お互い婚姻意思を持って長年夫婦同然の生活をしているものの、その夫婦の一方又は双方に法律上の配偶者がいる状態を「重婚的内縁」といいます。
一般的な内縁関係の場合、婚姻に準ずる関係として財産分与や扶養などの面で法律婚の夫婦と同様の法の保護を受けることができます。しかし重婚的内縁関係の場合には、原則としてこの法の保護を受けることができません。
ただし例外的に、一定の条件を満たすことで重婚的内縁でも法の保護を受けることもできます。
この記事では、内縁問題に強い弁護士が、
- 重婚的内縁とは
- 重婚的内縁で法の保護を受けるための条件
- 重婚的内縁を解消する時の法の保護
などについてわかりやすく解説していきます。
記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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重婚的内縁とは
重婚的内縁(じゅうこんてきないえん)とは、内縁関係にある男女の双方または一方に法律上の婚姻関係を結んでいる配偶者がいる状況下での内縁のことをいいます。
そもそも内縁とは?
内縁(事実婚とも言います)とは、婚姻の届出をしていないため法律上の夫婦とは認められないものの、社会生活を送る上で事実上夫婦同然の生活をする関係のことです。内縁は、「婚姻に準ずる関係」として判例(最高裁昭和33年4月11日判決)上も保護されています。具体的には、内縁関係にある夫婦には、以下のような法律婚と同等の権利義務が認められています。
- 貞操義務
- 同居義務
- 扶養義務
- 婚姻費用の分担義務
- 日常家事債務の連帯責任
- 内縁解消時の財産分与 など
重婚的内縁は法律上保護されないのが原則
「重婚」とは、既に結婚して配偶者がいる人が、重ねて別の人と結婚することです。一夫一婦制を採用している我が国では「重婚」が禁止されています(民法第732条)。
(重婚の禁止)
第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。民法 | e-Gov法令検索
また、重婚をすると刑法第184条の重婚罪に問われることになります。
このように法律で重婚が禁止されているにもかかわらず重婚状態の内縁夫婦に法の保護を与えてしまうと、重婚を禁止した法律の趣旨に反します。そのため、原則として重婚的内縁は通常の内縁関係のような法の保護は受けられません。
ただし例外的に、重婚的内縁でも法の保護を受けられる場合がありますので以下で解説します。
重婚的内縁で例外的に法の保護を受けられる条件
上記の通り、原則として重婚的内縁では法の保護は受けることができません。
もっとも、重婚的内縁とはいえ、内縁関係の実体は婚姻関係とほぼ変わらないわけですから、法律上の夫婦の婚姻関係が破綻・形骸化している場合にまで重婚的内縁が保護されないとするのは実体にそぐわず、重婚を禁止した法律の趣旨も害しませんので不合理と言わざるをえません。
したがって、重婚的内縁にある者の法律上の夫婦の婚姻関係が破綻・形骸化している場合には、例外的に、重婚的内縁も法の保護を受けることができます。
法律上の夫婦の婚姻関係が破綻・形骸化しているかどうかは以下の要素を考慮して判断されることになります。
別居してる期間が長い
夫婦間の別居している期間が長くなるほど、婚姻関係が破綻または形骸化していると判断されやすくなります。そのため別居期間が長いほど継続している重婚的内縁を保護すべきという要請は高まることになります。一般に、法律婚の夫婦としての実体がなく別居期間が10年以上経過していると婚姻関係の破綻が認められる可能性が高くなります。
別居することになった理由・経緯
夫婦が別居するにあたってどのような理由・経緯があったのかという事情も重要なポイントとなります。
例えば、別居の原因が夫側の単身赴任など外的な要因である場合や、夫婦関係を修復するための一時的な冷却期間を設けるという理由の場合には、婚姻関係は破綻していないという判断される可能性があります。
逆に、夫婦いずれかに不貞行為や悪意の遺棄など「法律上の離婚事由(法定離婚事由)」に該当する責任があるため、これが原因となって別居に至った場合には婚姻関係が破綻している判断される可能性が高まります。
別居後の交流がほとんどないこと
別居後には夫婦間で全くまたはほとんど交流がなかったという事情も、婚姻関係が破綻・形骸化していると判断される可能性がある事情です。
逆に別居期間中も、夫婦が定期的に面会したり連絡を取り合ったりしている場合には、依然として夫婦関係は破綻していないと判断される可能性が高まります。
ただし、夫婦間に子どもがいるような場合には、子どもの生活や将来を決めるために連絡を取る必要が生じてくる局面もあります。そのため連絡を取りさえしていれば必ず婚姻関係が維持・存続していると判断されるというわけではありません。
夫婦双方が経済的に独立していること
別居後も夫婦双方が経済的に独立してそれぞれが生活を送ることができている場合には、夫婦関係は破綻・形骸化していると判断される可能性があります。
逆に、別居後も夫婦いずれかが仕送りや援助を受けていた場合など、相手方配偶者の収入に依存して生活している場合には、夫婦関係が破綻していないと判断される可能性があります。
婚姻関係を維持・修復するための努力が無いこと
夫婦の双方または一方が婚姻関係を維持・修復するために行動・努力している場合には、夫婦関係が破綻しているとは認められない可能性があります。
夫婦双方がそのような努力を一切していない場合には、婚姻関係が破綻しているという認定に傾く可能性が高まります。
重婚的内縁が継続的な関係であるといえること
重婚的内縁関係が一時的ではなく一定期間継続しているということも重要な判断要素です。
なぜなら、重婚的内縁が継続的であり婚姻関係と比較して安定的・固定的であるといえるため、内縁関係の方を保護すべきだと判断される可能性が高まるからです。
重婚的内縁を解消する時の法の保護について
このように、重婚的内縁関係にある場合でも、重婚的内縁にある者の法律上の夫婦の婚姻関係が破綻・形骸化している場合には法の保護を受けることができますので、重婚的内縁の解消時には、以下で挙げるような一般的な内縁関係の解消時と同様の保護を受けることができます。
婚姻費用
婚姻費用とは相手と内縁関係を継続し、生活する上で生じる費用(たとえば、衣食住の費用、医療費など)のことです。
法律上の婚姻関係にある夫婦はお互いに扶助する義務があり、収入等に応じて婚姻期間中に生じる費用を分担しなければならず、婚姻関係に準じる内縁関係においても同様のことがいえます。
したがって、相手が本来負担すべきであった婚姻費用の未払い分がある場合は、内縁関係を解消した後でもその支払いを請求することができます。
なお、内縁関係は法律婚とは違い、別居により夫婦同然の生活実態がなくなるため、内縁関係も解消されます。したがって、相手に支払いを求めることができるのは内縁関係が継続している間に発生した未払いの婚姻費用で、別居により内縁関係が解消された後に発生した費用は含まれません。
財産分与
財産分与とは、相手との内縁関係中に築いたプラス・マイナスの財産を男女で分け合うことです。
財産分与は、本来、法律婚の夫婦が離婚する場合に認められるものですが、婚姻関係に準じる内縁関係にある男女にも認められます。
内縁関係に中に築いた財産であれば、基本的に、名義がいずれにあるのか、いずれが財産の形成に貢献したか、ということは関係ありません。たとえば、あなたが専業主婦で、相手が会社員の場合でも、相手の給与・賞与がメインに振り込まれた相手名義の預貯金も財産分与の対象とすることができます。
慰謝料
慰謝料は、内縁関係にある相手の不法行為によって受ける精神的苦痛に対する賠償です。
慰謝料(請求)は、婚姻関係に準じる内縁関係にある男女にも認められます。
正当な理由なく内縁関係を解消された場合のほか、内縁関係が継続中に相手に以下のような行為があった場合には慰謝料請求が可能です。
- 不貞行為(浮気)
- DV(暴力)
- モラハラ(精神的暴力)
- セックスレス
- 悪意の遺棄(正当な理由なく生活費を入れない、家出するなど)
慰謝料の額は、不貞行為の内容、違法性、内縁期間の長さ、相手の収入などを考慮して決めます。
重婚的内縁についてよくある質問
相続できる?
相続権は婚姻届をした夫婦を前提とする制度ですので、重婚的内縁のパートナーの一方が亡くなった場合、他方は遺産を相続することができません。
もっとも、以下に挙げるような方法で残された内縁配偶者が遺産を引き継ぐことは可能です。
- 遺言書を作成してもらう
- 生前贈与を受ける
- 死因贈与契約を締結しておく
- 生命保険の受取人になっておく など
ただし、亡くなった内縁のパートナーの法律上の配偶者やその配偶者との間の子どもには、相続人に最低限保障される相続分(これを「遺留分」といいます)が法律で定められています。そのため、たとえ亡くなった内縁パートナーが「全ての財産を内縁配偶者に相続させる」という遺言を残していたとしても全額受け取ることはできません。
また、重婚的内縁関係の配偶者が遺産を受け取った場合にかかる相続税は、戸籍法上の届け出をしている配偶者の税額の1.2倍、つまりは2割増しと定められています。思っていた以上に相続税が高額になることもありますので注意が必要です。詳しくは、内縁の妻(夫)に相続権はない!遺産を引き継ぐためには?を参考にしてください。
遺族年金は受けられる?
重婚的内縁関係のパートナーが亡くなった場合、遺族年金は、法律上の婚姻関係にある配偶者に優先的に支払われるのが原則です。しかし、法律上の婚姻関係が破綻・形骸化している場合には、例外的に重婚的内縁関係の他方が受給することができます。ただし、遺族年金を受給するには、亡くなったパートーナーと生計を共にしたといえる必要があります。
子どもとの親子関係はどうなる?養育費は請求できる?
法律婚の夫婦の間に生まれた子は嫡出子として当然に父子関係が生じます。他方で、重婚的内縁関係の夫婦間に生まれた子は、出産の事実により当然に母子関係は生じますが、父親が認知しない限り父子関係は法律上当然には発生しません。父親が任意に認知しない場合には強制認知という手続きにより父親に認知を求めていくことになります。
なお、父親が認知すれば(あるいは強制認知が認められれば)法律上の親子関係が創設され、父は子に対して扶養義務を負いますので、仮に重婚的内縁関係が解消された後でも母親は父親に対し子の養育費を請求できます。
内縁を解消しても養育費を請求できる?請求するための方法を解説
まとめ
重婚的内縁であっても、法律上の婚姻関係にある夫婦関係が既に破綻・形骸化していると認められる場合には、法の保護を受けることができます。
もっとも、ご自身の状況で法の保護が及ぶのかどうか判断がつかない方もおられると思います。そのほかにも、重婚的内縁関係を解消するにあたっての財産分与や慰謝料請求、養育費請求などご自身一人では対応が難しいこともあるでしょう。
当事務所は内縁問題の解決を得意としており豊富な実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者のために全力を尽くすことをモットーとしておりますので、重婚的内縁関係でお悩みの方は当事務所までご相談ください。お力になれると思います。
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