
サイト管理人に誹謗中傷の削除依頼をしたものの、応じてもらえなかった経験はないでしょうか。任意の削除依頼が通らなくても、裁判所に「削除請求の仮処分」を申し立てることで、通常の裁判よりも短い1か月~3か月程度で削除命令を出してもらえます。
「このまま投稿がネットに残り続けるのは耐えられない」「裁判を起こすにしても、その間に投稿が拡散してしまうのでは」と不安を抱えている方もいるでしょう。この制度は、まさにそうした被害拡大のスピードに対応するために用意された緊急手続きです。
この記事では、ネット誹謗中傷に強い弁護士が、この手続きについて以下の4点を解説します。
- 削除請求の仮処分とは何か・通常訴訟との違い
- 仮処分が認められる2つの要件
- 申立てから削除命令までの4ステップの流れ
- 仮処分にかかる費用と相場の目安
なお、ネット上の誹謗中傷でお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へご相談ください。
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削除請求の仮処分とは?通常訴訟との違い
削除請求の仮処分とは、わかりやすく言えば、「正式な裁判の前に、とりあえず一旦、裁判で原告が勝訴したという状況にしてあげよう」という民事保全法上の手続きです。
なぜこのような手続きが必要なのでしょうか。
例えば、掲示板に誹謗中傷や個人情報を晒すような投稿があった場合、通常はその掲示板の専用フォームから削除依頼を試み、応じてもらえない場合には民事訴訟による削除請求をする法的手段が考えられます。サイト運営者への任意の削除依頼を文書で送る方法については「送信防止措置とは?はじめて依頼書を書く人にわかりやすい書き方講座」で具体的な書き方を解説しています。
しかし、通常の民事訴訟は3か月~1年以上かかりますので、その間、原告の名誉やプライバシー権が害される投稿がネットに残り続けることになります。
削除完了が長引けば長引くほどその投稿は多くの人の目に留まり、権利侵害が進行するだけでなく、他の掲示板やSNSへの拡散リスクも高まります。
それに対し、削除の仮処分を申し立てて、裁判所からサイトに対して削除命令を出すまでにかかる期間は1か月~3か月と短く、被害拡大を防止できます。
要するに、誹謗中傷の書き込みを長期間ネット上に残しておくことで生じる拡散リスク等から被害者を救済するために、「暫定的な仮の処分」という形で、裁判所がサイト運営者に削除の仮処分命令を出す制度です。
"仮"と名前についているため、サイト運営者が削除に応じないのでは?と不安を抱く方もおられますが、裁判所が下した判断ですのでほとんどの相手は命令に従います。もし命令に応じない場合は強制執行することもできます。
ここで、削除の仮処分の申立てを検討する前に、この手続きで「できること」と「できないこと」を整理しておきましょう。仮処分の対象はあくまで投稿の削除であり、投稿者本人への請求は別の手続きが必要です。
| 項目 | 削除の仮処分で可能か |
|---|---|
| 誹謗中傷の書き込みをサイトから消す | ◯できる |
| 書き込んだ本人(投稿者)を特定する | ✕できない |
| 書き込んだ本人に謝罪させる | ✕できない |
| 書き込んだ本人に慰謝料を支払わせる | ✕できない |
投稿者の特定や慰謝料請求まで進めたい場合は、削除の仮処分とは別に発信者情報開示請求や損害賠償請求訴訟が必要になります。本記事ではこのうち「削除の仮処分」に絞って解説します。
削除の仮処分が認められる2つの要件
裁判所に削除請求の仮処分が認められるには、以下の条文の通り、①被保全権利②保全の必要性の2つの要件を満たす必要があります。
(申立て及び疎明)
第13条
1.保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2.保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。出典:e-Gov法令検索
被保全権利
被保全権利とは、民事保全法による仮処分の手続きにおいて「守るべき権利」のことです。
もし、ネットに誹謗中傷や風評被害の投稿がされているのであれば名誉権、自分が撮影した写真や執筆した文章が勝手に使われているのであれば著作権が被保全権利になります。
そのほかにも、商標権やプライバシー権も被保全権利として認められます。
権利侵害の違法性も明らかにする必要がある
仮処分の申立てをする者は、これらの守るべき権利が存在することを明らかにしなくてはなりませんが、同時に、その権利への侵害が違法であること(違法性阻却事由がないこと)も裁判所に主張して説明しなくてはなりません。
例えば、「〇〇大学教授のAさんは淫行条例で逮捕されたことがある」とネット掲示板に書かれたとします。
たしかにAさんは淫行での逮捕歴がありましたが、それを世間に公表されたことで名誉権が侵害されていますので、被保全権利の存在は認められるでしょう。
しかし、名誉毀損の書き込みがあったとしても、その書き込みに、①公共性②公益性③真実または真実相当性、この3つがあれば違法性が阻却されます(刑法230条の2)。
つまりAさんのケースでは、③の真実性は満たしているため、その書き込みが、①公共性②公益性を満たしていないことを、仮処分の申立てをするAさんが主張して裁判官に書き込みの違法性を説明しなければならないのです。誹謗中傷を刑事事件として追及する方法については「ネットの誹謗中傷を名誉毀損罪で刑事告訴する手続を徹底解説!」で具体的な流れを紹介しています。
保全の必要性
インターネットの世界に一度情報が流出すると、SNSやミラーサイトを通じて瞬く間に拡散してしまうため、根本となる投稿を早急に削除することが求められます。
例えば、誰かの氏名や住所がネットに出回れば、プライバシー権の侵害に留まらず、ストーカーや実生活における嫌がらせ被害にまで拡大することもあります。
そのほか、企業の風評被害の書き込みにより名誉毀損は成り立ちますが、社会的信用の低下により売り上げが低下するといった実損害も生じます。名誉毀損による損害賠償請求の手順や相場については「名誉毀損で慰謝料や損害賠償請求する人のための全手順と相場を公開」をご参照ください。
このように、ネットでの権利侵害は短期間で取り返しのつかない事態にまで被害が拡大する怖れがあるため、被保全権利が存在して、その権利への違法な侵害が認められるのであれば、通常は保全の必要性も認められます。
削除請求の仮処分の流れ4ステップ
申立てから削除命令の発令までは、おおむね次の4つのステップで進みます。
- 裁判所に仮処分命令申立書を提出
- 審尋
- 担保金の供託
- 仮処分命令の発令
①裁判所に仮処分命令申立書を提出
仮処分の申立てをする人は、権利侵害が生じている書き込みや投稿記事の削除を求めるために、裁判所に仮処分命令申立書と証拠を提出します。
裁判官に「確からしい」という推測を生じさせることを「疎明(そめい)」といいますが、民事保全法13条2項では、仮処分命令を申し立てるには、被保全権利と保全の必要性について疎明しなければならないと規定されています。
そのため、仮処分命令申立書には、被保全権利と保全の必要性について詳しく記載することに加え、裁判官が「一応確かに被保全権利と保全の必要性がありそうだ」と推測できるような証拠も求められます。
通常の裁判のような「証明」のレベルまでは必要とされていませんが、「一応たしかに~であろう」と推測できるレベルの証拠を提出する必要があると覚えておきましょう。
具体的には、侵害されていることがわかる投稿記事をプリントアウトしたもの(youtube等の動画サイトで権利侵害されている場合はその動画)等が証拠になります。
証拠を準備する際のポイントは、書き込みのURLが必ず含まれる形で記録を残すことです。掲示板であれば該当する書き込み番号やスレッドのタイトル、SNSであれば投稿のパーマリンクが分かる状態でスクリーンショットを保存しましょう。スクリーンショットだけでは画像加工の可能性が疑われることもあるため、ウェブ魚拓のような第三者サービスを併用すると、より客観性の高い証拠になります。同じ投稿者から複数の誹謗中傷が継続している場合は、一連の流れが分かるように時系列で揃えて保存しておきます。
②審尋
審尋とは、裁判官と面談をして、文書や口頭で裁判官に意見を主張したり、裁判官から質問を受けたりする手続きです。
争いの当事者が公開法廷の場で弁論活動をする口頭弁論とは違い、債権者(仮処分命令の申立てをする者)と債務者(サイト運営者)がそれぞれ別々に裁判官と面談をするのが一般的です。
まずは債権者が呼ばれて、被保全権利や保全の必要性について疎明するよう求められます。疎明するための債権者の主張や言い分が不十分と裁判官が判断すれば、追加の証拠資料等の提出を求められます。
次いで、債務者審尋が行われ、どちらの言い分が正しいのか、削除の仮処分命令を発令すべきかどうかを裁判官が判断します。
なお、X社(旧ツイッター社)やMeta社(旧フェイスブック社)のような海外法人を相手とする場合は、申立人のみ審尋が行われることもあります。海外法人が相手のケースでの手続きについては「誹謗中傷サイトの管理人が海外法人の場合の手続き」もあわせてご確認ください。
③担保金の供託
審尋の結果、裁判所が削除の仮処分命令を発令すべきと判断したら、裁判所から申立人に、担保金を法務局に供託(法務局に金銭を預けて保管してもらうこと)するよう伝えられます(民事保全法14条1項)。
なぜ、担保金を供託(立担保といいます)しなければならないのでしょうか?
仮処分は迅速性が求められるため、通常の裁判と比して、審理(審尋)から仮処分命令の発令まで非常に短期間で進みます。
また、通常の裁判と異なり、要求される証拠も、「証明レベルまでいかない、疎明のレベル」で足ります。
そうなると、仮処分命令のあとに本案訴訟(通常の裁判)が起こされ、時間をかけて審理した結果、じつは仮処分命令による保全の執行が間違っていたと判断されることも予想されます。
その場合、法律上、仮処分の申立ては「違法であった」ということになるため、サイト運営者に投稿記事や記事内容を削除させてしまったことに対する賠償責任が生じます。
この損害賠償金を担保する原資として、供託金を収める必要があります。金額は事案によって幅がありますが、削除の仮処分では10万円~50万円程度が目安です。なお、後日「もう担保は不要である」と判断される段階になれば返還されます。
④仮処分命令の発令
期日までに担保金を法務局に供託し、裁判所に供託書のコピーを提出すると、投稿記事を削除するよう仮処分命令が裁判所より発令されますので正本を受け取りましょう。
仮の処分についての命令ではありますが、通常はサイト運営者は投稿記事の削除に応じますのでこの時点で申立ての目的は達成されます。
命令が出されたのに、万一サイト運営者が従わない場合は強制執行も可能です(民事保全法52条1項・民事執行法172条)。サイト運営者側が仮処分命令の発令そのものに不服がある場合は、保全異議の申立てで争う余地もありますが、削除案件で発令後にこの手続きが取られるケースは多くありません。
なお、WEBサイトから該当記事や記事内容を強制的に削除させることはできませんので、「削除するまではお金を払い続けなさい」という間接強制(制裁金で心理的圧迫を加える強制執行の方法)によって削除を促す形がとられます。また、削除だけでなく投稿者を特定して責任を追及したい場合は「発信者情報開示の仮処分・訴訟の流れや要件をわかりやすく解説」で手続きの詳細を確認できます。
削除の仮処分にかかる費用と相場の目安
削除請求の仮処分を申し立てるにあたっては、裁判所に納める実費と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用、そして担保金の3種類のお金が必要です。合計の目安は事案によって幅があり、一般的には数十万円~100万円前後と見ておくとよいでしょう。それぞれの内訳を順に見ていきます。
裁判所に納める印紙代と郵券
裁判所に支払う実費の中心は、申立書に貼付する収入印紙と、裁判所からの書類送付に使う郵便切手(郵券)です。収入印紙は1件あたり2,000円で、申立書の正本に貼って提出します。郵券は事案や相手方の所在地によって異なりますが、国内のサイト運営者を相手とする場合で数千円程度です。なお、相手方が海外法人の場合は、申立書類等の翻訳文の準備が必要となるため、これとは別に翻訳費が5万円~10万円程度発生するほか、国際スピード郵便(EMS)による送達のため郵券代も国内より高額になります。
担保金(供託金)
担保金は、申立てが認められて発令される段階で法務局に供託するお金で、相場は10万円~50万円程度です。削除を求める記事の数や事案の重大性によって裁判所が個別に決めるため、同じ削除案件でも金額には開きがあります。先述のとおり、後日の手続きを経れば返還を受けられるため、最終的な持ち出しにはなりません。
弁護士に支払う費用
弁護士に依頼する場合は、契約時に支払う着手金と、削除が実現した時点で支払う報酬金が発生します。事務所や事案の難易度によって金額に幅がありますが、着手金は20万円から40万円程度、削除が実現した場合の報酬金は15万円から30万円程度が一般的な目安となります。投稿1件単位で料金を設定している事務所もあれば、複数の投稿をまとめて一括で扱う事務所もあります。海外サイトを相手とする案件や、本案訴訟への移行が予想される複雑な案件では、これより高額になるケースもあります。
なお、当事務所の料金体系については個別の相談時にご案内しますので、見通しと併せてお気軽にお問い合わせください。
ネット誹謗中傷の削除でお困りの方へ
削除請求の仮処分は、サイト管理人に任意の削除を拒否されてしまった場合でも、裁判所の命令によってネット上の誹謗中傷を1か月~3か月で削除できる手続きです。通常の民事訴訟と比べて圧倒的に短い期間で結果が出るため、投稿の拡散による被害を最小限に食い止められます。
ただし、仮処分命令を得るためには、被保全権利と保全の必要性を裁判所に適切に疎明する必要があり、申立書の作成や審尋での主張には法的な専門知識が欠かせません。弁護士に依頼することで、証拠の収集から申立書の作成、審尋対応、担保金の供託までを一貫してお任せいただけます。
誹謗中傷の投稿がネット上に残り続けることで、毎日のように精神的な負担を感じている方も少なくありません。すでに削除依頼を試みたものの応じてもらえなかった方や、投稿が他のサイトに転載され始めている方は、ためらわずに法的手段の検討に進まれることをおすすめします。
当事務所では、削除の仮処分の手続きから投稿者の特定、損害賠償請求まで、ネット誹謗中傷に関する問題にワンストップで対応しています。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
ネットで誹謗中傷されたら弁護士に無料で相談してみよう
この記事の監修者
ネット誹謗中傷の削除請求・犯人特定・損害賠償請求に豊富な実績を持つ。掲示板やSNSでの名誉毀損・プライバシー侵害・風評被害に対し、発信者情報開示請求による投稿者の特定から慰謝料請求まで一貫して対応。法人・個人を問わず、ネット上の権利侵害から依頼者を守るために迅速に行動している。

