イニシャル・伏字・源氏名の誹謗中傷でも名誉毀損になる?

インターネットが普及し、誰しもが匿名でネット上に書き込みができるようになりました。それに伴い、特定の誰かを貶める誹謗中傷の被害も深刻化しています。

「対象となる相手が特定できなければ何を書いてもいい」と考えてしまっている人もおり、「○山○子」や「A山C子」など伏字やイニシャルを使って誹謗中傷を行う人は後を絶ちません。

そのほかにも、キャバクラ等の水商売や風俗で勤務する女性の源氏名を名指しして悪口を書き込むケースもあります。

結論から言いますと、こうしたイニシャル・伏字・源氏名を使った誹謗中傷の場合も、名誉毀損などが問われることがあります

今回は、イニシャル・伏字・源氏名を使って誰かを誹謗中傷した場合に名誉毀損などの責任が問われるケースはどういったケースなのか、名誉毀損などが問われると何が請求できるのかなどを解説します。

もし読んでもわからないことがあったり、投稿した人に法的な責任追及を検討している方は気軽に弁護士に相談してみましょう。

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イニシャルや伏せ字は名誉毀損になりうるのか?

冒頭にも書いたようなイニシャルや伏せ字。インターネット上の巨大掲示板やSNSでもこうした書き込みを見ることは珍しくありません。

例えば、「渋谷にあるカフェ○○でコーヒーを飲んだら虫が入っていた」「A社の経理をしている山田○子は不倫をしている」というような書き込みがそれにあたります。

確かにこうした書き込みは、誹謗中傷の被害者の実名を出していません。そのため、名誉毀損にはならないようにも思えます。

仮にその書き込みを見た第三者から「これは『山田花子』という人のことを言っているのではないか?」と指摘されても、「山田○子と書いているだけだと言い逃れをすることもできそうです。

ですが、果たして本当に名誉毀損は成立しないのでしょうか?じつは、同じようなイニシャルや伏せ字を使った誹謗中傷でも、名誉毀損になるケースと名誉毀損にならないケースがあるのです。

名誉毀損とは

名誉毀損というのは文字通り、特定の誰かの名誉を毀損したときに問題となります。

簡単に説明すると、名誉毀損というのは「他人の社会的評価を害する」ことです。特定の誰かというのは個人の場合もあれば、お店や会社の場合もあります。

少し複雑になるためここでは触れませんが、名誉毀損については、名誉毀損罪という犯罪になることもありますし、民事上で問題となり、損害賠償請求の対象となることもあります。

名誉毀損が成立するための基準

そして、名誉毀損が成立するためには、第三者が名誉毀損にあたる行為を見たときに、名誉毀損されている被害者のことを特定できることが必要です。

例えばSNS上で「AとBが不倫している」という書き込みがあったとしても、「A」「B」というだけでは、それが誰のことかを特定することはできません。

特定できないため、被害を受けている人もいませんから、そもそも名誉毀損は成立しません。

しかし、「渋谷区にあるホウリツ株式会社に勤めている経理職のN.Gさん」などと記載されたとしたら、例えイニシャルであったとしても「N.Gさん」本人を知っている人からすれば「これはあの人のことだ」と特定できてしまいます。

このように、N.Gさんと近い距離にいる人が書き込みを見て容易に人物を特定することができる場合は、名誉毀損が成立する可能性が非常に高いのです。

誹謗中傷においては、名誉毀損だけでなく、後述するプライバシーの侵害なども問題となりやすいものですが、プライバシーの侵害においても、第三者がその書き込みを見て誰のことを書いているのかが特定できるかどうかが分かれ道となります。

イニシャルや伏せ字ではなく源氏名での誹謗中傷の場合

水商売や風俗で働いている人は一般の人よりも掲示板などで誹謗中傷されるケースが多いといえますが、彼女たちが使用している源氏名を書かれて誹謗中傷された場合にも、名誉毀損などが成立するのでしょうか。

この場合にも、重要なポイントは個人が特定できるかどうかです。

単に「あげは」という源氏名がSNS上に掲載されているよりも、「歌舞伎町のクラブ”夜の蝶”で働いている”アゲハ”」(例として挙げているだけで、このような人物は実在しません)と記載されることで、「ああ、あのアゲハだな」と特定できるような場合は、源氏名であっても名誉毀損の対象となります。

これは、ペンネームやハンドルネームなども同じです。

お店や会社に対する誹謗中傷の場合

一方で、誹謗中傷は個人相手だけにとどまらず、お店や会社、商品に対しても誹謗中傷が行われることがあります。

例えば「ラーメン○太では賞味期限切れの食材を出している」などの場合です。(こちらも例として挙げているだけで、このような店は実在しません)

こうしたお店や商品などに対する誹謗中傷も、書き込みを見た第三者が「ああ、あの店か」と特定できる場合は名誉毀損が成立する可能性が非常に高いといえます。

逆に、単に「A社は脱税している」というようなイニシャル表記の書き込みだけでは、A社を特定することは不可能だといえるため、誹謗中傷は成立しません。

お店や会社に対する誹謗中傷は、名誉毀損だけでなく業務妨害罪なども問題となることがあることを知っておきましょう。

名誉毀損の他に成立する犯罪

名誉毀損は「名誉毀損罪」という犯罪でもあり、違法な行為として民事上で損害賠償が問題になるものでもありますが、名誉毀損罪のほかにも誹謗中傷によって成立しうる犯罪があります。

業務妨害罪

業務妨害罪とは、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した」ときに成立する犯罪です。刑法233条にその記載があります。

例えば「渋谷のスクランブルの前にあるAというカフェで、Bという店員がお客さんに暴力を振るっていた」「○○駅前にある定食屋のC屋では国産と偽って外国産の肉を使っている」といった嘘の情報を掲示板などで書いた場合、イニシャルや伏せ字を用いていたとしても、それを信じた第三者がその店に足を運ばなくなることは簡単に想像できます。

それだけでなく、その噂を聞いた人が友人や家族に「あの店ってこうらしいよ」と噂を広めていくことで、どんどん嘘の情報が本当のことのように広まってしまい、最終的にそのお店の信用が毀損されてしまい、閉店や倒産する恐れもあります。

侮辱罪

侮辱罪と名誉毀損罪は似ているのですが、「バカ」「クズ」など、なんら事実を示さずに相手を貶める発言をしたときに成立するのが侮辱罪です。

一方名誉毀損罪は、事実を摘示して相手の名誉を毀損したときに成立します。

例えば、第三者が被害者を特定できる形で「A社の経理をしている山田○子は頭が悪い」などという書き込みを行ったときに問題となるのが侮辱罪です。

イニシャルや伏せ字を使っていたとしても、本人が特定できるのであれば侮辱罪が成立する可能性が高いということは、説明しました。

犯罪ではないものの、プライバシーの侵害が問題となり得る

犯罪ではありませんが、名誉毀損が行われたときに併せて問題となりやすいのが、プライバシーの侵害です。

例えば、不倫をして大きくニュースになった著名人の実家や勤務先を突き止めてSNS上で公開して誹謗中傷を行うなどの行為はプライバシーの侵害にあたる可能性が非常に高いといえます。

SNS上で炎上した人のアカウントから特定の個人を割り出し、本名や写真、経歴や家族構成などをネット上に公開するようなケースもプライバシーの侵害といえます。

名誉毀損などが成立した時の対処法として、何が請求できるのか

誹謗中傷行為によって名誉毀損やプライバシーの侵害などが成立したときには、対策として以下のことを行うことになります。

誹謗中傷にあたる書き込みの削除を要求する

これ以上被害が拡大しないよう、まずは誹謗中傷にあたる書き込みをネット上から削除することが重要です。

これは、書き込みをした本人に対して「削除してください」と求める方法もあります。

本人が削除に対応しない場合は掲示板の運営者に対して削除要求を行う方法もあります。

被害が拡大して緊急を要するような場合は、本人に直接交渉するよりも、掲示板などの運営者に対して削除を要求した方がスムーズです。

また、仮処分申請を裁判所に行って削除請求をする方法もあります。

民事訴訟を起こし、損害賠償や慰謝料を請求する

誹謗中傷によって名誉を毀損され、精神的苦痛を味わったとき、加害者に対して精神的な苦痛を金銭に換算して慰謝料を請求することができます。

また、お店や会社を誹謗中傷されたことによって、客足が遠のいたり取引に支障が出たりするなど、お店や会社が損害を被ることもあります。

こうしたケースにおいては、実際に生じた損害について損害賠償を請求することができます。

刑事訴訟を行う

誹謗中傷の行為が、名誉毀損罪や業務妨害罪という犯罪にあたるときには、加害者に対して刑事訴訟をすることも考えられます。

刑事訴訟の場合は、民事の損害賠償や慰謝料の訴訟とは違い、被害者が自由に訴訟を起こせるわけではありません。

まずは警察に被害について相談し、警察が加害者を逮捕するところから始まります。

加害者が逮捕され、取り調べを受けた後で、どのような刑罰を科すことが妥当かということを判断するのが刑事訴訟です。

中には訴訟には至らずに、不起訴となるケースもありますが、刑事罰による制裁を加えたいと被害者が思う場合は、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

名誉毀損などで慰謝料や損害賠償はいくら請求できるのか

誹謗中傷による名誉毀損やプライバシーの侵害などを理由として、慰謝料や損害賠償を請求できるとしても、実際にはいくらくらいの金額を加害者に対して請求できるのでしょうか。

慰謝料の場合

イニシャルや伏せ字、源氏名での誹謗中傷であっても、それが客観的に人物を特定しうるものであり、被害者が精神的にダメージを受け、病院に通院したり、会社に行けなくなったりという被害を受けたときには、慰謝料を請求することができます。

慰謝料の額は、被害の程度や誹謗中傷の行為の悪質さ、どれだけ長い期間誹謗中傷が続いたかなどの個別的な事情によっても異なるため、相場を割り出すことは少し難しいところがありますが、一般的に相場としてはそこまで高額の慰謝料請求が認められるケースは少ないのが現状です。10万円前後だと考えておくといいでしょう。

実際に生じた損害についての損害賠償

先ほども少し触れましたが、誹謗中傷によって仕事に多大な影響を受けてしまうこともあります。

例えば、経営しているお店で出した食品について「虫が入っていた」「まずくて食べられない」「ぼったくりだ」「暴力団と繋がっている」などと掲示板に書き込まれてしまったことでお店の評判が低下し、現実的に売上に影響した場合、実際に損害が生じていることになります。こうしたケースでは、実害について賠償請求を行うことができます。

いくら請求できるかについては、誹謗中傷と生じた損害が関連していることがどれだけ客観的に認められるかにもかかってきます。

これを「因果関係がある」と呼びますが、因果関係があるということを証明するためには、客観的な証拠が重要です。

より高額の慰謝料や損害賠償を請求するためには、戦略を練ることも必要です。そのため、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

まとめ

爆発的に普及したインターネット。誰でも簡単に匿名アカウントを持ち、自由に発言できる場が増えています。

発言のしやすさやから、これまで誹謗中傷が多く行われてきました。

実名さえ出さなければ何を言ってもいいと考えているネットリテラシーの低い人もいますが、イニシャルや伏せ字による誹謗中傷であっても、相手のことが特定できる場合は名誉毀損やプライバシーの侵害などが成立する可能性が高くなります。

また、著名人や芸能人だけでなく、今や誰でもこうした誹謗中傷の被害に遭う可能性がある社会です。

もしも被害に遭ってしまったときには、早々に法律の専門家である弁護士に相談し、被害を一刻も早く沈静化することが重要です。

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