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自筆証書遺言とは
自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)とは、財産目録を除く全ての文章を自筆で書く遺言のことです。
自筆証書遺言のメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 紙と筆記用具さえあれば気軽に作成でき、費用も証人も不要
- 自分で作成するため他の人に遺言内容を秘密にすることができる
- 遺言書に書かれた内容を容易に変更できる
その反面、自筆証書遺言には以下のようなデメリットも存在します。
- 弁護士等の専門家による作成ではないため、法律的に不備のある無効な遺言に仕上がってしまうおそれがある
- 自分で保管するため、自分の死後に遺族が保管場所に気付かないおそれがある
- 保管していた遺言書が誰かに発見され、破棄・改竄(かいざん)されるおそれもあります。
- 財産目録以外は全て自筆で書く必要があり労力をともなう
なお、2020年7月10日以降は自筆証書遺言を法務局が預かる「自筆証書遺言書保管制度」ができ、遺言者の死後に遺族や受遺者への通知がなされるようになりました。費用は1件あたり3,900円です。この制度を利用すれば、遺言書の存在と保管の問題、さらに改竄される可能性が無くなりました。
また、法務局で保管していた自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要なくなりました。検認とは、遺言の発見者や保管者が、家庭裁判所に遺言書を提出して、相続人などの立ち合いのもとで遺言書を開封して、その内容を確認することです。検認が不要になったことで遺言書をすぐに開封することができるので、遺言書に沿った相続手続きが早くできることが期待されています。
自筆証書遺言の要件・書き方
自筆証書遺言のひな形
【自筆証書遺言のひな形】
遺言書は法的に有効な書式と内容で書かれていなければ無効となり、遺言書としての役割を果たすことができません。ですから自筆証書遺言を書く場合には、まず法的に有効な書式と加除訂正方法、内容であるかをよく調べて書くことが必要です。
自筆証書遺言の要件は民法第968条で以下のように規定されています。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。民法 | e-Gov法令検索
以下では、この条文に沿って、自筆証書遺言の要件について解説します。
要件①:添付の財産目録以外は全文を自筆で書く
法改正がされ、2019年1月13日に施行された「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」により、添付する財産目録はパソコン・ワープロで作成して印刷しても良いことになりました。しかし、本文は全て自筆で書かなくてはなりませんので注意が必要です。
要件②:遺言書の作成日付を自筆で書く
遺言書には必ず「元号/西暦〇年〇月〇日」と作成日を自分で書かなければいけません。「○年〇月吉日」などの日付が特定できないものは無効です。この理由は遺言書が複数見つかった場合に、一番新しいものが有効とされるからです。
また遺言作成時に、遺言者が遺言を作成する能力があったかどうかの判定にも使うため、日付を自分で書くことが求められています。
また日付を封筒にだけ書くと、その有効性が疑われる可能性があるため、必ず遺言書本文に日付を書きましょう。
要件③:名前を自筆で書く
遺言書の作成者をはっきりとさせ、誰の遺言なのかを明らかにするために、氏名はフルネームを自筆で書かなくてはなりません。通称やペンネームなどがある場合には、遺言者本人と識別できる名前であれば、それを使ってもかまいません。
要件④:捺印をする
自筆証書遺言には、遺言者が押印しなくてはいけません。押印とは、自分の印鑑を押すことです。印鑑は実印でも認印でもかまいませんが、実印を使うと、本人が書いたことの証明になります。そのため自筆証書遺言では実印を使い、印鑑証明書を添付しておくとよいでしょう。また遺言書には割り印は必要ありません。
なお、日付、氏名、押印は遺言書の最初でも最後でも構いません。
要件⑤:加除その他の変更をする場合には、不備にならないような方法をとる
民法968条第2項には「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」とされています。つまり遺言者本人が、加除その他の変更場所を指示し、変更した旨を書いてさらに署名をし、変更した場所に訂正印を押すことが必要です。
そこで以下のような方法で加除訂正をします。
- 遺言書中の訂正箇所を欄外の余白部分に「〇行目」と記載します。
- ①で指示した部分について変更した旨を「X字削除,△字加筆」などと1に続けて書きます。
- ②に署名をします。
- 訂正・変更したい箇所を、実際に変更します。訂正する箇所に二重線を引き、正しい文言を横書きの場合その上部、縦書きの場合はその左側に書きます。修正液の使用や黒塗りつぶしは無効です。
- ④で変更した訂正箇所に訂正印を押します。
この方式に従っていない訂正等は無効になりますが、遺言までが無効になるわけではありません。
自筆証書遺言の書き方についての要点
ここでは、自筆証書遺言を書く時に押さえておくべき要点について解説していきます。
表題は「遺言書」とする
表題が無くても遺言書としては有効ですが、見つけた人が、すぐにわかるように表題を書いておきましょう。
できるだけ長期間の保存に耐えられる用紙を使う
遺言はいつ必要になるかわかりません。長期間の保存に耐えられる紙を使いましょう。
筆記具はボールペンや万年筆など、消すことのできないものにする
鉛筆やシャープペンシルでは、改ざんされる可能性があります。消すことができない筆記用具を使いましょう。
相続させる財産・相続人をはっきりと、特定できるように書く
相続させる財産の記載が曖昧ですと、かえって相続人間で争いが起きます。そのため不動産であれば権利書や登記簿謄本のとおりに、また預貯金の場合は金融機関名や支店名、口座番号なども書いておきましょう。
また、誰がどの財産を相続するのか、はっきりとわかるように、氏名だけでなく、被相続人との続柄や生年月日などを記載して、特定できるようにしましょう。
一つの財産を複数の相続人が共有する内容の遺言は避ける
共有財産にすると、一見丸く収まるように見えますが、相続人の次の世代になると相続人の数が増え、さらに権利関係が複雑になり、ますます分割が難しくなります。安易に共有名義にはせず、きちんと分配するように遺言しましょう。
遺言執行者を指定して書く
遺言執行者とは、遺言書の内容を執行する人で、遺産の管理などにあたります。遺言執行者がいなくても相続はできますが、遺言内容に異議が出そうな場合には、あらかじめ遺言執行者を決めておくと良いでしょう。ちなみに遺言執行者は遺言書でしか指定できません。
費用の負担者と割合、祭祀承継者を書く
自分の死後に相続人間で揉めないよう、葬儀代や債務、また遺言執行にかかる費用などの負担者を明記し、複数の場合は負担割合も明記する。また、お墓の維持管理等でも揉めないよう祭祀承継者も指定しておいた方が良いでしょう。
自分の家族への思いや願いを書く
遺産の割合などには直接関係がありませんが、なぜこのような分配になったのかの理由やこれまでの思い出や感謝、さらに今後相続人どうしがどのように歩んで行って欲しいかという心情を書くことで、相続人の間のわだかまりや不信を取り除くことができます。
自筆証書遺言とは別に財産目録を作成するパターン
上記では、自筆証書遺言の遺言書内に譲り渡す財産についても記載するパターンについて説明していきましたが、ここでは、遺言書とは別に財産目録(譲り渡す財産の内容が一覧でわかるようにまとめたもの)を作成するパターンについて解説します。
どちらのパターンでも要件や書き方についてはほぼ同じですが、1点、大きく異なります。これまでは財産目録も遺言書と同様に手書きする必要がありましたが、2018年の法改正により財産目録をパソコンやワープロで作成できるようになりました。譲り渡す財産の種類や数が多い方にとっては、遺言書だけ手書きで作成し、別途、財産目録はパソコン等で簡単に作成できるわけですから大きなメリットと言えるでしょう。
以下は、遺言書と財産目録を別途作成した場合のひな形です。ダウンロードもできるようにしてありますので参考としてお使いください(ただし、遺言書は自筆で書く必要がありますのでご注意ください)。
自筆証書遺言で気をつけること
裁判所で検認を受ける
遺言書の保管者は、相続の開始を知ったあと、遅滞なく家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければなりません(民法第1004条1項参照)。
検認とは、相続人に対して遺言の存在やその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の変造・偽造を防止するための裁判所の手続きのことをいいます。
また「遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する」と規定されています(民法第1005条参照)。
ただし前述の通り、自筆証書遺言所保管制度を利用すればこの検認は不要となります。
遺言が無効とならないよう注意する
まず「遺言書は、2人以上の者が同一の証書ですることができない」と規定されています(民法第975条参照)。
これは共同遺言といって遺言の無効事由です。そのため夫婦が共同して「私たち夫婦は以下のように遺言する」と記載した書面を残していても遺言として効力はありません。
遺言の内容を音声で残していても無効
「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。だだし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない」と規定されており、原則として書面によって作成しなければならず、特別の方式としても民法の規定にしたがって行う必要があります(民法第967条、976条から984条参照)。
したがって、ビデオレターやICレコーダーで録音された音声は遺言としての効力はありませんので注意してください。ビデオレターを残しておきたいという場合でも、法的に有効な遺言を残しておくためには書面により遺言書を作成しておきましょう。
必要に応じて遺言書の書き換えを行う
遺言書を作成した後に、財産の状況が大きく変化したり、相続人が増減する場合もあります。その場合には速やかに遺言書の書き換えを行いましょう。
なお、自筆証書遺言作成後に財産の一部が目減りした場合には、遺言書自体が無効になることはなく、その目減りした財産にあたる箇所の遺言だけが無効になります。
弁護士のアドバイスを活かそう
民法改正により、自筆証書遺言はより作りやすく、また遺言書としての効力が発揮しやすくなることも期待されています。なによりも手軽に一人で書き始めることができるので、遺言について考え始めた時に、まず取り掛かるには良い形式です。
一方、自筆証書遺言は、一人で作るために内容の不備や法的に有効か無効かがわからないということです。また、遺言書の内容によっては、受遺者と法定相続人との間でトラブルとなり、受遺者にとって良かれと思って作成した遺言書によって逆に迷惑をかけてしまうことも。
そのため、あらかたの原案を作った段階で弁護士に相談し、その原案にできるだけ沿った内容の遺言書を弁護士に作成してもらうことも検討しましょう。
遺言書の作成でお悩みの方は当事務所の弁護士までご相談ください。相続トラブルにならないように配慮した法律的に有効な遺言書を弁護士が作成します。お困りの方はまずはご相談ください。
気軽に弁護士に相談しましょう |
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