
プロバイダから突然届いた「発信者情報開示請求に関する意見照会書」。トレント(BitTorrent)を使った覚えがないのに、なぜ自分宛に届いたのか──。
実は、トレントによる開示請求は年々増加しており、当事務所にも「身に覚えがない」という相談が急増しています。回線の契約者本人が利用していなくても通知が届くケースは珍しくありません。家族や友人が自宅のWi-Fiを使っていたり、第三者が不正にアクセスしていたり、あるいはご自身の記憶が曖昧なケースもあるでしょう。
重要なのは、この通知を放置したり、誤った回答をすると、後に高額な損害賠償請求や民事訴訟に発展するリスクがあるということです。意見照会書への回答期限は通常2週間以内。この期限内に適切な対応を取らなければ、著作権者側との和解が難しくなったり、最悪の場合は著作権法違反で刑事責任を問われる可能性もあります。
一方で、身に覚えがない場合でも、状況によって取るべき対応は大きく異なります。家族が使用していた場合、ご自身の記憶が曖昧な場合、完全に第三者による不正利用の可能性がある場合──それぞれで意見照会書への回答方法や、その後の示談交渉の進め方は変わってきます。
本記事では、トレント開示請求の対応実績が豊富な弁護士が、「身に覚えがない」ケース別の正しい対応方法と注意点を、実際の対応事例をもとに解説します。すでに意見照会書を受け取っている方は、回答期限を過ぎる前に専門家へご相談ください。弁護士法人 若井綜合法律事務所では、全国どこからでも無料でご相談いただけます。
ネットで誹謗中傷されたら弁護士に無料で相談してみよう |
|
記事の目次
トレント利用における発信者情報開示請求とは?
トレント(BitTorrent)を利用して動画や音楽、ゲームなどをダウンロードしたり共有したりした結果、ある日突然プロバイダから「発信者情報開示請求に関する意見照会書」が届くケースが増えています。身に覚えがない人にとっては衝撃的な通知ですが、これは著作権侵害が疑われた場合に制作会社(著作権者)が法的手続として行うものです。
この章では、そもそも発信者情報開示請求とは何か、どのような流れでトレント利用者に届くのかを、ファイル共有ソフトの仕組みとともにわかりやすく説明します。
発信者情報開示請求とは
「発信者情報開示請求」とは、インターネット上で著作権侵害などの権利侵害を受けた者が、その侵害行為に用いられたインターネット回線の契約者(発信者)を特定するため、プロバイダ(インターネット接続業者)に対し、契約者の氏名や住所などの個人情報の開示を求める法的な手続きです。
制作会社などは、この開示された情報をもとに、損害賠償請求や刑事告訴などの次の法的手段に進みます。プロバイダは回線契約者の情報は把握していますが、実際にその回線を利用して誰が違法なダウンロードやアップロードを行ったかまでは特定できません。そのため、開示請求を受けたプロバイダは、契約者に対して「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という文書を送付し、情報開示に同意するかどうかの意見を確認します。
この意見照会書が、身に覚えのない方のもとに届くことになります。
なぜトレント利用で開示請求されるのか
トレント(BitTorrent)というファイル共有ソフトの技術自体は、オープンソースソフトウェアの配布などにも利用されており、それ自体は違法ではありません。
しかし、著作権で保護された著作物(AV動画、映画、アニメ、音楽など)を、著作権者に無断で、かつ違法にアップロードされたものと知りながらダウンロードする行為は、著作権法違反にあたります。
トレントはダウンロードのみも違法?リスクと開示請求された事例
AVをトレントでDL後に開示請求された際の対処法を実例で解説
さらに重要なのは、トレントの仕組みです。トレントではファイルをダウンロードする際、同時に自分のPCから他のユーザーへデータの一部を自動的にアップロード(送信)する機能が組み込まれています。つまり、利用者が意識的にアップロードするつもりがなくても、ダウンロードを開始した時点で、自動的に作品データが他のユーザーに拡散される状態になります。これは著作権法上の「公衆送信可能化」に該当し、著作権者の公衆送信権を侵害する行為とみなされます。
そのため、制作会社はこのアップロード行為を根拠として、発信者情報開示請求を行うのです。
身に覚えがないのにトレントで開示請求を受けるケース
「発信者情報開示請求に関する意見照会書」が届いたものの、トレントを利用した記憶がない──。実際、このような"身に覚えのない"ケースは少なくありません。開示請求は、インターネット回線の契約情報をもとに行われるため、契約者本人が直接トレントを利用していなくても、開示請求の対象となり通知が届くことがあります。
ここでは、トレント利用に身に覚えがないにもかかわらず開示請求を受ける代表的なケースを紹介します。
- ① 家族・友人・従業員など他人が使用していた場合
- ② 自分でトレントは使ったが、該当作品に記憶がない場合
- ③ トレント自体を使った覚えがまったくない場合
①家族・友人・従業員など他人が使用していた場合
発信者情報開示請求は、あくまでインターネット回線の契約者に対して行われます。そのため、契約者本人に身に覚えがなくても、契約している回線が使用されたことで意見照会書が届くケースが少なくありません。
具体的には、以下のようなケースです。
- 同居している家族(子や配偶者など)が家族共有のPCや個人の端末でトレントを利用していた場合
- 自宅に遊びに来た友人が自宅のWi-Fiネットワークを使ってファイルをダウンロードした場合
- 会社名義の回線を使用している従業員が職場のPCでトレントを利用していた場合 など
これらの場合、プロバイダの契約情報とIPアドレスの所有者が一致するため、契約者であるあなたのもとに意見照会書が届いてしまうのです。
②自分でトレントは使ったが、該当作品に記憶がない場合
このケースは、回線契約者であるご自身が過去にトレントソフトを利用したことはあるものの、意見照会書に記載されている特定の作品をダウンロードした記憶がない場合や、PC上にもその作品データや履歴が残っていない場合です。
トレントの利用がかなり以前であったり、ダウンロード後にすぐにファイルを削除してしまったりしている場合、その詳細な内容を覚えていない可能性があります。この場合、「トレントは使ったかもしれないが、この作品をダウンロードした覚えはない」という状況となり、結果として身に覚えがないという感覚に陥ります。
しかし、制作会社側は侵害の事実を裏付けるIPアドレスとタイムスタンプを特定しているため、対応には注意が必要です。
③トレント自体を使った覚えがまったくない場合
最も困惑するのが、回線契約者本人だけでなく、同居家族も含めて誰もトレントソフトを使用したことがなく、PC上にインストール履歴や関連データも一切存在しないというケースです。
この場合は、ご自身の回線が意図せず第三者に利用された可能性があります。例えば、自宅のWi-Fiルーターのセキュリティ設定が脆弱で、近隣の第三者に無断で回線を使用されたケースや、ご自身の回線が不正アクセスにより乗っ取られてトレントの通信に悪用されたケースなどが考えられます。
この場合もIPアドレスの契約者であるあなたに意見照会書が届くことになりますが、権利侵害行為を否定し、第三者による利用であることを主張・立証していく必要があります。
トレントで身に覚えがない開示請求を受けた場合の対処法
トレント利用に関する発信者情報開示請求の意見照会書が届いた場合、身に覚えがないと感じても、意見照会書を無視したり、不適切な回答をしたりすることは絶対に避けるべきです。ケースによって最適な対処法が異なるため、以下では、意見照会書への回答方法と、開示後に制作会社から示談金の請求が届いた場合の対応をケース別に説明します。
家族・友人・従業員など他人が使用していた場合の対処法
発信者情報開示請求はあくまで「回線契約者」に対して行われるため、契約者本人に身に覚えがなくても、同居家族や友人、従業員など他人がその回線を利用してトレントを使用していた場合でも通知が届くことがあります。このようなケースでは、実際の使用者と契約者が異なるため、どのように回答すべきか慎重な判断が必要です。
ここでは、他人が契約回線を利用していた場合の具体的な回答方法や、その後に制作会社から示談金の請求が届いた際の対応について説明します。
意見照会書への回答方法
ご自身の回線を利用して家族、友人、または従業員など第三者が著作権侵害行為を行ったことが判明した場合は、実際に使用した本人に対応させることが基本です。
意見照会書への回答方法はプロバイダによって異なりますが、プロバイダが実際の使用者本人からの回答を受け付ける場合は、使用者本人が「開示に同意する」と回答します。プロバイダが契約者以外の回答を受け付けない場合は、回線契約者であるあなたが「開示に同意する」と回答し、その際に回答書に「実際に使用したのは〇〇(使用者名・続柄)である」旨を追記することが望ましいです。
これにより、制作会社へ氏名・住所などの情報が開示された後、実際に行った本人へ直接連絡が行くように促すことができます。
制作会社から示談金の請求が届いた場合の対応
情報が開示された後、制作会社から示談金の請求が届いた場合、直接使用した本人が制作会社との示談交渉を行うべきです。回線契約者が契約者の知らない間にダウンロード行為が行われていたことを明確に証明できれば、原則として契約者自身が損害賠償責任を負うことはありません。
ただし、制作会社からの通知は契約者宛に届くことが多いため、届いた通知を速やかに使用者本人に渡し、弁護士を立てて示談交渉を進めるように依頼しましょう。契約者自身が不必要な責任を負わないよう、早期に弁護士に相談し、適切な線引きを行うことが重要です。
自分でトレントは使ったが、該当作品に記憶がない場合の対処法
自身でトレントソフトを利用した経験はあるものの、意見照会書に記載された特定の作品をダウンロードした記憶がない──こうしたケースも少なくありません。過去の利用時期が古かったり、ダウンロード後にファイルを削除していたりする場合、詳細を覚えていないのは自然なことです。
しかし、制作会社はIPアドレスと通信記録(タイムスタンプ)をもとに開示請求を行っているため、安易に放置したり否定したりするのは危険です。この章では、記憶が曖昧な場合の適切な回答方法と、開示後の対応について説明します。
意見照会書への回答方法
過去にトレントソフトを利用した心当たりがあるものの、開示請求された該当作品のダウンロードに記憶がない場合は、まずご自身のPC上のデータや履歴を確認し、ダウンロード記録がないかをチェックしましょう。
自分がダウンロードした可能性や心当たりが少しでもある場合は、「開示に同意する」と回答し、その後の損害賠償請求に備えて早期に弁護士に相談することを検討すべきです。
しかし、全く記憶になく、PC上にも記録がない場合は、「開示に不同意」で回答するという選択肢もあります。
ただし、プロバイダがログなどをもとに権利侵害の可能性が高いと判断して開示に応じる場合があります。また、不同意で回答しても、著作権者が裁判所に開示命令を申し立て、裁判所が権利侵害が明らかだと判断すれば、最終的に開示が認められる可能性があります。
制作会社から示談金の請求が届いた場合の対応
自分がダウンロードした可能性や心当たりが少しでもある場合は、早期に弁護士に相談し、適切な示談交渉を検討すべきです。弁護士は、制作会社側の請求が過大でないかを精査し、適正な賠償額での示談成立を目指します。
全く記憶がない場合でも、民事裁判ではIPアドレス情報から「契約者=投稿者」と推認されやすいという法的リスクが存在します。そのため、自己判断で示談を拒否し続けると、民事訴訟に発展し、最終的に高額な賠償金と訴訟費用を請求されるリスクがあるため、専門家に相談して対応方針を決定すべきです。
トレント自体を使った覚えがまったくない場合の対処法
自分も家族もトレントを利用したことがなく、パソコンにもソフトやデータの痕跡がない──それにもかかわらず、発信者情報開示請求の通知が届くことがあります。この場合、第三者によるWi-Fiの不正利用や不正アクセスによって回線が悪用された可能性が考えられます。
このようなケースでは、身に覚えがないことを証明するための証拠収集が重要です。ここでは、意見照会書への具体的な回答方法と、投稿者でないことを立証するための手順を説明します。
意見照会書への回答方法
回線契約者本人も家族もトレント利用の記憶がなく、PC上にもソフトや記録が一切ない場合は、「開示に不同意」で回答することが適切です。不同意の理由としては、「トレントソフトの利用の記憶がないこと」や「PC上にトレントソフトや該当作品のデータの記録がないこと」を具体的に記載します。
しかし、この場合でも、プロバイダがログをもとに権利侵害の可能性が高いと判断して開示に応じる場合があります。また、著作権者が裁判所に開示命令を申し立て、裁判所が権利侵害が明らかだと判断すれば、最終的に開示が認められる可能性があります。
不同意で回答した場合は、次のステップとして投稿者でないことの証明に早急に着手すべきです。
投稿者でないことを証明する証拠収集
ご自身が投稿者でないことを客観的に立証するための証拠集めが極めて重要であり、意見照会書が届いた後すぐに取り掛かる必要があります。具体的な証拠の例としては、アリバイ証拠(投稿日時に自宅にいなかったことを証明できるレシート、クレジットカードの利用明細、交通機関の乗降履歴、スマホの位置情報サービスの記録など)や、PCなどを専門業者に解析してもらいログを調査するデジタルフォレンジック調査が有効です。
また、Wi-Fiルーターの接続機器リストを確認することで、不審な第三者による不正アクセスの痕跡を発見できる場合があります。これらの証拠収集には専門的な知識が必要なため、早期に弁護士に相談し、適切な方法で証拠を保全すべきです。
制作会社から示談金の請求が届いた場合の対応
トレント利用の記憶もPC上にも記録もない場合は、トレントの利用、ひいては作品のダウンロード・アップロードも行っていないことを理由に示談を断るという選択肢を取ることも可能です。しかし、民事裁判では「契約者=投稿者」という推認がはたらきます。この推認を覆すためには、集めた証拠を基に裁判で争うことになりますが、これには弁護士費用や敗訴のリスクが伴います。
そのため、身に覚えがない場合でも、自己判断で示談を拒否したり、安易に争う姿勢を見せたりすることは非常に危険です。必ず弁護士に相談し、ご自身の証拠の強さを評価してもらった上で、最もリスクの低い対応方針を決定すべきです。
身に覚えがないトレント開示請求を弁護士に相談するメリット
トレント利用をめぐる発信者情報開示請求は、身に覚えがない場合でも放置や誤った対応によって法的責任を問われるリスクがあります。意見照会書の回答内容や対応時期によって、その後の開示・損害賠償請求の結果が大きく変わるため、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
ここでは、弁護士に相談することで得られる主なメリットを、以下の3つの観点から解説します。
- ① ケースに応じた最適な対応方法を提案してもらえる
- ② 証拠収集から示談交渉まで一貫したサポートを受けられる
- ③ 手続きの負担を軽減し、精神的にも安心できる
① ケースに応じた最適な対応方法を提案してもらえる
トレント利用に関する意見照会書が届いた場合、身に覚えがなくても放置や自己判断での回答は非常に危険です。弁護士に相談すれば、意見照会書の内容や開示請求の法的根拠を精査したうえで、開示に同意すべきか不同意とすべきか、状況に応じた最適な対応方法を提案してもらえます。
依頼者の状況が「完全に身に覚えがない」「自分で使ったが記憶がない」「家族が使った」など、どのケースに該当するかを整理し、それぞれに適した回答書の記載方法や注意点を具体的にアドバイスしてもらえる点も大きなメリットです。
② 証拠収集から示談交渉まで一貫したサポートを受けられる
完全に身に覚えがない場合、ご自身が投稿者でないことを立証するためには、客観的な証拠の収集が欠かせません。弁護士に依頼することで、投稿日時のアリバイ証拠(レシート・交通機関の乗降履歴など)やPCのログ解析(デジタルフォレンジック)など、法的に有効な証拠をどのように確保すべきかについて専門的な助言を受けられます。
また、意見照会書の回答作成から、開示後に制作会社との示談交渉までを弁護士が一貫して対応するため、請求額の妥当性を精査し、適正な示談金額での早期解決を目指すことが可能です。
③ 手続きの負担を軽減し、精神的にも安心できる
突然プロバイダから意見照会書が届くと、多くの方が不安や混乱を感じるものです。弁護士に相談すれば、現在の状況を法的に整理し、今後の見通しを明確にした上で冷静な対応ができるようになります。
さらに、弁護士が窓口となることで、プロバイダや制作会社から依頼者に直接連絡が来ることがなくなり、精神的な負担も軽減されます。複雑な書類対応や示談交渉をすべて専門家に任せることで、法的リスクを最小限に抑えながら安心して問題解決を進められます。
身に覚えのないトレント開示請求は弁護士に早期相談を
プロバイダから発信者情報開示請求の意見照会書が届いた場合、回答内容によってその後の展開が大きく変わります。特に身に覚えがないケースでは、意見照会書への回答方法を誤ると、不当な損害賠償請求を受けたり、訴訟に発展したりするリスクがあります。
弁護士に早期相談すれば、開示請求の法的根拠を精査し、あなたの状況に応じた最適な回答方法を判断できます。また、情報開示後に制作会社から示談金の請求が届いた場合も、請求額の妥当性を検証し、適正な金額での示談成立を目指すことが可能です。
弁護士法人 若井綜合法律事務所では、トレント開示請求に関するご相談を、全国どこからでも無料でお受けしています。意見照会書の回答期限は通常2週間以内です。期限を過ぎる前に、まずはお気軽にご相談ください。オンラインや電話でのご相談も可能です。
ネットで誹謗中傷されたら弁護士に無料で相談してみよう |
|