弁護士には次のような相談が数多く舞い込みます。
「結婚しようと口約束したのに別れを切り出されました。婚約破棄(婚約不履行)で慰謝料請求できますか?」
口約束とはいえ、一生添い遂げると信じて接してきた相手から別れを告げられたらショックでしょうし、せめて慰謝料を払わせて責任を取らせたい、そう思うお気持ちはわかります。
しかし大前提として、二人の間に婚約(婚姻の予約)が成立していなくては慰謝料請求も叶わないでしょう。
そこでここでは、
- 口約束でも婚約は成立するのか
- 口約束の婚約を破棄されたら慰謝料請求できるか
について、男女トラブルに強い弁護士がわかりやすく解説していきます。
もし記事を読んでも解決しない場合は、遠慮なく弁護士までお気軽にご相談ください。
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目次
口約束でも婚約は成立する?
結婚と違って、「婚約」に関する法律の規定はありませんが、以下の判例が示すように口約束でも婚約成立は認められています。
大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁 |
婚姻予約とは、結納の取り交わしやその他慣習上の儀式をあげることによって男女間に将来婚姻をすることを約束した場合に限定されるものではなく、男女が誠心誠意をもって将来夫婦になろうと予期(覚悟・期待)して契約し、この契約を全くしていない自由な男女と一種の身分上の差異を生じるに至ったときは、なお婚姻の予約があるとすることを妨げない。 |
最判昭和38年9月5日民集17巻8号942頁 |
被上告人(女性)が上告人(男性)の求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確であつて、単なる野合私通の関係でないことを認定しているのであつて、その認定は首肯し得ないことはない。 右認定のもとにおいては、たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる |
判例では、親兄弟に相手を紹介せずとも、また、結納の取り交わし等の慣習的な儀式をしていなくても婚約が成立するとしていますので、口約束でも婚約成立となるがわかります。
では、男女間において、「結婚しようね」「うん、しようね」といったやり取りさえあったのであれば、裁判において必ず婚約成立が認定されるのでしょうか。
夫婦になろうという強い意思が必要
上で紹介した2つの判例の赤いマーカーで記した箇所を見てください。
- 「男女が誠心誠意をもって将来夫婦になろうとする覚悟」
- 「真実夫婦として共同生活を営む意思」
こういった、互いに夫婦になろうという強い意思が見受けられるからこそ裁判所も婚姻予約の成立を認めているのです。
つまり、たとえ将来の結婚について口にしていたとしても、
- 恋愛感情を高めるための単なるリップサービス
- 男女関係(肉体関係)を維持するためのもの
- 一時の気持ちの盛り上がりで口にしただけ
- ピロートーク(睦言)の流れで口にしただけ
といった、夫婦になることに向けた真摯な気持ちから発せられたものではない口約束については婚約成立とならないのです。
客観性があったほうが婚約成立が認められやすい
口約束でも婚約が成立するとはいえ、もし婚約破棄の慰謝料請求裁判となった場合に、夫婦となることに向けた強い意思が双方にあったことを証明するのは難しいことです。
あくまでも二人にしかわからない内心の意思ですし、もし婚約破棄を申し出た方が、「そんなことを言った覚えがない」と手のひらを返してくることすらあります。
また、仮にメールやLINE等で結婚についての会話を交わしていたとしても、「その時は情熱的になって口走っただけ」「相手の気持ちを繋ぎとめておきたかっただけ」などと言い逃れをしてくることもあるでしょう。
そのため、裁判官に「婚約は成立していた」と判断してもらうためには、やはり外形的・客観的に判断できる事実があった方がいいでしょう。
客観性のある具体的事実としては、
- 婚約指輪の購入、指輪交換
- 結納式をする、結納金の受け渡し
- 婚姻届けへの双方の署名
- 親族や友人・知人に婚約者として紹介
- 親同士の顔合わせ、挨拶
- 結婚式場の下見、予約
- 結婚式の招待状の作成、送付
- 新居探し、新居の家具・備品の購入
- 長期間にわたる性的関係の継続、妊娠
などがあげられます。
口約束のみで婚約が成立するとお伝えしましたが、実務上、これらの客観性・公然性の事実を立証できる証拠がないと婚約成立の争いに不利に働くことが多いのです。
婚約破棄による慰謝料請求をお考えの方は、手持ちの証拠で婚約成立を争えるのか否か、男女問題に強い弁護士に一度相談してみましょう。
口約束の婚約破棄で慰謝料請求できる?
口約束の婚約でも、正当な理由もなく一方的に婚約破棄されれば相手に慰謝料を請求できます。
正当な理由があるケースとしては、婚約破棄された婚約者側に、
- DVやモラハラをした
- 他の異性と浮気をした
- 回復困難な病気にかかった
- 失業した、多額の借金を抱えていた
- 性交不能
- 学歴・勤務先・婚姻歴・子供の有無などについて虚偽があった
などの事実がある場合です。
これらの事実があれば、たとえ結婚したとしても無事に婚姻生活を送ることが困難であることが予想されるからです。
一方、性格が合わない、親に反対された、ほかに好きな人ができた、といったものは正当な理由がありませんので、これらを理由に相手が婚約破棄を申し出てきた場合は慰謝料請求が可能となります。
慰謝料相場と婚約の証拠について
婚約破棄の慰謝料の相場は、交際期間の長さや、結婚の準備をどこまで進めていたのかなどの事情によって異なりますが、おおよそ50万円~200万円となっています。
慰謝料を請求するには当事者でまずは話し合いをし、話がまとまらない場合は慰謝料請求調停を申し立て、それでもダメであれば訴訟を申し立てるといった流れが一般的です。
訴訟で慰謝料を勝ち取るには、婚約破棄した側による「婚約を口にした覚えがない」「真剣に考えて言ったわけではない」といった主張を押しやるだけの、客観性のある証拠が重要となってきます。
具体的な証拠としては、
- メール・LINE等のやり取り、会話の録音ファイル
- 婚約指輪購入の領収書、クレジット明細
- 式場予約した際の招待状の送付者リスト
- 結納金を支払うためにお金を引き出した口座の通帳記録
などがあげられます。
まとめ
口約束でも婚約は成立するものの、婚約破棄の慰謝料請求訴訟になった場合には、双方に夫婦になることに向けた強い意思を証明できる証拠が重要であることを説明しました。
口約束による婚約破棄の慰謝料請求は、お金云々だけでなく、裏切られた悔しい気持ちを少しでも和らげたい、少しでも相手に罰を与えたいといった考えが混じっていることも少なくないでしょう。
当法律事務所では、慰謝料請求する側、される側、どちらからも多くの相談や依頼を受けております。
親身誠実に、出来る限り依頼者のご希望に沿うよう弁護士が全力を尽くしますので、まずはお気軽にご相談ください。
相談する勇気が次の新しい生活への第一歩です。
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