法定相続人は兄弟しかいないけれど、兄弟仲があまり良くないから相続させたくないと思っている。子供にだけは相続させたくない。そんな風に考えて、他の親族や第三者に相続財産を贈与したいと思う人も少なからずいます。
かと思えば、逆に特定の人に財産を多めに渡したい、という人も。そんな時に使える制度のひとつが「遺贈」という制度です。しかし、もらった方にしてみれば、税金の負担が増えてかえって迷惑になることも...今回は、遺贈に関する税金についてご紹介します。
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目次
相続と遺贈の違い
遺贈は、財産を譲り渡す人(被相続人)が亡くなった時に特定の人に財産が移るように、被相続人が生きている間に遺言という形で行うものです。
遺贈によって財産をもらう人があらかじめその事実を知っている必要はありませんし、お互いに財産の受け渡しについて合意しておく必要もありません。相続とは少し違って、相続は被相続人がなくなることで自動的に発生するものです。
基本的な相続税の計算方法
ここで、相続税の計算方法について押さえておきましょう。まずは一般的な相続が行われた時の税金の計算方法についてです。
原則
相続税の計算は、大きく分けて以下のように行います。
- ①相続対象となる財産をすべて集め、遺産総額を計算する
- ②そこから非課税財産や債務の総額を差し引く
- ③そこからさらに基礎控除額【3,000万+600万×法定相続人数分】を差し引く
- ④控除額を差し引いた後の課税遺産額を、法定相続人が法定相続通りに相続したものとして按分する
- ⑤相続・遺贈財産額の割合に応じて按分する
- ⑥各人の状況や事情によって特例などを適用し、計算し直す
このように書くと複雑に思えますが、仕組みを理解するとさほど難しくはありません。この中で、遺贈を受ける人(受遺者といいます)が登場するのは⑤からです。以下の例で考えていきましょう。
- 相続財産総額が1億円
- 妻に5,000万円
- 子供(1人)に3,000万円
- 第三者に2,000万円を遺贈
- 債務はなし
①から③に従って計算していくと、④の1人当たりの相続税は385万円。今回、相続人は2人なので、385万×2=770万円が今回の相続で発生する相続税の総額です。
ここで、ようやく遺贈を受けた人が登場します。
相続・遺贈財産額の割合に応じて相続税を按分する
4では、相続税の総額が770万円と出ました。ここでもう一度確認しておきましょう。今回遺言では、以下のように定められていました。
- 相続財産総額が1億円
- 妻に5,000万円
- 子供(1人)に3,000万円
- 第三者に2,000万円を遺贈
- 債務はなし
770万円を、それぞれの取得割合で按分します。すると以下のようになります。
- 妻=5000万÷1億×770=385万円
- 子供=3,000万÷1億×770=231万円
- 第三者=2,000万÷1億×770=154万円
ここからさらに、⑥各人の状況や事情によって特例などを適用し、計算し直すという流れになります。
相続税が二割加算される「二割加算」とは
遺贈の相続で問題になるのが、いわゆる「二割加算」と呼ばれるものです。相続や遺贈によって財産を受け取る人が【被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)、および配偶者以外】の場合は、通常の相続制に加え、さらに2割加算された税金が課税されます。これがいわゆる「二割加算」と呼ばれるものです。
例えば、相続税を節税したいといって、法定相続人を増やして相続税の基礎控除を増やす目的で孫を養子縁組するケースはよくありますが、この場合も注意が必要です。通常なら孫は二親等であるはずですが、養子縁組することによって一親等になるので、この場合は二割加算の対象になるのです。
ただ、その孫とは養子縁組しなければ二割加算にはなりません。代襲相続によって孫に相続が発生する場合は二割加算にはならないので、混乱しないようにしてください。
このほか、3親等である甥や姪、2親等である兄弟に財産を相続や遺贈させたいケースも、二割加算の対象となります。もちろん第三者である友人などに財産を遺贈させる場合も二割加算の対象です。例えば相続税額が100万円だとしたら、二割加算されると120万になるということです。かなり額としては大きいといえます。
先ほどの例を見てみましょう。相続税の総額が770万円、取得財産の割合で按分すると、相続税は以下のようになりました。
- 妻=5000万÷1億×770=385万円
- 子供=3,000万÷1億×770=231万円
- 第三者=2,000万÷1億×770=154万円
財産を遺贈されている第三者は、この154万円が1.2倍になるため、1,848,000円が相続税の金額となります。
現金や換金性の高い財産を遺贈されたときは、そこから清算して相続税を支払えば良いですが、遺贈の財産が不動産など換金性が低いものだと、遺贈を受けた人は相続税を支払うために懐から現金を捻出しなければならなくなります。そうなると、相続で財産が増えたのに預金が減るという事態にもなりかねません。
これは、相続財産が基礎控除以下でおさまる場合はそもそも問題になりませんが、相続財産が相続税の課税対象となるときには、遺贈される側に思わぬ損失が出ることもありますので、注意しておきたいところです。
各人の状況や事情によって特例などを適用し、相続税を計算し直す
⑤までで、基本的な相続税についての計算が終わりました。ここからさらに、特別控除などを適用して最終的な相続税を割り出していきます。
特別控除や特例が適用される場合、相続税はさらに安くなっていきます。しかし、制度によっては相続人には適用があっても、遺贈には適用されないというものも。一般的な特別控除や特例について、遺贈についても適用されるのかをみていきましょう。
死亡保険金、死亡退職金の控除
亡くなった人が生命保険に加入していたり、勤めていた会社から退職金を受け取る予定になっていたりすることがありますが、これらのお金が遺贈された場合には相続税の対象となります。しかし、その全額が相続税の対象となるのではなく、法定相続人1人につき500万円の控除があります。
例えば、死亡保険金が2,000万円、法定相続人が3人だったとするならば、2,000万円のうち1,500万円が控除され、相続税の対象となるのは残りの500万円ということに。ただし、この控除は遺贈には適用がないため、受贈者が何人いたとしても控除額が増えることはありません。
不動産を遺贈したときにかかる税金
遺贈によって現金や預金ではなく、不動産を遺贈するケースも少なくありません。例えば、被相続人の法定相続人である子供が生きていれば、孫は相続人とはなりませんが、孫に自宅を譲ってあげたいというケースには、遺贈が使われることがあります。
不動産を遺贈した場合は、不動産に関する税金が発生します。押さえておきたいのは以下の2つの税金です。
不動産所得税
不動産を所得した人には、不動産所得税という税金が課税されます。相続による不動産の取得にはこの税金はかかりませんが、遺贈の場合は【固定資産評価額の3%】の不動産所得税が課税されます。
例えば、固定資産税評価額が2億円ある不動産を遺贈した場合、600万円の不動産所得税がかかるということに。
ちなみに、遺贈には特定遺贈と包括遺贈がありますが、不動産所得税の対象となるのは特定遺贈をされたケースです。包括遺贈の結果としてある不動産を所得することになった場合には、不動産所得税は課税されません。
不動産所得税は、建物や土地が一定の条件を満たすことで軽減される措置が設けられています。不動産の遺贈がある場合は、各都道府県の自治体のホームページなどで詳細を確認しておきましょう。
不動産登記に関する登録免許税
遺贈によって不動産の所有権を移転するときには、登録免許税がかかります。これは相続の場合もかかる税金ですが、遺贈は相続による移転登記よりも税率が高いので注意です。相続の場合は固定資産税評価額の0.4%ですが、遺贈となると2%と、5倍に跳ね上がってしまいます。
なお、平成30年の税制改正により、相次相続があった場合の登録免許税に関する免税措置が設けられました。ひとつ前の相続時に不動産の所有権移転登記を済ませていないという人は、税金対策としてこの免税措置もチェックしておきましょう。
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