自己破産すると、それまで自分の持っていた各種の財産を失うことになると考えている方が多くいらっしゃいます。「自己破産して借金生活から抜け出したい!でも、財産を失うのは怖い……。」これは、自己破産を検討している人の大部分が感じる不安だと思います。破産の処理方法によっては、確かに自分の財産を処分されてしまう可能性はあります。
しかし、安心してください。一定以上の高額な財産を持っていない場合には、自己破産しても財産がいっさい処分されないで済む可能性があるのです。破産の処理方法が「同時廃止事件」とされた場合、自己破産したとしても現在持っている財産は、ほぼすべて自分の手元に残すことができるのです。
それではいったい、どのような場合に自己破産は同時廃止事件となるのでしょうか?
今回は、この「同時廃止事件」についてご紹介します。
ご自分が自己破産した場合、同時廃止でいけるのかどうか?しっかりと確認してください。
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破産処理の2つのパターン
世間では単純に「自己破産する」などといいますが、実際に裁判所で破産が処理される場合、その処理方法には2つのパターンがあります。それが、「同時廃止事件」と「管財事件」です。
この2つの類型は裁判費用や手続きにかかる時間、処分されることになる破産申立人の財産の範囲などに関して、決定的な違いがあります。
「管財事件」と「同時廃止事件」
自己破産を申し立てた場合、裁判所は基本的に破産申立人が持っている財産の額などを基準として破産の処理方法を決定します。ある程度以上財産があるなどと裁判所が判断した場合には「管財事件」に、財産があまりないと判断した場合には「同時廃止事件」が選択されることになります。つまり、自己破産は破産する人の財産などを基準として、この2つのどちらかの方法で処理されることになるのです。
「管財事件」とは?
破産を処理する手続きには、細かく分けると「破産手続」と「免責手続」という2つの手続きがあります。原則的な破産処理方法である管財事件の場合、この2つの手続きが行われます。まず「破産手続」によって破産申立人の財産を処分・換金し、それを債権者に分配します。そして次に、「免責手続」によって破産申立人の残債務を免除するのです。
管財事件には費用が掛かる
しかし、「破産手続」は破産管財人の選任が必要になるなど厳格な手続きであるため、破産を処理するためには時間もお金もかかることになります。「破産手続」を行うためには、裁判所への予納金として最低でも20万円もの費用が必要になるのです。このため、この手続きを行うためには破産申立人にそれを支払えるだけの財産があることが条件となります。つまり、破産の原則的な手続きである「破産手続」をするためには、最低でもその費用以上の財産を破産申立人が持っていることが前提条件となるのです。
ある程度以上財産がある場合、管財事件に!
自己破産を申し立てた人に、管財事件で「破産手続」を行うための費用を支払えるだけの財産がある場合、その破産処理は管財事件として行われます。なぜなら、破産を処理する場合の原則的な処理方法は管財事件であるからです。
本来、破産の処理は管財事件が原則であり、同時廃止事件での処理は例外的な扱いなのです。ただし、裁判所の統計によると実際に破産事件として処理されているのは、管財事件よりも同時廃止事件の方がはるかに多くなっています(後述)。
管財事件では財産が処分される!
破産の処理方法が管財事件とされた場合、「自由財産」とされる一定の財産以外はすべて処分され、換金されることになります。一定以上の高額な動産はもちろんのこと、マイホームなどの不動産も失うことになります。これらの財産を持っている方が自己破産する場合には、それらを手放す覚悟が必要です。
もし、借金問題を解決しながらもマイホームなどを手放したくない場合には、「個人再生」という債務整理方法を検討する必要があります。
法人の破産は管財事件となる
法人が破産する場合、基本的には管財事件として処理されます。法人の場合には、経済活動が個人と比較して通常規模が大きいものであるため、債務や資産なども複雑になるからです。このため、債務や資産内容などを詳細に調査する必要があるため、破産管財人を選任することとなる管財事件とされることが一般的です。
「同時廃止事件」とは?
上記のように、一定以上の財産を持っている人が自己破産する場合、その処理方法は管財事件とされます。
たとえば、Aさんが自己破産する場合を考えてみましょう。Aさんには十分な財産があります。このためAさんが自己破産する場合、その処理方法は管財事件とされます。破産を管財事件として処理する場合には費用が掛かることになりますが、Aさんにはその費用を支払うだけの財産があるからです。
ここで言う「一定以上の財産」とは、裁判所によっても扱いが異なりますが、大まかにいって「20万円以上の財産」と考えてよいでしょう。つまり、Aさんが持っている財産を売ってお金に換えれば、管財事件で必要とされる裁判費用20万円が支払えるため、「管財事件で破産を処理できる」と裁判所に判断されるのです。
つぎに、Bさんが自己破産する場合を考えてください。Bさんはめぼしい財産をまったく持っていません。Bさんに財産がないことは明らかです。この場合、Bさんの財産では管財事件に要する費用を支払うことすらできません。
破産の処理方法は管財事件が原則です。しかし、このような場合にまで管財事件のような厳格な処理をするのは、いろいろな意味で不経済というものです。そのため、破産申立人に明らかに財産がない場合には、管財事件の場合より簡略化された手続きで破産を処理することが必要です。このような場合に採用される破産の処理方法が「同時廃止事件」なのです。
同時廃止事件では手続きが簡略化される
うえで述べたように、管財事件で行われる「破産手続」は破産者の財産を現金化し、債権者に分配する手続きでした。この手続きを行うためには、その前提として破産申立人に裁判費用を支払えるだけの財産があることが必要です。しかし、破産申立人にこの処分・換金すべき財産すらない場合には、「破産手続」をする意味がありません。このため、このような場合には「破産手続」を省略する必要があるのです。つまり、破産申立人にめぼしい財産がないことが明らかな場合、その破産処理においては「破産手続」が省略され「免責手続」だけが行われることになります。これが「同時廃止事件」と呼ばれる破産の処理方法なのです。
この場合、裁判所は「破産手続開始決定」を行うとともに「破産手続廃止」を決定します。「破産手続開始決定」と「破産手続廃止決定」が同時に行われるため「同時廃止(事件)」と呼ばれるのです。
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同時廃止はメリットが多い!
以上のように、自己破産が同時廃止事件として処理される場合には、「破産手続」が省略され「免責手続」だけが行われることになります。このため、同時廃止にはいくつかのメリットが発生することになります。
管財事件と比較した場合の同時廃止事件のメリットには、主につぎのようなものがあります。
裁判所に要する費用が安い
自己破産が同時廃止事件として処理される場合には、裁判所にかかる費用(予納金)も管財事件と比較して格段に安く抑えることが可能です。この予納金の額は裁判所によって多少の違いはありますが、通常1万数千円程度で済むことがほとんどです。
これに対して管財事件の場合には、費用は最低でも20万円。場合によっては、それ以上のお金を用意する必要があります。
手続き終了までの期間が短い
破産処理が同時廃止とされる場合、管財事件の場合と比べて手続きにかかる期間が短くなります。破産の申し立てから最終的に免責が下りるまで、通常2,3か月程度で終了することが一般的です。早ければ2か月程度で終了する事例もたくさん存在します。
これに対して管財事件では、手続きの終了まで3か月から4か月程度かかると考えたほうがよいでしょう。
財産を処分されなくて済む
ある意味、同時廃止事件の最大のメリットは、自分の財産がいっさい処分されずに済むということでしょう。同時廃止の場合には、自己破産の前後を通じて自分の財産をいっさい手放す必要がありません(一定以上のオーバーローンの自宅を手放すなどの例外はありますが)。
これに対して管財事件の場合には、生活に必要不可欠な財産(「自由財産」)以外で一定以上経済的価値のある財産は、基本的にすべて処分されることになります。
裁判所に出頭する回数が少なくて済む
自己破産する場合、法律の定めによって自己破産した人は数回裁判所に出向く必要があります。通常の人にとっては、裁判所に出頭するなど気の重いことに違いありません。しかし、この回数も破産の処理方法が同時廃止の場合には、通常1回。裁判所によっては一度も出頭する必要がないとされる場合もあるのです。
これに対して管財事件の場合には、少なくとも数回。多ければそれ以上、裁判所に出頭する必要があります。
専門家にかかる費用が安い
自己破産を債務整理の専門家に依頼する場合、当然ですが専門家にも費用を支払う必要があります。破産を任せることのできる専門家には、弁護士と司法書士がいます。
破産処理が同時廃止となった場合には、専門家に支払う費用が管財事件の場合よりも安くなるのです。費用の相場に関しては、専門家ごとにそれぞれちがうため一概にいうことはできません。そのため、あくまでもおおざっぱな目安となりますが、弁護士の場合、最低でも20万円から30万円。司法書士の場合には12、3万円から20万円程度が一般的な相場となるでしょう。
これに対して管財事件の場合には、弁護士の場合には最低でも30万円、司法書士の場合では20万円以上かかるのが一般的な相場だと思われます。
ただし、これはあくまでも「相場」ですので、実際にいくらかかるのかは依頼することになる事務所や債務の内容などによって変わってくることになります。
このように破産が同時廃止となった場合には、たくさんのメリットを受けることができるのです。手続きの期間が短くなったり、裁判所への出頭回数が少なくなることもメリットではありますが、経済的な負担が少なくなるという点は非常に魅力的だと言えるでしょう。
同時廃止事件を自分で選ぶことはできない!
以上のように、自己破産の処理方法が同時廃止事件となった場合、いろいろな面でメリットが考えられます。このようなメリットを考えた場合、誰でも同時廃止で自己破産したいと考えるのが普通でしょう。何しろ自己破産して自分の借金が免除されるにもかかわらず、財産が処分されることがなく、手続きの費用も時間もかからないのですから、至れり尽くせりとはこのことです。
しかし残念ながら、自己破産の処理方法は自分で選択することはできないのです。つまり、自分の申し立てる自己破産が、同時廃止事件とされるのか管財事件となってしまうのかは裁判所の判断によって決定されるということです。
同時廃止の基準について
それでは、どのような場合に破産処理が同時廃止事件とされるのでしょうか?この点は非常に重要な問題です。しかし実は困ったことに、この点に関してはそれぞれの裁判所によって個別に基準が定められているのです。そのため、一律「○○の場合には同時廃止となる」などという説明ができません。裁判所ごとの基準があまりに違うことがあるため、この基準を一概に説明することはできないのです。
ただし、各裁判所で採用されている基準について大別することはできます。どのような財産がある場合に同時廃止事件とするかの「振り分け基準」について大別すると、つぎのようなものになります。
「20万円基準」
これは文字どおり、破産申立人の所有している各財産が20万円以下であるかどうかを基準とする考え方です。つまり、所有している財産ごとに経済的価値を計算し、その財産が20万円以下である場合には同時廃止、それを超える場合には管財事件とするという扱いとなります。
ここで注意していただきたいのは、すべての財産の合計額が問題とされるのではないという点です。
それぞれの財産ごとの価値を判断する
同時廃止に関する判断について20万円基準を採用している裁判所では、自己破産する人の各財産の価値を評価します。そして、すべての財産において20万円以下である場合に同時廃止とすることになります。
つまり、「預貯金」や「自動車」、「退職金」、「生命保険の解約返戻金」など、それぞれの財産の価値を算出し、どの財産も20万円を超えない場合、同時廃止事件となるのです。仮に、その中のひとつである「自動車」が20万円を超えてしまったとしましょう。この場合には、そのほかの財産が20万円以下であったとしても、全体として管財事件として扱われることになるのです。
「現金」だけは扱いが別!
以上の各財産に関しては、すべて「20万円以下」である場合に限って同時廃止となりました。しかし、財産の中でも「現金」に関しては、まったく違った扱いをされることになります。
「20万円基準」における現金に関する以前の扱いでは、多くの裁判所において、ほかの財産と同様20万円以下の場合のみ同時廃止とするというものでした。しかし平成29年以降、この金額の上限が増額されているのです。
「現金」は33万円以下までOK!
それでは、増額された現金の具体的な上限金額はいくらなのかというと、これも裁判所によって運用が違います。このように、ややこしい扱いとなるのが同時廃止事件の難点ともいえます。
しかし、多数の裁判所において現在では「33万円以下」の現金の場合、同時廃止として処理されるようになっています。自己破産する人が持っている現金については20万円以下ではなく、「33万円以下」の場合、同時廃止を認めるという扱いになっているのです。裁判所によっては、「50万円以下」と上限をさらに上げている裁判所もあり、大阪地裁などでは「99万円以下」の現金であれば同時廃止とされる裁判所まであるのです。
この点を考えても、同時廃止に関する各裁判所の扱いが、どれだけ違うのかがわかるというものですね。
なお、この「33万円基準」は東京地裁や横浜地裁など多くの裁判所で採用されています。ネット上では古い情報として、「現金は20万円まで」などと書かれているサイトがありますが、現在の扱いでは基本的に「33万円まで」と考えてよいでしょう。
「30万円基準」
この基準は、名古屋地裁で採用されているものです。財産ごとに経済的価値を判断し、各財産の金額がすべて30万円以下である場合には同時廃止事件として処理されることになります。
「総額基準」
これは文字どおり、破産申立人が所有している財産すべてを計算し、裁判所が定める一定の上限額以下である場合に同時廃止事件とするものです。
この上限額には「50万円以下」「60万円以下」「99万円以下」など、裁判所によっても扱いが異なります。ちなみに、大阪地裁では99万円以下の総額基準を採用しています。このため、大阪地裁で処理される破産事件の場合、破産申立人の財産の合計額が99万円以下である場合、同時廃止事件として処理され、財産はいっさい失わないで済むことになります。
同時廃止の基準は裁判所で大違い!
以上のように、どのようなケースを同時廃止事件とするかの基準については、裁判所ごとに大きな違いがあります。また、同じ裁判所であったとしても基準が変更され、以前とは違った運用をしている裁判所もあるのでさらに注意が必要となります。
同時廃止の一般的な基準
個人の自己破産が裁判所において管財事件とされる場合、一般的には最低でも20万円の費用が裁判所で必要となります。このため、自己破産する人がこの費用を支払えるかどうかという点が、同時廃止事件か管財事件かを分ける重要なポイントとなります。そのため、一般的な裁判所では同時廃止の基準は、上記「20万円基準」を採用しているところが多くなっています。
ただし、この基準も絶対的なものではなく、あくまでもおおざっぱな一応の目安と考えてください。実際には、各裁判所の運用に従うことになります。
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各財産における同時廃止の目安
自己破産が同時廃止となるかどうかに関して、一般的である「20万円基準」が採用されている裁判所の場合、現金や預貯金その他の財産の判断基準はつぎのようになります。
こちらでは、破産の実務において実際に問題となることの多い財産に関してご紹介します。
これら各財産がひとつでも同時廃止となる基準をクリアできなかった場合には、破産処理は管財事件となります。つまり、同時廃止にしたい場合には、これらの財産がすべて同時廃止基準を満たしている必要があるのです。
現金
破産法では現金に関して、99万円までは自由財産として破産財団に属さないものと定めています。つまり、破産した場合でも99万円までの現金であれば自分の手元に残されることになるということです。しかし、これと同時廃止の振り分け基準とはまったくの別問題です。
一般的な裁判所での扱いとしては、破産申立人の持っている現金が33万円以下の場合には、その破産の処理方法は同時廃止事件になると考えてよいでしょう。
しかしこれも、自己破産を申し立てることになる裁判所の運用によって扱いが異なります。いくらまでなら持っていても同時廃止が認められるのかについて心配な場合には、債務整理に精通した弁護士など法律の専門家に相談したほうがよいでしょう。
預貯金
預貯金の残高が20万円以下の場合、多くの裁判所では同時廃止事件として処理されることになります。ただし、これは開設しているすべての金融機関の口座残高の合計額が基準となります。それぞれの口座残高が20万円以下でも、すべてを合計すると20万円を超える場合、破産処理は管財事件となります。
マイホームなどの不動産
自宅である土地や建物などの不動産は、通常であればかなり高価な財産となります。そのため、マイホームを所有している人が自己破産する場合には、基本的には管財事件で処理されることになります。しかし、これは絶対ということではりません。
マイホームにローンが残っている場合には、一定の条件のもとで同時廃止となる可能性もあるのです。
オーバーローンの場合には同時廃止になることも!
一般的に見た場合、マイホームなどは高価な財産であるため、自己破産する場合にはかならず管財事件となりそうです。しかし、その不動産にまだ多額のローンが残っており、いわゆる「オーバーローン」状態の場合には同時廃止事件とされる可能性があるのです。
一般的な裁判所ではマイホームの価値よりも1.2倍あるいは1.5倍以上のローンが残っている場合、その不動産は経済的価値無しとして同時廃止とされます。
ただし、この扱いは裁判所によって運用が異なりますので注意が必要です。
生命保険などの解約返戻金
積み立て型の生命保険に加入している場合、解約することで保険会社から「解約返戻金」が支給されることがあります。破産の手続き上、解約返戻金も自己破産申立人の財産として扱われることになります。
この金額が20万円を超える場合、基本的には管財事件となります。
退職金
自己破産する人がサラリーマンの場合、退職金が問題となることがあります。現在、会社に勤務しており退職するつもりがない場合でも、破産手続ではこの退職金が財産として扱われることになるからです。仮に現在退職した場合、いくら退職金がもらえるかを表す「退職金見込額」の金額によって同時廃止になるか管財事件になるかの判断が分かれることになります。
ただしこれは、その全額ではなく、退職金見込額の8分の1が20万円を超えるかどうかで判断するのが一般的な裁判所での扱いです。つまり、退職金見込額の8分の1が20万円以下である場合には同時廃止で処理されることになります。
自動車
自動車も一定の場合には同時廃止を妨げる財産となります。つまり、査定価値が20万円を超える場合には、基本的に管財事件とされることになるのです。
ただし、その車が高級車ではなく初年度登録から7年以上あるいは10年以上経過しているなど、一定の場合には経済的価値無しとして同時廃止を認める裁判所もあります。
ローンが残っている場合
自動車にローンが残っている場合、その自動車はローン会社のものです。日常的に自分が使用しているため、自分の所有物のように思っている方が多いと思いますが、法律上は自分の物ではありません。そのため、どんなに高額な自動車であったとしても、自己破産で問題となることはないと思われます。
ちなみに、車にローンが残っている状態で自己破産した場合、その自動車はローン会社によって回収されることになるのが一般的です。
その他の財産について
以上に例示した財産以外にも、自己破産する人が所有している場合に同時廃止となるかどうかを左右する物があります。貴金属や宝石、株式、ゴルフ会員権など多種多様なものが考えられます。これらも基本的には、売却した場合の経済的価値が20万円以下かどうかが同時廃止か管財事件かを判断する大きな目安となります。
基準の変更に注意
繰り返しになりますが、自己破産の処理方法が同時廃止事件となるかどうかの判断基準は、その処理を行う裁判所ごとに異なっています。このため、自己破産を同時廃止で処理してほしいと思っている人は、自分の破産が処理されることになる地方裁判所でどのような基準を採用しているのか事前に調査しておく必要があります。
また、この基準も変更されることがあるので注意が必要です。以前は同時廃止での処理に寛容だった裁判所でも、現在ではその運用が厳しくなっている可能性もあるのです。同時廃止で処理される確率を上げるためにも、債務整理の専門家などへの相談が欠かせません。
自分で財産を処分することで同時廃止可能なことも
以上のように、所有する財産の価値が一定額を超えている場合、その人の破産は基本的には管財事件で処理されることになります。しかし、どうしても同時廃止事件として処理ほしいと考える方もたくさんいらっしゃるでしょう。これもあくまで裁判所の運用次第ということになるのですが、裁判所によっては同時廃止の邪魔となっている財産を事前に処分することによって同時廃止として処理してもらうことができることもあるのです。
債権者に按分弁済すること
同時廃止の妨げとなっている財産がある場合、裁判所によってはつぎのような手続きをとることで同時廃止となることがあります。つまり、まずその財産を処分し換金します。そして、そのお金を破産債権者たちに債権金額に応じて配当するのです(これを「按分弁済」といいます)。こうすれば実質的に債権者を害することはなく、さらに同時廃止の妨げとなっていた財産がなくなるため同時廃止での処理が認められるというわけです。
ただし、この扱いはすべての裁判所で受け付けているものではありません。この方法を採用していない裁判所もありますので、注意が必要です。
裁判所への出頭回数は?
自己破産を申し立てた人は、通常何回かは裁判所に出頭し事情説明などをする必要があります。しかし、自己破産の処理方法が同時廃止となった場合、手続きが簡略化されるため破産における手続きがグッと簡略化されることになります。このため、裁判所への出頭回数も少なくなるのが通常です。
出頭すべき回数は、裁判所によっても異なってきますが、基本的には一度。裁判所で「免責審尋」が行われるときになります。免責審尋とは、免責を許可する前提として行われる手続きです。
一度も出頭する必要のないことも!
上記、同時廃止のメリットの項でも解説しましたが、自己破産が同時廃止になった場合でも基本的には免責審尋の際に裁判所に出向く必要があるのが通常です。しかし、場合によっては一度も出頭する必要がないという扱いをしている裁判所もあります。
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財産がなくても管財事件となるケースも!
仮に財産らしい財産がまったくない場合でも、破産の処理方法が同時廃止事件とならない場合があるので注意が必要です。破産申立人において「免責不許可事由」に該当する可能性がある場合には、これを調査するため破産処理が管財事件とされることがあるからです。
このため、もし自分に免責不許可事由に該当する行為などがある場合には、自己破産が同時廃止にならない可能性があることを充分理解して申し立てを行うことが大切です。
同時廃止事件で処理される割合
以上のように、自己破産が同時廃止事件とされた場合には各種のメリットを受けることができます。しかし、そのためには裁判所で破産処理が同時廃止とされる条件を満たしていなければなりません。現実的に考えた場合、これはハードルの高いものなのでしょうか?
裁判所における実際の破産処理において、同時廃止がどれくらいの割合なのか見てみましょう。
過半数が同時廃止!
近年の統計によると、全国の地方裁判所に申し立てられた自己破産の中で、同時廃止として処理された割合は70%を超えるものとなっています。
個人で非事業者、つまり事業を行っていない人が自己破産する場合には、同時廃止で済む可能性が高いと考えてよいでしょう。
つまり、自己破産しても財産を手放す必要がない可能性が高いということです。
個人事業者の場合
このように、個人が破産する場合には管財事件になるよりも、同時廃止になる可能性の方が高くなっています。しかし、これが事業者である場合には事情が異なります。個人でも何らかの事業を営み、それで生計を立てているような場合、非事業者である個人よりも債務関係や資産などがずっと複雑になる可能性があります。このため、個人であっても事業を営んでいる個人事業者などの場合には、同時廃止ではなく管財事件として処理される可能性があるのです。
管財事件の方が得する場合も!
今まで述べてきたように、一般的な場合では管財事件よりも同時廃止事件の方がメリットを多く受けることができます。そのため同時廃止にしたいあまり、自己破産をするに際して20万円を超える財産を売却し債権者に弁済するようなケースあります。しかし一定の場合には、このような方法を使ってまで同時廃止にするよりも、わざわざ高い裁判費用を支払って管財事件にしたほうが経済的に得をするケースもあるのです。そのキーポイントとなるのが「自由財産の拡張」という制度です。
管財事件でのみ認められる「自由財産の拡張」
破産の処理方法が管財事件とされる場合、自己破産する人の財産は基本的に処分されることになります。しかし、その場合でもさすがに日常生活に必要な財産に関しては処分の対象から外されることになっています。そのような財産のことを法律上、「自由財産」といいます。この財産は破産法などによってある程度指定されてはいるのですが、一定の事情がある場合には、その範囲を拡張してもらえるのです。つまり、本来は破産することによって処分されるはずの財産に関して「自由財産の拡張」が認められた場合には、その財産を手元に残すことができるのです。
管財事件の方が得する事例
たとえば、査定価値が30万円の自動車を例に考えてみましょう。自己破産を申し立てた場合の一般的な扱いでは、この破産事件は管財事件となり自動車は処分されることになります。この場合、裁判費用として最低でも20万円かかることになります。
車を「按分弁済」によって処分し同時廃止にした場合
すでにご紹介したように、裁判所によってはこの車を売却し債権者に「按分弁済」することで同時廃止として扱ってくれることがあります。この場合、当然ですが管財事件ではなくなるため裁判費用20万円は支払わずに済みますよね?しかしその反面、査定価格30万円の車は失うことになります。この場合、20万円の裁判費用の支払いを逃れることはできましたが、時価30万円の自動車は失ったわけです。差し引き「-10万円」となることがお分かりいただけるでしょう。わざわざ苦労して同時廃止にしたにもかかわらず、逆に10万円損をしたことになります。
原則どおり管財事件とした場合
それではつぎに、原則のとおり管財事件とした場合のことを考えてみてください。
この場合、裁判費用20万円を払うことにはなりますが、破産処理が管財事件とされた場合には、自由財産の拡張という制度が利用できます。管財事件の中で、この車を自由財産拡張の対象として申し立てたとしたらどうでしょうか?裁判所の許可などが必要とはなりますが、自由財産の拡張が認められた場合には、車を手元に残すことができることになります。この場合、裁判費用20万円を支払いはしましたが30万円の車を手元に残せたわけですから、差し引き「+10万円」。つまり、10万円の得をしたということになります。結果として、経済的に得をするだけでなく、「生活の足」を失うことも回避できたわけです。まさに「一挙両得」ですね。
このように一定の場合には、同時廃止事件よりも管財事件としたほうがメリットを受けられるケースも存在するのです。
同時廃止にしたい場合には専門家への相談を!
今回の記事でご説明したとおり、自己破産が処理される方法が同時廃止となった場合、管財事件となる場合よりもたくさんのメリットを受けることができます。しかし、自己破産が同時廃止になるか管財事件とされてしまうかに関しては、それぞれの裁判所によって扱いが非常に異なっています。つまり、自分の申し立てた自己破産が同時廃止になるかどうかについては、実際に破産を申し立てる裁判所の扱いによって左右されることになるのです。
自己破産する以上、大抵の人は「できれば同時廃止で」と思うはずです。ご自分の自己破産が同時廃止になるかどうかを正確に知るためには、債務整理の専門家に相談することが一番の近道です。なるべく早い段階で相談されることをお勧めします。
まとめ
今回は、破産の処理方法のひとつである「同時廃止事件」をご紹介しました。
破産処理が同時廃止事件とされる場合、自己破産してもごく一部の例外を除いて財産がいっさい処分されることがありません。裁判費用も安く済み、手続きが終了するまでの期間も短いものとなり、各種の負担が少なくなります。だとすれば、誰でも同時廃止で破産処理をしてもらいたいと思うのは当然の心情でしょう。
しかし、自分の申し立てた自己破産が同時廃止事件になるのか管財事件とされるのかの判断は裁判所によって行われるのです。基本的には破産を申し立てる人の持っている財産の金額によって判断されますが、その判断基準は裁判所によってさまざまです。このため、自分が申し立てる自己破産が同時廃止で済むのかどうかについては、個人で判断することは非常に難しいものとなっています。
ご自分が破産する場合、同時廃止になるかどうか不安に思われている方は、すぐにでも専門家に相談することをお勧めいたします。同時廃止になるかどうかだけの回答だけではなく、それ以外にも有益なアドバイスをもらうことができるでしょう。
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