結婚していない男性との間に子供ができたにもかかわらず、相手がどうしても自分の子どもであると認めない、または子どもを認知することを拒否する場合があります。
この場合、認知を求めるにはいきなり裁判を行うわけではなく、母親であるアナタはまずは「認知を求める調停(認知調停)」を申し立てなければなりません。
とはいえ、
- 認知調停とはどのような手続き・流れでおこなれるのだろうか…
- 申し立てにはどのような準備がいるのだろうか…
- 調停が成立しなかった場合はどうなるのか…
といった疑問や不安を抱えている方もいることでしょう。
そこでこの記事では、これらの疑問や不安を、男女問題に強い弁護士が解消していきます。
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目次
認知調停とは
認知調停とは、未婚の母がその子供の父親に対して家庭裁判所での話し合いを介して認知をするよう求める手続きのことをいいます。
婚姻関係にない男女のパートナーに出生した子ども(「非嫡出子」といいます)が父親に認知されないでいると、父と子の間に法律上の親子関係が認められません。それにより、以下のようなデメリットが子に生じます。
- 父親に扶養料(養育費・生活費等)の請求ができない
- 父親の相続人になれないので遺産相続に加わることができない
- 父親の戸籍に入らないので父親の氏を名乗れない
父親が自分の意思で認知(これを「任意認知」といいます)してくれれば良いのですが、父親が認知することを拒んだ場合には「強制認知」という手段で父親に認知を求める必要があります。
強制認知とは、相手男性が認知に応じない場合に、家庭裁判所に認知調停や認知の訴えを起こすことで、相手男性の意思に関係なく強制的に認知を実現する手続きです。
民法には「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる」と規定しています(民法第779条)。婚姻関係にある父母の間に出生した子どものことを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」といいます。逆に婚姻関係にない男女のパートナーに出生した子どものことを「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」や「嫡出でない子」と表現します。
そして「認知」とは「嫡出でない子」と父母との間の親子関係を創設するための身分上の法律行為です。父母の意思に基づきなされる認知を「任意認知」といい、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって行うことができます(創設的届出)。また認知は遺言によっても行うことができます(民法第781条1項2項参照)。
認知は父親の意思によって行うことができますが、一定の場合には条件があります。まず子どもが成年に達している場合には「その子の承諾」がなければ認知することができません(民法第782条)。また子どもが母親のお腹にいる胎児の場合でも子どもを認知することができますが、この場合には「母親の承諾」を得なければなりません(民法第783条)。
当事者の意思に基づく「任意認知」に対して、父親の意思に関係なく強制的に認知を実現するのが「強制認知」です。これは判決によって裁判所が認知の可否について判断されることで実現する認知です。
調停前置主義
母親は認知をしようとしない父親に対して「認知の訴え」を提起することができます(民法787条)。家庭裁判所は人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件について調停・審判をします(家事事件手続法第244条)。この人事訴訟にはもちろん「認知の訴え」も含まれています(人事訴訟法第2条2号参照)。
そして家庭裁判所が調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする場合にはまず家庭裁判所に家事調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法第257条1項)。
このように訴訟を提起する前に調停をしておかなければならいというルールを「調停前置主義」といいます。
訴訟は裁判所が当事者の主張と証拠に基づいて当事者の意思に反しても一定の判断を、強制力を伴う形で認定することになります。他方で調停手続は後述のように基本的には当事者による話し合いによって紛争を解決しようとする手続です。
認知の訴えのような家族間トラブルに関してはその後も継続的な人間関係を前提とします。そこで硬直的に法律論で裁判所が白黒を決するよりはまずは当事者の話し合いを先行させて双方が納得する形で解決できる方が好ましいと考えられています。これが「調停前置主義」が採用されていることの大きな理由です。
認知調停を申し立てるべきケースとは
子どもの利益のために認知調停を申し立てるべきケースにはどのようなものがあるのでしょうか。考えられる事案を挙げて解説していきましょう。
離婚後300日以内に生まれた子ども
民法には嫡出推定の規定があります。具体的には妻が婚姻中に妊娠した場合にはその子どもは夫の子どもと推定されています。また婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子どもは婚姻中に妊娠したものと推定されています(民法第772条参照)。
要するに婚姻中や離婚後300日以内に生まれた子どもは原則として夫または元夫の嫡出子と推定されますので他の男性との間に生まれた子どもであっても出生を届け出ると夫・元夫の間の子どもとして戸籍に記載されてしまいます。仮に他の男性を父として出生届を提出したとしてもそれは受理してもらうことができません。この結果子どもは「無戸籍」の状態に陥ってしまいます。
嫡出推定が及ぶ子どもに関しては夫または元夫の子どもであることを否定したい妻は原則として嫡出否認の調停を申し立てることになります。
ただしこの推定規定にも例外があります。つまり前提として妻が夫の子どもを妊娠することが外観上不可能である場合には婚姻期間中の妊娠であると推定する基礎を欠きますので推定規定は適用されません。
例えば以下のような性的交渉がありえないといえるようなケースです。
・長期の海外出張・海外赴任
・刑に科せられたことによる長期の収監
・長期の別居状態
子どもの養育費を請求したいケース
認知の効果として子どもと父親との間には法的に親子関係が発生します。
そして親は未成熟な子どもに対して扶養義務を負うようになります。この扶養義務の内容は父親が離れて暮らす子どもに対して「自己と同程度の生活を保障」するというものです。したがって通常は監護親である母親に対して不足する養育費の差額を支払うということで履行されることが一般的でしょう。養育費の金額は父母の収入や子どもの数などに応じて家庭裁判所が公表している「養育費算定表」に基づいて決定されます。
父の相続権を子どもに及ぼしたいケース
民法には「被相続人の子は、相続人となる」と規定しています(民法第887条1項)。
そのため認知により子どもと父親の間に親子関係が創設されると認知された子どもは父親の推定相続人として父親の相続財産を承継する地位を有することになります。
母親としては子どもには十分な財産が承継されることを望むことが一般的であると思います。父親の財産を子どもに相続させるためにも認知を求めることが重要でしょう。
認知調停で有効な証拠となるのはDNA鑑定
父親と子どもの親子関係が争われる認知の訴えや嫡出否認の訴えについては実施されたDNA鑑定が決定的となる場合があります。DNA鑑定は裁判所が実施させることができます。これは鑑定人に対する鑑定命令によって行われます(民事訴訟第212条。家事調停については家事事件手続法第258条1項、64条1項により準用)。
なおこのDNA鑑定については直接強制をすることができないため、当事者が頑なにDNA鑑定を拒否した場合には鑑定を実施することができません。したがって裁判所が強制的に父親と子どものDNAをチェックすることはできないのです。
ただしそのような場合には、訴訟手続き内で父親が頑なにDNA鑑定の実施を拒絶したという態度そのものを裁判所は「弁論の全趣旨」として斟酌することができます。すなわちDNA鑑定を実施すればかなりの確率で父子関係の有無が明らかになるにもかかわらず父親が断固として拒否しているということは自身が父親であることを自認しており各種請求を拒否するために検査に非協力的な態度をとっているのだろうと推認することができるということです。
認知調停の申立て方法は?
前述のように結婚していない男女のパートナーの間に生まれた子どもを父親が認知しない場合には母親は父親に対して「認知調停」を申し立てることができます。ここでは具体的な調停の手続について解説していきましょう。
申立て先
相手方の現住所を管轄する家庭裁判所が原則です。ただし、双方の合意があれば別の家庭裁判所に申し立てても構いません。例えば、互いに遠距離に住んでいる場合に中間地点の家庭裁判所に申し立てるといったことも可能です。
申し立てにかかる費用
家事調停は通常の民事訴訟と比べて申立て手数料も安価に設定されています。必要となるのは以下のような費用です。
収入印紙 | 1200円分 |
連絡用の郵便切手代 | 申立人などに家庭裁判所から呼出状などの連絡用に使用される郵便切手が必要となります。具体的な取り扱いは各家庭裁判所によって異なりますので管轄の裁判所のホームページなどをご確認ください。 |
必要書類
認知調停を申し立てるには以下のような書類が必要です。
- 申立書とその写し1通
- 子どもの戸籍謄本
- 父親の戸籍謄本
- 子どもの出生証明書の写し・母親の戸籍謄本(婚姻を解消してから300日以内に生まれた出生届をしていない子どもに関する申立ての場合)
それぞれの家庭裁判所には家事調停について申立てが行いやすいように定型の申立書が備え付けられていることが多いです。認知調停を申し立てる際には申立書のひな形や記入例を確認しながら作成することができます。
申立てをすることができる者
- 子ども
- 子どもの直系卑属(孫など)
- 子どもまたは子どもの直系卑属の法定代理人(親など)
認知調停の流れ
ここでは具体的に調停手続きの流れについて解説していきましょう。
STEP① 呼出状が届く
認知調停を適切に申したてることができれば、家庭裁判所により調停準備日が決められ、呼出状が届きます。決められた期日で都合が悪いという場合には裁判所に相談してください。
STEP② 調停期日
調停期日には家庭裁判所に出頭します。期日では家庭裁判所の裁判官と調停委員が申立人であるあなたと被申立人である父親双方から話をきき必要な調査をしながら手続きが進められます。
調停は平日に行われ1回の期日は約1時間~2時間程度です。 母親から話を聞いている間は父親の方は別室で待機させられ、事情を聞き終わると交代して入室して調停委員が母親の意向を父親に伝えるという方式で手続が進められます。 当事者は交代で調停委員の面前に呼ばれますので手続の最中はできるだけ当事者同士が顔を会わせることがないように配慮されています。
STEP③ 次回以降の期日が指定される
1回の調停期日で話し合いがまとまらない場合には次回以降の期日が指定されます。双方の都合のいい日時を聞き取り具体的に決定されます。
STEP④ 調停成立の場合
当事者の話し合いの末、双方が納得して合意に至ると調停が成立し合意された内容で調停調書が作成されます。 この調停調書には民事訴訟を提起した場合の判決と同一の効力があります。一般に調停調書によって合意された内容に当事者が反した場合には権利者が申し立てることによって調停調書に執行文を付して強制執行を行うことができるのです。
調停が不成立となった場合はどうなるか
認知調停の結果、当事者間で話し合いがまとまれば合意された内容で調停調書が作成されます。この調停調書には民事訴訟を提起した場合の判決と同一の効力があります。一般に調停調書によって合意された内容に当事者が反した場合には権利者が申し立てることによって調停調書に執行文を付して強制執行を行うことができるのです。
それでは、認知調停の結果話がまとまらない場合にはどうなるのでしょうか。
当事者の間で合意が成立する見込みがない場合や成立した合意が相当でないと認められる場合には調停は成立せず家事調停事件は終了します(家事事件手続法第272条)。
一定の家事事件の中には調停の申し立て時点で調停事件が終了した場合には家事審判の申し立てがあったこものとみなされる結果、調停不成立の場合に審判に移行するものもあります。ここで審判に移行する事件は家事事件手続法の別表第2に規定されている事件のみで別表第1事件や訴訟対象の事件については自動的に審判に移行するわけではなりません。
認知調停は訴訟対象事件ですので当然には審判に移行しません。そのため認知を拒否する父親に対して認知をしてもらいたい母親は家庭裁判所に対して「認知の訴え」を提起して判決により解決を図ることになります。
訴訟手続きは家事調停とは異なり当事者の話し合いでの解決ではなく、当事者の主張・立証に基づいて事実を裁判所が認定する手続になります。裁判になった場合には少なくとも1か月に1度の期日を数回経ることになりますので数か月から1年程度最終的な解決まで覚悟してなければならないでしょう。
まとめ
この記事では認知調停の概要や手続の流れなどについて解説してきました。
そして認知調停は是非弁護士に依頼することをおすすめします。なぜなら弁護士があなたの代理人として手続を行う場合にはあなたに有利な主張や証拠の提出について適切な対応を期待することができます。また認知の問題のみならず養育費の支払い請求なども併せて依頼することができるでしょう。あなたに弁護士が就いている場合には相手方である父親も適当な対応をとることができませんのでDNA鑑定など手続きに協力的になること場合もあります。早期に解決を図るためには家事事件や家事調停に精通している弁護士に相談することがおすすめです。
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