一刻も早く誹謗中傷を消去したいなら、削除の仮処分を利用しよう

「サイト管理人に誹謗中傷の削除依頼をしたけど削除を断られました。」
「もう打つ手はなしでしょうか?」

答えは「NO」です。

裁判を起こして勝訴すれば削除してもらえます。

ただし、裁判を起こしてから削除されるまで、早くても3か月、遅いと1年以上かかります

「そんなに待てない!その間も私の名誉を害する投稿記事がインターネットで広まってしまうじゃないですか!?」

そういった方のために存在するのが、「削除の仮処分」という手続きです。

そこでここでは以下の3点につき、弁護士がわかりやすく解説していきます。

  • ①仮処分ってなに?
  • ②削除の仮処分が認められる要件は?
  • ③どんな流れで削除の仮処分が行われる?

もし読んでもわからないことがあったり、削除の仮処分を具体的に考えている方は、弁護士に気軽に相談してみましょう。

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そもそも仮処分ってなに?

仮処分とは、わかりやすく言えば、「正式な裁判の前に、とりあえず一旦、裁判で原告が勝訴したという状況にしてあげよう」という手続きです。

なぜこのような手続きが必要なのか。

例えば、掲示板に誹謗中傷や個人情報を晒すような投稿があった場合、通常はその掲示板の専用フォームから削除依頼を試みて、それに応じてもらえない場合には民事訴訟による削除請求をする法的手段が考えられます。

しかし、通常の民事訴訟は冒頭でもお伝えしたように3か月~1年以上かかりますので、その間、原告の名誉やプライバシー権が害される投稿がネットに残り続けることになります。

削除完了が長引けば長引くほどその投稿が多くの人の目に留まり権利侵害が進行するだけでなく、その投稿が他の掲示板やSNSなどに拡散してしまうなどに弊害も予想されます。

それに対し、削除の仮処分を申し立てて、裁判所からサイトに対して削除命令を出すまでにかかる期間は1ヵ月~3か月と短く、被害拡大を防止することができます。

要するに、誹謗中傷の書き込みを長期間ネット上に残しておくことで生じる拡散リスク等から被害者を救済するために、「暫定的な仮の処分」という形で、サイト運営者に裁判所が削除の仮処分命令を出すのです。

”仮”と名前についているため、サイト運営者が削除に応じないのでは?と不安を抱く方もおられますが、裁判所が下した判断ですのでほとんどの相手は命令に従います。もし命令に応じない場合は強制執行することもできます。

削除の仮処分が認められるための要件は?

裁判所に削除の仮処分が認められるには、以下の条文の通り、①被保全権利②保全の必要性の2つの要件を満たす必要があります。

(申立て及び疎明)

第13条
1.保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2.保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。

被保全権利

被保全権利とは、民事保全法による仮処分の手続きにおいて「守るべき権利」のことです。

もし、ネットに誹謗中傷や風評被害の投稿がされているのであれば名誉権、自分が撮影した写真や執筆した文章が勝手に使われているのであれば著作権が被保全権利になります。

そのほかにも、商標権やプライバシー権も被保全権利となり得るでしょう。

権利侵害の違法性も明らかにする必要がある

仮処分の申し立てをする者は、これらの守るべき権利が存在することを明らかにしなくてはなりませんが、同時に、その権利への侵害が違法であることも裁判所に主張して説明しなくてはなりません。

例えば、「〇〇大学教授のAさんは淫行条例で逮捕されたことがある」とネット掲示板に書かれたとします。

たしかにAさんは淫行での逮捕歴がありましたが、それを世間に公表されたことで名誉権が侵害されていますので、被保全権利の存在は認められるでしょう。

しかし、名誉毀損の書き込みがあったとしても、その書き込みに、①公共性公益性真実または真実相当性、この3つがあれば違法性が阻却されます(刑法230条の2)。

つまりAさんのケースでは、③の真実性は満たしているため、その書き込みが、①公共性②公益性を満たしていないことを、仮処分の申し立てをするAさんが主張して裁判官に書き込みの違法性を説明しなければならないのです。

保全の必要性

インターネットの世界に一度情報が流出すると、SNSやミラーサイトを通じて瞬く間に拡散してしまうため、根本となる投稿を早急に削除することが求められます

例えば、誰かの氏名や住所がネットに出回れば、プライバシー権の侵害に留まらず、ストーカーや実生活における嫌がらせ被害にまで拡大することもあります。

そのほか、企業の風評被害の書き込みにより名誉毀損は成り立ちますが、社会的信用の低下により売り上げが低下するといった実損害も生じます。

このように、ネットでの権利侵害は短期間で取り返しのつかない事態にまで被害が拡大する怖れがあるため、被保全権利が存在して、その権利への違法な侵害が認められるのであれば、通常は保全の必要性も認められます

削除の仮処分の流れ

【ステップ①】裁判所に仮処分命令申立書を提出

仮処分の申し立てをする人は、権利侵害が生じている書き込みや投稿記事の削除を求めるために、裁判所に仮処分命令申立書と証拠を提出します。

裁判官に「確からしい」という推測を生じさせることを「疎明(そめい)」といいますが、民事保全法13条2項では、仮処分命令を申し立てるには、被保全権利と保全の必要性について疎明しなければならないと規定されています。

そのため、仮処分命令申立書には、被保全権利と保全の必要性について詳しく記載することに加え、裁判官が「一応確かに被保全権利と保全の必要性がありそうだ」と推測できるような証拠を提出する必要があります。

通常の裁判のような「証明」のレベルまでは必要とされていませんが、「一応たしかに~であろう」と推測できるレベルの証拠を提出する必要があると覚えておきましょう。

具体的には、侵害されていることがわかる投稿記事をプリントアウトしたもの(youtube等の動画サイトで権利侵害されている場合はその動画)等が証拠となるでしょう。

【ステップ②】審尋

審尋とは、裁判官と面談をして、文書や口頭で裁判官に意見を主張したり、裁判官から質問を受けたりする手続きです

争いの当事者が公開法廷の場で弁論活動をする口頭弁論とは違い、債権者(仮処分命令の申立てをする者)と債務者(サイト運営者)がそれぞれ別々に裁判官と面談をするのが一般的です。

まずは債権者が呼ばれて、被保全権利や保全の必要性について疎明するよう求められます。疎明するための債権者の主張や言い分が不十分と裁判官が判断すれば、追加の証拠資料等の提出を求められます。

次いで、債務者審尋が行われ、どちらの言い分が正しいのか、削除の仮処分命令を発令すべきかどうかを裁判官が判断します。

なお、ツイッター社やフェイスブック社のような海外法人を相手とする場合は、申立人のみ審尋が行われることもあります。

【ステップ③】担保金の供託

審尋の結果、裁判所が削除の仮処分命令を発令すべきと判断したら、裁判所から申立人に、担保金を法務局に供託するよう伝えられます(民事保全法14条1項)。

なぜ、担保金を供託(立担保といいます)しなければならないのでしょうか?

上で説明しましたが、仮処分というのは迅速性が求められるため、通常の裁判と比して、審理(審尋)から仮処分命令の発令まで非常に短期間で進みます。

また、通常の裁判と異なり、要求される証拠も、「証明レベルまでいかない、疎明のレベル」で良いとされていることも既出の通りです。

そうなると、仮処分命令のあとに本案訴訟(通常の裁判)が起こされ、時間をかけて審理した結果、じつは仮処分命令による保全の執行が間違っていたと判断されることも予想されます。

その場合、法律上、仮処分の申し立ては「違法であった」ということになるため、サイト運営者に投稿記事や記事内容を削除させてしまったことに対する賠償責任が生じます。

この損害賠償金を担保する原資として、供託金(おおよそ10万円~30万円)を収める必要があるのです。なお、後日、「もう担保は不要である」と判断される段階になれば返還されます。

【ステップ④】仮処分命令の発令

期日までに担保金を法務局に供託し、裁判所に供託所のコピーを提出すると、投稿記事を削除するよう仮処分命令が裁判所より発令されますので正本を受け取りましょう。

既にお伝えした通り、仮の処分についての命令であっても、通常はサイト運営者は投稿記事の削除に応じますのでこの時点で申し立ての目的は達成されます

命令が出されたのに、万一サイト運営者が従わない場合は強制執行も可能です(民事保全法52条)。

なお、WEBサイトから該当記事や記事内容を強制的に削除させることはできませんので、「削除するまではお金を払い続けなさい」という間接強制(制裁金で心理的圧迫を加える強制執行の方法)によって削除を促すことになります。

削除の仮処分手続きは弁護士に相談

仮処分申立書を作成するときには、被保全権利をしっかりと特定し、説得力をもった書面を作成する必要があります。

また、ネットでの誹謗中傷という特性から、できるだけ迅速に仮処分の命令を出してもらわなければなりません。

そのために十分な資料を添付したり、その後の審尋でも自分がいかに被害を被っているのかを、裁判所に納得させたりしなければなりません。

弁護士に依頼することは少なからず費用がかかりますが、仮処分の第一の目的は誹謗中傷による被害を最小限に抑えることです。

そう考えると、削除の仮処分の手続きは専門知識を持った弁護士に早期に相談し、一刻も早い誹謗中傷の削除に向けて動く必要があるでしょう

当法律事務所では、削除の仮処分の手続きや、投稿者の特定、損害賠償請求まで、迅速に弁護士が対応します。親身誠実にアナタの名誉を全力で守りますので、まずはお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。

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