1度の不倫は許せても、2度目の不倫を知り、いざ不倫の慰謝料を請求しようとしたところ、時効が完成していた・・・こんなこと、実際に起こり得ることです。
今回は、そうした事態に陥り、損をしてしまわないよう
- 不倫の時効
- 不倫の時効の起算点
- 不倫の時効完成に対処するための方法
などについて弁護士が詳しく解説してまいります。
ぜひ最後までお読みいただき、少しでも不倫の時効について知識を深めていただけると幸いです。
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目次
不倫の時効とは?
不倫の時効とは、ある時点から一定期間(時効期間を)経過した場合に、不倫をした配偶者(以下、配偶者といいます)や不倫相手に対して不倫慰謝料が請求できなくなることです。
不倫慰謝料は「損害賠償請求権」という権利の一種で、権利であるからこそ時効にかかって権利が消滅し、不倫慰謝料を請求できなくなるという仕組みです(民法第724条)。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
時効期間は「消滅時効」と「除斥期間」の2種類です。
消滅時効は、あなた(被害者)が「損害」及び「配偶者」、「不倫相手」を知った時から「3年」です。
除斥期間は、配偶者と不倫相手の「不法行為」、つまり不貞行為あるいは、不貞行為をしたのではないかと疑われる行為(以下、不貞行為等といいます)があった時から「20年」です。
なお、民事上の時効には消滅時効のほか取得時効があります。一定期間が経過すると権利が消滅するのが消滅時効、権利を取得するのが取得時効です。
また、民事上の時効に対して刑事上の時効があります。刑事上の時効で皆さんがイメージされるのは、公訴時効、つまり、一定期間が経過すると検察官(国家)の起訴権限が消滅して起訴されなくなる、というものではないでしょうか?しかし、不倫の時効は「民事上の時効」ですから、刑事上の公訴時効とは全く異なります。
気を付けたい不倫の「時効の起算点」
不倫の時効で気を付けたいのが「時効期間」のほかに「時効の起算点」、つまり、いつから時効期間が開始するのか、ということです。特に、消滅時効は3年と比較的短いですから気を付けたいところです。消滅時効の起算点は、何を「損害」ととらえて慰謝料を請求するか、「誰」に慰謝料を請求するかで異なってきます。
何を「損害」ととらえて慰謝料を請求するか
消滅時効の起算点は「損害」を知った時ですから、以下のように何を「損害」ととられるかによって異なってきます。
何を損害と捉えるか | 消滅時効の起算点 |
---|---|
①不貞行為等それ自体から生じる精神的苦痛 | 「不貞行為等を知った時」 |
②不貞行為等により、婚姻関係が破綻したことから生ずる精神的苦痛 | 不貞行為等により「婚姻関係が破綻した時(※)」 ※「別居した日」など |
③不貞行為等により離婚するに至ってしまったことから生じる精神的苦痛 | 不貞行為等により「夫婦が離婚した日(離婚成立の日)」 |
以上からすると、
不貞行為等を知った時からはすでに3年を経過している(上記①のケースにあたる)けれども、離婚した日からは3年が経過していない(上記③のケースにあたらない)という場合は、なお不倫の慰謝料を請求できるということになります。実際に、似たような事例で、不倫相手に対する慰謝料請求を認めた判例(東京地裁 平成17年1月31日)があります。
なお、①、②による慰謝料は不貞慰謝料(離婚原因慰謝料)、③による慰謝料は離婚慰謝料(離婚自体慰謝料)と呼ばれ区別されています。
「誰」に慰謝料を請求するか
以下では配偶者と不倫相手とに分けて解説します。
配偶者に慰謝料請求する場合
配偶者に慰謝料請求する場合の消滅時効の起算点は、配偶者を知らないということはないでしょうから、
- 「損害」を知った時
です。
すなわち、以下のとおりとなります。
- 損害①→不貞行為等を知った時から3年
- 損害②→婚姻関係が破綻した時から3年
- 損害③→離婚した日から3年
もっとも、損害①、損害②については以下のとおり例外があります。
つまり、配偶者に対して慰謝料請求しようとする時点で、不貞行為等を知った時(損害①の場合)、婚姻関係が破綻した時(損害②の場合)から3年以上が経過していた場合でも、次の規定がある以上、時効は完成せず、慰謝料請求できるのです(民法第159条)。
(夫婦間の権利の時効の停止)
第159条
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消のときから6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
つまり、この規定は、「夫婦が婚姻関係にある間(法律上の夫婦である間)は不倫の慰謝料請求権は時効にかからず、離婚してからも6箇月以内は時効にかかりません」ということを言っています。時効というプレッシャーを背景に、夫婦が婚姻関係にある間に配偶者に慰謝料請求せよ、というのは酷ですし、財布(家計)を同じにしていることが多いでしょうから慰謝料請求してもあまり意味がありません。また、離婚後(財布を別々にした途端)直ちに慰謝料請求せよ、ということもまた酷ですから上記のような(離婚後6箇月以内は時効にかかりませんという)規定が設けられているのです。
以上をまとめると、
配偶者に対する慰謝料請求の消滅時効の起算点と時効完成日 | |
---|---|
損害①(不貞慰謝料(離婚原因慰謝料)) | 離婚しない以上、時効にかからない。ただし、離婚したら、離婚した日から6箇月を経過した日又は不貞行為等を知ったときから3年を経過した日のいずれか遅い日 |
損害②(不貞慰謝料(離婚原因慰謝料) | 離婚しない以上、時効にかからない。ただし、離婚したら、離婚した日から6箇月を経過した日又は婚姻関係が破綻したときから3年を経過した日のいずれか遅い日 |
損害③(離婚慰謝料(離婚自体慰謝料) | 離婚した日から3年を経過した日 |
ということになります。
不倫相手に慰謝料請求する場合
不倫相手に慰謝料請求する場合の消滅時効の起算点は、
- 「損害」を知った時
- 「不倫相手」を知った時
です。
「不倫相手を知った時」とは、不倫相手に対して不倫の慰謝料請求権を行使することが事実上可能な時、という意味です。すなわち、不倫相手の顔は知っているけれども住所・氏名を知らず、不倫相手に対して慰謝料請求できないという状態では「不倫相手を知った時」とはいえません。
いずれか一方を知らなければ(消滅)時効期間は進行しません。したがって、「不貞行為等は知っているけれども、不倫相手の顔、住所、氏名が分からない」という場合は、時効期間は進行しません。
もっとも、除斥期間は進行していることに注意が必要です。除斥期間の起算点は不貞行為等が行われた時です。除斥期間は、あなたが不貞行為等を知っているか否か、不倫相手を知っているか否かにかかわらず進行します。また、後で解説するように、消滅時効と異なり、時効期間の進行を中断させることができません。そこで、「不倫相手が誰か分からないまま除斥期間(20年)が経過した」という事態が生じることも考えられます。こうなると不倫相手に慰謝料請求することができなくなってしまいます。また、不倫相手に対する慰謝料請求の場合、民法第159条は適用されません。つまり、原則どおり、損害及び不倫相手を知った時から3年で消滅時効が完成します。
なお、不倫相手に対する慰謝料請求については時効の他に、次の点にも注意が必要です。すなわち、不倫相手に対しては、基本的に
- 不貞慰謝料(離婚原因慰謝料)の請求は可
- 離婚慰謝料(離婚自体慰謝料)の請求は不可
という点です(最高裁判所が平成31年2月19日)。
夫婦が離婚に至るまでの経緯、背景には不倫相手による不貞行為等のほか様々な要素が絡むことから、夫婦が離婚に至った責任について直ちに不倫相手に負わすことはできず、原則として、不倫相手に対する離婚慰謝料の請求を認めることはできない、というのが最高裁判所の考え方です。もっとも、最高裁判所は「夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」があるときには、不倫相手に対する離婚慰謝料(離婚自体慰謝料)の請求も可能としています。
この裁判の元となった事例の内容は、妻に不倫をされた夫が、不倫相手の男性に対して離婚慰謝料を請求したというものでした。では、不倫相手に離婚慰謝料を請求できないのであれば、不貞慰謝料を請求すればよいのでは?とお考えになるかもしれませんが、実は、不倫相手に慰謝料請求する時点で、不貞慰謝料の時効が完成しており、離婚慰謝料しか請求できなかった、という事情がこの事例の背景にはありました。
不倫の時効完成の猶予する「時効の完成猶予」と「時効期間の更新」
時効完成の猶予とは、一定の事由(完成猶予事由)があるために、時効期間が経過したことによって時効が完成した後も、一定期間、時効の完成を猶予すること、つまり先延ばしにすることです。
もっとも、時効の完成猶予には、次の時効期間の更新と異なり、すでに進行している時効期間をリセットする(0にする)までの効果はありません。
他方、時効期間の更新とは、一定の事由(更新事由)があるために、それまでに進行していた時効期間をリセットする(0にする)、すなわち振り出しに戻し、0から時効期間を進行させることをいいます。
たとえば、2019年11月1日、あなたが、同年4月1日に配偶者が不倫相手と不貞行為をしたこと及び不倫相手が誰であるかを知ったとします。この場合の不倫相手に対する不貞慰謝料の時効の起算点は2019年11月1日です。そして、その時点から時効期間が進行するわけですが、仮に、2020年8月1日に「更新事由」が生じた場合には、2019年11月1日~2020年8月1日まで進行した9か月の時効期間が振り出しに戻り(「0」になり)、再度0から時効期間が進行する、というのが時効期間の更新です。
なお、民法改正により、よくネットなどで散見される「時効の中断」という制度、ワードは削除され、代わりに、「時効の完成猶予」、「時効期間の更新」が新設されましたことを付け加えておきます。
時効を更新するには~時効完成に対処するための4つの方法
時効を更新するには、
- ① 訴訟を提起する
- ② 調停を申し立てる
- ③ 強制執行(財産の差押え)を申し立てる
- ④ 配偶者、浮気相手に債務を承認させる
の方法があります。
①訴訟を提起する
配偶者や不倫相手に対して「慰謝料を支払え」などという内容の訴状(書面)を書いて裁判所に提出します。
訴訟の提起は時効の完成猶予の効力も有します。②調停の申し立て、③強制執行(財産の差押え)の申し立ても同様です。したがって、訴訟を提起した後、時効期間が経過しても時効は完成しません。そして、裁判で判決が下り、一定期間を経過して判決が確定した段階で時効期間が更新されます。
不倫相手に不貞慰謝料を請求する場合の時効の起算点から時効の更新までの流れ
なお、判決が確定した場合(時効の更新後)の消滅時効期間は10年です(民法第169条)。
②調停を申し立てる
配偶者と離婚する前は、基本的に配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「夫婦関係調整調停(離婚)」を申し立てます。離婚した後は、基本的に元夫妻の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「慰謝料請求調停」を申し立てます。
不倫相手に慰謝料請求する場合は、基本的に不倫相手の住所地を管轄する簡易裁判所に対して「不倫慰謝料請求調停(民事調停)」を申し立てます。
時効の起算点から時効の更新までの流れは①訴訟を提起する場合と同じです。
ところで、①、②は「裁判上の請求」といいますが、裁判上の請求に対して「裁判外の請求」である「催告」というものがあります。民法改正前は、催告を行った後(配達証明付き内容証明郵便で慰謝料請求した後)、6か月以内に裁判上の請求をすると時効中断(民法改正後の時効の更新)の効果が生じました。しかし、民法改正後の「催告」は「時効の完成猶予」の効果しかありません。つまり、時効の更新の効果(時効期間の進行をリセットする効果)はありませんので注意が必要です。
③強制執行(財産の差押え)を申し立てる
①訴訟の提起を経ずに、いきなり強制執行の申し立てすることができるのは、配偶者、不倫相手との間で慰謝料の支払いに関する示談(和解契約)を締結し、その内容を公証人が作成する「強制執行認諾付き公正証書」という書面に残した場合です。
申立書や強制執行認諾付き公正証書などの書類をそろえて裁判所に対して申し立てを行います。
時効の起算点から時効の更新までの流れは①訴訟を提起する場合と同じです。
④配偶者、不倫相手に債務を承認させる
債務を承認させるとは、「配偶者、不倫相手が不貞行為等の事実を認め、慰謝料の支払い義務があることを認める(あるいは、配偶者、不倫相手に認めさせる)」ということです。
口頭でも承認した(認めた)ことになりますが、後日、言った言わなかったのトラブルとならないよう、示談書(合意書)、公正証書などの書面にきちんとした形で残しておきましょう。
債務の承認は①、②、③と異なり、時効の完成猶予の効果はなく、いきなり時効が更新されます。債務が承認された時点で時効期間はリセットされ、その時点から新たな時効期間が進行します。
不倫の時効Q&A
不倫の時効に関してよくある疑問についてお答えします。
配偶者に対して慰謝料を請求し、かつ、離婚も検討されているということですね。
配偶者の不貞行為等を理由として離婚する場合、配偶者に対する慰謝料は「離婚慰謝料(離婚自体慰謝料)」として請求することができます。
離婚慰謝料の時効の起算点は「離婚した日(離婚成立の日:協議離婚であれば、離婚届を役所に提出して受理された日)」で、その時点から3年を経過しないと時効は完成しません。
よって、3年の時効期間が経過しない限り、慰謝料請求できます。
本件は、時効が完成しているわけですから、慰謝料請求できないようにも思えます。他方で、不倫相手は債務を承認していますから、慰謝料請求を認めてよいようにも思えます。
この点、判例(最高裁判所昭和41年4月20日)は、「債務者(不倫相手)が、時効が完成した後債務の承認をするのは、債務者が時効の完成を知らなかったと考えるのが通常であり、時効完成(時効の援用)を認めてあげないと債務者に酷である。しかし、債権者(被害者)からしたら、債務者が債務を承認した以上、もはや債務者は時効を完成させない(時効を援用しない)だろうという期待を抱くのが通常であり、そうした期待を保護する必要がある。債務者は一度、債務の承認をした以上、債権者の期待に反してそれをなかったことにすることはできない。」と判断しています。
要するに、時効完成後に、配偶者や不倫相手が時効完成を知っていながら債務を承認した場合はもちろん、時効完成を知らないまま債務を承認した場合でも、慰謝料請できるということになります。
不倫の慰謝料請求する際の2つの注意点
不倫の慰謝料請求する際は
- ☑ 不倫(不貞行為等)を疑ったら速やかにその証拠を集めること
- ☑ 証拠が集まった段階で、不倫の慰謝料請求を行うこと
の2つです。
不倫(不貞行為等)を疑ったら速やかにその証拠を集めること
配偶者や不倫相手に不倫の慰謝料を請求するには、まず、不貞行為等の事実を証拠により証明する必要があります。
配偶者や不倫相手が自白してくれれば(不貞行為等の事実を認めてくれれば)、その自白は立派な証拠となり得ます。しかし、不倫の慰謝料を請求するケースで、配偶者や不倫相手が不貞行為等の事実をすんなり自白してくれるとは限りません。むしろ、自白しない(否認する)方が多いでしょう。
そこで重要となるのが「自白以外の証拠」です。自白以外の証拠とは、たとえば
- ☑ 配偶者と不倫相手がラブホテルや互いの自宅に出入りした際を撮影した写真や動画
- ☑ 不貞行為等をうかがわせる内容のメールを撮影した写真
などがあります。確かに、こうした証拠は不貞行為を直接証明し得る証拠ではありませんが、不貞行為が行われたのではないかと疑わせるには足りる証拠にはなり得ます。配偶者や浮気相手の自白がなくても、こうした自白を積み重ねることによって、交渉や裁判の場で相手を説得する強力な武器となるのです。
証拠は時の経過とともに失われていきますから、不倫(不貞行為等)を疑ったら、慰謝料請求するか否かにかかわらず速やかに証拠を集めておくことをお勧めします。
証拠が集まった段階で、不倫の慰謝料請求を行うこと
そして、証拠が集まった段階で、不倫の慰謝料請求を行います。逆に、証拠が集まっていない間(証拠が不十分な間)に慰謝料請求しても、満足のいく結果を得ることは難しいでしょう。
どんな証拠を、どのように集めたらいいのか、集めた証拠で慰謝料請求できそうか判断に迷うようでしたら、不倫の証拠に詳しい弁護士(法律事務所)、あるいは探偵(興信所、探偵事務所)に早い段階で相談しましょう。
まとめ
不倫の時効には3年という消滅時効と20年という除斥期間があります。消滅時効は短いですから、まず時効がいつから起算されるのか「時効の起算点」に注意しましょう。配偶者に対する慰謝料請求権は、婚姻中は時効にかかることはありませんし、離婚後は離婚した日から3年間は行使する機会がありますから、あまり気にする必要はありません。他方で、不倫相手に対する慰謝料請求権は、通常どおり時効期間が進行していきますので、特に消滅時効には注意が必要です。もし、慰謝料を請求する段階で、時効完成の日が近い、という場合は「時効の完成猶予」、「時効の更新」という制度を駆使して慰謝料請求することも可能です。お困りの場合は、早めに弁護士や探偵に相談しましょう。
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