
結婚の約束が口約束だけであっても、法律上は婚約が成立します。正当な理由もないまま一方的に反故にされたのなら、慰謝料の請求も可能です。
指輪も結納もなく、残っているのは「来年には籍を入れよう」というやり取りだけ。そこへ突然の別れを告げられ、それでも認められるのかと迷う方は少なくありません。争点は、その約束が本気のものだったと示せるかどうかです。
男女トラブルに強い弁護士が、判例をふまえて次の4点を整理しました。
- 口約束だけの婚約でも成立するのか
- 口約束の婚約にどんな効力があるのか
- 婚約の成立を裏づける証拠は何か
- 婚約破棄で慰謝料を請求できるのはどんなときか
なお、口約束の婚約でお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。
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口約束だけの婚約でも成立する?
婚姻届のような書面や結納などの儀式がなくても、口頭で結婚を約束していれば婚約は法的に成立します。民法に婚約の条文はありませんが、裁判所は古くから、当事者の合意があれば「婚姻予約(将来結婚することを内容とする約束)」が成立すると判断してきました。
もっとも、そのやり取りが本気のものだったといえるかどうかで、裁判の結論は変わります。
婚約とは?結婚の約束があれば書面や儀式はいらない
婚約とは、「将来この人と結婚しよう」という結婚の約束を二人で取り交わし、その約束に沿って生活を進めていく関係のことをいいます。
たとえば、プロポーズを受けて「来年の春に式を挙げよう」と話し合ったり、LINEで「今年中に籍を入れよう」とやり取りをして式場を見に行ったりした場合です。こうしたやり取りが残っていれば、婚約は成立していたと評価される余地があります。
結納、婚約指輪、両家の顔合わせは、いずれも婚約成立の条件ではありません。書面も必要なく、結婚の約束について二人の気持ちが一致していること自体が婚約の中身だからです。口約束やLINEのやり取りしか残っていなくても、婚約の成立は主張できます。
夫婦になろうという強い意思が必要
裁判所が見るのは、夫婦になるという真摯な合意が二人にあったかどうかです。この点について判断した判例を2件紹介します。
大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁
婚姻予約とは、結納の取り交わしやその他慣習上の儀式をあげることによって男女間に将来婚姻をすることを約束した場合に限定されるものではなく、男女が誠心誠意をもって将来夫婦になろうと予期(覚悟・期待)して契約し、この契約を全くしていない自由な男女と一種の身分上の差異を生じるに至ったときは、なお婚姻の予約があるとすることを妨げない。
最判昭和38年9月5日民集17巻8号942頁
被上告人(女性)が上告人(男性)の求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確であつて、単なる野合私通の関係でないことを認定しているのであつて、その認定は首肯し得ないことはない。
右認定のもとにおいては、たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる
判例は、親兄弟に相手を紹介せず、結納などの慣習的な儀式をしていなくても婚約は成立するとしています。
では、「結婚しようね」「うん、しようね」というやり取りさえあれば、裁判で必ず婚約成立が認定されるのでしょうか。
判例では、次のような表現が使われています。
- 「男女が誠心誠意をもって将来夫婦になろうとする覚悟」
- 「真実夫婦として共同生活を営む意思」
互いに夫婦になろうという強い意思があるからこそ、裁判所も婚姻予約の成立を認めています。
つまり、たとえ将来の結婚について口にしていたとしても、
- 恋愛感情を高めるための単なるリップサービス
- 男女関係(肉体関係)を維持するためのもの
- 一時の気持ちの盛り上がりで口にしただけ
- ピロートーク(睦言)の流れで口にしただけ
といった、夫婦になることに向けた真摯な気持ちから発せられたものではない口約束については婚約成立とならないのです。
口約束の婚約にはどんな法的効力がある?
婚約が成立すると、二人のあいだには、結婚に向けて誠実に準備を進めることが求められる関係が生まれます。指輪や結納を交わした婚約でも、口約束だけの婚約でも変わりません。
ただし、婚約が成立しているからといって、相手に結婚を強いることまではできません。結婚するかどうかは本人の自由な意思に委ねられ、裁判所に「結婚せよ」と命じてもらう手続きもないため、相手が「やはり結婚できない」と言い出したときに、婚約破棄そのものを止めることはできません。
そのかわり、正当な理由がないまま約束を反故にされた側は、精神的な苦痛について慰謝料を求められます。口約束の婚約の法的効力は、この「破棄されたときに責任を問える」点に表れます。
客観的な証拠があるほど婚約成立は認められやすい
婚約そのものは口約束でも成立しますが、実際に慰謝料請求の裁判となると、夫婦となることに向けた強い意思が双方にあったことを証明するのは簡単ではありません。
あくまでも二人にしかわからない内心の意思ですし、婚約破棄を申し出た方が「そんなことを言った覚えがない」と手のひらを返してくることすらあります。メールやLINE等で結婚の話をしていても、「その時は情熱的になって口走っただけ」「相手の気持ちを繋ぎとめておきたかっただけ」と言い逃れをされることもあります。
そのため、裁判官に「婚約は成立していた」と判断してもらうためには、やはり外形的・客観的に判断できる事実があった方がいいでしょう。
客観性のある具体的事実としては、
- 婚約指輪の購入、指輪交換
- 結納式をする、結納金の受け渡し
- 婚姻届への双方の署名
- 親族や友人・知人に婚約者として紹介
- 親同士の顔合わせ、挨拶
- 結婚式場の下見、予約
- 結婚式の招待状の作成、送付
- 新居探し、新居の家具・備品の購入
- 長期間にわたる性的関係の継続、妊娠
などがあげられます。婚約指輪を贈っていた場合に返却義務が生じるかどうかについては「婚約破棄で指輪(指輪代)を返却する法的な義務はある?」で解説しています。
こうした事実は、裁判では資料で示すことになります。手元に次のような形で残っていれば、そのまま証拠として使えます。
- メール・LINE等のやり取り、会話の録音ファイル
- 婚約指輪購入の領収書、クレジット明細
- 式場予約した際の招待状の送付者リスト
- 結納金を支払うためにお金を引き出した口座の通帳記録
ひとつで決め手になる証拠は多くありません。日付や前後関係がわかる形で並べることで、結婚に向けて動いていた経緯が見えてきます。
とはいえ実務上は、これらの客観性・公然性の事実を立証できる証拠がないと婚約成立の争いに不利に働くことが多いといえます。
手持ちの証拠で婚約の成立を争えるかどうかは、男女問題に強い弁護士にご相談ください。
婚約破棄で慰謝料を請求できるのはどんなとき?
口約束だけの婚約であっても、正当な理由がないのに一方的に婚約を破棄されたのであれば、相手に慰謝料を請求できます。婚約は当事者の合意で成立する一種の契約であり、これを理由なく反故にすることは、不法行為(民法709条)または債務不履行(民法415条)にあたると考えられているためです。
慰謝料の額には幅がありますが、おおよそ50万円〜200万円程度が一つの目安です。交際期間や結婚準備の進み具合で上下し、経緯が悪質と評価されれば目安を超えることもあります。具体的な金額の目安や請求の手続きを詳しく知りたい方は、「婚約破棄の慰謝料はいくらもらえる?相場や請求できるケース」をご覧ください。
請求は、まず当事者で話し合い、応じてもらえなければ内容証明郵便で正式に請求し、それでもまとまらなければ家庭裁判所の調停、最終的には訴訟へ進むのが一般的です。内容証明郵便には、請求の日付と内容が記録として残ります。
請求には時効もあり、不法行為なら損害と相手方を知った時から3年、債務不履行なら請求できると知った時から5年です。遅くとも婚約破棄から20年(債務不履行は10年)で完成します。どちらを根拠とするかは事情により見解が分かれます。
なお、二人で話し合って結婚を取りやめる「婚約解消」は、合意があるかどうかという点で一方的な婚約破棄とは区別され、原則として慰謝料は問題になりません。
相手に正当な理由があると慰謝料は請求できない
婚約を破棄した側に、結婚を取りやめてもやむを得ないといえる事情があれば、慰謝料の請求は認められないのが原則です。正当な理由があると判断されやすいのは、婚約破棄された婚約者側に、
- DVやモラハラをした
- 他の異性と浮気をした
- 回復困難な病気にかかった
- 失業や多額の借金の発覚などで、結婚生活を維持できないほど経済状況が悪化した
- 性交不能
- 学歴・勤務先・婚姻歴・子供の有無などについて虚偽があった
などの事実がある場合です。
これらの事実があれば、たとえ結婚したとしても無事に婚姻生活を送ることが困難であることが予想されるからです。
ただし、同じ借金や病気でも程度や経緯によって評価は変わり、交際期間や同棲の有無なども含めて総合的に判断されます。実際の判決での評価や金額は「婚約破棄の裁判例25選|破棄の理由の実例や判決金額が分る」でまとめています。
性格の不一致や親の反対だけでは正当な理由にならない
一方、次のような理由による婚約破棄は、正当とは認められにくくなります。
- 性格が合わない、価値観が違う
- 気が変わった、結婚する気がなくなった
- ほかに好きな人ができた
- 親や親族に結婚を反対された
- 信仰する宗教や出身地などの違いを理由とする差別
単に性格が合わない、親が反対しているという程度では、正当な理由とは認められない可能性が高いといえます。ほかに好きな人ができた、気が変わったといった理由も同様で、これらを告げられて一方的に婚約を打ち切られたのであれば、慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、反対の理由や事情の深刻さによっては判断が分かれ、最終的には個別の事情を総合して判断されます。親の反対でも、結婚によって一方に著しい不利益が生じるといえる事情があれば、評価は変わります。
分かれ目は、第三者から見て「それなら結婚をやめても仕方がない」といえる事情があるかどうかです。自分のケースがどちらに近いかは、経緯を整理しないと判断が難しいでしょう。
婚約破棄で悩んだら弁護士に相談を
慰謝料を請求できるかどうかは、婚約の成立を示せるか、そして相手にやむを得ない事情がなかったかの2点で決まります。口約束だけの婚約でも、この2点を満たせば責任を追及できます。
弁護士に相談すれば、手元のLINEや写真、領収書をもとに、その約束を婚約として主張できるかどうかの見通しを立てられます。足りない資料をどう集めればよいのかも助言できます。相手方との交渉、家庭裁判所での調停、訴訟まで、代理人としてお引き受けします。
当事者だけで話を続けると感情的な言い合いになり、記録も残りにくくなります。連絡を絶たれている方も、相手に代理人が立った方も、早めにご相談ください。
当事務所では、婚約破棄をはじめとする男女問題を数多く取り扱ってきました。全国どこからでも無料でご相談いただけますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
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この記事の監修者
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。事務所全体で年間1,500件以上の男女トラブル相談を受けており、不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の暴力的・脅迫的な言動にも弁護士が毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために全力を尽くしている。

