離婚で財産分与をした際、税金がかかる場合があることはご存じでしょうか。
財産分与で税金がかかるケースは少ないですが、
- 財産分与としてもらう金額が多い場合
- 不動産の分与を受ける場合
- 不動産や株式など現金以外の資産を分与する場合
には税金がかかることがあります。
この記事では、離婚問題に強い弁護士が、
- 財産分与で税金がかかるケース
- 財産分与で税金がかかるのはいくらからなのか
などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
財産分与される側と税金
財産分与される側にかかる可能性がある税金としては贈与税と不動産取得税があります。以下では贈与税と不動産取得税とに分けて解説してまいります。
贈与税
贈与税は原則としてかかりません。
これは、財産分与が、相手の意思に基づき財産を無償で譲り受ける(贈与される)というものではなく、あくまで夫婦の財産関係の清算や財産分与される方の離婚後の生活保障のための財産分与義務に基づき行われるものだと考えられるからです。
もっとも、財産分与では、(共有)財産を夫婦で1/2ずつ分与するのが一般的(1/2ルールともいわれます)であるところ、その割合を超え(たとえば、特段の理由なく、夫から財産の9割を譲り受けた場合など)、もはや財産分与ではなく贈与と認められる場合には、超過分につき贈与税がかかります。
もっとも、1/ 2というのはあくまで一般的な目安です。
財産分与とみなされる分与の割合は夫婦の個別的事情(夫婦がその財産の形成にどれだけ貢献したかなど)により変動しますから、たとえば、妻がより財産の形成に貢献したと認められる場合には1/2よい多い分与を受けた場合でも贈与税がかからないことはあります。
また、稀なケースではありますが、税金を免れるための偽装離婚した場合にも贈与税がかかります。
この場合、たとえ財産分与したとしても、それは本来の意味での財産分与ではありません(単に税金を免れるための財産分与です)から贈与税がかかります。
不動産取得税
不動産取得税は不動産を取得した場合などにかかる税金です。
不動産を取得した場合は、取得してから概ね4か月~6か月後に、市区町村役場から納税通知書が届きます。
そして、その納税通知書に記載されてある金額を一度だけ納付するのが不動産取得税です。
このように、不動産取得税については財産分与前にすでに納付しているはずです。
また、そもそも財産分与が、
- 実質的に夫婦の共有財産の分割と認められるものである
- 婚姻中の財産関係を清算する趣旨のものである(財産分与が清算的財産分与の場合)
と認められる場合は、たとえば、財産分与によって夫単独所有から妻単独所有へと所有権を移転させた場合でも、実質的な所有権の移転はない(つまり、妻が不動産を取得したとはいえない)ものと考えることができます。
したがって、上記2つの要件を満たす場合、不動産取得税はかかりません。
他方で、上記2つのいずれかの要件を満たさない場合(たとえば、不動産を、夫婦のいずれかが離婚後に生活に困窮しないためという扶養的財産分与として、あるいは、慰謝料の代わりとする慰謝料的財産分与として譲受した場合)は不動産取得税がかかります。
不動産取得税の他、不動産を取得した際は不動産を登記する際にかかる登録免許税、不動産を所有している限り毎年納付しなければならない固定資産税がかかります。
登録免許税や固定資産税は、上記の要件を満たすか否かにかかわらずかかりますので注意が必要です。
財産分与する側にかかる税金
財産分与する側にかかる税金は「譲渡所得税」です。譲渡所得税とは「資産」の譲渡による「所得」にかかる税金のことです。
譲渡所得税の対象となる「資産」としては以下のようなものがあります。
- 土地、建物(不動産)
- 株式
- 借地権
- 金地金
- 宝石
- 漁業権
- ゴルフ会員権
- 著作権 など
現金は資産に含まれませんから、財産分与で現金を譲渡したとしても譲渡取得税はかかりません。
なお、課税譲渡所得金額は、「譲渡時の資産の時価-(資産の取得費+譲渡費)-特別控除額」で計算されます。これに一定の税率をかけた額が譲渡所得税として課税されます。
例えば、財産分与で不動産を配偶者に譲渡するケースで、「譲渡時の不動産の時価」が「不動産の購入費+譲渡費(印紙代など)」を上回るような場合には、その差額に対して譲渡所得税がかかる可能性があります。
なお、「特別控除額」とは以下で解説する「マイホーム特例」が適用される場合の3000万円のことを意味しています。
財産分与でかかる税金の節税法
税金が発生する場合があるとしても、できる限り税金を安くしたいですよね?以下では税金ごとの節税方法について解説してまいります。
贈与税~財産分与を受ける側向け
前述のとおり、財産分与における一般的な分与の割合(夫婦の1/2程度)を超えると、超過した分につき贈与税かかることがあります。
したがって、節税のためには、まずこの割合を超えない程度に分与を受けることが必要ということになります。
もっとも、これも前述したとおり、1/2という割合は目安に過ぎませんから、節税のためには、夫婦の個別の事情を詳細にみていくことも必要となってきます。
なお、20年以上婚姻関係にある夫婦が、不動産(居住用のもの)を他方の配偶者に譲渡する場合は、贈与税の節税することができます。
なぜならこの場合、最大2110万円(特別控除額2000万円+基礎控除額110万円)の控除を受けることができるからです。
したがって、不動産(居住用のもの)を財産分与の対象とする可能性が場合は、離婚後ではなく離婚前に譲渡の手続きを済ませておくと贈与税の節税につながります。
不動産取得税~財産分与を受ける側向け
前述のとおり、不動産を扶養的財産分与、あるいは慰謝料的財産分与として譲受した場合は不動産取得税がかかります。
もっとも、中古住宅に関しては以下のすべての要件を満たす場合に限り、不動産取得税の軽減措置を受けることができます。
軽減措置を受けるには都道府県税事務所に対して申請する必要があります。
- 住宅に住み続けること
- 住宅の床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下であること(住宅用車庫、物置等を含む)
- 次のいずれかに該当すること
- 昭和57年1月1日以降に新築されたもの
- 昭和56年12月31日以前の新築分で、新耐震基準に適合していることが建築士等から証明されたもの
- 昭和56年12月31日以前の新築分で、平成26年4月1日以降に取得し、取得した日から6か月以内に耐震改修を行い、新耐震基準に適合していることについての証明を受け、住宅に住み続けること(ただし、新型コロナウィルスの影響により上記期限内に入居できない場合の特例が認められています)
譲渡所得税~財産分与する側向け
譲渡所得税の節税対策としては
- 現金で財産分与する
- 不動産を財産分与する場合はマイホーム特例を申請する
- 不動産を分与する場合は軽減税率の特例を申請する
を挙げることができます。
現金を財産分与する、資産を現金化する
前述のとおり、現金には譲渡所得税がかかりません。
したがって、現金で財産分与する方法が最も分かりやすく、簡単な方法かもしれません。
課税対象となる資産がある場合は、離婚前に売却して(現金化して)、そのお金を財産分与するという方法も考えられます。
不動産を財産分与する場合はマイホーム特例を申請する
マイホーム特例(居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例)とは、マイホームを譲渡(財産分与するなど)して利益が出る場合(「譲渡時の資産の時価」が「資産の取得費+譲渡費」を上回る場合)に、その3000万円までを非課税とする特例のことです。たとえば、
財産分与(譲渡)時のマイホームの時価:3500万円
取得費+譲渡費:3000万円
だとします。すると、
-2500万円=3500万円-3000万円-3000万円(マイホーム特例適用による特別控除額)
となりますから不動産取得税はかからないことになります。
この特例は所有期間に関係なく適用される点が特徴です。他方で、適用されるためには一定の要件を満たす必要がありますし、確定申告を行う必要もありますので注意が必要です。
不動産を財産分与する場合は軽減税率の特例を申請する
軽減税率の特例(10年超所有軽減税率の特例)とは、10年を超えて所有している居住用財産を譲渡して利益が出る場合に、譲渡所得税の税率が低くなる特例のことです。たとえば、
財産分与(譲渡)時のマイホームの時価:5000万円
取得費+譲渡費:1200万円
だとします。この場合、マイホーム特例を適用できた場合(※軽減税率の特例と併用可能です)、長期譲渡所得税は、
(所得税)120万円=800万円(=5000万円-1200万円-3000万円)×15%
(住民税)40万円=800万円×5%
(復興特別所得税)2.52万円=120万円×2.1%
の合計の【162.52万円】となります。
これに対して、軽減税率の特例が適用されると、所得税の税率が「15%→10%」、住民税の税率が「5%→4%」となります。
したがって、軽減税率の特例が適用された後の長期譲渡所得税は、
(所得税)80万円=800万円×10%
(住民税)32万円=800万円×4%
(復興特別所得税)1.68万円=80万円×2.1%
の合計の【113.68万円】となり、約49万円の節税となったことがお分かりいただけるかと思います。
協議離婚で財産分与の取り決めを行う場合は、協議離婚書を作成しましょう
協議離婚書とは、協議離婚する際に、財産分与をはじめとする親権、養育費など離婚するにあたって取り決めなければならない事項について、夫婦で話し合った内容を記載する書面のことです。
夫婦間で何を取り決めたのか明確にするため(取り決め事項を巡る紛争を防止するため)、財産分与等に関して取り決めを行った場合は、協議離婚書を作成しましょう。
また、協議離婚書は公証役場で強制執行認諾付き公正証書として作成することをお勧めします。
この公正証書で協議離婚書を作成しておけば、仮に、財産分与で金銭の支払い義務があるとされた夫が約束どおりに金銭を支払わなかった場合、訴訟を起こすことなく夫の給与等の財産を差し押さえる手続きに移行することが可能となります。
まとめ
財産分与では、目先の財産ばかりに気を取られていると予想もしていなかった税金がかかってしまうこともあります。
夫婦間で財産分与の話をする際は、税金のことも見据えた上でお互いの負担が軽くなるような財産の分け方を心がけていただければと思います。
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