個人再生は、基本的に申立人の住所地を管轄する地方裁判所で行われる手続きです。
そのため、実際に手続きを行うことになる裁判所を、申立人が自由に選択することはできないことが原則となっています。
日本全国どこに住んでいる人でも、個人再生する以上、地方裁判所で行うことになることに違いはありません。
しかし、その手続きの具体的な運用は、それぞれ地方裁判所ごとに大きく異なることがあります。
今回こちらでは、東京地裁での個人再生の手続きに関する具体的な運用についてご説明いたします。
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東京地裁について
日本の首都である東京は、当然ながら人口も多く、地方裁判所の利用者も日本一となっています。
そのため、東京地裁は地方裁判所としての規模も日本最大のものとなっています。
東京都内に住所のある人が個人再生する場合、手続きは原則として東京地裁で行うことになります。
東京地裁の管轄区域について
東京地裁には本庁と支部が設置されており、裁判所を利用しようとする人の住所地によって、手続きを行うことになる裁判所の区域が分けられています。
東京地裁の本庁
東京地裁の本庁は、千代田区の霞が関に所在する、日本最大の地方裁判所です。
本庁の管轄区域とは?
基本的に23区内および島しょ部(八丈島などの離島)に住んでいる人は、東京地裁の本庁を利用することになります。
東京地裁の支部
東京地裁には、本庁のほかに支部が立川市に設置されています。
このため、この立川支部が管轄することになっている区域に住んでいる人は、東京地裁本庁ではなく立川支部を利用することになります。
立川支部の管轄区域とは?
東京地裁立川支部の管轄は、東京都内における東京地裁本庁の管轄区域外の市町村となります。具体的には、多摩地区の市町村です。
東京地裁の3つの特徴
個人再生手続きの運用という視点で見た場合、東京地裁での手続きは、ほかの地方裁判所と比較して特徴的な部分がいくつか存在します。
東京地裁における個人再生の手続きは、基本的に小規模個人再生の流れと同様ですが、以下のような3つの点において特徴的といえるでしょう。
なお、小規模個人再生の基本的な流れについては、以下の記事でわかりやすく解説されておりますので参照してください。
①原則的に弁護士を代理人とする必要あり!
東京地裁では、個人再生の手続きに関しては、原則として弁護士を代理人とする必要があります。
もちろん、申立人個人で行うこともできますが、裁判所への費用が増えるなど不都合が発生することになります。
また、司法書士が関与している場合でも、基本的には本人個人での申し立てと同様の扱いをされるため、やはり、弁護士依頼が原則と考えたほうがよいでしょう。
②個人再生委員が必ず選任される
東京地裁で個人再生を申し立てる場合、全件において個人再生委員が選任される扱いとなっています。
これは、弁護士が代理人となっている申し立てでも同様です。
このため、裁判所に納めなければならない費用が、最低でも15万円は増えることになります。
③履行テストが実施される
東京地裁では、個人再生委員への報酬を分割して予納するというシステムが採用されています。この分割予納を履行テスト(「履行可能性テスト」ともいいます)として、個人再生手続き後に始まる債務の返済が可能かどうかの判断材料としているのです。
このテスト期間は、申立人に毎月きちんと返済することを学習させるという意味から、「トレーニング期間」とも呼ばれます。
東京地裁の運用は厳格!
冒頭で述べたように、個人再生に関する手続きは地方裁判所ごとに大なり小なり異なります。
しかし、うえで見たように個人再生委員がかならず選任されるなど、東京地裁での個人再生手続きの運用は全国的に見ても非常に厳格です。
東京地裁での書式について
東京地裁に個人再生を申し立てる際に必要な書類の書式に関しては、基本的に日弁連の公表しているフォーマットが利用されています。一般的に「東京地裁モデル」と呼ばれているものです。
以下のホームページから、ダウンロードして利用することが可能です。
東京地裁の個人再生での必要書類とは?
東京地裁で行われる個人再生手続きは、ある程度特有な手続きもありますが、基本的には小規模個人再生のものと同じです。
そのため、基本的には小規模個人再生の場合の必要書類と同様のものとなります(「個人再生の必要書類とは?」参照)。
以下に、簡単に見てみることにしましょう。
裁判所へ提出する書類
個人再生の申し立てに際して裁判所に提出する書類は、一般的にはつぎのようなものになります。
再生手続開始申立書
個人再生の手続きを始めるためには、まずその申立書の提出が必要です。
弁護士や司法書士に依頼した場合には、当然これら専門家が不備のない申立書を作ってくれます。
収入一覧および主要財産一覧
収入に関しては、毎月の給与の額やボーナスがいくらかなどを記載します。
主要財産一覧には、現金として持っている金額や生命保険の解約返戻金の額、退職金の見込み額(基本的には、その8分の1の額)、不動産の評価額などを記載します。
これがベースとなり、最低弁済額が決定されることもあります。
債権者一覧表
借金の相手業者や債務額などを記載します。
住民票の写し
住民票の写しの原本を添付します。
これによって、裁判所は管轄の有無を判断することになります。
報告書と財産目録
過去10年間の職務経歴や、個人再生するに至った事情などを記載します。また、過去7年以内に、自己破産・給与所得者等再生・ハードシップ免責を受けたことの有無なども記載します。
給与明細
最新の2か月分の給与明細とボーナス分を提出します。
源泉徴収票
過去2年分の源泉徴収票を提出します。
家計収支表
最新2か月分の収支表を提出することになります。
退職金の見込み額を証明する書類
会社の就業規則など、いま退職した場合にどれくらいの退職金が会社から支払われるのかを証明する書類が必要です。
銀行通帳のコピー
基本的には過去2年分の通帳のコピーを提出します。
債権調査票
借金の債権者である業者などに対して、法律上正当な金額としてどれだけの債務があるのかを記載します。
個人再生委員に提出する書類
東京地裁では個人再生委員がかならず選任されるため、個人再生委員へ提出する書類も必要となります。
基本的には、裁判所に提出する書類とほぼ同一となります。ただし、住民票の写しに関しては、そのコピーでも大丈夫です。
手続きにかかる期間は約6か月
東京地裁で個人再生が行われる場合、申し立てから手続きが終了するまでの期間は、その他一般的な地裁よりも長くなる傾向があります。
一般的な地裁で行われる場合には、手続きの長さは約4か月から5か月程度ですが、東京地裁では6か月前後となります。
これも、東京地裁における個人再生手続きが、厳格に運用されていることを表すものといえます。
東京地裁で個人再生する場合の裁判所への費用はどれくらい?
東京地裁で個人再生する場合には、手続きの運用が厳格であるため、弁護士など債務整理の専門家への依頼が重要です。
この場合、専門家への費用が発生しますが、そのほかにさらに個人再生委員への報酬など裁判所への費用が必要になってきます。
なお、一般的な個人再生にかかる費用に関しては、以下の記事でわかりやすく解説しておりますので参照してください。
裁判所にかかる具体的な4つの費用
東京地裁で個人再生する場合には、手続きの申し立てに際してまたはあとから履行テストの積立金として裁判所へ一定の金額を納めなければなりません。
これには、申し立てのための手数料や予納郵券・予納金、そして個人再生委員への報酬があります。
①申し立て手数料
個人再生の申し立ての手数料として、1万円が必要になります。
ただし、これは現金で納付するのではなく、収入印紙として納付することになります。
②予納郵券
「郵券」とは、簡単に言うと「切手」のことです。
個人再生の手続きに関して、申立人や相手業者への書類送付の際に必要となる郵便料金を、切手という形であらかじめ納付しておくことになります。
具体的な切手の内訳は、裁判所によって細かく指定されていますが、合計金額として1,600円程度の切手の納付が必要です。
③予納金
個人再生手続きでは、申立人が個人再生手続きしたことなどに関して「官報」によって3回「公告」されることになります。
この公告の手数料を、あらかじめ裁判所に納めることになります。
東京地裁の運用では、1万1,928円が必要となります。
④個人再生委員への報酬
東京地裁では個人再生手続きを行う場合、かならず個人再生委員が選任される扱いになっています。
このため、弁護士が代理人として申し立てる場合でも、個人再生委員への報酬として15万円。その他の場合には、最低でも25万円が必要となります。
この報酬は、個人再生申し立て後に行われる「履行テスト」で積み立てることになる金銭が、充当されることになります。
東京地裁における「標準スケジュール」とは?
東京地裁では、個人再生の申し立て後にどのような流れで手続きが行われるのかについて、標準的なスケジュールが公開されています。
具体的には、つぎの表のような流れで手続きが進んでいくことになります。(「引用:(http://saimu4.com/kojinsaisei/1678/)」(「東京地裁の流れ」の図))。
それでは、この表に基づいて、重要な手続きに関してみていくことにしましょう。
東京地裁における個人再生の具体的な流れ
個人再生手続きが非常に厳格に運用されている東京地裁では、つぎのように手続きが流れていくことになります。
個人再生委員の選任(申し立て即日)
東京地裁では、個人再生の申し立てがなされた場合、その当日に個人再生委員が選任されることになっています。
申し立て当日に個人再生委員が選任されることにより、手続きの迅速化が図られています。
個人再生委員との面談(申し立てから1週間から2週間以内)
個人再生委員は選任後早い段階で、個人再生の申立人と面談します。個人再生委員は弁護士の中から選任されます。
この際、申立人の財産や収入などに関して質問を受けることになります。
面談に要する時間は30分前後
この個人再生委員との面談時間は、通常30分前後です。長くても1時間程度と考えておけばよいでしょう。
個人再生開始決定に関する意見書の提出(3週目)
個人再生委員は、面談での調査結果などを考慮し、裁判所に対して個人再生開始決定の可否に関する意見書を提出します。
個人再生の開始決定(4週目)
裁判所は、個人再生委員の意見書を参考に、個人再生の開始決定を判断します。
この決定がなされることにより、個人再生は本格的に手続きが開始されることになります。
履行テストの開始(1か月前後から2か月)
個人再生の開始決定がなされた場合、個人再生委員は申立人に対して履行テストの実行を指示します。
履行テストは、個人再生委員が主導して行われます。
再生計画案認可についての意見書提出(24週目)
個人再生の申し立てから6か月程度の経過が目安となります。
個人再生委員は、それまで実施してきた履行テストの結果などに基づき、裁判所に対して再生計画案の認可の可否に関する意見書を提出します。
再生計画案の認可(25週目)
個人再生委員の意見書を参考に、裁判所が再生計画案の認可の可否を判断します。
特に問題がない限り、通常は認可されることになります。
以上で説明した事項以外の手続きに関しては、基本的に小規模個人再生の一般的な流れと同様と考えていいでしょう。
まとめ
東京地裁での個人再生の手続きは、ほかの地方裁判所にはみられない独特の運用を行っています。
おさらいすると、おもにつぎの3点が大きな特色といえます。
- 代理人として弁護士への依頼が原則
- かならず個人再生委員が選任される
- 「履行テスト」が実施される
これらの点からして、東京地裁での個人再生の手続きは、かなり厳格に行われていることがわかるでしょう。
このため東京地裁で個人再生する場合には、一般的な地裁での手続きと比較し、費用も多くなり時間も長くかかることになります。
東京に在住している方が個人再生する場合には、基本的には東京地裁で手続きを行わなければなりません。
本文で述べたとおり、東京地裁で個人再生する場合には、弁護士への依頼が原則となっています。全国的に見た場合における一般的な地裁では、弁護士だけでなく司法書士が手続きに関与している場合にも、個人再生委員の選任が不要とされることが多いものです。
しかし、東京地裁での個人再生の運用では、司法書士に依頼した場合も本人のみの申し立てとほぼ同様に扱われるため、個人再生委員への報酬が最低でも25万円必要となります。そのため、原則的には弁護士への依頼を検討するのがベストということになるでしょう。
全国的に見ても厳格な運用がなされている東京地裁において個人再生を成功させるためには、実績のある弁護士に依頼するのが最良の方法です。
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