死後認知(しごにんち)とは、父親の死後に非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子ども。たとえば、愛人や内縁の妻が産んだ子。)やその法定代理人などが認知の訴えを提起し、非嫡出子と父親との間に親子関係を発生させるための手続きです(民法第787条)。
この記事では、相続に強い弁護士が
- 死後認知とは
- 死後認知の手続き方法(流れ・費用・期間など)
- 死後認知が認められるための証拠
- 死後認知が認められた場合の遺産分割への影響
などについてわかりやすく解説していきます。
なお、死後認知訴訟をご検討の方で、記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
死後認知とは
冒頭でお伝えしたように、死後認知とは、父親の死後に非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子ども)やその法定代理人などが認知の訴えを提起し、非嫡出子と父親との間に親子関係を発生させるための手続きです(民法第787条)。
前提として「認知」とは、婚姻関係にない父と母の間に生まれた子ども(非嫡出子)と、父親との間に法律上の父子関係を創設するための身分法上の法律行為のことを指します。この認知については、父親が生存しているときに父親の意思に基づき届け出や遺言によってなされるケースが一般的です。
しかし、この認知は父親が死亡したあとにも請求することが認められています。この手続きが「死後認知」手続きです。
この場合すでに父親は亡くなっていることから、届け出によって意思表示をしたり話し合いによって認知を進めたりすることができません。そこで死後認知の手続きは非嫡出子やその法定代理人(母親であることが多いでしょう)が訴訟を提起して強制的に実現していく必要があるのです。
このようにして裁判所に認知を認めてもらうことで、非嫡出子と父親の間に法律上の親子関係が認められることになります。
この死後認知を受けることによって発生する大きな法的効果が、「相続権の発生」です。つまり、父親が亡くなった後に非嫡出子が死後認知手続きを行うことで、認知された子どもは父親の「相続人としての地位」を有することになるのです。
この死後認知制度は、子どもとして父の遺産を正当に承継できるように、生前に父親の認知を受けられなかった方を保護するために設けられている制度であると考えられています。
死後認知の手続きについて
死後認知には「認知の訴え」をする必要がある
死後認知は、「認知の訴え」を提起する必要があります。
「認知の訴え」とは、非嫡出子の側が父親との親子関係を主張・立証することで裁判所に認知の効力を認めてもらうための訴訟手続きのことを指します。
認知の訴えを提起することができる原告は、以下のいずれかに該当する者です。
- 非嫡出子
- 非嫡出子の直系卑属(子どもや孫)
- 非嫡出子及び非嫡出子の直系卑属の法定代理人
「認知の訴え」の被告となる者は、通常であれば父親本人です。
しかし、死後認知の場合には当事者である父親は死亡しているため、「被告とすべき者が死亡し」たときに該当するとして検察官を被告として訴えを提起することになります。
死後認知の訴え(死後認知訴訟)は、非嫡出子の住所地または父親の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提起する必要があります。被告である検察官に訴状が送達されると、第1回期日が設定され審理が開始されることになります。
父親の配偶者や嫡出子などの相続人は「利害関係人」として、認知の訴えに補助参加することができます。裁判所は死後認知事件において、訴訟の結果により相続権を害される利害関係人を訴訟に参加させることができるのです。
このような相続人などの氏名、住所・居所が訴訟記録から判明している場合には、裁判所は訴訟に参加する機会を保障するために死後認知訴訟が提起されていることを利害関係人に通知する運用になっています(人事訴訟法第28条参照)。
訴訟の流れ
死後認知の訴えの一般的な手続きの流れは、以下のようなものです。
- 死後認知を求める訴状を管轄の家庭裁判所に提出する
- 検察庁に訴状が送達され、利害関係人に補助参加の通知が送られる
- 第1回期日が開かれ審理が開始する
- 当事者、参加人が主張・立証を行う
- 証拠に基づき裁判所が認知請求を認める
- 判決書と確定証明書を持参して役所に認知の届出を行う
訴訟できる期間
認知の訴えは、父親が死亡してから「3年」以内に提起する必要があります。死亡から3年が経過すると、認知訴訟を提起しても却下されることになります。
訴訟にかかる費用
死後認知訴訟を提起する場合にかかる費用は以下のようなものです。
- 収入印紙:13000円
- 郵便切手:数千円程度(具体的には管轄の家庭裁判所に確認する必要があります)
- 鑑定費用:10万円前後で、認知を請求する原告側が全額を負担するのが原則です。
- 弁護士費用:着手金:20〜30万円、成功報酬:30〜40万円程度が相場
なお、弁護士費用の費用体系は事務所によって異なりますのであらかじめチェックして依頼しておく必要があります。
死後認知が認められるための証拠
親子関係を立証するための証拠として、DNA鑑定を挙げることができます。父親の遺骨や遺髪などを鑑定することで父子関係が証明できることになります。
それらが入手できない場合には父親の子どもなど近親者のDNAを鑑定することで立証できます。しかしそのような場合には事実上、近親者の協力を得る必要があり、これらの者が協力を拒否した場合にはDNA鑑定を実施することは事実上不可能になってしまいます。
そのような場合にはDNA鑑定以外の証拠によって親子関係を証明していくことになります。
例えば血液型の一致や、身体や顔の特徴が似ているか、生前に父親と非嫡出子の間に積極的な交流があったかなど、さまざまな事情を考慮して総合的に父子関係を証明していくことになります。
死後認知が認められた場合の遺産分割への影響
遺産分割協議中の場合
死後認知が認められた場合、非嫡出子は相続人の一人となります。死後認知が認められた結果、遺産分割手続きに影響が出てくる可能性があります。ただしどのような影響が生じることになるかは、遺産分割手続きのフェーズに応じて異なってきますので順を追って解説していきます。
まず、遺産分割手続き中の場合は、死後認知が認められた段階では遺産分割協議が完了していないことになります。
そのため、非嫡出子も相続人の一人として遺産分割協議に参加する権利があります。遺産分割は話合いによる協議分割が基本で、当事者の一部を除外した分割協議は無効となります。そのため除外された当事者は再分割を求めることができます。
遺産分割協議が終わった後の場合
遺産分割協議が終了した後に死後認知が認められた場合には、すでに遺産分割は適法に完了してしまっていることになるため、再分割を求めることはできません。
しかし非嫡出子は自分の権利を実現するために「価額のみによる支払の請求権」を有することになります(民法第910条参照)。
したがって死後認知された子どもは、相続人に対して法定相続分に応じた金銭の請求をすることになります。
まとめ
以上のように、非嫡出子に該当する方で生前父親から認知を受けられなかった方は、死後認知手続きによって法的な保護を受けられるようになります。
しかし前述のように死後認知の手続きは訴訟を提起する必要があり、訴状やDNA鑑定など必要な証拠を提出して主張・立証していく必要があります。父親の近親者の協力が得られない場合には手続き方針自体が大きく影響を受ける可能性もあります。
裁判手続は複雑であるため、弁護士に対応を依頼することがおすすめです。
弁護士に相談して依頼しておけば、死後認知訴訟の対応からその後の認知届出に関連する手続き、遺産分割手続きによる相続権の実現などまで全面的にサポートを受けることが期待できます。
当事務所では、非嫡出子の方が正当な相続権を主張できるよう依頼者を全力でサポートします。「認知を受ける前に父親が死亡してしまった」という方は、できるだけ早く当事務所の弁護士にご相談ください。お力になれると思います。
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