
「口約束しかないのに、婚約破棄として責任を問えるのだろうか」。指輪も結納もないまま突然別れを告げられ、そう迷ってはいませんか。
結婚の約束が口約束だけであっても、法律上、婚約は成立します。正当な理由もなく一方的に破棄されたのなら、慰謝料を請求できます。
もっとも、裁判で認めてもらえるかどうかは、その約束が本気のものだったと示せるかにかかっています。
この記事では、男女トラブルに強い弁護士が、判例をふまえて次の4点を解説します。
- 口約束だけの婚約でも成立するのか
- 婚約にはどんな法的効力があるのか
- 婚約の成立を示すにはどんな証拠が要るか
- 慰謝料を請求できるのはどんなときか
お読みいただくと、手元のやり取りや記録で何を主張できそうか、慰謝料を求める見込みがあるかを見極めやすくなります。
なお、結婚の約束を破られてお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談をご利用ください。地域を問わずご相談を承っています。
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口約束だけの婚約でも成立する?
婚姻届のような書面や結納などの儀式がなくても、口頭で結婚を約束していれば婚約は法的に成立します。民法に婚約の条文はありませんが、裁判所は古くから、当事者の合意があれば「婚姻予約(将来結婚することを内容とする約束)」が有効に成立すると判断してきました。なお、民法は契約一般についても、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などの方式がなくても成立すると定めています(民法522条2項)。
もっとも、その口約束が本気のものだったといえるかどうかで、裁判の結論は変わります。
婚約とは?結婚の約束があれば書面や儀式はいらない
婚約とは、「将来この人と結婚しよう」という結婚の約束を二人で取り交わすことをいいます。
たとえば、プロポーズを受けて「来年の春に式を挙げよう」と話し合ったり、LINEで「今年中に籍を入れよう」とやり取りをして式場を見に行ったりした場合です。こうしたやり取りが残っていれば、婚約は成立していたと評価される余地があります。
結納、婚約指輪、両家の顔合わせは、いずれも婚約成立の条件ではありません。契約書などの書面も必要なく、結婚の約束について二人の気持ちが一致していること自体が婚約の中身だからです。
夫婦になろうという強い意思が必要
裁判所が見るのは、口約束か書面かではなく、本気で夫婦になろうという合意が二人のあいだにあったかどうかです。この点について判断した判例を2件紹介します。
大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁
婚姻予約とは、結納の取り交わしやその他慣習上の儀式をあげることによって男女間に将来婚姻をすることを約束した場合に限定されるものではなく、男女が誠心誠意をもって将来夫婦になろうと予期(覚悟・期待)して契約し、この契約を全くしていない自由な男女と一種の身分上の差異を生じるに至ったときは、なお婚姻の予約があるとすることを妨げない。
最判昭和38年9月5日民集17巻8号942頁
被上告人〔女性〕が上告人〔男性〕の求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確であつて、単なる野合私通の関係でないことを認定しているのであつて、その認定は首肯し得ないことはない。
右認定のもとにおいては、たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる
2件目の判決にある「野合私通」は、結婚の意思を伴わない男女関係のことです。判例は、本気で結婚を約束して関係を続けていた二人について、相手を親兄弟に紹介していなくても、結納などの慣習的な儀式を済ませていなくても、婚約の成立を認めています。
では、「結婚しようね」「うん、しようね」というやり取りさえあれば、必ず婚約が認められるのでしょうか。次のような口約束は事情が異なります。
- 一時の気持ちの盛り上がりで口にしただけ
- ピロートーク(睦言)の流れで口にしただけ
- 恋愛感情を高めるための単なるリップサービス
- 男女関係(肉体関係)を維持するためのもの
こうした言葉は、夫婦になろうとする本気の気持ちから出たものとはいえず、婚約の成立は認められにくいでしょう。
成立した婚約にはどんな法的効力がある?
婚約が成立すると、法律上、二人のあいだには、結婚に向けて誠実に準備を進めることが求められる関係が生まれます。指輪や結納を交わした婚約でも、口約束だけの婚約でも変わりません。
もっとも、結婚するかどうかは、最後まで本人の自由な意思で決めることです。そのため、裁判所の力を借りても、結婚するよう相手に強いることはできません。
そのかわり、正当な理由がないまま約束を反故にされた側は、精神的な苦痛について慰謝料を求められます。口約束の婚約の法的効力は、この「破棄されたときに責任を問える」点に表れます。
客観的な証拠があるほど婚約成立は認められやすい
婚約そのものは口約束でも成立しますが、実際に慰謝料請求の裁判となると、夫婦となることに向けた強い意思が双方にあったことを立証するのは簡単ではありません。
あくまでも二人にしかわからない内心の意思ですし、婚約破棄を申し出た婚約者が「そんなことを言った覚えがない」と手のひらを返してくることすらあります。メールやLINEのメッセージで結婚の話をしていても、「その時は情熱的になって口走っただけ」「相手の気持ちを繋ぎとめておきたかっただけ」と言い逃れをされることもあります。
そのため、裁判官に「婚約は成立していた」と判断してもらうには、二人の内心だけでなく、第三者から見てもわかる事実を示すことが大切です。そうした事実は、大きく次の4つに分けられます。
- 周囲に婚約を明かしていた(親同士の顔合わせや食事会、両親へのあいさつ、親族や友人への紹介)
- 結婚の準備を進めていた(式場の下見・予約、招待状の送付、新居探し、家具の購入)
- 婚約の儀式や手続きをしていた(婚姻届への双方の署名、結納、婚約指輪の交換)
- 交際に実態があった(長期間にわたる性的関係、妊娠)
こうした事実は、裁判では資料で示すことになります。手元に次のような形で残っていれば、そのまま証拠として使えます。
- 婚約指輪の領収書やクレジットカードの利用明細
- 結納金を用意するために預金を引き出した通帳の記録
- 結婚式場を予約した際の招待状の送付先リスト
- 結婚について話したメール・LINEの履歴や会話の録音
1つの資料だけで婚約の成立が決まるとは限りません。日付や前後関係がわかる形で並べることで、結婚に向けて動いていた経緯が見えてきます。
婚約指輪を贈っていた場合に返却義務が生じるかどうかについては「婚約破棄で指輪(指輪代)を返却する法的な義務はある?」で解説しています。
手持ちの証拠で口約束の婚約の成立を争えるかどうかは、男女問題に強い弁護士にご相談ください。弁護士に依頼するメリットや費用、相談できる窓口については、「婚約破棄の悩みは弁護士に相談|依頼する5つのメリット」をご参照ください。
口約束の婚約破棄で慰謝料を請求できるのはどんなとき?
口約束だけの婚約であっても、正当な理由がないのに一方的に婚約を破棄されたのであれば、相手に慰謝料を請求できます。婚約は当事者の合意で成立する一種の契約であり、これを理由なく反故にすることは、不法行為(民法709条)または債務不履行(民法415条)にあたると考えられているためです。
精神的な苦痛に対する慰謝料とは別に、結婚に向けて支出した費用などの財産的な損害の賠償を求められることもあります。たとえば、結婚式場や新婚旅行を取り消したときのキャンセル料、新生活のために買った家具の代金、結婚を機に退職して得られなくなった収入などです。どこまで認められるかは、支出や退職の経緯によって判断が分かれます。
慰謝料の額には幅がありますが、おおよそ50万円〜200万円程度が一つの目安です。交際期間や結婚準備の進み具合で上下し、経緯が悪質と評価されれば目安を超えることもあります。
請求は、話し合いや内容証明郵便(送った日付と文書の内容を郵便局が証明する郵便)による請求から始め、まとまらなければ家庭裁判所の調停、最終的には訴訟へ進むのが一般的です。具体的な金額の目安や請求の手続きを詳しく知りたい方は、「婚約破棄の慰謝料はいくらもらえる?相場や請求できるケース」をご覧ください。
損害賠償を請求できる期間にも限りがあります。不法行為なら原則として損害と相手方を知った時から3年、債務不履行なら請求できると知った時から5年で時効が完成し、これらを知らないままでも婚約破棄から20年(債務不履行は10年)で完成します。どちらの構成で請求するかによって期間が変わります。
なお、口約束の婚約であっても、二人で話し合って結婚を取りやめる「婚約解消」は、合意があるかどうかという点で一方的な婚約破棄とは区別され、原則として慰謝料は問題になりません。
相手に正当な理由があると慰謝料は請求できない
婚約を破棄した側に、結婚を取りやめてもやむを得ないといえる事情があれば、慰謝料の請求は認められないのが原則です。正当な理由があると判断されやすいのは、婚約破棄された婚約者側に、
- DVやモラハラをした
- 婚約中に他の異性と浮気をした
- 回復困難な病気にかかった
- 失業や多額の借金の発覚などで、結婚生活を維持できないほど経済状況が悪化した
- 性交不能
- 学歴・勤務先・婚姻歴・子供の有無などについて虚偽があった
などの事実がある場合です。
これらの事実があれば、たとえ結婚したとしても無事に婚姻生活を送ることが困難であることが予想されるからです。
ただし、同じ借金や病気でも程度や経緯によって評価は変わり、交際期間や同棲の有無なども含めて総合的に判断されます。実際の判決での評価や金額は「婚約破棄の裁判例25選|破棄の理由の実例や判決金額が分る」でまとめています。
性格の不一致や親の反対だけでは正当な理由にならない
一方、次のような理由による婚約破棄は、正当とは認められにくくなります。
- 性格が合わない、価値観が違う
- 気が変わった、結婚する気がなくなった
- ほかに好きな人ができた
- 親や親族に結婚を反対された
- 信仰する宗教や出身地などの違いを理由とする差別
単に性格が合わない、親が反対しているという程度では、正当な理由とは認められない可能性が高いといえます。ほかに好きな人ができた、気が変わったといった理由も同様で、これらを告げられて一方的に婚約を打ち切られたのであれば、口約束の婚約であっても慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、親の反対については、その理由や事情の深刻さによって判断が分かれ、最終的には個別の事情を総合して判断されます。親の反対でも、結婚によって一方に著しい不利益が生じるといえる事情があれば、評価は変わります。親の反対を理由に婚約を破棄された場合の実際の判断については、「相手の親が原因の婚約破棄で慰謝料請求は認められる?裁判例を紹介」もあわせてご確認ください。
分かれ目は、第三者から見て「それなら結婚をやめても仕方がない」といえる事情があるかどうかです。
自分のケースがどちらに近いかは、経緯を整理しないと判断が難しいでしょう。
婚約破棄で悩んだら弁護士に相談を
口約束で交わした婚約でも、本気の合意があったのなら、法的な婚約として認められます。請求の見通しを左右するのは、婚約が成立していたと示せるかどうかと、相手に破棄の正当な理由がなかったかどうかの2点です。
弁護士にご相談いただければ、手元のLINEや写真、領収書をもとに、その約束を婚約として主張できるかの見通しをお伝えできます。足りない資料の集め方も助言し、相手方との交渉から家庭裁判所の調停、訴訟まで代理人としてお引き受けします。
一方的に別れを告げられたうえ、約束そのものまで否定されるのはつらいものです。当事者どうしで話を続けると感情的な言い合いになり、やり取りの記録も残りにくくなります。相手と連絡が取れなくなっている方や、相手に弁護士が付いた方も、早めにご相談ください。
当事務所では、婚約破棄をはじめとする男女問題を数多く取り扱ってきました。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。事務所全体で年間1,500件以上の男女トラブル相談を受けており、不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の暴力的・脅迫的な言動にも弁護士が毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために全力を尽くしている。

