
不倫が発覚し、示談書に「接触禁止条項」を入れるよう求められたとき、多くの方が強い不安に駆られます。「拒否できるのか」「拒否したら裁判になるのか」「違約金の相場はいくらなのか」「離婚後も効力があるのか」――突き付けられた条件にどう対応すべきか、頭を抱えるのは当然です。
接触禁止条項は、被害者側の安心を守るために用いられるものですが、不倫をした側にとっては大きな負担となり、内容によっては高額な違約金を請求されるリスクもあります。ただし、すべてがそのまま有効になるわけではなく、法的に無効や減額の余地があるケースも存在します。
この記事では、不倫示談交渉の実務に精通した弁護士が、接触禁止条項の意味や設定条件、拒否した場合のリスク、違約金の相場、離婚後の効力まで、実践的な観点から詳しく解説します。
この記事を最後まで読むことで、示談交渉で不利な条件を避け、冷静に対応するための具体的な知識を得られます。ただし、一人での対応が難しいと感じた場合には、全国どこからでも無料で相談できる当事務所までご相談ください。
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目次
接触禁止条項とは
接触禁止条項とは、不倫の慰謝料請求を行う際に作成する示談書や合意書に盛り込まれる条項で、不倫関係にあった配偶者と不倫相手に対し、今後一切の接触を禁止する内容を定めるものです。
不倫が発覚した際、慰謝料を請求する側は、金銭的な解決だけでなく、「不倫相手との関係を完全に断って欲しい」と強く願うことがほとんどです。接触禁止条項は、このような精神的苦痛を和らげ、不倫の再発を防ぐための重要な役割を果たします。
しかし、接触禁止条項を設ける際には、その有効性を確保するための条件や、違約金の適切な設定など、注意すべき点が数多く存在します。以下では、接触禁止条項の詳細について解説していきます。
接触禁止条項を入れる理由
接触禁止条項を定める最大の理由は、不倫の再発を防止するためです。
不倫相手との接触を法的に禁止することで、関係の再開を物理的・心理的に難しくします。また、条項に違反した場合の違約金を定めておくことで、当事者同士の再接触を強く思いとどまらせる効果も期待できます。
さらに、万が一違反があった場合、被害を受けた側は改めて損害や精神的苦痛を立証する手間を省き、定めた違約金によって速やかに損害を回復できるというメリットもあります。
これにより、不倫の再発防止だけでなく、違反時の対応も明確になるため、被害者にとって安心材料となります。
接触禁止条項を入れるための条件
接触禁止条項が適切に効力を発揮するためには、以下のような条件を満たしておく必要があります。
【当事者間の合意があること】
接触禁止条項は、示談交渉などの話し合いによって配偶者や不倫相手が内容に同意した場合にのみ当事者間で効力を有します。相手に対して接触禁止を請求する法的な権利はないため、裁判所の判決で慰謝料の支払い命令は出されますが、接触禁止を命じることはできません。
【夫婦関係を継続すること】
接触禁止条項は、夫婦関係を維持・修復する目的で設けられるため、離婚する場合には原則として無効となります。離婚するのであれば、夫婦間の平穏な生活を保護する権利・法的な利益がないと判断されるためです。
ただし、離婚後も子どもを介した不当な接触が考えられる場合は、条項を設ける余地がある点には注意が必要です。
【義務の内容が明確であること】
「一切接触しない」という抽象的な内容ではなく、面会、電話、メール、LINE、SNSなど、具体的に禁止される接触方法を明示して合意しておく必要があります。
お互いの希望が異なる場合は、どこまで禁止するかを交渉で決定しなければなりません。
接触禁止条項の例文
不倫の示談書に記載する際の一般的な例文は以下のとおりです。
- 甲(不倫された側)と乙(不倫相手)は、甲の配偶者である丙と乙が今後、面談、電話、メール、SNS、手紙、その他いかなる方法でも一切接触しないことを合意する
- 乙は、丙の連絡先をすべて消去・破棄したことを確約する
- 乙と丙が本条項に違反した場合、乙は甲に対し、違約金として金○○万円を直ちに支払う など
不倫の示談書における接触禁止条項違反の違約金相場は?
不倫トラブルを示談で解決する際、再発防止のために「接触禁止条項」を盛り込むケースは少なくありません。そして、その条項に違反した場合のペナルティとして「違約金」を定めることがあります。実際に設定される違約金の金額は、裁判例や合意内容によって幅があり、相場を知っておくことは交渉や判断において重要です。
面会や連絡のみを行った場合の違約金相場
不倫の再発を防ぐために設ける接触禁止条項ですが、違反時の違約金に明確な相場はありません。しかし、示談書に記載する際の目安は存在し、違反の内容によって金額は大きく変わります。
示談書で定めた接触禁止条項に違反し、直接会ったり、電話やメール、LINEなどで連絡を取り合ったりした場合の違約金相場は、10万円から50万円程度が一般的です。
これは、再び不貞行為(肉体関係)に至ったわけではないものの、自ら合意した示談書に違反したという事実の重さを考慮した金額といえるでしょう。この金額設定についても、単なる口約束ではなく、示談書にあらかじめ記載しておくことで、再接触を防ぐ心理的な抑止力として機能するでしょう。
再び肉体関係を持った場合の違約金相場
接触禁止条項に違反して、再び肉体関係を持ってしまった場合の違約金相場は、100万円程度と、面会や連絡のみの場合と比較して高額になる傾向にあります。
これは、示談書締結後の不貞行為は、夫婦の平穏な生活を再び侵害する行為であり、その悪質性が高いと評価されるためです。
この高額な違約金は、不倫の再発を強く阻止するための最大の抑止力として機能し、被害者の精神的苦痛の深刻さを示す金額といえるでしょう。
接触禁止の違約金が高額すぎる場合は?
接触禁止条項違反に備えて違約金を定めるのは有効ですが、現実離れした高額な金額を提示されるケースもあります。あまりに高額な違約金は、公序良俗に反して無効と判断される可能性もあり、そのまま受け入れるべきか慎重に検討する必要があります。ここでは、高額な違約金が設定された場合の考え方について解説します。
あまりに高額な違約金は公序良俗違反で無効になる可能性がある
不倫の示談書で定める違約金は、当事者間の合意によって自由に金額を決められますが、その金額があまりにも高額な場合は注意が必要です。
民法第90条には、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定められています。したがって、違約金の額が不倫の再発を防止するという目的を超え、著しく過大な金額と判断された場合、その条項自体が無効になってしまう可能性があります。
裁判所は、不貞行為によって通常発生する精神的苦痛や損害と比較して、違約金の額が不当に高くないかどうかが検討します。
もし高額すぎると判断された場合、条項全体が無効になることもあれば、一部のみが無効と判断され、適切な金額にまで減額されることもあります。
接触禁止の違約金の有効・無効が争われた判例
【100万円の違約金条項が有効とされた判例】
この事案は、不倫の示談書において、不貞行為を1回行うごとに100万円の違約金を支払うという条項が定められた事例です。その後、不倫関係が半年以上にわたり複数回繰り返され、違約金が総額600万円に上りました。
被告は本条項の公序良俗違反を主張しましたが、裁判所は、「本件条項の趣旨目的は、被告によるAとの再度の不貞行為を抑止することが主たる目的であって、過当な金銭を取得することが主たる目的であるとは認められず、 不貞行為1回あたり100万円という金額が、その趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできない」と判示しました。
また、不倫の結果として妊娠・中絶に至った事実などを考慮し、違約金が600万円になっても著しく過大とはいえず、公序良俗に反しないとして条項は有効とされました(東京地方裁判所令和3年10月28日判決)。
【1000万円の違約金条項が無効とされた判例】
不倫相手との接触禁止条項に違反した場合、違約金として1000万円を支払うと定めた事例です。
裁判所は、1000万円という違約金額の設定方法に合理性はなく、「損害賠償額として著しく過大」であると判断しました。
そして、「面会・連絡等禁止条項に違反してAと面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は、その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられるから、 履行確保の目的が大きいことを最大限考慮しても、少なくとも150万円を超える部分は、違約金の額として著しく合理性を欠く」と判断しました(東京地方裁判所平成25年12月4日判決)。
接触禁止の違約金が高すぎて払いたくない場合の対応
不倫の示談書に違反して接触してしまった場合、定められた違約金を請求されることがあります。しかし、その金額が常識的に見て高すぎる場合には、全額をそのまま支払う必要がないケースもあります。交渉や法的手段を通じて減額できる可能性があるため、冷静に対応策を検討することが大切です。
接触禁止条項を入れることは拒否できる
不倫の示談交渉において、不倫相手は示談書に接触禁止条項を盛り込むことを拒否できます。
この条項はあくまで当事者間の合意によって成立するため、相手が拒否すれば、強制的に記載させることはできません。
しかし、この拒否は示談の成立を困難にする可能性が高いです。
接触禁止条項を拒否するということは、被害者側からすると「再び関係を続けるつもりがあるのでは」と疑念を抱かせることになります。これにより、話し合いが進まず示談が成立しないリスクが生じます。
その結果、被害者側は慰謝料の増額を求めたり、最終的に訴訟(裁判)に発展したりする可能性が高まります。裁判になると、職場や家族に不倫の事実が知られるリスクが増え、精神的な負担も大きくなります。安易に拒否するのではなく、交渉の姿勢を見せることが重要です。
違約金の減額交渉をする
接触禁止条項の記載を一方的に拒否するのではなく、違約金の金額について減額交渉をするのが賢明な対応です。
あまりに高額な違約金は、最終的に裁判で無効と判断される可能性があり、被害者側も現実的な金額に落ち着くことを受け入れやすい可能性もあります。
また、接触禁止条項を設けることは、被害者である配偶者が夫婦関係の再構築を望んでいる可能性が高いことを示唆しています。この点を利用し、不倫相手は「接触禁止条項を受け入れる代わりに、不倫慰謝料の減額に応じてもらえないか」と交渉材料として使うこともできます。
示談交渉の過程で、お互いが納得できる妥当な金額にまで調整できれば、示談によって早期に問題を解決できるため、双方にとってメリットがあるといえるでしょう。
違約金に納得がいかない場合はサインする前に弁護士に相談
不倫の示談書に記載された違約金や接触禁止条項の内容に少しでも納得できない点や不安がある場合は、サインする前に弁護士に相談することが最も重要です。一度サインしてしまうと、後からその内容を覆すことは非常に難しくなります。
弁護士に相談・依頼することで、示談書の内容が法的に妥当であるかを客観的に判断してもらえます。たとえば、あまりにも高額な違約金や、不当に厳しい接触禁止の条件など、公序良俗に反する可能性のある不利な条項を是正することができます。また、法的な根拠や過去の裁判例に基づいて、適正な違約金の額や条件に調整する交渉を行ってもらえます。
なお、不倫をした側は、立場上、慰謝料や違約金の減額を自分から言い出しにくいものですが、弁護士が代理人として交渉することで、精神的な負担が軽減され、公正な条件での合意を目指すことができます。
不倫問題を根本的に解決するためにも、示談書にサインする前に専門家の助言を求めることを強くおすすめします。
よくある質問
接触が避けられない場合に違約金を請求されないようにするには?
不倫相手と職場が同じである場合や、街中で偶然出くわすなど、物理的な接触を完全に避けるのが難しいケースがあります。
また、慰謝料を支払った側が、もう一方の不倫当事者に対して、その一部を請求できる権利を求償権といいます。求償権を行使する際に連絡を取る必要が生じるため、接触を完全に禁止することは現実的ではありません。
このような場合に備え、示談書には「業務上やむを得ない場合を除き」や「正当な理由のない限り」といった文言を盛り込むことが重要です。
これにより、仕事上の最低限のやり取りや、偶然の出会い、求償権行使のための連絡など、合理的な理由がある接触については、違約金が発生しないようにできます。
離婚後に接触禁止条項に違反した場合も違約金は発生する?
離婚後に接触禁止条項に違反したとしても、違約金は発生しません。これは、接触禁止条項が夫婦の平穏な生活を守ることを目的としているためです。そのため、離婚によって夫婦関係が解消されれば、この目的は失われ、条項の効力も消滅すると考えられています。
もっとも、例外的に、離婚後も子どもを介した接触によって元夫婦の関係や子どもの生活に悪影響が生じるおそれがある場合には、一定の接触制限を設ける余地があります。たとえば、面会交流の場に不倫相手を同席させるようなケースです。
ただし、こうした制限はあくまで「元夫婦や子どもを守るための必要最小限の範囲」に限られます。離婚後に元配偶者と不倫相手が交際を続けること自体を、法的に禁止することはできません。示談書に「離婚後も接触禁止」と記載しても、その効力は無効と判断される可能性が高いため注意が必要です。
接触禁止条項があるのに相手から連絡が来たら違約金は発生する?
相手から一方的に連絡が来ただけでは、原則として違約金は発生しません。示談書に記載される接触禁止条項は、自ら能動的に接触することを禁止する目的で定められることが一般的です。
そのため、相手からの連絡を受け取っただけであれば、条項違反とはみなされないケースが多いでしょう。
ただし、その連絡に返信したり、やり取りを再開したりすると、それは接触禁止条項に違反したと判断される可能性があります。
相手から連絡が来た場合は、応じずに無視することが最も安全な対処法です。もし不安な場合は、示談書作成時に「相手からの連絡を受けるだけでは違反とならない」という内容の条項を盛り込んでおくとよいでしょう。
不倫の慰謝料請求や示談でお困りの方は当事務所までご相談ください
接触禁止条項は、被害者側が不倫の再発を防ぐために求めてくる条項ですが、違約金の金額設定や離婚後の効力など、理解を誤ると大きな不利益につながることがあります。一人で対応しようとすると、相手の要求に流されてしまい、取り返しのつかない結果を招くおそれもあります。
当事務所は、不倫問題や接触禁止条項を含む示談交渉において数多くの解決実績を有しており、適正な違約金額の交渉や条項内容の見直しなど、ご依頼者の立場を守るために親身かつ誠実に対応いたします。裁判に発展するリスクや違約金の妥当性についても、過去の判例や実務経験を踏まえた具体的なアドバイスをご提供します。
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