返済しきれないほど多額の借金を背負ってしまった場合、自己破産することでその問題を解決することができます。
自己破産が裁判所で認められれば、基本的にすべての借金の返済義務を免除してもらうことができるからです。
しかし、自己破産を認めてもらうためには、法律上備えておかなければならない条件がいくつか存在します。
これら条件を備えていない場合、どれだけ希望しても自己破産することができないのです。
今回は、自己破産が認められるための条件や破産することができない4つのケースについてご紹介いたします。
なお、当記事は重要ポイントを赤ペンで強調してありますので、強調部分だけに目を通していただければ1~2分で一通り理解可能な構成となっています。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
自己破産できるための条件とは?
破産法上、個人が自己破産するためには支払不能状態に陥り、借金の支払いが非常に難しい状態にあることが必要とされています。
「支払不能状態」とは、現在だけではなく今後も借金の返済が難しい状態がつづくことが予想される状態のことを言います。
支払不能状態にあるかどうかを判断するひとつの目安として、「3年間で借金を完済できるかどうか」という基準があります。
つまり自分の資産を売却したり、返済をちょっと頑張れば3年間ですべての借金を返済できる状態にある場合には、どんなに多額の借金を抱えていたとしても自己破産することができないことになります。
逆に、めぼしい財産も収入もないような場合には、わずかな借金額であっても自己破産することが認められる可能性もあります。
自己破産が認められるためには、たとえば「〇〇万円以上の借金があること」などという決まった基準はなく、債務者それぞれの状況に応じて判断されるのです。
自己破産できない3つのケース
法律上の条件を満たさない場合、いくら多額の借金があったとしても自己破産することができません。
具体的には、以下のようなケースに該当する場合には自己破産することができません。
- (1)支払不能状態にないケース
- (2)免責不許可事由に該当する行為があるケース
- (3)予納金が用意できないケース
それぞれ確認していくことにしましょう。
(1)支払不能状態にないケース
上記でご紹介したように、自己破産が認められるためには、借金の返済に関してすでに支払い不能状態になっていることが必要です。
支払不能状態かどうかについては、債務者の年齢や収入・所有する資産や借金の総額などを総合的に考慮して判断されます。
分かりやすくするため大まかにいうと、毎月の家賃など生活に必要な費用を支払った後に残るお金を返済に充てた場合に、3年間の分割返済をすれば借金全額が完済できるケースでは、いくら多額の借金があったとしても支払い不能状態とは判断されません。
その結果として、自己破産が認められないことになります。
(2)免責不許可事由に該当する行為があるケース
破産法では、破産申立人について免責不許可事由に該当する行為がある場合には、破産することが認められないことを定めています(破産法252条)。
「免責不許可事由(めんせきふきょかじゆう)」とは、破産申立人の行った行為に何らかの問題があるため、免責(借金の免除)を認めることが相当ではないと判断される以下のような各種の行為をいいます。
①財産を隠す・不当に安く売却するなどの行為
自己破産する人が一定以上高額な財産を持っている場合、その財産は破産手続きで処分されることになるのが原則です。
このため、財産の処分から逃れることを目的として財産を隠したり売却しようとする方がいらっしゃいます。
そのような行為をした場合、免責不許可事由に該当する行為をしたことになり、免責を受けられなくなる可能性があります。
②債権者の一部に対してだけ返済を行う行為
自己破産する場合には、法律上すべての債権者を平等に扱わなければいけません。
このため、一部の債権者だけに借金の返済などをすると免責不許可事由に該当し、免責が認められなくなる可能性があります。
たとえば、家族や友人などから借金をしている場合において、その家族・友人などに対してだけ返済する行為がこれに該当します。
③クレジットカードのショッピング枠を現金化する行為
クレジットカードを利用している場合、ショッピング枠を利用して購入した商品をすぐに売却して現金化する方がいらっしゃいます。
これは、免責不許可事由に該当する行為とされています。
ショッピング枠を現金化した場合、ほかにめぼしい財産がなく本来であれば同時廃止事件で済むケースでも管財事件とされる可能性が高くなると考えてください。
破産処理が管財事件となった場合、裁判所へ納付する予納金が増えたり、自己破産することで発生するデメリットが増えることになってしまいます。
④パチンコ・スロットなどギャンブルや浪費行為
ギャンブルや浪費行為、またはFXなどの射幸行為は免責不許可事由に該当します。
ただし、実際には後述するようによほど悪質で程度が激しいケースでなければ、裁判所による裁量免責を受けられることがほとんどです。
⑤虚偽の債権者名簿を提出する行為
自己破産する際には、すべての債権者を記載した債権者一覧表を裁判所に提出する必要があります。
虚偽の債権者一覧表を提出する行為は、免責不許可事由に該当します。
自己破産する際には、たとえ家族や友人・知人からの借金でもすべて記載し、それらの人々も債権者として扱う必要があるのです。
⑥前回の自己破産などから7年経過していないケース
過去において自己破産したことがある場合、その時から7年経過していないと免責を受けることができません。
過去に給与所得者等再生をしている場合も同様です。
※実際は裁量免責が認められることが多い
免責不許可事由に該当する主なケースは、上記のとおりとなります。
しかし実際には、これら以外にも免責不許可事由に該当することになる事例も存在しますので注意が必要です。
このように、破産法上、免責不許可事由に該当する行為がある場合には、免責が認められないことになっています。
しかし、同時に破産法では裁判所に裁量免責を与えることを認めています。
裁判所には裁量によって免責を与える権限が与えられているため、実際の運用ではほとんどの事例において裁判所の裁量によって免責を得られているのが実情です。
以下のような特殊な事例でない場合、まず間違いなく裁量免責をもらうことができると考えてよいでしょう。
- 借金を作ってしまった自分の行為についてまったく反省の態度が見られない場合
- 破産手続きに協力しない場合
(3)予納金が用意できないケース
自己破産は、裁判所で厳格に行われる手続きです。
裁判所で手続きを行う以上、裁判所所定の費用を納めなければいけません。
この費用を「予納金(よのうきん)」といいますが、これを収めることができない場合には自己破産の手続きを行うことができません。
つまり、自己破産するためには最低でも裁判所が定める予納金を支払うだけのお金を準備できなければならないということになります。
自己破産する人にめぼしい財産がない場合、破産手続きは同時廃止となる可能性が高くなり、予納金も1万数千円程度で済みます。
しかし、一定以上高額な財産を持っている場合や免責不許可事由に該当する違反行為がある場合には管財事件とされることになります。
この場合には、予納金が20万円以上と高額になるので注意が必要です。
もし予納金を用意することが難しい場合には、法テラスの提供する「民事法律扶助(みんじほうりつふじょ)」制度の利用を検討するとよいでしょう。
同制度を利用すれば、一定の条件を満たすことによって破産手続きにかかる弁護士や裁判所にかかる費用などを一時的に立替えてもらえるからです。
立替えてもらった費用に関しては分割で返済するのが原則ですが、一定の場合にはその返済義務の免除を受けることもできるようになっています。
自己破産が向かないケース
自己破産できる・できないという問題のほかに、前提としてそもそも自己破産することが向いているかどうかという問題が存在します。
つまり、自己破産せず、ほかの方法を検討したほうがより多くのメリットを受けられるケースも世の中にはたくさん存在するということです。
それでは実際、どのような事例の場合には自己破産が向かないと考えたほうがよいのでしょうか?
具体的には、以下のようなケースでは自己破産が向かないと考えたほうがよいでしょう。
- (1)多額の非免責債権があるケース
- (2)資格制限を受ける仕事をしているケース
- (3)自宅を手放したくないケース
順次、解説させていただきます。
(1)多額の非免責債権があるケース
自己破産が認められれば、それまで背負っている借金のほとんどが免除されます。
しかし法律上、一定の債権に関しては自己破産しても免責の対象とならない種類のものが定められています。
つまり、自己破産で免責をもらうことができたとしても、返済義務の免除されない種類の債権が存在するということです。
自己破産しても支払い義務が免除されない種類の債権のことを「非免責債権(ひめんせきさいけん)」といいます。
具体的には、以下のような債権が非免責債権に該当し、自己破産による免除の対象外となるので注意が必要となります。
- ①損害賠償
- ②養育費
- ③税金
- ④罰金
上記のような支払い義務があり、しかもその総額が高額となる場合には、自己破産してもあまりメリットを受けることができない可能性が考えられます。
(2)資格制限を受ける仕事をしているケース
自己破産した場合、一定の職業や資格について制限が及ぶことがあります。
これを自己破産による「資格制限」といいます。
資格制限を受ける資格を持っていたり職業に就いている場合には、自己破産することで最悪のケースとして失業する恐れまであるのです。
資格制限の対象となる職業に就いている場合には、失業を避けるために自己破産以外の債務整理方法を検討する必要があります。
そのような場合には、個人再生がもっとも適した債務整理方法となるでしょう。
なお、資格制限を受ける資格や職業の主なものは以下のようになります。
宅地建物取引業者・証券会社外交員・生命保険募集人・損害保険代理店・警備員・建設業者・風俗営業者・質屋・古物商・弁護士・司法書士・公認会計士・税理士・行政書士・弁理士
資格制限を受ける資格や職業は各種の法律によって個別に定められているため、自己破産で影響を受ける資格や職業は上記以外にもたくさん存在します。
破産することで失業するようなことがあっては一大事です。
自己破産を検討する際には、早めの段階で弁護士に相談し、ご自分の職業に支障がないかどうか確認するようにしてください。
(3)自宅を手放したくないケース
自己破産手続きでは、破産申立人の持っている財産を処分・換金し、債権者に分配することが原則です。
このため、破産申した人が所有する一定以上高額な財産は、破産手続きの中で処分されることになります。
ここでいう「一定以上高額な財産」とは、基本的に20万円以上の価値のある財産と考えてよいでしょう。
いうまでもなく不動産は高額な財産ですから、破産申立人が自宅を持っている場合には破産手続きによって処分されることになります。
しかし、せっかく手に入れた自宅を手放したくないと思うのは人情というもの。
自宅を手放さずに借金問題を解決するためには、自己破産という債務整理方法は適していません。
そのような場合に最適な方法は、ズバリ個人再生です。
住宅ローン特則を利用した個人再生であれば、住宅ローン自体は当初の契約どおりに支払う必要はありますが、それ以外の借金について大幅な減額を認めてもらえる可能性があるからです。
また、自宅以外にも手放したくない高額な財産がある場合には、やはり個人再生や任意整理など自己破産以外の解決方法を検討することになるでしょう。
借金問題の解決方法として具体的にどのような方法が最適なのかを判断することは、けっして簡単な問題ではありません。
間違った債務整理方法を選択してしまうと、あとで大きなデメリットを受けるようなことになりかねません。
そのようなことを避けるためは、積極的に弁護士に相談し、判断を仰ぐことをおすすめします。
まとめ
今回は、自己破産するための条件と自己破産できない4つのケースについて解説させていただきました。
借金問題を解決するために自己破産しようと思っても、その人負っている債務の内容や所有している財産次第では破産が認められないケース、または破産以外の方法が適しているケースが存在します。
そのような場合には、任意整理や個人再生など自己破産以外の債務整理方法を検討してください。
債務整理には4つの方法がありますが、実際ご自分にとってどの方法が最適なのかについて自分で判断することは非常に難しい問題です。
もし選択を間違ってしまった場合には、借金問題をさらに複雑にしてしまう恐れも否定できません。
借金問題にお悩みの場合には、弁護士に相談することがもっとも賢明な方法なのです。
もし借金の返済でお困りの場合には、お気軽にお問い合わせください。
当事務所では全国どちらからのご相談・ご依頼でも年中無休で24時間承っております。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|