
自分以外の異性と男女の関係になった挙句に、離婚になったら財産を分けろと言われるわけですから、当然の感情でしょう。
しかし,結論から言いますと、理屈上は不倫した配偶者に対して財産分与は必要になります。
腑に落ちないお気持ちは理解できますが、まずは現実を受け入れ、少しでも財産を多くもらうための手立てを考えなくてはなりません。
そこでこの記事では、離婚の財産分与に強い弁護士が、財産分与の知識や、不倫した配偶者への交渉方法をわかりやすく解説していきます。
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目次
1 財産分与とは
(1)財産分与の種類
清算的財産分与
夫婦が離婚する場合,婚姻期間中に夫婦が形成した共有財産を清算する必要があります。夫婦が婚姻期間中に共同して形成した財産であれば,その名義がどちらであるかは問いません。
共有財産に該当しない財産の典型例としては,親族からの援助や独身時代に形成した財産になります(このような財産は「特有財産」と呼ばれています)。なお,特有財産であることの立証責任は特有財産であると主張する側にあります。
財産分与の割合は財産形成の寄与度に応じることになりますが,夫婦の一方が財産の形成に多大な貢献をしたなどの特段の事情がない限り,寄与度は2分の1とされ(いわゆる「2分の1ルール」),ほぼすべてのケースで2分の1ルールが採用されています。
離婚に伴う財産分与でメインとなるのがこの清算的財産分与になります。
扶養的財産分与
夫婦の一方が婚姻後,家事や育児に専念するために仕事を辞めたという方もいらっしゃるでしょう。そのような夫婦が離婚した場合,仕事を辞めた方の配偶者は,もう一方の配偶者からの扶養(婚姻費用の分担等)を受けられなくなるため,新たに仕事を探したり,親族等に援助を求めたりする必要が生じることもあると思います。
このような場合に,仕事をしていなかった方の配偶者が経済的に自立するまでの間,財産分与として,もう一方の配偶者に生活費を負担させる考え方を扶養的財産分与といいます。もっとも,扶養的財産分与が認められるケースは極めて稀です。
慰謝料的財産分与
条文上,財産分与は,「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」とされています(民法第768条3項)。したがって,婚姻関係を破綻させた主な原因が一方の配偶者にある場合には,財産分与においてこれを考慮するという考え方が慰謝料的財産分与です。
しかし,婚姻関係を破綻させた主な原因が一方の配偶者にあることは,不法行為に基づく離婚慰謝料(民法第709条,710条)で議論されるべき問題ですので,裁判実務において,慰謝料的財産分与が認められるケースは皆無に等しいと言って良いでしょう。
(2)財産分与の対象となる財産の具体例
財産分与の対象となる財産としては,以下のようなものがあります。
- 不動産
- 預貯金
- 生命保険,学資保険
- 株式
- 退職金,企業年金(確定拠出年金,確定給付年金等)
- 自動車
- 高価な貴金属
- 借入金(住宅ローン,教育ローン等)
住宅ローン等の消極財産は,積極財産から差し引いた上で,積極財産が残っていれば,その2分の1を分与することになります。
2 不倫した配偶者へ財産分与は必要か
(1)有責配偶者とは
主として婚姻関係を破綻させた責任のある配偶者のことを「有責配偶者」と言います。一般的に不倫をした配偶者は有責配偶者と認定されるケースが多いです。
有責配偶者は,非常に厳しい要件をクリアしない限り,離婚を請求することができなくなります。具体的には,①長期間の別居(約7〜10年),②未成熟子がいないこと(15歳くらい),③離婚により不倫された側の配偶者が精神的・社会的・経済的に苛酷な状態にならないことという要件を満たすことが必要になります(最高裁昭和62年9月2日民集第41巻6号1423頁)。
(2)不倫をした配偶者への財産分与
不倫をした配偶者は,民法上の不法行為(民法第709条)に該当することをしたのであるから,財産分与は認められるべきではないと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし,不倫をした配偶者がもう一方の配偶者と財産を形成した事実に変わりはなく,また,不倫の事実は慰謝料請求で解決されるべき問題ですので,理論上は,有責配偶者からの財産分与請求も2分の1ルールに基づき認められます。
もっとも,理論上は上記のとおり2分の1ルールが適用されますが,交渉により財産分与の割合を有利にすることができる場合もあります。前述のとおり,有責配偶者からの離婚請求が認められるハードルは非常に高いです。有責配偶者の中には,不倫相手と再婚したいから早く離婚したい・長期の別居期間中に毎月高額な婚姻費用分担義務が生じているため早く離婚してこれを消滅させたいという方もいます(※「婚姻費用分担義務」とは,配偶者に対する扶養義務として,収入の多い方が収入の少ない方に毎月一定額の生活費を支払わなければならない義務のことです。この義務は婚姻関係に基づく扶養義務が根拠となるため,離婚の成立により消滅します。)。
このように離婚を焦っている有責配偶者に対しては,財産分与を放棄させる又は財産分与の割合を2分の1未満にするという条件であれば離婚に応じても良いという提案をすることで,財産分与の2分の1ルールを覆す内容で離婚を成立させられる場合もあります。
3 財産分与を請求する流れ
(1)基準時を決める
まずは,財産分与の基準時を決めることになります。基準時とは,その日の財産の金額を財産分与の対象とする時点のことです。
一般的に,基準時は別居日とすることが多いです。単身赴任の場合など離婚を前提とした別居がなされた日が不明確な場合には,離婚調停の申立日や最初に離婚を請求した日を基準時とすることもあります。
(2)財産を把握する
双方,基準時の財産資料を開示することになります。
相手方配偶者が財産を隠匿しているおそれがある場合には,離婚調停又は訴訟においては調査嘱託の申立て(家事事件手続法第64条1項,民事訴訟法第186条)という裁判所による銀行,保険会社,相手方の勤務先に対する調査を依頼することができます。ただし,調査嘱託の申立てを採用するかは裁判所の判断になるため,必ず調査を行ってもらえるわけではありません。
財産資料の開示に当たっては,基準時から基準時の1年前までの銀行口座の取引履歴を開示することがあります。これは,お互いに隠匿している財産がないか,不当な支出がないかを確認するために行います。例えば,取引履歴の中に給与の振込履歴や水道光熱費の引落履歴がなければ,給与口座や水道光熱費の引落口座が隠匿されている可能性があるので,相手方に追及することになります。
また,財産資料の開示と並行して,「婚姻関係財産一覧表」というものを作成し,双方の財産及び財産分与に関する主張をまとめていきます。婚姻関係財産一覧表の雛形は裁判所のホームページからダウンロードが可能です。
(3)不当かつ多額の支出がある場合
基準時から基準時の1年前までの銀行口座の取引履歴を開示した場合に,多額の出金やクレジットカードの引落しが判明する場合があります。このような場合には,相手方に対し,多額の出費が生じた理由及びその必要性について説明並びに出費の内容が分かる客観的資料の提出を求めることになります。
相手方が合理的な説明をすることができない場合や浪費などの不当な支出であることが判明した場合には,その金額を持ち戻して計算し,財産分与の金額を修正することもあります。
(4)慰謝料請求
不倫をした配偶者に対しては,不法行為に基づく慰謝料請求をすることができます(民法第709条,710条)。
離婚の主な原因が配偶者の不倫である場合には,100万〜300万円程度の離婚慰謝料が認められることが多いです。慰謝料額は事案によって異なり,婚姻期間の長短,子の有無,不倫期間の長短,不倫の回数・頻度等の事情を総合的に考慮して決まります。
財産分与の金額がある程度決まってきた際には,慰謝料額により最終的な支払金額を調整することもあります。
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4 財産分与の注意点
(1)財産分与の内容を書面に残す
財産分与について合意が成立した場合には,これを書面に残すことが重要です。「本件離婚に伴う財産分与として◯円の支払義務があることを認め,これを◯年◯月◯日限り,◯の指定する口座に振り込む方法により支払う」というような内容をきちんと書面に残しておかないと,後から追加で財産分与の請求をされたり,後述する除斥期間を理由に財産分与の請求が認められなくなったりするおそれがあります。
(2)除斥期間
財産分与請求権には除斥期間,すなわち請求をしないと権利が消滅する期間が定められており,離婚成立から2年を経過すると請求ができなくなりますので,注意が必要です(民法第768条)。
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(3)住宅ローン
財産分与として,住宅ローンの残っている自宅不動産を相手方配偶者に譲渡する場合があります。自宅不動産の譲渡を受けた配偶者と自宅不動産及び住宅ローンの名義人が異なる場合には,以下のような問題が生じるおそれがあるので,住宅ローンが残っている自宅不動産を分与する場合には注意しましょう。
- 住宅ローンを組んでいる銀行(抵当件等)との関係で,住宅ローンを完済しない限り自宅不動産の所有権移転登記ができない
- 住宅ローンを一括返済したいが別の金融機関が融資をしてくれず,住宅ローンを組んでいる銀行も住宅ローンの名義変更には応じてくれない
- 自宅不動産の譲渡を受けた配偶者(居住者)がもう一方の配偶者(名義人)に代わり住宅ローンを返済する旨合意したが,病気等の事情により支払不能となり,結局自宅不動産を譲渡した配偶者(名義人)が住宅ローンの支払を余儀なくされる
- 自宅不動産を譲渡した配偶者(居住者)が離婚後も住宅ローンの支払を継続することに合意したが,病気等の事情により支払不能となり,住宅ローンを組んでいる銀行が抵当権を実行して自宅不動産が競売にかけられる
5 まとめ
財産分与は,請求額が多額になったり,特有財産の立証・財産の価格(特に不動産や株式)・財産の調査・住宅ローンの問題・不当な支出がある場合の持ち戻しの主張など専門的な知識や手続が必要になったり,2分の1ルールという大原則を覆す交渉力が必要になったりと,非常に難しい対応を迫られることが多いです。
そのため,離婚に際し財産分与を請求する又は請求される可能性がある場合には,弁護士に無料相談してみることをお勧めします。財産分与が争点となる可能性がある場合には,弊事務所までお気軽にご相談ください。
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