被相続人が死亡した場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人になることもあります。しかし、被相続人が残したものが借金だけである場合や、遺産相続争いに巻き込まれたくない場合、または他の兄弟姉妹に遺産を譲りたい場合など、相続放棄を考える方もいらっしゃいます。
しかし、相続放棄の経験がある方は少ないでしょうし、どのように相続放棄をすればよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、遺産相続に強い弁護士が以下の点についてわかりやすく解説します
- 兄弟姉妹が相続放棄する方法、必要書類、期限
- 兄弟姉妹が相続放棄するデメリット
- 相続放棄すると兄弟姉妹の子(甥姪)が相続人になるのか
なお、兄弟姉妹の遺産を相続放棄をしたい方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
そもそも兄弟姉妹が相続人になるのはどんなケース?
被相続人の兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子や孫等、父母や祖父母等の先順位の相続人が一切存在しない場合に限られます。
民法では相続人の順位が定められており、まず第一順位は被相続人の子供です。子供が亡くなっている場合は、その子供、すなわち孫が代襲相続します。次に第二順位として、父母や祖父母が位置します。父母が亡くなっている場合には、祖父母が代襲相続人となります。
被相続人の兄弟姉妹が相続人になるのは、第一順位(子供や孫、ひ孫等)および第二順位(父母や祖父母、曽祖父母等)の相続人がいない場合です。具体的には、被相続人に子供や孫等がいなかったり、子供や孫等が全員亡くなっている、または相続放棄している状況です。さらに、父母や祖父母等も全員亡くなっているか、相続放棄している場合に限ります。
要するに、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるためには、上位の相続人が存在しないことが必須条件です。もし被相続人に「子供・孫等」や「父母・祖父母等」が生存している場合、これらの相続人が相続放棄しない限り、兄弟姉妹は相続人とはなりません。
兄弟姉妹が相続放棄できる期限は?
相続放棄をする場合は、民法915条によって「自分のために相続の開始があったことを知ってから3ヶ月以内」に行わなければならないとされています。これは兄弟姉妹が相続放棄をする場合も同様です。3ヶ月を超えてしまうと、相続放棄はできなくなりますので注意してください(民法921条2項)。
ここで一つ問題となりやすいのが、相続が起きた時期と、自分が相続人であることを知った時期がずれるケースです。兄弟姉妹は相続順位が低いため、特に被相続人に配偶者や子供がいたり、両親が生存している場合には、自分が相続人になるということを想定していない人も少なくありません。
しかし、何らかの理由で第一順位や第二順位の相続人が相続放棄をした場合には、相続順位が低い兄弟姉妹に相続権が回ってくることになります。その結果、自分が相続人であることを知った時には、既に相続から3ヶ月が経過していた、もしくはもうあと数日で3ヶ月が経つという状況であることもあります。
この場合、相続放棄ができないのではないかと不安になる人も多いようですが、相続放棄の起算点は「自分のために相続の開始があったことを知った時」です。このため、他の相続人が相続放棄をして自分に相続権が回ってきたことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄を行えば良いことになります。
兄弟姉妹が相続放棄する方法
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄するためには、裁判所に期限内に申述する必要があります。相続放棄の手続きの流れは以下の通りです。
- 必要書類の準備
- 相続放棄申述書の作成
- 家庭裁判所へ相続放棄の申述
- 家庭裁判所から届く照会書を返送
- 家庭裁判所から受理証明書が届く
①必要書類の準備
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄する場合には、以下の書類を準備する必要があります。
- 相続放棄の申述書
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
- 被相続人(亡くなった方)の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 収入印紙800円分(申述人1人につき)
- 連絡用の郵便切手(詳細は各家庭裁判所に問い合わせて確認してください)
なお、亡くなった方の子どもや親など先順位の相続人が先に相続放棄をしている場合には、その先順位の相続人が裁判所に提出済みの書類については添付する必要はありません。
②相続放棄申述書の作成
前述の通り、相続放棄を行うには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。このような相続放棄の申述をするために、相続放棄の申述書を作成のうえ、家庭裁判所に提出しなければなりません。申立書の書式及び記載例については、裁判所のホームページ(相続の放棄の申述書(成人))上で確認することができます。
相続放棄申述書の書き方を初心者でもわかりやすいよう弁護士が解説
③必要書類を家庭裁判所に郵送または持参する
相続放棄の申述書と必要書類をすべて揃えて管轄の家庭裁判所に提出する必要があります。郵送による方法と家庭裁判所に直接出向いて提出する方法のいずれでも可能です。また、管轄の家庭裁判所は、被相続人が最後に住所を有していた土地の管轄となる家庭裁判所です。 相続放棄を行う人の住所地を管轄する家庭裁判所や被相続人の本拠地がある家庭裁判所ではないので注意してください。
管轄の家庭裁判所を調べたい場合は、裁判所のホームページ(裁判所の管轄区域)を参考にしてください。
④家庭裁判所から届く照会書を返送
相続放棄の申述を行った場合、1週間〜2週間程度で「相続放棄照会書」が送付されます。この照会書は、相続放棄が申述人の意思によるものかどうか確認するために家庭裁判所から送付される書類です。必要事項を記入したうえで、家庭裁判所に返送する必要があります。ただし、この照会書の回答によっては、相続放棄が認められない可能性もあるため、回答に迷われる場合には、弁護士に相談してください。
⑤家庭裁判所から受理通知書・証明書が届く
照会書を返送後、問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
債権者など第三者に対し、相続放棄をしたことの証明書が欲しい場合には、「相続放棄申述受理証明書」を申請する必要があります。申請用紙に必要事項を記入し、1件につき150円分の収入印紙、郵送の場合は返信用の切手を添えて、受理をした家庭裁判所に申請してください。
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兄弟姉妹が相続放棄をするデメリットは?
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄するデメリットは次の通りです。
- ①プラスの財産があっても相続できない
- ②プラスの財産があっても子(甥姪)が代襲相続できない
- ③兄弟姉妹間でトラブルになること
プラスの財産があっても相続できない
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。そのため、被相続人の遺産を相続放棄した兄弟姉妹は、被相続人に属する一切の権利義務を承継する権利がなくなります。
つまり、借金や負債などマイナスの財産を引き継がなくて済む一方で、不動産や現預金などプラスの財産を引き継ぐこともできません。消極財産よりも積極財産の方が多い場合や、被相続人に負債はあるけれど、将来性のある土地や建物を所有しているという場合には、相続をした方がメリットが大きくなるという可能性もあります。
また、一度相続放棄をすると、原則として撤回することはできません。兄弟姉妹の仲が悪かったり、疎遠だったりして、よく考えずに相続放棄をしてしまうと後悔するおそれもあるため、慎重に検討する必要があります。
プラスの財産があっても兄弟姉妹の子(甥姪)が代襲相続できない
本来被相続人の遺産を相続するはずだった法定相続人である兄弟姉妹が、相続時にすでに亡くなっている場合(または相続廃除された場合)には、その兄弟姉妹の子(被相続人から見て甥や姪)が代わって相続することができます。これを代襲相続といいます(民法887条2項)。
ここで、相続放棄をした場合には代襲相続は発生しません。相続放棄をした人は初めから相続人ではないとみなされるため、相続権自体が発生しないからです。相続放棄をすると、相続権は次の順位の法定相続人に移ります。しかし、兄弟姉妹よりも後順位の相続人がいないため、すべての兄弟姉妹が相続放棄をすると、誰も相続権を取得しません。
このように、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をすると、甥・姪には相続の権利が失われることになり、仮に被相続人にプラスの財産があった場合でも、甥・姪は代襲相続で遺産を受け取ることができません。
兄弟姉妹間でトラブルになることも
相続放棄は他の兄弟姉妹と話し合ったり、許諾を得ずとも単独で行うことができます。そのため、法定相続人の中に相続放棄をした兄弟姉妹と、相続放棄をしていない兄弟姉妹が混在するケースも想定されます。このような場合、相続をした兄弟姉妹が被相続人の負債をすべて引き受けることになってしまいます。
他の相続人が兄弟姉妹で足並みを揃えて遺産を相続して、それぞれに権利や負担を分配しようとしていた場合には、意思疎通ができていないと兄弟姉妹間でトラブルに発展してしまうおそれもあります。相続放棄には期限があるため、相続人間で適時・適切に話し合って方針を決定することも重要となります。
相続放棄は兄弟姉妹がまとめてすることも可能
兄弟姉妹でまとめて相続放棄の手続きをすることができます。
また、被相続人に配偶者がいる場合には、その配偶者と兄弟姉妹もまとめて相続放棄の手続きができます。
なお、兄弟姉妹のように順位が同じ相続人同士がまとめて相続放棄の手続きをすることはできますが、順位が別であれば、申述も別々に行わなければなりません。また、後順位の相続人は、前順位の相続放棄が認められた後でなければ相続放棄の申述ができません。
例えば、被相続人に子ども・親・兄弟姉妹がいるケースでは、まずは被相続人の子供が相続放棄の手続きをし、それが受理された後で第二順位の親が相続放棄を行い、さらにそれが受理されたあとで初めて、第三順位の兄妹姉妹が相続放棄の手続きを行うことになります。
まとめ
今回は、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をするときの手続きや注意点についてご紹介しました。被相続人に配偶者や子供、両親がいる場合、基本的に兄妹姉妹が相続人となることはありません。そのため、自分が知らない間に相続人になっていて戸惑うというケースも見られます。
兄妹姉妹の場合は、実際に相続が始まった時と自分が相続人になったことを知った時との間にタイムラグが出やすいものです。しかし、相続放棄の期限である3ヶ月は自分が相続になったことを知ってから始まるため、その点は安心してください。
法定相続人としても相続順位が低い兄妹姉妹。相続放棄をする時には必要な書類がどうしても多くなります。できるだけ一度で手続きを終えられるよう、不安なことは裁判所や専門家に相談するなどして準備をしておきましょう。
兄弟姉妹の相続放棄でトラブルが起きたなどお困りのことがございましたら、相続問題で多数の解決実績がある当事務所の弁護士までご相談ください。
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