当事務所には、BitTorrent(ビットトレント)やファイル共有ソフトを使用し、漫画やアニメ、AV(アダルトビデオ)をアップロードをしてしまった方から『発信者情報開示請求に係る意見照会書』が届いたとのご相談を多数いただいております。
そこで、ファイル共有ソフトの使用でトラブルになる場合について、以下の点を中心に解説します。
- ①刑事事件として逮捕されてしまうの?
- ②請求される金額は?
- ③意見照会書についての対応の仕方
記事の目次
そもそもファイル共有ソフトとは
漫画や動画をダウンロードは確かにしていたものの、その仕組みもわからない。なんで自分の情報が知られてしまったのだろう。という方も、多くいらっしゃいます。まずはその仕組みについて簡単に解説します。
ファイル共有の使用するP2Pとは
ファイル共有ソフトはPeer to Peer(P2P)を使用した通信プロトコルです。P2Pは複数台の端末がサーバを介さずに直接データファイルを共有することができる通信技術です。この技術はサーバを経由せず、P2Pの通信ネットワーク上にあるコンピュータ同士がやり取りすることで、処理速度が速くなり、またサーバがダウンすることがない等のメリットがあります。P2Pは、ファイル共有ソフト以外にも、LINEやSkype、ビットコインなど馴染みのあるサービスにも使われている技術です。
したがって、P2P自体が違法というわけでは、ありません。
今までのファイル共有ソフトとの違い
昨今問題となっているファイル共有ソフトの問題は、従来のファイル共有ソフトと異なり、ダウンロードしたユーザーが、半自動的に同時にアップロードをする仕組みになっていることにあります。
人気のあるファイルほど、ダウンロード速度や時間を早くするための手法です。
このアップロードによって、著作権法23条の公衆送信権侵害に該当することとなるのです。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
発信者情報開示の流れ
どういった流れで自分の契約するプロバイダが解ったのか、この先自分の情報が相手に伝わってしまうのかという点を解説いたします。
通常の発信者情報開示
インターネットは原則として匿名ですから、ファイル共有ソフトを使用してしまった、掲示板に悪口を書き込んでしまった、というだけで、すぐにご自身の情報(発信者情報)が開示されるわけではありません。
名誉棄損にあたる投稿であれば、その投稿者を特定する場合、投稿されたウェブサイトやSNSの管理者に対して、投稿に関するIPアドレスの開示請求をする必要があります。このIPアドレスの請求は、多くの場合は裁判手続が必要です。
IPアドレスを特定できた後は、IPアドレスからプロバイダ(通信会社)を特定し、次いでプロバイダに対して氏名や住所を開示するよう請求を行います。
現在法律の改正が行われた部分ですが、通常のケースであれば、このように二段階の開示請求が必要です。
その分、開示を求める側は、手間もコストもかかります。
ファイル共有ソフトの発信者情報開示
一方、ビットトレント等ファイル共有ソフトでの開示請求では、ネットワーク監視システムを使用し、アップロードをしている人物が使用するIPアドレスを直接特定することができます。つまり、裁判手続等煩雑な手続きをすることなくプロバイダが特定できます。
著作権者が、この特定されたプロバイダに発信者情報開示請求をすると、プロバイダは、法律に基づき、アップロードの際に使用された回線の契約者に対し、『発信者情報開示に係る意見照会書』を送付します。
こうして、アップロードをしてしまった方の手元に、『発信者情報開示に係る意見照会書』が届くのです。
著作権法違反による刑事罰
前述のとおり、違法なアップロードは、著作権法に反する行為です。これについて、どのような刑事罰があるのか解説いたします。
懲役や罰金の金額は
著作権法第119条第では、10年以下の懲役か1000万円以下の罰金かその両方が科されると法定されています。法人が違反した場合には、3億円以下の罰金が科されます。
実例
法定刑は、「上限」に過ぎません。また、多くの場合で報道される著作権法違反の報道は、違法なアップロードサイトの管理者でした。もっとも、昨今では違法なアップロードを取り締まろうという世の中の意識は強く、ファイル共有ソフトのユーザーに過ぎない方も、著作権法に違反したことによる逮捕や判決の報道も増加しています。
損害賠償金の金額
刑事事件での罰金(または懲役刑)以外にも、民事事件で損害賠償請求を受けることもあります。この場合、賠償金の金額はどのように決まるのでしょうか。
著作権法114条1項では、アップロードしたコンテンツの視聴回数に、視聴1回当たりの利益額を乗じた(掛け算した)金額を基本として、その額から相手方が視聴させることができない事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除した(差し引いた)額を損害額とする方法により算出する、としています。
実際の請求でも、アップロードしたファイルの数やその種類により金額は変わるものの、計算式としては、「利益額×アップロードした数」が基準とされます。したがって、作品の価格が高い、アップロードしたファイル自体が多い、アップロードをした相手の数が多いというほど、請求額は高くなります。
これ以外にも、ネットワーク監視システムの使用料や弁護士費用も、アップロードによる「損害」として請求されることが多くみられます。
上記の損害額をもとに、示談交渉や損害賠償請求訴訟で、実際に支払うべき金額が決まります。
意見照会書はどう対応するべきか?
発信者情報開示に係る意見照会書への対応には
- ①同意する
- ②不同意する
- ③無視する
という3つの対応が考えられます。
ファイル共有ソフトに限られない部分は、「発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたらするべきことは?」の記事をご参照下さい。
例えば名誉毀損の投稿などであれば、投稿内容が名誉毀損にはあたらない、違法性阻却事由がある、といった様々な反論が有益な場合もあります。
一方、ファイル共有では、IPアドレスを特定するためのファイル監視システムに信頼性があると裁判例上認定されており、意見照会書を受け取った方が、著作権を侵害してしまったこと自体は争いの余地がないケースが多くみられます。
したがって、「不同意」の回答をしても、開示されてしまう可能性が高くなります。これは、意見照会書に「無視:の対応をした場合も同様です。
このため、不同意または無視をすることで、刑事事件化してしまうおそれ、著作権者が支出した裁判費用を追加で請求されるおそれも生じます。もし、ご自身でファイル共有ソフトを使用したのであれば、同意のうえ、ご自身または弁護士が、著作権者と示談交渉を行うべきです。
もちろん、ご自身ではファイル共有ソフトを一切使用しておらず身に覚えがない、アップロードした作品の著作権はご自身が持っている等の事情があれば、そうした主張を行うべきです。
ご対応にお悩みの方へ
意見照会書に対し、どのような対応をするか、どのような交渉をするかで、著作権者からの請求や刑事事件化の可能性もかわっていきます。まずは弁護士に相談し、現状を把握したうえで、今後の対応について検討されるとよいでしょう。
当事務所でも、ファイル共有ソフトを使用してしまい、『発信者情報開示に係る意見照会書』が届いてしまった方から、無料相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。