケースでは免責が許可されないこととされています。
具体的には、つぎのような場合がこれに該当することになります。
- 前回の免責許可決定が確定した日から7年経過していない場合
- 前回給与所得者等再生した時から7年経過していない場合
- 前回いわゆる「ハードシップ免責」を受けた時から7年経過していない場合
財産がなくても「管財事件」になることもある
破産を申し立てた人にそれほど財産がない場合、その破産処理は基本的に「同時廃止」という方法で行われることになっています。
「同時廃止」で破産が処理される場合、その手続きはかなり簡略化されるため、手間暇が少なく費用も安く済みます。
しかしこの場合でも、破産申立人について免責不許可事由に該当する可能性があると裁判所が判断したときには、「同時廃止」ではなく「管財事件」で手続きが進むことになる可能性があります。
破産処理が「管財事件」となった場合、手続きが複雑化するため免責を受けるまでの時間がかかり、費用も高くなります。
自己破産する以上、できれば「同時破産」で処理してほしいと考える人が多いのは、このためです。免責不許可事由があると、こういった点でも不利益を受けることがあるのです。
「裁量免責」について
以上のように、債務者において免責不許可事由に該当する事実がある場合、破産を申し立てても免責が許可されないというのが法律の規定です。
こんなことを聞くと、上記のどれかに該当する人の中にはガッカリされる方もいるでしょう。しかし、必要以上に落胆する必要はありません。なぜなら、これには例外があるからです。
債務者の行為の中に免責不許可事由に該当する事実があったとしても、裁判所が免責を許可してもよいと判断した場合には、免責許可が出されることがあるのです。これを「裁量免責」といいます。
現実の破産では裁量免責がかなり認められている
自己破産する債務者において、上記のような免責不許可事由がある場合には免責が許可されません。しかし、この扱いには救済策があるのです。それが裁判所による「裁量免責」です。
実際問題として考えた場合、債務者において免責不許可事由に該当する事実が全くないなどということは、ほとんどありません。
多かれ少なかれ、誰でもそれに該当するような事実はあるものです。そのため「裁量免責」を認めないと、自己破産のほとんどが免責不許可となってしまいます。
実際には、この「裁量免責」によって自己破産者する人のほとんどが免責を許可されているのです。
まとめ
今回は、自己破産における「免責不許可事由」について解説しました。
自己破産は手続きしたからといって、必ず借金の免除が認められるものではありません。
免責不許可事由に該当する事実があるような場合には、免責が認められないのです。免責が認められない場合、そもそも自己破産する意味の大半が失われることになります。
苦労して破産の申し立てなどをしたにもかかわらず、最終的に免責が認められなかったとしたら、せっかくの苦労も水の泡です。借金問題も未解決のまま残ることになってしまいます。
しかし、免責不許可事由があるからといって、自己破産が全くできなくなるということではありません。
免責不許可事由に該当する事実があったとしても、何とか免責を認められるように救済措置があるのです。これが「裁量免責」といわれるものです。
免責不許可事由のある破産者であったとしても、その程度が重大でないような場合には、裁判所の裁量によって免責が許可されることになります。
世間には「ギャンブルで作った借金がある場合には自己破産できない」などという情報が出回っていますが、これは正確な情報ではありません。
ギャンブルなどで作った借金であったとしても、自己破産が認められる可能性は十分にあるのです。
ただし、裁量免責が受けられるかどうかを判断するには高度に専門的な知識が必要です。もし不安がある場合には、当法律事務所までお気軽にご相談ください。親身誠実に弁護士が相談対応させていただきます。
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