個人再生という債務整理方法は、裁判上行われる法的な手続きです。そのため、この手続きはすべて法律の定めに従って行われることになります。
万一、法律の条件をクリアーできない場合には、個人再生の本来の目的を果たすことができずに終了してしまうこともあり得ます。
このように個人再生が失敗してしまう原因としては、大きく分けるとつぎのような4つを挙げることができます。
- 申し立ての却下
- 個人再生手続きの廃止
- 再生計画案の不認可
- 再生計画の取り消し
今回こちらでは、個人再生の「取り消し」に関してわかりやすご説明いたします。
なお、説明内容は基本的に小規模個人再生に関してのものとなります。実務上、利用されている個人再生の大多数が小規模個人再生であるという実情を考慮してのことですので、ご了承ください。
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個人再生が取り消された場合の効果とは?
個人再生の取り消しは、正確には「再生計画の取り消し」といいます。
個人再生の手続きは、裁判所に提出した再生計画案が裁判所に認可され確定することによって、事実上終了します。これによって、とりあえず個人再生はめでたく「成功」したといえます。
しかし、これはあくまでも「とりあえず」です。つまり、法律で定められた一定の事実が発生・発覚した場合には、再生計画が取り消されることがあるのです。
再生計画が取り消された場合、つぎのような重大な結果が発生することになります。
元の借金が復活する!
個人再生をする最大のメリットは、借金の大幅なカットをしてもらえる、ということにあります。
債務総額や持っている財産によって変化はしますが、個人再生する大半の方は借金の80%をカットしてもらえます。つまり、残りの20%を返済するだけで借金問題の解決ができるわけです。しかも、将来利息もカットされるのです。
つまり、めでたく手続きが終了し、再生計画案の認可が確定することで、元の借金の大半が免除されるということですね。
しかし、再生計画を取り消された場合、このカットされた債務が復活してしまうのです。
簡単な事例でみてみましょう。
元の借金が500万円だった場合
めぼしい財産等がなく、借金総額が500万円だった人がいるとしましょう。この人が小規模個人再生を行い、裁判所によって再生計画が認められた場合、債務の400万円がカットされることになります。つまり、残債務は100万円となり、これを毎月分割して3年間返済すれば元500万円の借金はすべて返済したということになるのです。
しかし、再生計画が取り消されるようなことになると、せっかくカットされ消滅したはずの400万円が復活してしまうのです。
個人再生が取り消されると、いかに損をするかということがよくわかりますよね。
個人再生が取り消される3つのパターン
再生計画は、大きく分けてつぎの3つの事例に該当する場合に取り消されることになります。
1.返済の延滞・滞納
再生計画案が裁判所によって認可され手続きが終了すると、間もなく債務の返済が始まります。この返済は再生計画に基づき行っていくことになりますが、これをたびたび延滞したり、長期にわたり滞納したりすると再生計画が取り消される恐れが出てきます。
どの程度の延滞・滞納だと取り消しになるのか?
これに関しては、何回延滞すると取り消しになる、何か月滞納すると取り消しになる、という明確な基準はありません。再生計画の取り消しは、債権者が裁判所に対して取り消しを求める形で行われます。つまり、債権者の気持ち次第、ということです。
債権者といえども、ある程度までなら延滞・滞納も許容してくれるかもしれません。しかし、これが限度を超えると取り消し申請されるかもしれませんので、くれぐれもご注意ください。
2.財産隠し等の発覚
再生計画案の認可確定によって、個人再生の手続きは基本的に終了することになります。しかし、たとえ手続き終了後であっても財産隠し等の違法行為が発覚した場合には、再生計画が取り消されることになります。
3.弁済予定額が再生計画認可決定時の清算価値を下回っていた場合
再生計画による返済予定額が、再生計画が裁判所によって認可された時点での債務者の財産総額を下回っていたことが判明した場合のことです。
返済に行き詰まってしまった時の2つの救済措置
再生計画は、その作成時点だけでなく将来の収入まで計算に入れるなど入念に計算して作られたもののはずです。しかし、それでも突発的な事情などで、どうしても返済に行き詰まることもあるでしょう。
そのような場合には、制限付きではありますが、法律上、次のような2つの救済措置が設けられています。
1.返済期間の延長
民事再生法第234条では、再生計画に基づく返済に行き詰まる事態を想定し、つぎのように定めています。
民事再生法第234条(再生計画の変更)
「小規模個人再生においては、再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、再生債務者の申立てにより、再生計画で定められた債務の期限を延長することができる。この場合においては、変更後の債務の最終の期限は、再生計画で定められた債務の最終の期限から二年を超えない範囲で定めなければならない。」
つまり、やむを得ない事情がある場合には、裁判所に申し立てることで2年の範囲内で返済期間を延長してもらえる可能性がある、ということになります。
ただし、住宅ローン特則を利用している場合でも、延長が認められるのはあくまでも住宅ローン以外の債務の支払いのみということになっています。
返済総額は減額してもらえない。
民事再生法第234条によって再生計画の変更が認められるのは、あくまでも返済期間に関してのみです。同条による再生計画の変更は、返済総額にまでは及ばないのでご注意ください。
返済期間の延長だけでは返済が難しいような場合には、つぎに述べる救済措置を検討することになります。
2.ハードシップ免責
法律上、厳格な要件が求められますが、残債務全額の免除を認めてもらえる制度です。いわば、個人再生の返済中に破産が認められるようなイメージですね。
この制度は、民事再生法第235条によって、つぎのように定められています。
民事再生法第235条
再生債務者がその責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となり、かつ、次の各号のいずれにも該当する場合には、裁判所は、再生債務者の申立てにより、免責の決定をすることができる。1 第232条第2項の規定により変更された後の各基準債権及び同条第三項ただし書に規定する各再生債権に対してその4分の3以上の額の弁済を終えていること。
2 第229条第3項各号に掲げる請求権(第232条第4項(同条第5項ただし書において準用する場合を含む。)の規定により第156条の一般的基準に従って弁済される部分に限る。)に対してその4分の3以上の額の弁済を終えていること。
3 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと。
4 前条の規定による再生計画の変更をすることが極めて困難であること。
つまり、ハードシップ免責が認められるための条件は主に次のようになります。
①債務者本人に帰責事由がないこと
再生計画に基づく債務の返済が困難になってしまった原因が、自分に責任がない場合でなければなりません。そして、返済が「極めて困難」であることが条件となります。
②再生計画で返済するはずの債務額の4分の3以上を返済済みであること
最低でも、再生計画で返済する予定の債務額の4分の3の返済が完了していることが条件となります。
③債権者一般の利益に反しないこと
個人再生申し立て時点での財産総額以上の金額を返済済みでなければなりません。つまり、再生計画で支払う予定の債務額の4分の3以上を返済済みでも、この条件をもクリアーしていないと、ハードシップ免責が認められないことになります。
④再生計画の変更をすることが極めて困難であること
再生計画の返済期間延長をしても、債務の返済が非常に困難と思われる状態であることが条件となります。
自宅は手放すことになる!
ハードシップ免責が認められた場合、免責の効果は住宅ローンにも及びます。つまり、住宅ローンも支払い義務が免除されることになるため、自宅を手放すことになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、再生計画の「取り消し」についてご説明しました。
個人再生は、面倒で費用も時間も掛かる手続きです。再生計画に基づき返済が始まっているということは、もうその手続きも最終段階にまでたどり着いている状態といえます。それにもかかわらず、再生計画が取り消されることになったら、今までの苦労が水の泡となってしまいます。
そんな最悪の事態にならないようにするために、つぎのポイントは覚えておいていただきたいと思います。
- 計画どおり返済する
- 財産隠しはしない
ただし、返済に行き詰まった場合には、つぎのような救済措置も法律上もうけられています。つぎの2つの方法です。
- 返済期間の延長
- ハードシップ免責
このような知識を活用し、ぜひ個人再生を成功させていただきたいと思います。
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