自己破産した場合、一定以上の高額な財産がある場合には、その財産は処分されることになります。自己破産する人が車を持っている場合、その車が処分の対象とされることがあります。
しかし車は、その人の住んでいる地域やそれぞれの事情などにより、日常生活に不可欠なものである可能性があります。自己破産することで、その大切な車を失ってしまっては、その後の生活に支障がでる恐れがあります。このため、「自己破産すると車を使えなくなってしまうのでは?」という不安を持っている方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、そのような心配は不要です。一定の対策を講じることで、車を失う可能性を抑えることができるのです。
今回は、自己破産しても車を手元に残すための方法などについてご紹介します。
自己破産しても、「どのような場合に車を失わずに済むのか?」、「どうしたら車を手元に残すことができるのか?」などについて分かりやすく解説させていただきます。
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基本、車は処分される
自己破産する際に、一定以上の経済的価値のある車を所有している場合、基本的にはその車は処分されることになります。
しかし、それでは今後の生活に各種の支障がでることも考えられます。場合によっては通勤の足を失ってしまうかもしれませんし、何らかの病気の治療のため通院すべきところ病院へ通うことができなくなってしまうかもしれません。
そのような事態を避けるためには、自動車を手元に残す方法を考える必要があります。
ローンが残っているかどうかの確認が必要
自己破産する際に、普段使用している自動車を手元に残すことができるかどうかを判断するためには、まず車にローンが残っているかどうかを考える必要があります。車にローンが残っているかどうかによって、車を手元に残すためにとるべき方法が異なってくるからです。
車を手元に残せる7つのパターン
自己破産した場合でも、つぎのような各ケースでは車を手元に残せる可能性が高くなります。
車にローンがない場合
車を一括で購入したり、ローンを組んだとしてもすでに支払いが終了している場合、その自動車は本人の所有物です。
はじめにローンを組んで購入した車の場合、支払いが終了した後も、車検証上の「所有者」の欄がローン会社名義となっていることがあります。しかし、ローンが完済されているのであれば、その車は間違いなく自分の物です。
自己破産する場合には、自動車が破産申立人の「財産」と見なされるため、処分の対象となる可能性が出てきます。ただしこの場合でも、つぎのような場合には処分を逃れることができます。
①車の経済的価値が20万円以下である場合
自己破産を処理する裁判所が「20万円基準」を採用している場合、所有している自動車の経済的価値が20万円以下であるときには自動車を手元に残すことができます。この場合の経済的価値とは、自動車販売店などでの査定額とするのが一般的です。
査定額が20万円を超える場合、一般的な裁判所では自己破産は管財事件とされ、車は処分・換価の対象とされることになります。
②初年度登録から一定以上の期間が経過している場合
裁判所の運用によって異なりますが、問題となっている自動車が初年度登録から一定の期間が経過している場合、一律処分不要とされることがあります。
この「一定の期間」は、「5年」「7年」「10年」など裁判所ごとに扱いが異なります。よほどの高級車でもない限り、初年度登録から上記のような期間が経過している自動車の場合には「財産価値無し」として処分されずに済む可能性があるのです。
③車の所有権を家族などに移転し、その後借りて使用する場合
自己破産した場合に車が問題になるのはなぜかと言えば、自己破産者が一定以上高額な車を所有しているからです。つまり、車を手放してしまえば破産手続き上、車が問題となることはありません。
このため破産申し立てまでの間に、自分の所有している車を家族などに買ってもらい、車の所有者を変更するという方法もあります。そしてその後、その車を借りて利用すればよいのです。
財産隠しなどを疑われる恐れも!
ただし、この方法は破産手続きにおいて問題とされる恐れがあるため、慎重に行う必要があります。つまり、破産申し立て直前に車を売却などをした場合、債権者を害する行為とみなされ免責を受けられなくなる恐れがあるのです。
このため、この方法は債務整理の専門家などの指導の下に行う必要があります。
④自由財産の拡張が認められた場合
破産の処理方法が「管財事件」となった場合には、「自由財産の拡張」という制度が認められています。自己破産する人の住んでいる地域や生活の事情などによっては、自動車は日常生活に不可欠な道具である可能性があります。
このため破産が管財事件となった場合には、自動車を自由財産としてみなしてもらえるように裁判所に申し立てることで、自己破産後も車を手元に残せる可能性があります。
破産する人の住んでいる地域や生活状況などにもよりますが、車はその人が日常生活するためになくてはならないものであることもあります。このように車が日常生活を送るうえでどうしても必要なものである場合、裁判所によって車が自由財産とされる可能性が十分あると考えられます。
自動車にローンが残っている場合
自動車にローンがまだ残っている場合、自己破産すると基本的には車を失うことになります。ローンの残っている車は法律上、ローン会社の所有物です。このため、ローン会社によって車が回収されることになるからです。この場合、破産処理とは別の理由で車を失うことになります。
しかし、つぎのような場合には車の回収を回避できる場合があります。
①親族に債務を引き受けてもらう
自己破産するに際して車にローンが残っている場合でも、ローン会社によって車が回収されることを回避できる方法があります。その方法のひとつに、自分の代わりに家族などに自動車ローンの支払い債務を引き受けてもらうという方法があります。これを法律上、「免責的債務引き受け」といいます。
「免責的債務引き受け」とは?
自動車ローンの支払い債務を家族などに引き受けてもらい、自分はその債務を逃れた場合、自動車ローンの支払い債務は破産の対象から外れることになります。このため、このローンの支払いを継続することは法律上、何の問題もないものとなります。
新たにローン会社との契約が必要にはなりますが、債務引き受けが認められた場合、ローンの対象である車は手元に残すことが可能となります。ローン会社からすれば、債務者が本人から家族などに変更されることになったとしても、契約当初の約束どおりローンの返済がなされれば損はありません。そのためローン会社も通常の場合、免責的債務引き受けに関する契約を認めてくれる可能性が高いと考えられます。
②親族に残額を払ってもらう
ローン会社による車の回収を防ぐ方法として、自動車ローンの残額を親族などに支払ってもらうという方法もあります。これを「第三者弁済」といいます。
自己破産する人が支払うわけではないので、この返済は法律上何の問題もありません。
この方法は、自動車ローンの残額がそれほど高額でない場合、特に有効な手段となります。
ただし、この第三者弁済によって車の所有者が自己破産する人自身となった場合、車の査定価値が20万円を超えるときには、基本的に破産による処分の対象とされることになるので注意が必要です。
③保証人に支払ってもらう
自動車ローンを契約する際、本人によってローンの返済がされない場合に備えて保証人が付けられるケースがあります。自己破産する場合、本人はもはやローンの返済をすることはできません。破産する以上、すべての債権者への返済が法律によって禁止されることになるからです。当然、ローン会社など一部の債権者への返済も禁止されます。
ローンの返済がなされない以上、一般的にはローン会社は車の回収を行うことになります。しかし、自動車ローンに保証人がおり、この保証人が本人に代わってローンの返済を続けてくれる場合には、自動車の回収を防ぐことができるのです。
保証人に相談し、今後は保証人としてローンの返済を続けてもらえる場合、車は手元に残せる可能性が高くなります。
自動車ローンの支払いはダメ!
すでにご覧いただいたように、車にローンが残っている状態で自己破産すると、ローン会社によって車を回収されることになります。
このため自己破産する人の中には、破産申し立て後も自動車ローンだけは支払おうとする人がいます。しかし、これは法律上大きな違反行為となります。このような行為を「偏波弁済」といい、場合によっては免責を許可してもらえなくなる恐れまで出てくるのです。
自己破産する場合に車を手元に残すためには、偏波弁済のような違法行為をするのではなく、上記のような法律上正当な方法を利用する必要があるのです。
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車が回収される時期はいつか?
自己破産するに際して車にローンが残っている場合、上記各方法を試みてもローン会社による車の回収を回避できない場合もあります。この場合、車の回収がいつなされるのかが問題となります。
受任通知発送が起算点となる
自己破産を債務整理の専門家に依頼した場合、専門家によってすべての債権者に対して「受任通知」が発送されます。「受任通知」とは、依頼人の債務整理に関し専門家が介入したこととともに、今後どのような形で債務整理を行うことになるかなどの処理方針を相手方に通知する書面です。破産する人がローンの残っている車を持っている場合、この通知はローン会社にも発送されます。ローン会社はこの通知を受け取ることで、もはやローンの返済を受けられないことを知ることになります。そのため、車が回収されるまでのおおよその期間を判断するためには、この受任通知発送日が起算点となります。
受任通知発送後2~3週間が目安
この通知を受け取った場合、ローン会社は車の回収手続きを開始することになります。実際に回収されるまでは車の利用は可能ですが、一般的に見た場合受任通知発送後、2~4週間以内には回収されると考えておいたほうがよいでしょう。早い場合には、1週間以内に回収に動く会社もあるようです。
自己破産後に車が必要な場合の注意点
それでは今度は、自己破産の手続きが終わった後に車が必要となった場合を考えてみましょう。
言うまでもないことですが、自動車とは一般的に言ってある程度以上高額なものとなります。このため、一括での購入よりもローンを組むなどして分割で購入することが一般的です。しかし自己破産した場合には、ローンを組んで自動車を購入することが非常に困難になるのです。
自己破産すると「ブラックリスト」に載る!
自己破産した場合、その旨が数度「官報」という政府の広報誌のようなものに載ることになります。このため、個人の金融機関の利用履歴などを登録している「個人信用情報機関」において、その人のデータに事故情報が記録されてしまうのです。これが、いわゆる「ブラックリスト」に載っている状態です。
この場合、金融会社などにローンの申し込みをしても、まず間違いなく審査に落とされてしまいます。つまり、ブラックリストに載った状態のままでは、ローンで車を購入することが事実上不可能なのです。ブラックリストから名前が削除されるには、5年~10年かかります。そのため、最低でもこの期間が経過するまではローンを組むことはあきらめたほうがよいでしょう。
自己破産後に車を購入する3つの方法
以上のように、自己破産後一定の期間はブラックリスト状態であるため、一般的にはローンで車を購入することが難しくなります。
しかし、それでも自動車がどうしても必要であるような場合には、つぎのような対策をとることで車を購入することが可能です。
①販売店の自社ローンを利用する
中古自動車の販売店などでは、その会社独自のローンを用意していることがあります。いわゆる「自社ローン」というものです。
このような自社ローンは、一般的に個人信用情報機関のデータにアクセスすることが少ないため、ブラックリスト状態であっても分割で購入することができる可能性が高くなります。
現在ではインターネットで「自動車 自社ローン」などと検索すると、販売会社がたくさん出てきます。このような販売会社を利用すれば、自己破産後でもローンで車を購入できる可能性が高くなります。
②親族に買ってもらう
自分でローンを組めない場合、自分に代わって親や兄弟など親族に買ってもらうというのも有効な手段です。家族がブラックリスト状態となっていなければ、ローンで車を購入できる可能性は高いと考えられます。
③分割はあきらめて一括で購入する
これはもっともオーソドックスな方法ですが、自分でお金をため、一括で購入するということも検討すべき方法です。
個人信用情報機関でブラックリスト状態になっていたとしても、一括で購入する分にはまったく関係ありません。ローンなどで分割して購入しようとするから、ブラックリスト状態が問題となるのです。
そのため、まずは少しずつでも貯金して、中古の安い自動車で我慢しましょう。そうすることで、比較的早い段階において車を利用することができるようになります。
まとめ
今回は、自己破産した場合に車を手元に残す方法などについて解説させていただきました。
日本でも限られた一部の大都市以外では、車は生活の足として日常生活に不可欠なものです。しかし自己破産した場合、いろいろな理由によって車を手放さなければならない事態が発生することになります。
しかしそのような場合でも、一定の対策をとることで車の処分などを回避することができるのです。
みなさんが自己破産する場合には、今回ご紹介させていただいた知識を有効にご活用いただき、車を手元に残せるようにしていただければ幸いです。
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