借金の返済で毎月苦しい思いをしている、債務整理して借金問題を解決したいけれどマイホームは手放したくない……。
このようなケースは、世の中に意外とたくさんあるものです。
破産をすれば(裁判手続きがすべて終了すれば)債務を免除してもらえるため、借金生活から逃れることができます。一切借金の返済義務がなくなるからです。
しかし、マイホームを持っていた場合はどうなるでしょうか?
破産をするには、基本的に自分の財産すべてを投げ出さなくてはなりません。つまり、マイホームは手放すことになります。
「せっかく手に入れた念願のマイホーム。何とか手放さずに借金問題を解決できないものか?」
このような状況に陥ってしまった人であれば、誰しも考えることでしょう。
そんな時に利用できる債務整理方法が、「個人再生(住宅ローン特別条項付)」なのです。
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そもそも個人再生とは何?
以前の記事にてご説明したとおり、借金問題を解決する法的な手続きが債務整理という手続きです。債務整理という手続きには、いくつかの種類があり、個人再生とはその中のひとつです。
個人再生の特色を簡単に言うと、裁判所に借金総額の大部分を免除してもらい、残額を毎月分割返済していくというものです。
個人再生手続きの種類
個人再生手続きには、その手続きを利用しようとする債務者(借金の減額をしようとしている人)の事情によって最適なものを選択できるように、以下の2種類があります。
1.小規模個人再生
小規模個人再生は、個人再生手続きの中で一番利用されている手続きです。
給与所得者等再生よりも返済額が少なくてすむというメリットがありますが、債権者から手続きについて文句が出た場合、手続きに支障をきたすリスクがあります。
2.給与所得者等再生
給与所得者等再生とは、その名のとおり、基本的に給与をもらって生計を立てている人をメインターゲットとした手続きです。
小規模個人再生よりも返済額は多くなる傾向がありますが、その分債権者によって手続きを邪魔される危険性が低くなります。
住宅ローン特別条項付個人再生とは?
個人再生には上記ふたつの手続きがありますが、その手続きの中で住宅ローンがある場合に、プラスアルファとして付加されるのが住宅ローン特別条項(正確には「住宅資金特別条項」といいます)です。
つまり、住宅ローン以外の借金(消費者金融やクレジット会社などからのもの)を大幅に減額してもらうことで、住宅ローンの支払いを楽にしてもらえる制度です(これを「住宅ローン特則」といいます)。
その結果、マイホームを手放さずに借金問題を解決できるのです。
ただし、住宅ローン以外の借金は減額してもらえますが、住宅ローンについては一切減額されませんので、基本的に契約どおり全額返済しなければなりません。
住宅ローン特則を利用するためには、いくつかの条件がある
小規模個人再生や給与所得者等再生の手続きをする場合、その手続きを利用できるかどうかに関して各種の要件がありました。
今回、住宅資金特別条項を追加してそれらの個人再生手続きをする場合(つまり、住宅ローン特則を利用する場合)には、住宅ローン特則を裁判所に認めてもらうために、また別個の条件が必要となります。
大まかに説明すると、以下のようになります。
住宅ローンであること
ローンを組んで借り入れたお金が住宅の建設(または住宅や敷地の購入)などに必要な資金であり、分割払いで支払うものであることが必要です(いわゆる住宅ローン)。
また、一括払いなどの場合には当然利用できません。借り換えをした住宅ローンでも利用可能です。
抵当権以外の担保権などがないこと
住宅ローンを組む時には、その返済を確実にするために(借りた人が返済してくれない場合に備えて)通常その敷地や住宅に抵当権という担保権が設定されます。この担保権が住宅ローンのものひとつなら構わないのですが、ほかにも担保権などがあるような場合、住宅ローン特則は利用できなくなります。
債務者の所有であること
個人再生をしようとしている債務者(再生債務者といいます)が所有している住宅・敷地であることが必要です。
再生債務者が単独で所有している場合はもちろん、だれかと共有している場合でも住宅ローン特則は利用できます。
居住用の住宅であること
再生債務者が実際に生活の拠点として居住するための住宅・敷地でなければなりません。
つまり、住宅ローンを組み、土地や建物を購入したけれど、それが事業用であるような場合には住宅ローン特則は利用できません。ひとつの建物を居住用兼事業用と共用している場合には、床面積の半分以上を居住用としていれば住宅ローン特則は利用できます。
代位弁済している場合、その時から6カ月以内であること
住宅ローンの支払いが滞り、ついには保証会社によって住宅ローン債権者に代位弁済(住宅ローンを借りた人に代わって弁済すること)されてしまうことがあります。このような事態になってしまった場合、通常のケースではマイホームを維持するのはほとんど絶望的ともいえる状態です。
しかし、代位弁済された時から6カ月以内に住宅ローン特則での個人再生の申し立てをすれば、マイホームを維持することができます。
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住宅ローン特別条項付個人再生のメリット、デメリット
世の中、何事にもメリット・デメリットがあるように、やはり住宅ローン特則を利用した個人再生手続きにもメリット・デメリットがあります。
メリット
何と言っても借金を大幅に減額して債務整理をしながらマイホームを手放さなくて済む、というのが最大のメリットでしょう。
また、返済が滞り、すでに保証会社によって住宅ローンが代位弁済されてしまっている場合でも、マイホームを維持できるという点も大きなメリットです。
デメリット
マイホームを維持できるという点からして当然なのですが、やはり住宅ローンについては全額を返済する必要があるのは、大きな負担といえるかもしれません。
無理に組んだ住宅ローンである場合、将来また返済に行き詰まる可能性も否定できません。そのような場合には、結局また債務整理しなくてはならなくなることもあり得ます。
また、住宅ローン以外の借金については大幅に減額されるものの、やはりある程度は返済しなければなりません。そのため、住宅ローンの支払い以外にも基本的には3年(最長5年)間は消費者金融やクレジット会社などへの支払いが続くため、ある程度の支払いが必要となります。
ひとくちに3年(あるいは5年)といっても、実際には長い時間です。その間には意外なほど、予想外の出費がかさんだりするものです。そのような予想外の出費にも対応できるだけ収入に余裕がない場合には、個人再生手続き自体が失敗ということにもなりかねません。
そのような可能性がある場合には、思い切って「破産」という選択肢を選んだほうが得策かもしれません。
住宅ローンを滞納すると最後は差押に
一般的に、住宅ローンは契約に従って毎月決められた金額の返済を行う必要があります。しかし、これを1カ月でも怠ると滞納(延滞)状態となります。
延滞となってもそれが短い期間(だいたい1,2カ月程度)であり、そのあと延滞分をきちんと支払えば通常は問題となることは少ないでしょう。この程度の延滞であれば、住宅ローンの債権者(貸し手)である銀行などは「大目に見てくれる」ことが多いからです(厳密にいうと、一度でもローンの支払いを怠った場合、契約上では分割返済ではなくローンの残額を一括で返済する義務が発生するようになっているケースが多いため、注意が必要です)。
滞納が長引くと保証会社に代位弁済される
しかし、延滞状態が数カ月以上(だいたい3カ月から6カ月程度)続いた場合には、事情はかなり異なってきます。契約どおりローンを返済してもらえないため困った銀行など住宅ローンの債権者が、保証会社などに住宅ローンの残金を一括で返済するよう求めることになるからです(先ほど述べたように、住宅ローンは契約どおり毎月返済していれば分割での返済が認められますが、滞納した場合には残額を一括で返済しなければならない、という契約になっているからです(これを「期限の利益を喪失する」といいます))。
その結果、保証会社は住宅ローンの契約の時に一緒に契約された保証契約(主債務者である住宅ローンの借り手が将来的にローンの返済を怠った場合、保証会社が代わって住宅ローン残高全額を支払うという契約)に基づき、銀行など住宅ローンの債権者にローンの残額すべてを支払います(これを「代位弁済」といいます)。
マイホームは競売にかけられ差押される
住宅ローンを借りた人(主債務者)に代わってローンの残額を一括返済した保証会社は、当然その損失を取り戻さなければなりませんよね。このような場合に備えて、保証会社は通常、住宅ローンで購入された土地や建物に抵当権を持っています。保証会社は代位弁済による損失分を回収するため、その抵当権を実行(抵当権という権利を行使)し、競売手続きを裁判所に求めます。
この競売手続きによって、その抵当権の設定されている土地・建物を所有者である住宅ローンの借り手(主債務者)から取り上げ、強制的に他の者に売却し、その売却代金から損失の回収を図るのです。この競売手続きの一環として、せっかく手に入れたはずのマイホーム(土地・建物)は差押えを受けることになってしまいます。
マイホームに対して差押えをされる段階にまで至ると状況はかなり厳しく、通常の場合では自宅を手元に残すことは絶望的となります。競売手続きの結果、最終的にはあなたのマイホームは売却され、家を出ていかなければならなくなるのです。
住宅ローンを滞納している場合でも個人再生するには
しかし、このような厳しい状況でも家の強制売却を回避し、マイホームを維持できる方法があります。それが個人再生(住宅資金特別条項付き)なのです。この点も、個人再生の非常に大きなメリットといえるでしょう。
自宅の強制売却を回避するための条件
個人再生手続き(住宅資金特別条項付き)を利用してマイホームの強制売却を避けるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
保証会社による代位弁済後6カ月以内であること
保証会社が、銀行など住宅ローンの債権者に代位弁済した時から6カ月以内でなければなりません。
この期間を経過してしまうと、もはや自宅は手元に残すことはできないことになります。
住宅資金特別条項付きの個人再生を申し立てること
原則として再生債務者(住宅ローンを借りた人)の住所地を管轄する地方裁判所に対して申し立てをすることになります。
申し立て後の「巻き戻し」について
上で述べたように自宅を売却されないようにするためには、保証会社による代位弁済後6カ月以内に住宅資金特別条項を付けた(住宅ローン特則を利用した)個人再生手続きを裁判所に申し立てることが必要でした。
この条件を満たすことによって、法律上滞納状態になる前に時間が巻き戻される効果が発生します。この点が非常に大きなポイントです。イメージ的には、まるでタイムマシンで住宅ローンを滞納する前の時点までさかのぼるような感じです。これを個人再生手続きの中では「巻き戻し(効果)」といいます。
本来であれば、住宅ローンが延滞状態になった時点(あるいは銀行など住宅ローンの債権者が期限の利益を喪失させようと決定した時点)で、法律上は期限の利益を喪失し住宅ローンの残債務額の一括返済義務が発生しています。
さらにその後も延滞状態が続くと、保証会社による代位弁済が行われるため、はじめの住宅ローン債権は消滅し、保証会社が求償債権を取得します。その結果、債権者が銀行などから保証会社に代わります。そして、さらに延滞を続けると保証会社は抵当権の実行を裁判所に申し立て、競売手続きが開始されることになります。そしてついに、マイホームに差押えがなされることになるのです。
しかし、現状がこのような状態であっても、条件を満たした住宅資金特別条項付きの個人再生が申し立てられることによって、すべてが延滞される前の状態になるのです。
つまり、期限の利益は喪失していないことになり(毎月分割して住宅ローンを返済すればよい状態に戻り)、競売手続きが進行している場合にはその手続きは中止されることとなります。
たとえ競売手続きが進行し、差押えがなされるまでの状態にまでなっていたとしても、それらがすべて「無かったこと」にしてもらえるということです。
そして、最終的に個人再生手続きが裁判所で認められることによって、マイホームを手元に維持しながら借金問題の解決を図ることができるのです。
連帯債務者や連帯保証人にはどんな影響があるのか?
住宅ローンを組んで銀行など金融機関からお金を借りる場合、その金融機関や契約の種類などによっては、住宅ローン債務(住宅ローンを返済する義務)に連帯債務者や連帯保証人をつけなければならないことがあります。
また、保証会社に保証委託(保証人になってもらうこと)をしなければならい場合も多くあり、その場合その保証委託契約について連帯保証人をつけることが必要となるケースもあります。
例えば、住宅ローンを借りるときに融資額をアップさせるために夫婦の収入を合算して契約する「収入合算」方式にしたり、夫婦それぞれが別個に住宅ローン契約を締結する「ペアローン」方式を利用することがあります。
このような形で住宅ローンを契約した場合には、連帯債務者や連帯保証人が必要になるのです。
このほかにも、住宅ローンの個々の内容によって連帯債務者や連帯保証人をつけなければならないこともあります。
このように住宅ローン債務に連帯債務者や連帯保証人がつけられているケースで住宅ローン特則を利用して個人再生した場合、連帯債務者や連帯保証人に対してどのような影響があるのでしょうか?
事例ごとにご説明しましょう。
住宅ローン債務に連帯債務者がつけられている場合
住宅ローンを組む際、どうせお金を借りるならより多く借りたい、とはだれもが思うことではないでしょうか?
それを実現する方法のひとつが、いわゆる「収入合算」です。収入合算方式で住宅ローンを組んだ時、通常の場合では連帯債務者が必要とります。
例えば、旦那さん名義で住宅ローンを借りるときに、旦那さんの収入だけでなく奥さんの収入も合算して家計全体の収入を計算すると、ローンで借りることのできる金額がアップします。このケースでは、住宅ローン債務の主債務者(借主・名義人)は旦那さんですが、奥さんを連帯債務者とすることが多いようです。これにより、住宅ローンを返済すべき債務は主債務者である旦那さんだけでなく、奥さんも負担することになります。つまり、連帯債務者となった奥さんは、旦那さんと共同して(連帯して)住宅ローンを返済していくことになります。
収入合算方式は、住宅ローンの代表格ともいえる「フラット35」を利用するときに、よく使われる方法です。
また、住宅ローンの個々の契約内容によっても連帯債務者が必要となることがあります。
このように、住宅ローン債務に連帯債務者がつけられている場合に、住宅ローン特則を利用した個人再生をするとどうなるのでしょうか?
ほかの連帯債務者には特に影響がない
結論から言えば、ほかの連帯債務者に影響を及ぼすことは、まずありません。
例えば、住宅ローンの名義人(実際に借りた人)が旦那さんで、奥さんが連帯債務者となっている場合、旦那さんが住宅資金特別条項付きの個人再生をしたとしても奥さんには通常、影響は及びません。
なぜなら、住宅ローン特則を利用した個人再生をする場合には、ほかからの借金は別として、住宅ローンに関しては基本的に契約どおり返済することになるからです。つまり、住宅ローンに関しては当初の約束どおり返済するので、ほかの連帯債務者に迷惑がかかるはずがないのです。
ただし、連帯債務者は文字どおり「債務者」であって「保証人」ではありません。「保証人」は実際にお金を借りてはいないため、基本的には実際にお金を借りた人である主債務者がお金を返済しない場合に、補充的に支払い義務を負わされることがあるにすぎません。
これに対して連帯債務者は「債務者」であるため、保証人の場合より積極的に債務(ローン)を返済する義務を負うことになります。
しかし、現実問題としては連帯債務者間の内部的な話し合いによって誰がローンを返済するかということが決まっていることが実際には多いと思われます。そのため、実際上はその支払いをすることとなっている人が住宅ローン特則を使った個人再生を申し立て住宅ローンの返済をする以上、ほかの連帯債務者に迷惑をかけることはほとんど無いと考えてよいでしょう。
住宅ローン債務に連帯保証人がつけられている場合
住宅ローンを、いわゆる「ペアローン」方式で借りた場合や個々の契約内容によって、住宅ローン債務に連帯保証人をつけることが必要となることがあります。
「収入合算」の場合と異なり「ペアローン」の場合には、旦那さんが住宅ローン契約をするだけでなく、奥さんも旦那さんのものとは別個の住宅ローン契約を締結することになります。そして、通常の場合、旦那さん名義のローンには奥さんが連帯保証人となります。同じように奥さん名義の住宅ローンには旦那さんが連帯保証人となることが多いようです。
収入合算の場合と同じように、ペアローンの場合には連帯保証人をつけることによって、住宅ローンの貸主である金融機関は、貸金の回収を少しでも確実にしようとするのです。
また、住宅ローンを組む際には保証会社に保証委託(保証人となってもらうこと)をしなければならい場合もあり、その場合その保証委託契約について連帯保証人をつけることが必要となるケースもあります。
住宅ローン債務に連帯保証人がついている場合において、住宅ローン特則を利用した個人再生をするとどうなるのでしょうか?
ほかの連帯保証人には特に影響が及ばない
保証人は基本的には実際にお金を借りた人(住宅ローンを借りた人、主債務者)が、そのローンをきちんと支払ってくれれば責任を負わされることはありません。しかし、そのローンがきちんと支払われない場合には、実際にお金を借りた主債務者の肩代わりとしてローンの残額や損害金などを支払う法的な責任が発生する法的立場にあります。
住宅ローン特則を利用した個人再生の場合、「巻き戻し」によってそもそも住宅ローン自体が滞納したという扱いになりません。そのため、基本的には連帯保証人に対して迷惑をかける(連帯保証人が住宅ローンを肩代わりして支払わなければならない状態となる)ということはないと考えてよいでしょう。
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連帯債務者や連帯保証人がいる場合の個人再生の申し立て方
基本的には住宅ローン以外の借金が膨らんでしまい、ローンの返済に困っている人が単独で申し立てすればよいでしょう。
しかし、場合によっては単独での申し立てでは不十分であるケースがありますので、注意が必要です。
連帯債務者がついている場合
住宅ローンの返済に困っている人が単独で申し立てをすればよいでしょう。特に難しい問題点はありません。
連帯保証人がついている場合
前述のとおり、住宅ローン債務に連帯保証人がついている場合には、ローンの借主である主債務者が個人再生したとしても基本的には連帯保証人に影響はありません。そのため、主債務者が個人再生を申し立てる場合には、主債務者のみが申し立てを行えばよいということになります。
しかし、これには重大な例外があります。ペアローンを組んでいる場合です。
前述のとおり、ペアローン方式でマイホームを購入した場合、旦那さん分と奥さん分のふたつの住宅ローン契約が必要でしたね。そして、それぞれの契約に連帯保証人をつけることが多いということでした。
このようなケースで、住宅資金特別条項を付けた個人再生を申し立てるには、基本的には夫婦の両方ともが申し立てを行う必要があるのです。
理屈で考えた場合には、住宅資金特別条項付き個人再生をするということは、住宅ローンは(多少の変更はあったとしても)契約に従って全額返済することになるわけですから、もう一方の住宅ローンには影響を与えないはずです。そのため、何らかの理由で借金が膨らみ、住宅ローンの返済に困った夫婦のどちらか一方だけが個人再生を申し立てれば十分であるように思われます。
しかし、実務では基本的にはそういう扱いはされていないのです。
そもそも個人再生という手続きは「民事再生法」という法律によって定められている制度です。少し難しい話になってしまうので細かい部分は省略しますが、その民事再生法の条文上、ペアローン方式でマイホームを購入したようなケースでは基本的に夫婦二人とも個人再生の申し立てを行う必要があることになっているのです。
ただし、この取り扱いには例外もあります。夫婦の片方だけがローンの返済に困っているけれど、もう一方には住宅ローン以外に借金がなくて住宅ローンの返済に困っていないなどの特別なケースでは、返済に困っているどちらか一方だけの個人再生の申し立てが認められた事例が存在します。
そのため、絶対に夫婦そろって個人再生を申し立てなければいけない、とは断言できないのが実情です。
個人再生したあとに、住宅ローンは借り換えできる?
世の中には「(個人)信用情報機関」というものが存在します。信用情報機関では、消費者個々人の金融機関の利用履歴をデータとして登録・蓄積しています。
ある人が銀行にお金を貸してもらおうと思ってローン申請をするとしましょう。ローンの申請を受けた銀行では、無条件でお金を貸してくれるはずありませんよね?お金を貸してもらうためには、その銀行で行われるローン審査をパスしなくてはなりません。金融機関がその「審査」をするとき、重要な判断材料にするのが、信用情報機関が保有しているデータなのです。
では、その「データ」とはいったいどんなものなのでしょうか?
簡単に言うと、ある人が過去において破産して借金の返済を免れた事実の有無(これを「事故情報」といいます)などや、現在のローンなど借り入れ状況などが信用情報機関が保有しているデータと考えていいでしょう。
ある人がクレジットカード発行の申し込みをしたり、住宅ローンや自動車ローンなどの申し込みをしてきたときなどに、申し込みを受けた金融機関は信用情報機関のデータを照会して「この人にお金を貸しても返してもらえるだろうか?」ということを判断しているのです。
信用情報機関で記録しているデータの中で、特に重要なものがあります。それが「事故情報」です。簡単に言えば、ある人が金融機関からお金を借りたりローンを組んだりしたときに返済をしなかった場合などには、金融機関に対して「迷惑をかけた」ことになりますよね?この「迷惑をかけた経歴」が「事故情報」です。
金融機関が、ある人からのローンの申し込みを承認するということは、結果的にはその人にお金を貸すのと同じ状態になります。人にお金を貸す以上、常に「返してもらえないリスク」というものが存在します。お金を貸す側である金融機関(銀行やクレジット会社、消費者金融など)は、このリスクを最小限に抑える必要があります。そのため信用情報機関に問い合わせをして、ローンなどの申し込みをしてきた人に事故情報が無いかどうかなどを確認するのです。
一般的に、この事故情報が記録されることを「ブラックリスト入り」などと言ったりします。
早い話、金融機関からお金を借りたのにもかかわらず、約束どおり返済せず滞納したり破産したような場合に、その人に対して事故情報が記録されブラックリストに入れられるということです。
このため、信用情報機関においてブラックリスト入りしている状態では、あらたにクレジットカードの発行やローンの申し込みをしても拒否される可能性が高くなります。
信用情報機関の種類について
代表的な信用情報機関には、以下のものがあります。
個人再生した場合、事故情報としてブラックリストに入れられる?
個人再生をした場合、その事実を事故情報として扱い、ブラックリストに入れるかどうかは信用情報機関によって異なります。
KSCの場合
個人再生した場合、事故情報が登録されます。個人再生後10年間はその記録が削除されません。
CICの場合
個人再生した場合でも、事故情報として記録されません。
JICCの場合
個人再生した場合、事故情報として記録されます。ただし、その記録は個人再生後5年で削除されます。
個人再生後5年から10年は新しいローンは組めないと考えましょう
上述のとおり、個人再生をしたという事実の扱いは信用情報機関ごとに異なっています。そもそも事故情報として扱わない機関もあれば、10年もの長期間ブラックリストに記録する機関もあります。
特にKSCは扱いが最も厳しいため、KSCのデータを利用することの多い銀行系の金融機関へのローンの申し込みなどは拒否される可能性が高いと考えたほうがいいでしょう。
これに対して、CICは個人再生した事実を事故情報として扱いません。このため、CICのデータを利用している金融機関へのローンの申し込みなどは承認される可能性が高いといえます。
JICCはこれらの中間的な扱いをしており、個人再生した事実は5年間事故情報として記録することとしています。
新しいローンを申し込む場合、その申し込みをした金融機関がローンの審査をすることになりますが、その判断材料としてどの信用情報機関を利用しているかは定かでないことが多いでしょう。CICのみを利用しているのであれば、個人再生した以外に事故情報がなければ、ローンは承認される可能性が十分あります。しかし、複数の信用情報機関を利用している可能性もありますし、そもそもKSCやJICCを利用していれば事故情報があることが判明しまいます。
これらのことを総合的に判断した場合、新しいローンは個人再生後5年から10年は承認してもらえないと覚悟しておいたほうが賢明でしょう。
要注意!「自社ブラック」とは何か?
先ほど述べた信用情報機関では、機関ごとに事故情報が削除されるまでの期間に長短(あるいは、そもそも事故情報とされない)がありました。しかし、最も厳しい扱いをするKSCの場合でも個人再生後(正確には、再生手続きが裁判所によって認可された時から)10年経過すればその事故情報は削除されることになります。そして、事故情報が削除された後はローンの申し込みをした場合、拒否される可能性はかなり低くなります。
しかし、世の中には「自社ブラック」というものがあります。
どういうことかと言うと、以前いわば「迷惑をかけられたお客さん」についての情報をその当の「被害者」である金融機関がデータとして保管しているケースがあるということです。このデータはよほどのことがない限り削除してもらうことは望めそうにありません。そのため、その「迷惑をかけた」経歴のある人からのローンなどの申し込みは、いつまで経っても拒否する扱いをしている場合があるのです。
この場合には、残念ながら何年経てばローンが承認されるようになるなどという年数の限定はありません。
さらに言えば、この自社ブラックは単一の会社にとどまらないことがあります。つまり、「迷惑をかけられた」金融機関がグループ企業内の会社であるような場合、それらグループ企業内の複数の会社でこのブラックリストを共有していることがあるのです。この場合には、ローンの審査はそれらグループ企業のどの会社に対する申し込みでも拒否される恐れがあります。
このような場合には、これらグループ企業に属していない全くほかの金融機関にローンの申し込みをするしかありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
以上のように、住宅ローン特別条項付個人再生は各種細かい条件などが必要となりますが、それを利用することでマイホームを維持できるというメリットがあります。
住宅ローンを支払い、さらに消費者金融会社などへの支払いも充分可能なほど収入に余裕が見込める場合には、かなりメリットの大きな債務整理手続きといえるでしょう。
住宅ローンなどの借金で困っている場合には、利用を検討してみるのも有効な手段かもしれません。
債務整理全般について言えることですが、借金問題の解決はその人その人、個々の状況に応じてケースバイケースです。最適な解決方法を決定するには、高度に法律上の専門的な知識が必要となることが多いのです。
その債務整理手続きの中でも個人再生手続きは特に専門性が高く、住宅ローン特則を利用しての個人再生は非常に専門的な知識やノウハウが要求される分野となります。もし、あなたが個人再生の申し立てを検討しているのであれば、一日も早く個人再生に詳しい弁護士や司法書士事務所などへ相談するのがよいと思われます。
ひとりで悩んでいても始まりません。借金問題はいつまでも解決しないばかりか、時間が経てば経つほど利息が増大して、どんどん深刻な問題に発展して行きかねません。
初めにほんの少しの勇気をもって専門家に相談することで、借金まみれの人生をリセットし、まったく新しい人生の再出発ができるかもしれません。
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