自己破産は裁判所で行われる手続きです。その際、裁判所ではいろいろな手続きが処理されることになりますが、その手続きの中に「免責審尋」というものがあります。これは、裁判所によって定められた期日に裁判所に出向き、裁判官と面接するという手続きです。
でも、裁判官との面接などと言われると、みなさんもいろいろな不安を感じられるのではないでしょうか?一般の人にとって、そもそも裁判所自体が敷居の高いものです。そこに出向き、しかも裁判官と面接しなければならないとしたら、不安に思うのも当然と言えば当然のこと。それでは一体、この免責審尋では具体的にどのようなことが行われるのでしょうか?
今回は、この「免責審尋」に関して解説させていただきます。
免責審尋とは、決して不安に思うような手続きではないことが、お分かりいただけると思います。
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自己破産した場合、「審尋」が行われる!
みなさんもご存じのとおり、自己破産した場合には裁判所で「審尋」が行われることがあります。その際、自己破産をした人は裁判所に出向き、裁判官との面接など一定の手続きをする必要があります。審尋は、裁判所が指定する日時に行われることになりますが、この日時のことを「審尋期日」といいます。
そもそも「審尋」とは何か?
破産手続における「審尋」とは、破産処理の担当裁判官と破産を申し立てた人が直接顔を合わせ、面接を受ける手続きのことを言います。この際に裁判官は、破産に関する手続きを処理するに際して不明に思う点を本人から事情聴取したり、今後の生活における注意点などを破産者に対して伝えたりするのです。
破産を申し立てる場合には、申立書のほかにたくさんの添付書類を提出します。これらの書類により、裁判官にとって破産申立人の事情がある程度明らかにはなります。しかし、それでも不明な点がある場合などに、その不明点を明らかにするなどの理由で審尋が行われることになるのが一般的です。
審尋には2つの種類がある
裁判所で自己破産が処理される場合、審尋が行われることになりますが、これには2つの種類があります。裁判所が破産手続きの開始決定をする際に行われる「破産審尋」と、免責決定をする際に行われる「免責審尋」です。
「破産審尋」とは?
破産審尋とは、裁判官が「破産手続開始決定」をする前に行われる手続きです。申し立てられた破産に関して、破産申立書に記載されている事実などに間違いがないかなどを確かめるため、その破産処理の担当裁判官によって行われます。
しかしこの手続きは、裁判所の運用次第では省略される場合もあります。この場合、破産手続で行われる審尋は「免責審尋」だけということになります。
「免責審尋」とは?
免責審尋とは本来、裁判所が自己破産を申し立てた人の債務を免除する「免責」を与えるかどうか判断するために行われる手続きです。しかし、現在では形骸化しており、この手続きを省略している裁判所もあります。
「個別審尋」と「集団審尋」
審尋はどのような形態で行われるかという観点から見た場合には、つぎの2つの種類に分けることもできます。審尋が個別で行われる「個別審尋」と、集団で行われる「集団審尋」の2つのパターンです。
「個別審尋」とは?
個別審尋とは、文字どおり裁判官と破産申立人とで個別に行われる手続きです。破産審尋の場合や、免責審尋でもそのまま免責を許可するのに問題があるなどの場合、個別審尋が開催されることがあります。
「集団審尋」とは?
裁判所では通常、同時期にたくさんの破産を処理しています。2017年の司法統計によると、全国では毎日200人以上の人たち(法人含む)が破産しているのです。このため、同じ期日に同じタイミングで審尋を受ける人たちもたくさん存在します。
そのため、それらの人たちを同一期日に集めて審尋が行われることがあります。この場合には裁判官と1対1で面接することはなく、裁判官とこれらの人たちの間で審尋が行われることになります。審尋を受ける人がひとりではなく集団で行われる審尋であるため、これを「集団審尋」といいます。
主に免責審尋が行われる場合、集団審尋という形で手続きが行われる裁判所が多いようです。
審尋の流れなどについて
審尋の流れや質問される内容などに関しては、破産審尋と免責審尋の2つで異なります。
しかし、どちらも裁判所の指定する審尋期日に裁判所に出頭することが必要となります。
①破産審尋の場合
破産審尋が行われる場合には、手続きはつぎのよう形で行われることになります。ただし、うえで述べたように、裁判所によっては、この破産審尋は省略されることもあります。
期日は破産申し立て後すぐ
破産審尋が行われる場合には、審尋期日は破産の申し立て後、迅速に行われます。このため破産申し立て後、1週間以内。遅くとも2~3週間以内には審尋が行われるのが一般的です。
個別審尋で行われる
破産審尋が行われる場合、その形態は基本的に個別審尋となります。つまり、裁判官と1対1で面接し、裁判官からの質問に対して回答することになるのです。ただし、破産申立ての代理人として弁護士や、書類作成をした司法書士などがいる場合、付き添いが認められることがあります。
ただし、裁判所の運用によっては破産審尋も集団で行われることがあるようです。この点も裁判所によって扱いがまったく違うことがありますので、詳細については地元の裁判所や法律の専門家などに相談することが必要です。
何を聞かれるのか?
破産審尋では、主につぎのような事項に関して裁判官から質問を受けることになります。
- 破産という制度について理解しているか?
- 申し立て内容に間違いはないか?
- どうして借金を作ったのか?
- どうして返済できなくなったのか?
- 債権者一覧表に記載していない債権者はいないか?
- その他必要事項
事前の準備が大切
破産審尋では裁判官から受けることになる質問は、比較的定型的なものとなります。このため、審尋期日までの間に上記のような各事項について、きちんと説明できるように準備しておいてください。
この説明の内容が申し立て書類と食い違うようなことがあった場合、大変なことになりますので事前の準備は非常に大切です。
所要時間は長くても15分前後
破産審尋が行われる場合、所要時間は10分から15分前後であることが一般的です。要領よく答えることができれば、これより短い時間で終了することもあるでしょう。裁判官から聞かれたことに正直に答えていれば、それほど難しい手続きではありません。
審尋後、破産手続開始決定が出る
審尋後、問題がないと裁判官が判断した場合、破産手続開始決定がなされることになります。これによって正式に「破産手続」が開始されることになるのです。この時、破産する人に一定以上の高額な財産がない場合には、同時に「破産手続廃止決定」がなされることになります。いわゆる「同時廃止(事件)」です。
②免責審尋の場合
免責審尋が行われる場合には、手続きはつぎのよう形で行われることになります。しかし、この手続きも裁判所によっては省略されることがあります。このため、裁判所によっては自己破産しても一度も裁判所に出頭する必要がないケースもあるのです。
免責審尋はいつ行われるか?
免責審尋は、裁判官が免責の許可をする前に行われる手続きです。このため、申し立てた自己破産の処理方法が同時廃止事件の場合と管財事件の場合では若干の違いが出てきます。一般的には、つぎのような時期に免責審尋が行われます。
- 同時廃止の場合:申し立ての時から2か月程度
- 管財事件の場合:申し立ての時から2~4か月程度
免責審尋では何を聞かれる?
免責審尋を受ける際、場合によっては裁判官から事情を聴取されることがあるかもしれません。「事情を聴取される」などというと、大半の方は「裁判官と1対1で面接し、厳しい尋問を受ける」……このようなイメージを抱くのではないでしょうか?しかし、実際にはそのようなことはありません。
免責審尋を恐れる必要はない
免責審尋が具体的にどのように行われるのかは、それぞれの裁判所の運用によることにはなりますが、免責審尋では裁判官から定型的な注意事項などの話を聞くことがメインなのです。しかも、多くの裁判所では集団審尋を採用しており、裁判官から個別に質問されることすらほぼありません。
このように免責審尋は簡単に終了することが多いのです。あまりに簡単すぎて、かえって拍子抜けするほどです。免責審尋を不安に思う必要はまったくない、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか?
免責審尋に要する時間とは?
それでは裁判所において免責審尋が行われる場合、その所要時間はどれくらいなのでしょうか?
これは「個別審尋」の場合と、「集団審尋」の場合では大きく異なる可能性があります。
免責審尋が個別で行われる場合
免責審尋が個別で行われる場合、裁判所が免責を決定するに際して問題があると判断されている可能性があります。このため裁判官は免責を与えてよいのかどうかについて、その障害となっている問題に関して1対1で事実確認や反省の態度の有無などを確認する必要があるのです。
個別審尋の所要時間
つぎに解説いたしますが、審尋が集団で行われる場合には所要時間は比較的短時間で済むことになります。しかし、個別審尋が行われる場合には、それよりも長時間となる可能性が高いと考えておいたほうがよいでしょう。うえで述べたように、個別審尋が採用されるということは裁判官が破産者に対して免責を与える際に、何か問題がある場合がほとんどです。裁判官としては、この問題をクリアできるまで審尋を行う必要があります。そのため、裁判官から一方的に話を聞くだけで済むことの多い集団審尋よりも所要時間が長くなるのです。しかしその場合でも、所要時間は30~40分が限度だと思われます。
免責審尋が集団で行われる場合
個別審尋の場合に対して、集団で審尋が行われる場合、審尋に要する時間は短くなるのが一般的です。なぜなら集団審尋は、裁判所が破産申立人に対して免責を与えるのに際し、特に問題がない場合に採用されることが多いからです。
集団審尋の所要時間
免責審尋が集団で行われる場合には、裁判官から一方的に注意事項に関する話を聞くだけの手続きとなることが一般的です。このため、所要時間としては10分から15分。早い場合には、これより短時間で免責審尋が終了することもあるでしょう。
このように、集団審尋が行われる場合には「審尋」とは、決して恐れるような手続きではないのです。
ただし、この扱いも破産を処理する地方裁判所によっては違う運用をしていることがあるので注意してください。
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免責審尋の実際
繰り返しになりますが、免責審尋が実際にどのように行われるのかは、それぞれの裁判所の運用によって異なっています。ただし、免責を許可するのに特に問題がない場合には集団審尋とうい形で行われるという点は、だいたいの裁判所で共通しています。
裁判所によっては、裁判官から一方的に話される注意事項などを、「ただ単にしばらく聞いただけで終了」などというパターンもあります。また違う裁判所では、簡単な質問に答えるだけというパターンもあるようです。
裁判官の話の内容とは?
裁判官の話の内容は、今後の生活に関する注意事項などがメインとなります。
「これからは収入と支出のバランスを考えて生活するように」「今後7年間は自己破産できないので借金を作らないように」など、定型的な話です。決して注意を受けるようなことはありません。
免責審尋は集団で行われることが多い!
このように、免責審尋とはまったく難しいことをする必要のない手続きです。しかもこの免責審尋は、多くの裁判所では集団審尋の方法で行われているのです。
つまり、裁判官と1対1の場で行われるのではありません。裁判官と個別に向かい合って面接を受けるなど、不安で仕方ないという人もいるでしょうが、実際はまったくそのようなことはないのです。そのとき裁判所で処理されている自己破産を申し立てた人が複数、同じ部屋に集まり、みんなが一緒になって裁判官からの話を聞くことになるのです。裁判所の規模にもよりますが、少なければ数人、多ければ数十人以上の人が同時に免責審尋を受けることもあります。
いかがでしょうか?免責審尋の実像を知って、気が軽くなったのではないでしょうか?このように免責審尋とは、まったく不安に思う必要のない手続きなのです。
ただし、破産処理が「管財事件」とされた場合には、多くの裁判所では個別で免責審尋が行われることになります。
審尋当日に気を付けること
審尋期日に裁判所に赴く際には、つぎのような各点に注意してください。些細なことではありますが、免責をもらうためには万全な対策が必要です。
具体的には、つぎのような5つのポイントを押さえれば問題ありません。
①服装に気を付ける
いうまでもないことですが、審尋は裁判所で行われるものです。厳格な裁判所で行われるものなのですから、それにふさわしい服装で出向くことが望ましいといえます。何もスーツで行かなければならないとまでは言いませんが、あまりにラフな格好は困りものです。また、指輪やネックレスなどで必要以上に着飾るのも避けたほうがいいでしょう。
集団審尋でもそうですが、特に個別審尋の場合には、このような点に気を付ける必要があります。裁判官と1対1で面接することになるのですから、きちんとした身なりで臨むべきでしょう。
②必要書類を持っていく
通常の場合、審尋期日に必ず持っていかなければならないというものはありません。しかし、一部の裁判所では事前に「出頭カード」などが送られて来ることがあるようですので、審尋期日には忘れずに持参する必要があります。
③絶対に遅刻しないこと!
審尋期日は裁判所によって、「日にち」だけでなく「時間」までキッチリと指定されるものです。たとえば「〇月〇日午前〇時〇分」などのように指定されます。
この期日に遅刻するようでは、反省の態度無しなどと判断される恐れも否定できません。指定時間の10分前には裁判所に到着できるように行動するなど、絶対に遅刻してはいけません。
遅刻などをした場合、裁判官の心証を悪くしてしまう可能性があります。
④正直に説明すること
個別審尋の場合には、裁判官から破産に至った事情など、細かい事情の説明を求められることがあります。その場合には、包み隠さず正直に答えましょう。回答を拒んだり、あいまいな回答しかしないような場合には、最悪のケースとして免責不許可とされる可能性が高くなります。
⑤反省の態度を示すこと
特に免責審尋の場合には、反省の態度を示すことは大切です。審尋において裁判官が知りたいのは、破産申立人が「反省しているかどうか」という点なのです。
厳しいことを言うようですが、破産するということは借りたお金を返さず債権者に迷惑をかける行為です。このような事態に陥ってしまったことに対して、自分自身反省しなければなりません。破産申立人が自分自身反省し、生活を改善することで、二度と借金生活に陥るようなことを防げるのです。裁判官としては、今後も以前と同様の生活をし、借金を作る恐れのある人間には免責を許可することはできません。
このため、裁判官としては破産申立人がどれくらい反省しているのかを知りたいのです。
裁判官は免責を出したがっている
破産した場合でも免責が認められないとされるものに、「免責不許可事由」というものがあります。しかし、これに該当する場合でもよほど程度が重大なものでない限り、裁判官は免責を出そうとしてくれます。これが「裁量免責」です。
しかし、破産申立人に反省の態度が見られない場合、さすがに裁判官としても免責を出せないという判断となってしまいます。
免責許可決定が出る時期とは?
無事に免責審尋が終わった場合、破産申立人に関して裁判官が特に問題がないと判断すると免責許可決定が出ることになります。この時期は一般的な裁判所では、免責審尋期日から1週間程度です。
官報掲載後2週間で債務が消滅する
免責許可決定が出た場合、通常であれば、その2,3週間後にその旨の官報公告がなされることになります。そして、その時から2週間が経過すると免責が確定します。そして、この免責許可決定が確定することによって、借金の支払い義務が法律上消滅することになるのです。
免責が下りる確率はどれくらい?
以上のように、免責審尋が終わると通常の場合、免責許可決定をもらうことになります。しかし、当然ですがこれは100%ではありません。ごく一部ではありますが、免責不許可となるケースも実在するのです。
それでは、実際に免責許可が出る確率とはどれくらいなのでしょうか?一般的に「免責不許可事由があると免責が下りない」などと言われることがありますが、裁判所における現実の処理ではそのようなことはありません。
自己破産手続において最終的に免責が出る確率は、「裁量免責」を含め何と99%以上となっているのです。つまり、自己破産した場合、ほとんどのケースで免責が許可されていることになります。
免責が下りない場合とは?
うえでご紹介したように、自己破産を申し立てた場合には、ほとんどのケースで免責は許可されています。つまり、裁判所などの指示どおり手続きを行えば、よほどのことでもない限り免責を受けられるということです。
つまり免責不許可となるのは、破産手続に協力しなかったり破産申立人に反省の態度が全く見られない場合など、ごく限られた事例だけなのです。
まとめ
今回は「免責審尋」について解説させていただきました。
自己破産する場合には、裁判所や破産手続きの処理方法などによって「審尋」が行われることがあります。この場合、裁判所の指定する日時に裁判所に赴き、裁判官と話し合いを行わなければならない可能性があるのです。
しかし、審尋に関する扱いは裁判所によって非常に異なっているため、場合によっては一度も審尋が行われない裁判所もあります。仮に審尋が行われる場合でも、ほとんどの場合は集団審尋で行われています。このような点からして、「審尋」とは、まったく心配するような手続きではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか?
借金問題でお困りの場合には、ぜひ前向きに自己破産を検討していただきたいと思います。
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