内縁とは、戸籍上の定めに従い婚姻届を役所に届け出ることで成立する「法律婚(婚姻・結婚)」に対して、婚姻の届出をしていないため法律上の夫婦とは認められないものの、社会生活を送る上で事実上夫婦同然の生活をしている状態のことを指します。「事実婚」とも言います。
この記事では、内縁関係のトラブルに強い弁護士が、主に以下のような疑問を解消していきます。
- 内縁の妻とは?
- 内縁の妻と認められる条件は?同居期間は何年必要?
- 内縁の妻はなぜ結婚しないの?メリットがあるの?
- 逆にデメリットは?内縁の妻には認められない権利がある?
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目次
内縁の妻とは?
内縁の妻の定義は?
内縁の妻とは、婚姻の届出をしていないため法律上の夫婦とは認められないものの、社会生活を送る上で事実上夫婦同然の生活をする妻のことです。
内縁関係は、「婚姻に準ずる関係」として判例(最高裁昭和33年4月11日判決)上も保護されています。
いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。
内縁関係が認められるための条件
法律上、内縁関係があると認められるためには以下の2つの条件を満たす必要があります。
- ①互いに婚姻意思を持っていること
- ②一定期間同居し、夫婦同然の共同生活の実態があること
①互いに婚姻意思を持っていること
内縁関係が認められるためには、お互いに婚姻意思を持っている必要があります。したがって、単に恋人同士が同棲しているだけでは内縁関係が認められません。
以下のような客観的事実があれば、「婚姻意思がある」と認められやすくなります。
- 結婚式・披露宴の予約をした。または、既に結婚式を挙げた
- 婚約指輪の授受があった
- 互いの両親や親族が夫婦として認識している
- 住民票の続柄の欄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載されている
- 社会保険の第3号被保険者として登録されている
- 2人の間に子がいて、父親が子を認知している
裁判で内縁関係が認められるかどうかが争われた場合には、上記のような事実を総合的に考慮して、婚姻意思があったかどうかが判断されます。
②一定期間同居し、夫婦同然の共同生活の実態があること
内縁関係が認められるには、一般的には3年以上の同居期間と夫婦同然の共同生活の実態が必要といわれています。したがって、互いに婚姻意思があっても別居していたり、生計(家計)を別にしているような場合には内縁関係は認められません。
内縁の妻のメリット・デメリット
メリット
内縁関係の一方または双方が既婚者(いわゆる不倫関係)である重婚的内縁関係の場合には、日本では重婚が認められていない以上、法律上、結婚することはできません。
しかし、双方独身にも関わらず内縁の妻という選択肢を選ぶ女性もいます。
ここで「内縁の妻はなぜ結婚しないのだろう…」「内縁の妻を選択した理由はなんだろう…」と考える方もいるかもしれませんが、実は内縁の妻を選択することで法律婚の妻にはないメリットも享受することができます。以下で確認していきましょう。
改姓しなくてよい
結婚すると夫婦一方の姓を改姓する必要がありますが、内縁の妻は内縁の夫の戸籍に入りませんので改姓の必要がありません。また、改姓しないことのメリットとしては、
- 結婚したことが周囲に知られず、プライバシーが守られる
- 運転免許証、クレジットカード、銀行口座などの改姓変更手続きが不要
- これまでと変わりなく仕事を継続できる
- 自分自身のアイデンティティーが守られる
- 男女が平等・対等であることを意識して生活していける
ことなどをあげることができます。
相手親族と一定の距離を置いて生活できる
また、改姓すると、どうしても周囲から「嫁ぎ先の家の一員」という目で見られます。そのため、自然と嫁ぎ先の家の慣習や価値観に合わせて生活していかなければならず、それが精神的な負担となってしまうことがあります。一方、前述のとおり、内縁の妻は改姓する必要はありませんから、嫁ぎ先の一員という目で見られる心配もなくなり、相手親族の慣習や価値観にとらわれることなく、一定の距離を置いて生活できるようになります。
内縁関係を解消しても戸籍に残らない
結婚すると改姓した側が相手の戸籍に入り、結婚した旨が相手の戸籍と除籍された元の戸籍(多くは親の戸籍)に記録されます。また、離婚すると相手の戸籍のほか自分の戸籍にも離婚した旨が記録されます。一方、内縁の場合、内縁の情報はお互いの戸籍には記録されません。また、内縁関係を解消した際も、内縁を解消した情報はお互いの戸籍に記録されません。したがって、内縁の妻が内縁解消後に誰かと結婚する際にその相手に過去に内縁関係があったことを知られることはありませんし、戸籍のうえでも「初婚」として扱われます。
法律婚とほぼ同等の権利・義務がある
上記の通り、内縁は婚姻に準ずる関係として保護されるわけですから、内縁の妻にも、以下のような法律婚と同等の権利が認められています。
- 財産分与:内縁関係となった後に共同で築いた財産の分与を請求できる権利(※1)
- 年金分割:相手の厚生年金記録の分割を請求できる権利(※1,2)
- 養 育 費:子どもの養育にかかる費用を請求できる権利(※3)
- 面会交流:子どもと離れて暮らす親が子どもと交流を図ることができる権利(※3)
- 慰 謝 料:内縁関係の解消につき、一方に責任がある場合に請求できる権利
- 婚姻費用:別居中に発生する生活費を請求できる権利
一方、子どもが生まれた場合は、子どもを共同して養育する義務を負います。また、貞操義務、同居・扶助・協力義務も相互に負うこととなります。
※1 内縁関係が開始されたことの証明が必要です
※2 相手が自営業者の場合は年金分割できません
※3 子どもの認知が必要です
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デメリット
内縁の妻にはメリットがある一方、法律婚の妻と違い以下のようなデメリットもあります。
相続権がない
相続権とは、配偶者が死亡した場合に、配偶者がそれまで有していた財産を引き継ぐことができる権利のことです。この相続権は婚姻届をした夫婦を前提としているため、内縁の妻には相続権は認められていません。
もっとも、死亡した内縁の夫に相続人がいない場合は、内縁の妻が特別縁故者として財産を引き継ぐことが可能です。また、相続人がいる場合でも内縁の夫が遺言書を作っていた場合や内縁の妻と死因贈与契約を締結した場合は財産を引き継ぐことが可能です。
各種控除を受けることができない
内縁の妻は配偶者控除、配偶者特別控除、生命保険控除を受けることができず、法律婚の妻に比べて所得税・住民税が高くなってしまいます。また、相続税・贈与税がかかる際(内縁の妻に相続権はありませんが、遺贈などにより内縁の夫の遺産を受け取ることは可能です。後述します)に受けることができる税法上の特例や控除も受けることができませんから、内縁の夫から財産を引き継ぐ場合は相続税や贈与税が高くなってしまう可能性があります。
配偶者であることの証明が容易ではない
日常生活における重要な場面において配偶者であることの証明が必要となることがあります。この点、法律婚の夫婦の場合、婚姻したことが戸籍に表示されますので、その戸籍を取り寄せて提出するだけで配偶者であることの証明が可能です。
一方、内縁の場合、戸籍には内縁関係にあることの記載はされず、住民票や生命保険証書、共同生活を送っている写真などによって配偶者であることを証明する必要があります。
手術などで同意ができない場合がある
夫が意識不明の状態で手術等が必要となった場合に、夫に代わって妻や親族が度同意書にサインを求められることがあります。この点、法律婚の妻であれば問題なくサインできますが、内縁の妻は、法律上は赤の他人にみなされるため同意書にサインすることができません。
子どもが不利益を受けるおそれがある
内縁関係にある夫婦に生まれた子どもは非嫡出子と呼ばれます。非嫡出子は、父親との間に当然には法律上の父子関係は生じません。したがって、父親の子どもに対する扶養義務は生じません。また、父親が死亡した場合、子どもは相続権を取得することができません。扶養義務や相続権を発生させるには認知が必要です。
また、父親と子どもとの姓が異なります。姓が異なるということは、父親と子どもが同じ戸籍に入ることができません(母親の戸籍に入ります)。子どもの親権は母親がもちますが、認知後、協議の上で父親が親権者となることは可能です。
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内縁の妻でもできることは?
上記で、内縁の妻は法律婚の妻とほぼ同等の権利があることをお伝えしましたが、内縁の妻が法律婚の妻と同様に”できること”について、いくつかピックアップして解説していきます。
社会保険の扶養に入ることができる
内縁の妻であっても、内縁の夫の社会保険の扶養に入ることができます。
内縁の夫の収入により生計を維持しており、双方の戸籍上の配偶者がいなければ、内縁関係の妻であっても健康保険の被扶養者となることができます。
ただし扶養に入る手続きに関しては健康保険組合に対して通常の申請書類が必要となるほか、続柄の記載がある住民票や、重婚でないことを確認するために双方の戸籍謄本などの提出が必要となります。
また、内縁の妻であっても、死亡退職金や遺族年金を受け取ることができます。
年金保険については内縁の妻であっても国民年金第3号被扶養者となることができます。健康保険や年金保険では、あくまでも配偶者の実態を重視して社会保険を適用しようとしているため、内縁の妻であっても「配偶者」要件を満たす可能性があるのです。
一方で所得税は取り扱いが異なりますので、法律婚の妻でなければ税務上の扶養(配偶者控除)に入ることはできません。
慰謝料請求・婚姻費用の分担請求ができる
内縁の妻であってもDV・不貞行為などの不法行為に基づく損害賠償として慰謝料を請求することができます。
また、内縁の夫が生活費を負担しない場合には、婚姻費用の分担義務についても内縁関係に準用されることになりますので、相手方に生活費を負担するように請求することもできます。
ただし内縁関係の場合には、法律婚と異なり、内縁の妻であることを証拠を提出して立証していく必要があることは共通です。
内縁の夫が事故死した場合に損害賠償請求ができる
交通事故や医療事故のように第三者の過失によって内縁の夫が死亡した場合には、内縁の妻であっても加害者に対して慰謝料などの損害賠償請求ができます。
具体的に、内縁の妻が内縁の夫から扶養を受けている場合、内縁の夫が事故で亡くなった際には、将来の扶養利益の逸失利益が喪失したことを損害として加害者に請求することができます。
内縁の場合、被害者の権利を相続することができませんので、被害者自身の逸失利益や慰謝料などを承継して内縁配偶者が請求することはできません。
ただし内縁関係の場合、扶養請求や内縁配偶者固有の慰謝料を請求する権利があることは判例上も認められています。
内縁の妻が夫の遺産を得るためにできること
遺言書を作成しておいてもらう
内縁の妻は法律婚の妻と異なり相続人になることができません。しかし「遺贈」を受けることはできます。
「遺贈」とは、遺言によって相続人や相続人以外の人に財産を引き継がせる行為を言います。遺言は土地・建物、預貯金などのように特定の財産を対象にすることもできますし、「全ての財産を遺贈する」などと包括的に指定することもできます。
遺言書を作成する際には、「公正証書遺言」を作成しておくことがおすすめです。なぜなら公正証書遺言は公証人が作成するため、内容に問題が起こることがありません。遺言者が自署して作成する「自筆証書遺言」では内容に不備があり亡くなったあとに遺言としては無効とされてしまうリスクがあるのです。
なお、内縁の妻に財産を遺贈する場合には、一定の法定相続人との間で「遺留分」の問題が生じる可能性があります。「遺留分」とは、遺言の自由を制限して一定範囲の相続人のために法律上必ず留保されなければならない相続分の一定割合のことをいいます。
遺留分権利者となるのは、「兄弟姉妹以外」の相続人で子ども、直系尊属、配偶者です。内縁の場合には前妻との子どもと内縁の妻との間で問題となることが多いでしょう。後々争いとならないように遺留分以外の財産を遺贈する内容で遺言を残しておいたり、遺留分権利者と連絡をとり遺留分を請求しないことを約束してもらったりする方法があります。
生前贈与を受けておく
内縁の妻が、内縁の夫から生前に財産の贈与を受けておくことで財産を受けとることができます。贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思表示をして相手方が受諾することで成立します。
生前贈与については、内縁の夫が亡くなった後にトラブルにならないように「贈与契約書」を作成しておくべきでしょう。
ケースによっては高額な贈与税を負担しなければならない可能性がありますので注意が必要です。
生命保険の受取人となっておく
生命保険について、保険会社によっては内縁の妻を生命保険金の受取人として指定することができる場合があります。
内縁の妻を保険金の受取人に設定しておくには、保険会社の定める基準を満たす必要があります。基本的に生命保険の保険金受取人の範囲は「配偶者・2親等の以内の血族」とされていることが多いです。ただし、双方に戸籍上の配偶者がおらず、保険会社が定める期間同居しており、生計を共にしている場合には内縁の妻でも受取人にできる可能性があります。
上記を証明するためには、戸籍謄本・住民票・収入証明などの公的な書類を保険会社に提出する必要があるでしょう。
しかし最終的な判断は各保険会社が行うことになりますので、会社によって基準が異なっていたり、さらなる条件が付加されたりする場合もあります。そのため具体的には保険会社に確認する必要があるでしょう。
遺族年金を受給する
内縁の妻であっても、遺族年金を受給できる「配偶者」に該当する場合があります。
内縁の妻が遺族年金を受け取るためには内縁配偶者と生計を共にしていたといえる必要があります。
上記を証明するためには内縁関係を証明できる住民票・戸籍謄本や、税制上の扶養であることを証明する源泉徴収票や生命保険の証書などを提出することになるでしょう。
特別縁故者として遺産を受け取る
内縁の夫が死亡した場合、相続人として権利を主張する者がいないとき、内縁の妻は「特別縁故者」として相続財産の分与を受けることができます。
「特別縁故者」とは、亡くなった人と生計を同じくしており、同人の療養看護に努めたものや、亡くなったものと特別の縁故があった者のことをいいます。
特別縁故者の請求によって、家庭裁判所が清算後残存する相続財産の全部または一部の財産を与える判断をすることになります。
一人でも内縁の夫側の相続人が生存している場合には特別縁故者として請求することはできません。
まとめ
内縁の妻は法律婚に準じた扱いを受けるため、法律婚の妻とほぼ同等の権利・義務があります。
もっとも、相続権がないことや、内縁関係にあることの証明を求められる場面も多く、法律婚にはない問題が生じることもあります。特に相続権がないことに関して、内縁の夫が死亡する前に遺産相続についての対策をとっておく必要性は高いでしょう。
弊所では、内縁の妻から夫に対する慰謝料請求、遺言書の作成など内縁に関する様々な問題を解決してきた実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でサポートしますので、内縁問題でお困りの方はまずはお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。
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