
交際相手に独身と偽られて関係を持っていた場合、貞操権の侵害を理由に、相手へ慰謝料を請求できることがあります。貞操権とは、誰と性的な関係を持つかを自分の意思で決める権利のことです。
ただ、偽られていれば必ず請求が通るわけではありません。「独身だと聞いていたのに既婚者だった」「離婚するという話も嘘だった」「婚活アプリで知り合ったのに家庭があった」。経緯が似ていても、相手の嘘がどこまで露骨だったか、既婚に気づける状況だったかで結論は分かれます。
この記事では、男女トラブルに強い弁護士が、次の点について解説します。
- 慰謝料を請求できるのはどんなときか
- 逆に認められにくいのはどんなときか
- 貞操権侵害の慰謝料はいくらになるのか
- 慰謝料の請求方法と3年の時効
お読みいただくことで、手元にある材料でどこまで請求できるのか、いつまでに動く必要があるのかを整理できます。
なお、交際相手に独身と偽られてお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談をご利用ください。地域を問わずご相談を承っています。
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貞操権とは?交際相手に独身と偽られたときに主張できる権利
貞操権とは、誰とどんな性的関係を結ぶかを自分の意思で決められる権利です。独身だと聞かされて交際を始め、肉体関係を持ったあとで相手が既婚者だったと分かった場合、この権利を侵害されたとして、相手に慰謝料を請求できることがあります。
「貞操」という言葉そのものは性的な純潔や節操を指しますが、法律の話に出てくる貞操権は、純潔を守る権利というより、性的関係を結ぶかどうかを自分で決める自由(性的自己決定権)を指しています。
この自由は、結婚しているかどうかに関わりなく誰もが持っています。相手が既婚者だと最初から知っていれば関係を持たなかったはずなのに、嘘によってその判断材料を奪われた。ここが、独身と偽られた側が貞操権によって保護される理由です。
法的な位置づけは、民法の不法行為です。故意または過失で他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。そして、精神的な苦痛のように財産以外の損害も賠償の対象になると定められています。
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
出典:e-Gov法令検索
つまり貞操権侵害の慰謝料は、離婚や配偶者の不貞をめぐる慰謝料とは別の枠組みであり、婚姻関係にないあなたの立場でも請求できるものです。
貞操権侵害で慰謝料が認められるケース・認められないケース
独身と偽られたからといって、どの事案でも貞操権侵害による慰謝料が必ず認められるとは限りません。分かれ目になるのは、肉体関係があったか、相手の嘘がどれだけ露骨だったか、そしてあなたが既婚の事実を知り得たかどうかです。請求できる側とできない側に分けて整理します。
慰謝料を請求できるのはどんなときか
慰謝料の請求が通りやすいのは、貞操権侵害の前提として、相手が独身だと偽る言動、いわゆる独身偽装があった場合です。
- 独身・未婚だと口に出して言っていた、指輪を外す・自宅に上げるなど独身を装う行動を続けていた
- 結婚相談所や婚活アプリなど、独身であることが前提の場で知り合った
- 「結婚しよう」「もうすぐ離婚が成立する」と将来を約束する話をしていた
- 交際や肉体関係を、相手の側から積極的に働きかけていた
- 妊娠や中絶に至った、交際が数年単位に及んだなど、受けた痛手が大きい
前の3つは「はじめに既婚だと分かっていれば応じなかった」という判断を奪われたことを、4つ目は相手の側の落ち度の重さを、最後の1つは受けた痛手の大きさを示す事情です。ひとつだけで決まるわけではなく、複数が重なるほど貞操権侵害と評価される可能性が高まります。
慰謝料が認められにくいのはどんなときか
反対に、慰謝料が認められにくいのは、次のような事情があるときです。貞操権の侵害とは評価されにくく、請求は難しくなります。
- 相手との間に性交渉がなかった(プラトニックな交際にとどまっていた)
- 相手が既婚者だと知っていた、または生活の様子から十分に気づける状況だった
- 相手は独身だと言っておらず、あなたの側が思い込んでいただけだった
- 結婚を意識した交際ではなく、はじめから割り切った関係だった
ただし1つ目については、性交そのものがなかったとしても、身体を愛撫し合うなど性的に密接な行為があったときは、その態様によって貞操権侵害と評価される余地が残ります。
とくに気をつけたいのが、既婚者だと分かったあとも関係を切れずにいた場合のリスクです。知った時点から先は不貞行為と扱われ、今度はあなたが相手の配偶者から慰謝料を求められる立場になりかねません。関係を清算するかどうかの判断は、貞操権侵害を主張できるかどうかと同じくらい重い分かれ目になります。実際に配偶者から慰謝料を請求されたときの支払義務と対応は「既婚者だと知らなかった場合の慰謝料請求の支払義務と対処法」で解説しています。
貞操権侵害の慰謝料相場はいくら?金額を左右する事情
貞操権侵害で認められる慰謝料は、数十万円から300万円程度という幅で語られることが多く、事案によってはこの幅を上回った例も紹介されています。精神的な苦痛に決まった値段はなく、嘘の悪質さと受けた痛手の大きさで金額は大きく動きます。
比較の目安として、配偶者のいる人が不倫(不貞行為)をした場合の慰謝料は、離婚に至らなければ50万円から100万円程度、離婚したときで200万円から300万円程度とされます。貞操権侵害の水準をこれより低めに置く解説もあれば、同程度とする解説もあり、目安そのものに幅があります。
貞操権侵害の悪質性を示す次のような事情は、金額を押し上げる方向に働きます。
- 独身だと信じたまま交際していた期間が長い
- 性交渉の回数が多い、強要に近い形だった
- 結婚の約束や婚約があった
- 妊娠・中絶・出産に至った
- 年齢差が大きい、相手に社会的な地位があるなど、嘘に対する責任が重く見られる事情がある
妊娠や中絶にまで至った場合は、精神的な苦痛に加えて身体の負担や費用の問題も重なります。中絶をめぐって相手にどこまで請求できるのかは「中絶の慰謝料は請求できる?認められるケースと相場・請求方法」をご参照ください。
逆に、交際期間が短い、独身だという明確な発言がない、あなたの側にも既婚を疑う材料があったといった事情は、金額を下げる方向に働きます。相場の数字だけを当てはめるより、自分の事情がどちら側に傾くかを確かめたほうが実際の見通しは立てやすくなります。
貞操権侵害の慰謝料として伝える金額にも注意が必要です。相場の上限をそのままぶつけると相手が態度を硬化させ、話し合いが止まってしまいます。かといって早く終わらせたい一心で低い額に応じると、あとから増額を求めるのは難しくなります。示談書に「今後いっさい請求しない」という条項が入ったあとでは、追加の請求は原則としてできません。金額と引き換えに何を約束するのかまで含めて、最初の提示を決めることになります。
貞操権を侵害された側が慰謝料を請求する手順と3年の時効
いきなり裁判を起こすわけではなく、請求には段階があります。請求する相手は嘘をついた交際相手本人で、その配偶者に請求できるわけではありません。どの段階でも土台になるのは貞操権侵害を裏づける証拠で、あわせて請求できる期間の期限にも注意が必要です。
慰謝料の請求方法は3つ
貞操権侵害の慰謝料の請求方法は、次の順に進むのが一般的です。
- 当事者どうしの話し合いで請求する
- 内容証明郵便で書面として請求する
- 訴訟を起こして裁判所に判断してもらう
まずは話し合いですが、相手が嘘そのものを否定することも珍しくありません。応じないときは、請求の金額と理由を内容証明郵便で示します。書面を送ると、相手が弁護士を立てて交渉の窓口が一本化されることもあります。それでも折り合わなければ、訴訟に進みます。
どの段階でも問われるのは、貞操権侵害の前提となる、相手が独身だと信じさせた事実を示せるかどうかです。独身と記載されたマッチングアプリのプロフィール画面、「独身だ」「結婚しよう」といったやり取りが残るLINEやメールのメッセージ、交際期間が分かる写真や予定表などが手がかりになります。相手を問い詰めるとアカウントやトーク履歴を消されることがあるため、証拠は先に保存しておいてください。どのようなものが証拠として使えるのかについては「既婚者だと知らなかった証拠とは?6つの例と活用法を解説」で具体的な例を紹介しています。
請求できるのは既婚者だと知ったときから3年
貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は、損害と加害者を知ったときから3年で時効にかかるのが原則です。あなたの場合は、相手が既婚者だと知ったときが起算点になります。これとは別に、行為の時から20年が経過した場合も請求できなくなります。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
出典:e-Gov法令検索
貞操権侵害の時効は交渉している間も進みます。相手が話し合いを引き延ばしているうちに期限が近づくこともあるため、時間が経っているなら、訴訟も視野に入れて早めに動く判断が必要になります。
貞操権を侵害されたら弁護士にご相談ください
貞操権侵害の慰謝料請求でまず効いてくるのは、相手の嘘を裏づける材料が、いま手元にどれだけ残っているかです。やり取りの履歴は相手に気づかれた時点で消えることがあり、3年の時効も交渉している間に進みます。
弁護士にご相談いただければ、手元の材料でどこまで主張できるのか、金額としてどのあたりを目指せるのかの見通しが立ちます。ご依頼後は、相手とのやり取りも代理人としてお引き受けしますので、顔を合わせたり言い争いになったりする負担を大きく減らせます。
信じていた相手に裏切られたうえで、その相手と金銭の話を進めるのは、精神的にも重い作業です。相手が連絡を絶っている場合や、話し合いが平行線のまま3年の時効が近づいている場合は、早めに動いたほうが選べる手段は多く残ります。
当事務所は貞操権侵害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってきました。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。事務所全体で年間1,500件以上の男女トラブル相談を受けており、不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の暴力的・脅迫的な言動にも弁護士が毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために全力を尽くしている。

