親が亡くなり、相続財産を調べたところ、多額の借金をしていることが発覚した。
このまま相続をすることになると、親が残した借金を自分が返し続けなければならなくなる。
相続においては、こういったケースも少なくありません。そんなときに活用できる制度が相続放棄です。ですが、被相続人の借金を背負わなくて済むように相続人が相続放棄をしたいと思うとき、注意しておきたいことがあります。
今回は、被相続人の借金のために相続放棄をしたいと思った時の注意や、よくある疑問点についてご紹介します。
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まずは相続人の借金を調べよう
まず相続財産確定するときに重要なことが、被相続人の財産を確定することです。いくらくらいプラスの財産があって、借金などのマイナスの財産がどれくらいあるのかを知ることが、相続放棄の大前提となります。
しかしそうは言っても、どうやって相続人の財産を調べればいいのでしょうか。特に借金の調べ方が全くわからないという人もいるかもしれません。具体的な借金の調べ方はこのとおりです。
信用情報を閲覧する
被相続人が個人から借金をしている場合は、公的なデータが残っている可能性が低いため、借用書を確認するなどの方法しかありません。しかし金融機関でローンを組んでいたり、クレジットカードを使っていたりするときは、信用情報機関に問い合わせをして信用情報を照会する方法があります。
信用情報機関には、金融機関から寄せられた割賦払いやクレジットカードの利用情報に関する情報が集まっています。もしも滞納などの状況があれば、その情報も信用情報に記載されていますので、合わせて確認することができます。
信用情報は、基本的には自分の情報を閲覧するものですが、相続人が被相続人の情報を確認することも可能です。
参考:亡くなった父の情報開示をすることはできるのでしょうか?:CIC
住宅ローンがあるなら団体信用生命保険の加入状況を確認する
相続人が遺した借金として心配になるのが住宅ローンです。住宅ローンはその額も大きいため、もしも相続することになれば、毎月かなりの金額を返済し続けなければならなくなります。
住宅ローンで確認しておきたいのが、団体信用生命保険に加入しているかどうかという事実です。団体信用生命保険とは、住宅ローンの契約者が死亡したとき、それ以降の住宅ローンの返済が免除になるという保険です。
多くの金融機関では、団体信用生命保険に加入できることが住宅ローンを契約条件となります。そのため、基本的に団体信用生命保険に加入しているので、相続人が住宅ローンの心配をする必要はありません。
ただ、フラット35など、団体信用生命保険に加入することが住宅ローンの契約に必須の条件ではないこともあります。
特に住宅ローンの契約前に大きな病気にかかっている人は、団体信用生命保険にそもそも加入することが難しいため、フラット35など、団体信用生命保険に加入しなくても契約できる住宅ローンを活用していることがあります。
この場合は相続人に住宅ローンの返済が降りかかってくる可能性があるので、相続放棄を検討した方がいいでしょう。
通帳で定期的に引き落とされているものがないか
この他に借金を調べる方法としては、被相続人の預金通帳を見るという方法があります。定期的に引き落としがされているものがある場合、それは何らかの負債である可能性があります。
どういった名目で引き落とされているのか、どこから引き落とされているのかがわかれば、そこからその原因をたどることができます。もし振込で定期的に一定額が振り込まれているのであれば、どこに振り込んでいるのかを調べることが重要です。
不動産の登記簿謄本で抵当権がついていないか確認する
不動産を抵当に入れてお金を借りていることもあります。被相続人が所有している不動産の登記簿謄本を確認し、抵当権などがついていないか調べておきましょう。
不動産の登記簿謄本は、被相続人ではなくても誰でも取ることができます。また、現在はどの場所でも法務局でも登記簿謄本を取ることができるため、最寄りの法務局に行けば登記簿謄本を確認することができます。
相続放棄するとどうなる?
相続放棄をすると、どういった効果が生じるのでしょうか。
最初から相続人ではなくなる
相続放棄をすることにより、相続放棄をした人は最初から相続人ではなかったことになります。そのため、全ての相続財産を相続することができなくなります。
後順位の相続人に相続権が渡る
自分が相続放棄をしたあと、その相続財産はどうなるのでしょうか。
相続放棄をしたあとは、自分よりも順位が後の相続人が財産を相続することになります。実はこれが相続放棄でよくあるトラブルの元なのですが、これについては後で詳しくご紹介します。
後順位とは、例えば、第一順位である子供が相続放棄したら、第二順位の相続人である直系尊属に相続権が行くということです。さらに直系尊属である両親も相続放棄をしたら、第三順位である兄妹姉妹に相続権が渡ります。
このときに不安になりやすいのが、「自分が相続放棄をすることで自分の子供に相続権が入ってしまうのではないか」ということです。もしそうなったら、自分の両親の借金を自分の子供が背負わなければならなくなってしまいます。
自分の相続権が自分の子供に移ることを「代襲相続」と言いますが、この代襲相続は相続放棄をした時には適用になりません。そのため、自分の親の借金を自分の子供が背負う事態にはならないので安心してください。
姪や甥まで相続権がいってしまう?相続放棄の限界
自分が相続放棄をしたら、相続権は後順位の相続人に渡ると説明しました。では、どこまで相続権は降りていくのでしょうか。無限に続いていくのでしょうか。
民法によって、法定相続人は、配偶者、それから第一順位から第三順位までの相続人だと定められています。第一順位は子供、第二順位が直系尊属、第三順位が兄妹姉妹です。先ほども説明したとおり、相続放棄の場合、代襲相続は関係ありません。
結論としては、相続放棄をしたとしたら、第三順位の兄弟姉妹まで相続権が移ることになります。兄妹姉妹が相続放棄をしたときには、そのあとの相続人という概念がないため、それ以上相続権が誰かに移ることはありません。もちろん姪や甥に相続権が渡ることもありません。
ちなみに、不動産や預貯金の財産がある状態で第三順位の相続人が相続放棄をしたとしたら、それらの財産は国庫に帰属することになります。
相続放棄には順序がある
相続人全員が相続放棄をすると決めた時には、まとめて相続放棄の手続きをした方が簡単で早そうです。しかし実は相続放棄には順序があります。前の順位の相続人が相続放棄の手続きを終えてからでなければ、次の順位相続人は相続放棄をすることができません。
しかしそうすると、相続放棄ができる3ヶ月という期間を過ぎてしまうのではないかと心配になる人も出てくるでしょう。特に兄弟姉妹など、順位が低い人にとっては「この3ヶ月に間に合わないのではないか」「相続放棄できなくなるのではないか」と思ってしまうかもしれません。
しかし心配する必要はありません。相続放棄ができる3ヶ月という期間は、「自分のために相続が開始したこと」を知ってから3ヶ月とされているからです。前順位の相続人が相続放棄をしたことを知ったときが、自分のために相続が開始したことを知ったときです。
ちなみに、相続放棄をしたことを後順位の相続人に通知する義務はありません。そのため、前順位の相続人が相続放棄をした時期と、後順位の相続人がその事実を知る時期がずれることもあります。
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相続放棄することのデメリット
被相続人の借金を背負いたくないという理由で相続放棄をすることは、法的に認められています。ここで押さえておきたいのが、相続放棄をすることのデメリットです。相続放棄にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
相続放棄は原則として撤回できない
相続放棄のデメリットの一つが、一度相続放棄をしてしまうと原則として撤回できないということです。
被相続人の借金をそのまま相続する人の中には、「どんな理由であれ、被相続人が誰かから借りたお金だから、返済しないというのは気持ちが悪い」と考える人もいます。相続放棄をした後でやっぱり相続放棄をしなければよかったと思う人も中にはいます。
また、相続放棄をすると最初から相続人ではなくなるため、全ての相続財産を相続できなくなります。「借金は確かに相続したくないけれど、先祖代々から所有している土地は相続したい」など、何らかの財産を相続したいと思い直すこともあるかもしれません。
しかし、一度相続放棄をしてしまえば、「やっぱりやめたい」といって理由もなく撤回することはできません。相続放棄を取り消したいときには、「徹底的に調査したはずなのに、新たな相続財産が見つかった」など、正当な理由が必要となります。
相続放棄は全員でしないと思わぬ紛争となる
先ほど、相続放棄をすると、自分より後の順位の相続人が相続をすることになると説明しました。そしてこれがトラブルの原因にもなるということも説明しました。では、具体的にどういったトラブルになるのでしょうか。
兄弟が亡くなった場合を想定しましょう。まだ両親も生きており、被相続人には配偶者も子供もいます。そうすると、基本的に相続財産は息子や両親、または配偶者が相続するものだと回りは考えるため、たとえ法定相続人になる可能性が自分にあったとしても、自分は関係ないと思うのが普通です。
ここでよくあるのが、ある時突然、家に内容証明が届くケースです。もちろん差出人に心当たりはありません。内容証明を開けてみると、「被相続人の財産を返済してほしい」という内容でした。差出人は被相続人の債権者です。
ここでよくよく調べてみると、そもそもの相続人であるはずの配偶者や子供、両親までもが相続放棄をしていたために、被相続人の兄弟である自分が相続人になっていることがわかりました。
このように借金を理由に相続放棄をする場合、相続人全員が相続放棄をしなければ、相続放棄をしていない相続人に全ての返済義務がいってしまうことになります。
さらに、相続放棄をすることを事前に共有しておかなければ、このケースのようにある日突然債権者から督促状が届くことになるのです。
相続放棄に関するよくある疑問
相続放棄にまつわるよくある疑問をまとめました。
相続から3ヶ月後に借金が見つかったら相続放棄できる?
基本的に、相続放棄は「自分のために相続が行われたことを知ってから3ヶ月以内」に裁判所に対して申述をしなければなりません。よくある疑問の一つが、この3ヶ月が過ぎた後で被相続人の借金が見つかるケースです。
相続人にしてみれば、相続財産をもらえるものと思っていたのに、思わぬところから借金が見つかってしまえば、借金の返済義務だけを負うことになってしまいます。
実は、3ヶ月という期間が過ぎてしまったとしても、相続放棄をするだけの「相当の理由」があると裁判所が認めた場合には、相続放棄が認められる場合があります。
しかしどんなケースでも、3ヶ月を過ぎた後での相続放棄が認められるわけではありません。また、相続放棄は一度申述したら、もう一度申述することはできません。
3ヶ月を過ぎた後で相続放棄の申述をしようと思っている人は、できれば専門家に相談して慎重に進めることを勧めします。
相続放棄をしても生命保険は受け取れるのか
よくある疑問の一つが、相続放棄をしても自分が受取人になっている生命保険を受け取ることができるかということです。
生命保険の多くは、数千万という高額な金額がかけられていることもあって、この生命保険金は受け取れなくなってしまうのは経済的にも打撃が大きいもの。また中には、相続人の借金を、受け取った生命保険金で精算したいと考える人もいるようです。
生命保険の契約者と被保険者が被相続人、死亡保険金の受取人が被相続人以外の特定の誰かになっている生命保険は、相続財産ではなく、受取人の財産となります。例えば、生命保険の契約者と被保険者が夫、受取人が妻とすると、妻が相続放棄をしてもその死亡保険金は妻が受け取ることができます。
まとめ
借金を理由に相続放棄をする場合の注意点についてご紹介しました。相続放棄をすることで自分は被相続人の借金返済を逃れたとしても、新たに後順位の相続人が相続権を持ってしまうため、思わぬところで借金を背負ってしまう人が出てしまい、トラブルになる可能性もあります。
相続財産に借金が多く、相続放棄をしようと思っているのであれば、相続人全員が集まって相続放棄に関わる情報を共有しておくことが重要です。
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