相続時にプラスの財産よりもマイナスの財産が多くなると、相続人にとっては負担が大きいものです。中には、被相続人の作った最後だから責任をもって返したいと考える人もいますが、経済的にそうするのが難しいケースも少なくありません。
「相続すると借金が増える」というときに使えるのが、相続放棄という手続きです。今回は、相続放棄の手続きについてご紹介します。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
目次
相続放棄の手続き①準備
まず、相続放棄を行うにあたって準備しなければならないことを確認しましょう。準備する必要があるのは大きくこの3つです。
- 相続放棄にかかる費用を確認する
- 書類の準備をする
- 相続財産を調査する
費用を確認する
相続放棄をする際には一定の費用がかかりますが、不動産登記などのように高額な費用がかかるわけではありません。実費としては、裁判所に支払う収入印紙代の8,000円と、裁判所との連絡に使用する郵便切手代がかかるだけです。
その他に、財産調査を行うにあたって必要な書類の取り寄せなどにも費用がかかることがあります。もしも弁護士などの専門家に相続放棄の手続きを依頼するなら、相続放棄に関する実費以外にも、専門家への報酬が発生することがあります。
こちらは相続財産などによっても値段が変わってくるため、依頼を希望する専門家に確認をする必要があります。
必要書類を準備する
次に必要な書類の準備です。相続放棄に必要な書類はそこまで多くありません。基本的に必要な書類は以下の3つです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の戸籍の附票または住民票の除籍
- 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
他に、申述人が被相続人とどういった関係にあるかによって必要な書類は変わってきます。詳しくは別の記事で紹介していますので、こちらを参考にしてください。
内部リンク:必要書類
財産調査を行う
次に必要な準備が、相続財産の調査です。基本的に被相続人が生前有していた財産は全て相続財産となりますが、本当に相続放棄をするかどうかの判断材料として、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多いのかといったところを確認する必要があります。
典型的な相続財産としては、以下のものがあります。
- 不動産
- 銀行の預貯金
- 株式や債券などの有価証券
- 借金や連帯債務など
相続放棄の手続き②裁判所への申し立て
次に相続放棄の申し立ての手続きに移ります。
相続放棄は、他の相続人に対して口頭で「相続を放棄します」と言ったり、遺産分割協議書に記載したりするだけでは不十分です。その効果が生じるためには、家庭裁判所での手続きが必要になります。
どの場所の裁判所に申し立てる?
相続放棄の申立先ですが、被相続人が最後に住所を有していた住所地の家庭裁判所に申し立てることになります。相続放棄をする人が住んでいる住所や、被相続人の不動産がある住所を管轄する家庭裁判所ではないので注意してください。
申し立て後の手順
次に、申し立て後の手順についてご紹介します。
まず、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。そのときには、申述書と合わせて必要書類を準備して提出します。
申述書を家庭裁判所が受理すると、後日裁判所から「相続放棄に関する照会書」という書面が続きます。その場で手続きを進めず、一旦書面を交付するのは、申述人が本人であるかを確認する意味合いも含まれています。
もしも虚偽の申請があった場合、この照会書が申述人の自宅に届くことで「相続放棄の手続きが知らないところで行われている」ということを防ぐ効果が期待できます。
この照会書が届いたら、申述人が必要事項を記入して家庭裁判所に返送します。
その手続きを経た後、10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」という書類が家庭裁判所から届きます。通知書が届けば、相続放棄の手続きは完了です。
相続放棄ができる期限
このように、家庭裁判所での手続きはそこまで手間がかかりませんが、注意が必要なのが相続放棄の期限です。相続放棄は民法915条によってこのように定められています。
民法915条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
相続の開始を知って3ヶ月というのは、思った以上に短い期間です。ただ、この3ヶ月というのは相続開始から3ヶ月ではなく、相続があったことを知ってから3ヶ月ですので、「相続が行われていたことを数年後に知った」というようなときでも相続放棄を諦める必要はありません。
3ヶ月という期間を過ぎそうなときの対策
3ヶ月という短い期間の間に、相続放棄をするという意思決定が難しい場合もあるでしょう。財産調査が間に合わない、他の相続人を確定するのに非常に時間がかかっている、行方不明者がいるなど、相続が開始されたことは知っていても、相続放棄をしていいのかの判断ができないまま時間だけが過ぎていくケースも少なくありません。
相続放棄ができるまでの3ヶ月のことを「熟慮期間」といいますが、この熟慮期間が過ぎてしまえば、相続放棄はできなくなります。
そうすると、マイナスの財産が多くても、原則として相続をしなければならなくなります。
そうなることを防ぐため、3ヶ月を過ぎそうだと判断した場合には、もう3ヶ月の期間を伸長する手続きを取る必要があります。この手続きを「相続放棄の期間の伸長」と呼びます。
期間の伸長手続きを家庭裁判所に行うことにより、相続放棄の熟慮期間をあと3ヶ月伸ばすことが可能になります。
伸長申し立てにかかる費用は、収入印紙が800円。それから、相続放棄の申述時と同じように、家庭裁判所との連絡用の郵便切手代がかかります。
3ヶ月を過ぎてしまったけれど相続放棄をしたい
相続放棄をしなくていいと判断したのに、3ヶ月以上経ったあとで借金が発覚した。相続が開始したが、相続放棄の手続きについての知識がないまま3ヶ月を過ぎてしまい、3ヶ月を過ぎた後で相続放棄ができたことを知った。
このように、3ヶ月を過ぎた後で相続放棄をしたいと思うこともあるかもしれません。
しかし、原則として3ヶ月過ぎてしまうと相続放棄の手続きはできません。相続放棄の制度自体を知らなかったとしても同じです。しかし、例外として相続放棄ができると認められたケースもあります。
例えば、先ほど例に上げた「借金があることを知らなかった」というケース。こちらは、「借金を知らなかったことに対して相当な理由がある」ときには、相続財産の全てを把握した時から相続法規の熟慮期間が始まる、と示した判例があります。
このように、熟慮期間が過ぎてしまったとしても、正当な理由が認められれば相続放棄の手続きができる可能性もあります。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼した方がいいケースとは
相続放棄の手続きについてご紹介してきました。相続放棄の手続きは専門家に依頼した方がいいという声もあれば、自分で手続きができるという声もあります。
手続き自体は難しくないため、相続放棄の手続きは自分でもできます。ただ、手続きが難しくないとしても、その手続き自体は最終的に行うものでしかありません。
そこに至るまでの過程や、背景を総合して判断する必要があります。弁護士に依頼することを検討した方がよいケースとはどのようなケースなのでしょうか。
相続人が確定していない
遺言がない場合、全相続人で遺産分割協議をしなければなりません。また遺言書がある場合でも、遺言書の中で誰に何を相続させるというような具体的な財産がはっきりしておらず、例えば「長男に財産の二分の一を、次男に財産の二分の一を相続させる」というような漠然とした遺言しか残っていないようなケースでも、相続人が集まって遺産分割の協議をする必要が出てきます。
この時に相続人が確定していない場合は、まず相続人を確定するところから始めなければなりません。相続人を確定する作業は意外に難しいものです。予期せぬところから知らない相続人が出てくることは珍しいことではありません。
相続人を確定するのが大変そうだという時には、専門家を入れることも検討するといいでしょう。
相続財産が多岐にわたる
不動産があちこちに散らばっていて全部を把握できていない、預貯金の口座がたくさんある、色々な証券会社で株式を有しているなど、相続財産が多岐にわたっていて相続財産を完全に把握できていない場合には、相続財産の調査が大変です。
相続税の申告期限が10ヶ月であることを考えても、相続財産の調査にそこまでの時間をかけることはできません。このようなケースも、専門家に依頼をすることを検討した方がいいでしょう。
相続人間で紛争が生じている場合
相続人間の人間関係が悪い、絶縁している人がいるなど、相続人間の紛争が生じている・紛争の火種があるというときも、専門家を間に入れておいた方がいいケースです。
自分で相続放棄の手続きをするとき
これらのケースに当てはまらず、相続財産もシンプルで、相続人も配偶者と子供しかいないようなケースでは、自分で相続放棄の手続きを行うことも一つの方法です。自分で相続放棄行うことのメリットは、やはり費用がかからないことです。
また、相続放棄は自分でしたいけれども専門家の意見を聞きたいということもあるでしょう。その場合は、相談だけするなど、専門家を上手に活用しましょう。
相続放棄の代行を依頼するなら弁護士?司法書士?
相続放棄の手続きを専門家に依頼するとなると、弁護士か司法書士になりますが、どちらに頼めばいいのか迷うかもしれません。
弁護士に頼むと費用が高いというイメージがありますが、訴訟に関する報酬とこういった手続きに関する報酬では、報酬体系が異なります。着手金が発生するきらいはありますが、紛争が起こる可能性があるような時には、最初から弁護士を入れておいた方がいいでしょう。
今は報酬規定は撤廃されて自由に設定できるようになっていますが、今でも従来の報酬規定に準じるとしている事務所も少なくありません。そのため、報酬についてはこちらを参考にしてもよいでしょう。
相続放棄をするときの注意点
次に相続放棄を行う時の注意点についてご紹介します。多くの人が疑問に思うところでもありますので、ぜひ参考にしてください。
郵送での手続きはできるのか
相続放棄の手続きは家庭裁判所に対して行いますが、郵送での手続きはできるのでしょうか?なかなか家庭裁判所まで出向く時間がないこともありますので、郵送で手続きができれば便利です。
提出すべき書類が全て揃っているのであれば、郵送で行うことができます。ただ、場合によっては裁判所から「話を聞きたい」ということで呼び出しを受けることがあります。呼び出しを受けたときは、家庭裁判所に出向かなければなりませんので注意しましょう。
相続放棄をするなら財産には触らない
相続放棄を希望している場合は単純承認に注意しましょう。単純承認とは、「財産を相続する意思があります」ということを認めることです。熟慮期間中に相続放棄の意思表示をしないことでも単純承認となりますが、このほかにも、遺産の不動産を売却した、まだ遺産分割協議が終わっていないのに財産を隠したなど、相続財産を処分してしまった時には「単純承認をした」と見なされ、相続放棄ができなくなることがあります。
土地や建物などの不動産を相続放棄しても、管理義務が残る
相続放棄の手続きをすると、全ての相続財産を放棄することになります。例えば相続財産に不動産や預金があったとき、「預金だけは相続したい」ということはできません。
借金があるケースの他に、相続財産となる不動産の場所が自宅より遠く、使い途がないため相続したくないというケースも多いでしょう。空き地や空き家のままで放置せざるを得ない場合もあります。
不動産についても相続放棄が認められれば所有権を手放すことはできますが、新しい相続人が土地や空き家を管理し始めるまでは、引き続き管理し続けなければなりません。これは、民法940条で定められている義務です。
民法940条
1 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
このように、相続放棄をしたとしても、土地や建物の管理義務は依然として残るのが現状です。管理義務も負いたくないという場合は、相続が始まる前に土地を手放すなどの対策を立てておくことをお勧めします。相続後に土地を売却してしまうと、相続することを承認したことになり、相続放棄ができなくなるので注意しましょう。
相続放棄は生前にはできない
相続放棄と似た概念として、遺留分の放棄というものがあります。こちらは生前でも手続きが可能ですが、相続放棄は被相続人が生きている間は放棄をすることができません。
なぜなら、相続放棄をすることによって、相続人はそもそも相続人ですらなくなるため、不利益が大きいためです。
今回は、相続放棄の手続きについて解説しました。元々相続放棄は、相続人が予期せぬ負債を背負うことがないようにという趣旨で設けられた制度だと言われています。そのため、プラスの財産よりもマイナスの財産が多いかどうかが、相続放棄をするかどうかの重要な判断基準となります。
相続放棄の期間は3ヶ月とかなり短いため、早急に必要な動きをしなければなりません。相続人がたくさんいる、紛争の火種があるなど、相続の手続き自体がスムーズにいかないな、と感じたときには、専門家に依頼することも視野に入れましょう。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|