自己破産は非常にありがたい制度です。自己破産することを裁判所に認めてもらえた場合には、基本的にすべての借金(債務)が消滅することになるからです。それまでどれだけ多くの借金を負っていたとしても、自己破産が認められれば借金はゼロになるのです。
借金問題を解決する方法である債務整理にはいくつかの方法がありますが、このような債務の免除という大きな効果を持つのは自己破産だけです。
このように大きなメリットのある自己破産ですが、その反面、いくつかデメリットもあります。
そのひとつに、就職できる職業の制限(「資格制限」)や自分の財産の管理処分権の喪失など、各種の制限を受けることがあります。債務全額の免除を受ける以上、ある程度の不利益を受けるのは仕方ないことだといえます。しかし、このような権利の制限が一生続くとしたら、それはあまりに酷というものでしょう。
そのため法律では、これら不利益を解除する制度が定められています。それが「復権」です。
復権が認められることにより、法律上、これらの不利益が解除されることになるのです。
今回は、この「復権」について説明します。
どのような場合に復権が認められるのか?復権できない場合にはどう対処したらいいのか?しっかりと理解していただきたいと思います。
なお、自己破産することから発生するデメリットに関しては下記の記事を参考にしてください。
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自己破産における「復権」とは何か?
自己破産した場合、冒頭で述べたように各種のデメリットを受けることになります。具体的に言えば、資格制限(職業制限)を受けたり、保有する財産の管理処分権を失ったり、居住の自由や通信の秘密を制限されたりするのです。しかしこれらの制限は、法律で定められている一定の事由が発生することによって解除されます。
自己破産から発生していた各種制限など不利益が解除されることを「復権」する、といいます。
復権には2つのパターンがある
自己破産から発生する各種制限を解除するのが復権ですが、この効果が生じるためのパターンとして、法律ではつぎのような2つ方法が定められています。「当然復権」と「裁判による復権」です。
当然復権
当然復権とは、その名前のとおり一定の事由が発生することによって、何らの手続きも要せずに法律上当然に復権の効果が発生することを言います。破産法では255条によって、つぎのような事由が発生した場合に当然復権すると定めています。
①免責許可決定が確定した時
自己破産手続きの最終段階において、裁判所により破産が認められた場合、免責許可決定を受けることになります。この決定は、一定の時間の経過をもって法律上確定します。具体的には、免責許可決定があった旨の官報公告がなされてから2週間経過後に確定することになります。
免責許可決定が法律上確定した場合、破産者は当然に復権することになります(破産法255条1項1号)。
破産者が復権する方法として圧倒的多数を占めるのが、このパターンです。
破産者の9割以上は免責許可をもらっている
裁判所における自己破産に関する実際の運用では、自己破産手続きをした人の9割以上に免責許可が下りています。債務内容に免責不許可事由に該当する事実などがあったとしても、それが重大なものでない場合には比較的緩やかに免責が出ていることの証拠といえるでしょう。
そして、免責許可決定が出た場合には、よほどの事情でもない限り確定することになります。免責許可をもらった場合、復権できるようになるまでは「時間の問題」と考えてよいでしょう。
②破産手続きが廃止となった時
破産法218条1項の規定に基づき破産手続きが廃止された場合には、破産者は当然復権することになります(破産法218条1項によるもの)(同法255条1項2号)。
具体的には、破産手続きにおける債権届け出期間内に債権届をした全債権者の同意を得て破産者が破産廃止の申し立てをした場合などが、これに該当します。
③個人再生で再生計画の認可決定が確定した時
破産を申し立てたとしても、その後の事情変更などにより手続きが破産から個人再生に変更されることがあります。この場合、その個人再生手続きで再生計画案の認可決定を受け、それが確定すると復権することになります(同項3号)。
④詐欺破産罪で有罪の確定判決を受けることなく10年経過した時
破産手続きにおいて免責決定をもらえない場合、上記「①免責許可決定が確定した時」に該当しないため、この規定によっては復権できないことになります。その場合の、いわば救済策としてこの復権方法が定められています。破産の開始決定後に詐欺破産罪で10年間有罪判決を受けなかった場合には、当然復権が認められることになるのです(同項4号)。
不誠実でない破産者の救済策
どういう事例が、上記条件に該当するか簡単に説明しましょう。
法律上、「詐欺破産罪」という犯罪があります。これは破産するに際して、法律上申告すべき財産を隠すなど違法行為をした場合に問われることになる罪です。もし、破産者がその罪に問われるような不誠実な人間である場合を考えてください。大半の方は、そんな人物には復権を認めてあげる必要性は低いと考えるのではないでしょうか。
しかし、破産開始決定後10年もの長期間にわたって詐欺破産罪で有罪にならない場合、その破産者は詐欺破産を行うような不誠実な人物ではない可能性が高いと判断することができます
このような不誠実でない破産者でも、何らかの事情で復権を得ることができない事例が存在します。このような状況は破産者にとってあまりに酷であり、社会的に見ても不都合といえるでしょう。この規定による復権は、このような場合においての救済策なのです。
裁判による復権(破産法256条)
自己破産手続きを行ったのに免責を受けられなかったなど特別な事情がある場合、当然復権が認められないことになります。この場合、そのままでは自己破産による資格制限など各種デメリットがいつまでも続くことになってしまいます。しかし、それではあまりに酷というものでしょう。
このような不都合をなくすため、破産法はつぎのような条件を満たすことにより復権する方法を定めています。
①債権者に対するすべての債務が消滅すること
債務の返済や時効の完成などによって、破産債権者に対し法律上負っている債務のすべてが消滅した場合が、これに該当します。この場合、もはや破産者として社会的ペナルティーを課す必要性は消滅します。
②裁判所へ復権の申し立てをすること
裁判による復権を得るためには、裁判所に対して復権の申し立てをする必要がります。破産者から適法な復権の申し立てがあった場合、裁判所はかならず復権の決定をしなければならないことになっています。
ただし裁判による復権は、すべての破産債権者に対する債務を返済するなど、すべての債務を消滅させることが条件とされているため、現実的にはなかなか難しい復権方法といえるでしょう。
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復権するまでの期間について
繰り返しになりますが、自己破産した場合には破産の開始決定を受けた時から復権するまでの間は「破産者」として各種のデメリットを受けることになります。それでは、そのデメリットを受けなければならない期間はどれくらいの長さなのでしょうか?
自己破産する人の圧倒的多数が復権するパターンである「免責許可決定の確定」による復権について見てみましょう。
復権するまでの期間は約3か月から6か月!
一般的な自己破産の場合、破産手続きは裁判所によって破産開始決定がなされることによってはじまります。そして、最終的には「免責許可決定」がおり、これが確定することにより手続きのすべてが終了することになるのです。
通常のケースでは、この期間は約3か月から6か月であることが大半となっています。長くても1年以内と考えて差し支えないでしょう。
このため、この期間は破産者として不利益に耐える覚悟が必要です。ただし、この「不利益」は一般的にはそれほど恐れるようなものではありません。まったく不利益を感じずに復権する人も多数いらっしゃいます。過度の心配は不要です。
「同時廃止」の場合にはさらにデメリットが少ない!
全国の地方裁判所における自己破産手続きの60%は「同時廃止」によるものとされています。「同時廃止」による破産手続きとは、破産者の財産の調査や換金、破産債権者への配当などが行われない簡単な手続きによる破産と考えてください。
この手続きによる破産の場合には、破産の開始決定と同時に破産手続きが終了し、免責手続きが開始されることになります。「同時廃止」による破産の場合には、その性質上、破産することから発生する各種のデメリットが少なくて済むのです。具体的には、居住など日常生活の自由に関する制限などを受けなくて済むことになります。
まとめ
今回は自己破産した場合に受けることになる各種デメリットを解除することになる「復権」について説明しました。
自己破産した場合には、いくつかのデメリットを受けることになります。日常生活における各種自由の制限もデメリットですが、「資格制限(職業制限)」は、場合によっては非常に大きなデメリットになります。一定の職業に就けなくなったり、最悪の場合には現在の職を失う恐れまであるからです。
これら自己破産することから発生する不利益を解除してくれるのが「復権」です。復権することで、これら不利益を受けなくなるのです。しかしこれは逆に言えば「復権できない場合には大変なことになる」と考えることができます。自己破産による不利益を受け続けなければならなくなるからです。
しかし、この点に関してあまり心配する必要はありません。なぜなら、裁判所における実際の運用では、自己破産した人の9割以上が無事に復権できているからです。しかし、自己破産した人の中には、特別な事情があるために復権できない人がいるのも事実です。
その場合、上記の不利益をいつまでも受け続けなくてはならなくなってしまいます。それではあまりに酷であるため、そのような状態からの救済策として「裁判による復権」という方法が認められているのです。
自己破産を検討する場合には、この「復権」に関しても充分に理解することが大切です。
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